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はじめに
現在の過栄養時代にあって,健康的な食事の目指すところは,エネルギーと栄養の確保に加えて,肥満と糖尿病の予防かもしれない.糖質制限食の体重に対する優位性を示すエビデンスの報告1)が契機となって,また,SGLT2阻害薬が糖尿病治療薬の選択肢に加わったことで,あらためて3大栄養素バランスが市民レベル,あるいは学会レベルで議論されるようになった.
糖尿病治療における食事療法の目的は,摂取エネルギーと栄養バランスを最適化させることで,全身の代謝状態を可能な限り正常に近づけて健康寿命を延ばすことである.一方で,合併する腎症や動脈硬化症の管理のために,タンパク質負荷や脂質代謝異常にも配慮すべきである.また,増大する高齢者糖尿病患者では,サルコペニア,フレイル,認知症などの老年症候群の予防によるQOL(quality of life)の維持・向上が重要であり,年齢ごとに適正なエネルギー摂取量や栄養バランスを考えることも大切である.
糖尿病ではインスリンの絶対的・相対的作用不全によって糖質摂取が直接的に血糖上昇につながる.エビデンスが蓄積されるにつれ,糖質制限食は糖尿病食事療法の1オプションとして受け入れられつつある.しかし,糖尿病患者を対象とした大規模な長期的エビデンスは不十分であり,その有効性と安全性をめぐる議論が続いている2)3).
未病の市民あるいは糖尿病患者に対して保健指導あるいは食事療法を行う上で,糖質制限食をどのように位置付け,どのように説明するべきか,戸惑うことも多い.保健指導や治療を行う上では「糖質制限食は同時に高たんぱく質食あるいは高脂肪食である」という視点が求められる.そして,糖質から独立して,たんぱく質あるいは脂質の過剰摂取がもたらす生体への影響への理解なしに,食事の栄養バランスは議論できない.
本稿では,糖質の摂取量あるいはエネルギー比率を変えることでシフトする3大栄養素バランスが糖尿病,肥満症,健康に及ぼすインパクトを,疫学,臨床医学,そして基礎医学の視点をクロスオーバーして論考する.
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