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はじめに
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は本来稀な疾患であるが,膠原病患者においては正常人には考えられない高頻度でPAHが合併することが知られており膠原病性肺高血圧症(CTD-PH)とよばれる1,2).PAHは予後不良な疾患であるが,膠原病に合併するPAHは,特発性肺動脈性肺高血圧症より,さらに予後が悪い疾患として認識されている3).原疾患としての膠原病には,全身性エリテマトーデス(SLE),原発性シェーグレン症候群(pSS),混合性結合組織病(MCTD),強皮症(SSc)をはじめとして多くの膠原病が報告されており合併すると極めて予後不良な病態の一つである.実際の合併頻度は疾患によっても大きく異なるとされているが(表1),報告者による頻度の差には診断方法の違いの影響も指摘されており,心エコーなど,非侵襲な検査による肺高血圧診断の限界も明らかになっている.特に膠原病に合併する肺高血圧症は,肺動脈性肺高血圧症でない肺高血圧症が多数混じっていることも診断に慎重さを要する一つの原因である.膠原病は,一人の患者のなかにさえ肺高血圧症を起こす機序として大きく異なる要素を複数併せ持つ可能性がある疾患だが,このことがPAHの診断治療における事態を複雑にしている.膠原病は,全身の血管に血管病変を起こす疾患であるため,全身の動脈病変の部分症状としての肺動脈病変という側面が膠原病性肺高血圧症の病態として最も考えやすいが,全身性疾患であるという性質上,心臓そのものに原因がある心不全によるものや,間質性肺炎をはじめとした肺疾患によるものなど,心肺循環に影響を与える内臓病変の合併が非常に多くの症例で併存し,肺高血圧症分類でいえば第1群とはされない病態をもっていることも多い.こうした直接の血管病変によらない肺高血圧症は当然ながら予後も治療法も全く異なると考えて対処する必要がある.また血管病変を主体とした病変のなかにも抗リン脂質抗体症候群のような血栓生成性の疾患も存在し,さらに静脈病変も多く肺静脈性閉塞性疾患(PVOD)の合併に関する報告も増加している4).このような膠原病における第1群以外の病態の関与も,実際の臨床の場では重要であるが,本稿では肺動脈性肺高血圧に焦点を当てる.
特発性肺動脈性肺高血圧症と比較して膠原病性肺動脈性肺高血圧症は,診断の点,および治療の面双方で異なる部分がある.診断において注目すべきは,膠原病の場合は全く心肺系の症状が出現していない軽度の状況から,スクリーニング検査にてPAHを把握することができる症例があるという点である.一方,治療においては免疫抑制剤による加療が選択される可能性があるという点である.膠原病におけるPAHの病態には,レイノー症状のような血管攣縮,平滑筋細胞の増殖,血管内皮細胞増殖,血管周囲に起こる種々の炎症細胞浸潤,血管内皮細胞への自己抗体(AECA)検出,炎症性サイトカイン上昇など,免疫学的病態が関連している病理所見に関する報告がある.一般に肺高血圧症の治療は肺血管を拡張させることを本来の機序とした薬剤が中心となるが,膠原病を基盤した場合,これに加え上記炎症性病態をコントロールする強力な免疫抑制療法が有効なことがある.
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