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1呼吸困難という症状を問診で鑑別する(表1)
患者が訴える「胸が苦しい」,「息が苦しい」,あるいは単に「苦しい」という症状は,狭心痛や動悸,易疲労感などを含んでいて,必ずしも呼吸困難に分類される症状とは限らない.つまり,患者は,肺疾患や左心不全による呼吸困難ばかりではなく,狭心症による胸部の圧迫感や絞扼感,頻拍や期外収縮による動悸,低心拍出による易疲労感,全身倦怠感などを「苦しい」と表現している可能性がある.このため,「苦しい」という訴えから,呼吸困難をすぐに連想してはいけない.症状が,①胸部を圧迫される,または締め付けられる感覚であるのか,②速い,または強い心拍動の自覚であるのか,③階段を昇る時に身体や足が重く感じるのかを,患者に質問して除外する必要がある.
これらを鑑別した後の呼吸困難という症状も単一の感覚ではなく,多くの感覚を含んでいる.原因疾患による呼吸困難の相違を検討した報告1)では,呼吸困難を14種類の感覚に分類している.呼吸を停止させた際に生じる呼吸困難は下胸部の張り裂けるような圧迫感であり,空気中の二酸化炭素濃度増加による呼吸困難は空気を十分に得ることができない空気飢餓感である.呼吸器疾患であっても個々の疾患により症状がやや異なる.気管支喘息による呼吸困難は,息を深く吸えず,吐き出すこともできない,胸がきつくて重く,意識を集中しなければ呼吸できない感じと表現され,慢性閉塞性肺疾患による呼吸困難は,喘ぐような空気飢餓感で,呼吸が重く努力を要する感覚と表現されている.神経筋疾患による呼吸困難はこれらと大きく異なり,喘ぐような,努力性の浅い呼吸で,空気が気道に入っていかない感覚である.この報告では,うっ血性心不全による呼吸困難を,呼吸が速く,窒息しそうな,空気が足りない,呼吸が重い感覚と表現している.他の疾患による呼吸困難と比べると,呼吸が速くなり,窒息しそうな感覚を有する点が特徴的である.呼吸困難を訴える患者を問診する際には,どのような感覚を自覚しているか,詳細に聞き出す努力が必要となる.また,呼吸困難という症状のこのような疾患による相違は,呼吸困難の発生機序が単一ではなく,複数の機序が複合していることを示唆する.
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