増大特集 生命動態システム科学
Ⅰ.定量生物学
1.分子・細胞の計測
5)転写制御
(3)エピゲノム・ダイナミクス
太田 邦史
1
Ohta Kunhiro
1
1東京大学大学院総合文化研究科 生命動態システム科学拠点事業 複雑生命システム動態研究教育拠点
pp.414-415
発行日 2014年10月15日
Published Date 2014/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200016
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■エピゲノムによる遺伝子発現調節
1942年ごろからコンラッド・ワディントンによって提唱されはじめた“エピジェネティクス”という言葉は,発生学の概念である“後成説(エピジェネシス)”に由来する。ワディントンは1個の受精卵が卵割後に多様な細胞に特殊化し,発生していくようすを有名な“エピジェネティック・ランドスケープ”という図と共に説明した1)。この概念はDNAやクロマチン構造の分子的実体が明らかになった今日では“変化した遺伝子発現状態を記憶または継続させる染色体構造変化”と捉えられるようになっている。
エピゲノムはDNAの上位に実装された生命情報の記憶レイヤーと考えることができる2)。これにより,同じDNAを持つ細胞や個体が,外部環境に応じて柔軟で多様な表現型(特定の遺伝子セットのON/OFFのパターンから生み出される表面的な性質)を保持することが可能になる。また,その表現型については,分化細胞のように一定期間記憶することも可能であるし,大きな環境変化に際して柔軟に変化する可塑性を示すこともできる。
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