皮膚病診療 42巻3号 (2020年3月)

特集 医療現場における皮膚障害

Editor's eye 浅井 俊弥
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 治療に用いた薬剤あるいは医療行為そのものによる皮膚障害をしばしば経験する.これらは①薬疹,②接触皮膚炎,③物理的ないし化学的創傷の3つに大別できる.薬疹に関しては2月号を参照されたい.本号では②,③の症例を紹介する.

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 癌薬物療法は,手術,放射線治療と並ぶ癌治療の柱の1つであることはいうまでもない.その多くは注射薬であり,静脈注射した薬剤が静脈確保のために使われた注射針や静脈留置カテーテルの先端の不安定性によって,血管外の周辺組織に漏出(extravasation:EV)したときに,表皮,真皮,皮下組織や場合によっては筋肉にまで炎症や壊死をもたらすことがある.抗癌薬の場合,血管外漏出の直後はほかの一般薬剤と同様に漏出した注射薬の量が少量であれば無症状あるいは軽い発赤・腫脹がみられる程度であり,漏出量に応じて強い腫脹,発赤がみられ,しばしば灼熱感や疼痛を伴うとともに,数時間から数日の時間の経過とともに症状が増悪し,水疱→びらん→潰瘍→壊死形成へと移行していくことがあるので注意が必要である.さらに重症化すると瘢痕が残ったり,神経障害や運動制限をきたして外科的処置,すなわち手術が必要になることもある(図1~4).

 組織障害の強さは抗癌薬の種類によって異なるが,組織障害をおこしやすい抗癌薬であっても,漏出直後は局所の軽度の違和感や軽い発赤,浮腫がみられる程度であることが多い.このため患者自身も漏出に気づかないまま重症化することがある.注射部位を注意深く観察し,変化にいち早く気づくことが重要である.

(「I.抗癌薬の血管外漏出」より)

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 チタンは地球を構成する地殻の成分として9番目に豊富な,金属としては4番目に豊富な元素であり,1700年代に発見された.製錬技術の進歩に伴い,日用品や工業用品はもとより,整形外科用の固定プレートや歯科用インプラントなど,さまざまな分野で使用されるようになってきている.チタンは長年,耐食性にすぐれ,生体親和性が高く,アレルギーをおこすことが少ない金属材料といわれてきた.しかし,最近になって,チタンによるアレルギーが疑われる症例が報告されるようになってきている.

 徳島大学病院高次歯科診療部歯科用金属アレルギー外来では,2002年10月からパッチテスト用の試薬にTiO2を導入し,その後,2010年にTiCl4を追加した.2002~2006年までは疑陽性や陽性を示すものは認められなかったが,2006年以降はTiO2に陽性あるいは疑陽性を示す患者が出現し,TiCl4を導入した2010年以降は陽性あるいは疑陽性を示す患者が増加してきている.そこで,徳島大学病院高次歯科診療部歯科用金属アレルギー外来における金属試薬のパッチテスト結果を2010年からの5年間分集計し,統計学的検討を行ったので,ここに報告する.

(「はじめに」より)

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・シアノアクリレートを含有するダーマボンド®による接触皮膚炎症候群(contact dermatitis syndrome:CDS)の1例を経験した.

・自験例は過去に瞬間接着剤による紅斑を生じており,シアノアクリレート間の共感作や交叉反応の可能性が疑われた.

・ダーマボンド®初回使用から接触皮膚炎(contact dermatitis:CD)発症まで1カ月以上経過しており,初回使用で感作が成立し,発症に及んだものと考えられる.

・ダーマボンド®による接触皮膚炎の本邦報告例を集計すると,使用から接触皮膚炎発症まで平均28.4日を要し,通常の接触皮膚炎より遅れて発症する傾向がある.

・シアノアクリレートを含有する瞬間接着剤による接触皮膚炎歴がある患者では,ダーマボンド®による接触皮膚炎の発症リスクを考慮する必要がある.

(「症例のポイント」より)

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・塩酸リドカインによる接触皮膚炎を経験した.

・院内製剤の7%リドカインクリームとその主成分である塩酸リドカインのパッチテストで陽性反応を示した.

・ジャパニーズスタンダードアレルゲンのカインミックスはパッチテストで陰性であった.

・塩酸リドカインを含む市販薬の増加に伴い,接触皮膚炎の報告が今後増える可能性があり,注意が必要である.

(「症例のポイント」より)

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・パルミコート®(ブデソニド)吸入液エアロゾルの飛沫付着と授乳行為による接触皮膚炎を経験した.

・ブデソニド外用薬は感作性の強さから使用されなくなったが,吸入薬としては現在も広く使用されている.

・ブデソニドは他のステロイドと高い交叉性ももつため,吸入薬の未熟な使用方法による経皮感作には注意すべきである.

(「症例のポイント」より)

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・点眼薬,洗眼剤に含まれたε―アミノカプロン酸よるアレルギー性接触皮膚炎の3例を経験した.

・2例はOTC医薬品の点眼薬・洗眼剤によるもの,1例は医療用点眼薬によるものであった.

・ε―アミノカプロン酸は,多くの医療用および一般用医薬品の点眼薬,洗眼剤に配合されており,眼囲のアレルギー性接触皮膚炎の原因として注意が必要である.

(「症例のポイント」より)

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・フラジオマイシン硫酸塩による接触皮膚炎を経験した.

・皮膚科ではcommon diseaseであるが,フラジオマイシン硫酸塩含有抗菌薬はいまだに汎用されており周知されていない.

(「症例のポイント」より)

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・眼瞼に生じたアレルギー性接触皮膚炎を経験した.

・パッチテストで,使用していた眼軟膏とその主剤であるエリスロマイシンとコリスチンに陽性反応を示した.ポリミキシンBとの交叉感作も認めた.

・エリスロマイシンによるアレルギー性接触皮膚炎はまれである.

(「症例のポイント」より)

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・フラジオマイシン含有医薬品には多岐にわたるOTC医薬品,後発品があり,感作される機会が多い.

・感作後も気がつかずにフラジオマイシン含有医薬品を使用し続けてしまうことがある.

(「症例のポイント」より)

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・近年新しい機序の緑内障の点眼液が発売され現在5系統の薬剤と配合剤がある.

・ROCK(rho-associated coiled-coil-containing protein kinase)阻害薬のリパスジル塩酸塩水和物点眼液による接触皮膚炎を2例経験した.

・患者2はスクラッチパッチテストでβブロッカーのチモロールマレイン酸塩とベンザルコニウム塩化物液も陽性であった.

・患者2はPSL30mg内服中に製品のスクラッチパッチテストを行い陽性が得られた.

(「症例のポイント」より)

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・留置針外套カテーテル刺入部に一致して前腕に紅色丘疹が生じた.その後,母乳パッドで乳房に接触皮膚炎をおこした際に,前腕の紅色丘疹周囲にフレアアップ現象を生じた.

・留置針外套カテーテルと母乳パッドの成分は,ポリウレタンが共通していた.

・各製品とポリウレタンのパッチテストは陰性だったが,留置針外套カテーテルと母乳パッドの共通成分による接触皮膚炎(おそらくポリウレタン関連成分による)と推測した.

(「症例のポイント」より)

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・冠動脈ステントによる感作が疑われた全身型金属アレルギーの1例を経験した.

・皮疹出現の約1カ月前に冠動脈ステントを留置した.

・コバルト含有薬剤のメコバラミン内服中止により皮疹は著明に改善した.

・難治性の皮疹では全身型金属アレルギーを考慮し,ステントを含む金属含有デバイス留置歴を確認することが重要である.

(「症例のポイント」より)

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・MRI検査中に人体の皮膚同士が接触することで生じた高周波電流のループによるまれな熱傷を経験した.

・MRI検査中に生じる熱傷は医原性外傷であり,医療従事者が危険性および生じやすい条件を認識するとともに,予防策および早期対応のための各部門の連携が重要である.

(「症例のポイント」より)

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・塩化カルシウムの血管外漏出による皮膚潰瘍の成人例を経験した.

・真皮への石灰沈着や血管内の石灰化を認めた.

・シリンジポンプによる持続静注により範囲が拡大した可能性を考えた.

・外科的デブリードマンと植皮術を要した.

(「症例のポイント」より)

Editorial

clinical inertiaと数値目標 浅井 俊弥

学会ハイライト

日常診療に役立つ豆知識

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 男性型脱毛症とは毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包が多くなることを基盤とする.臨床的には前頭部や頭頂部の頭髪が軟毛化して細く短くなり,最終的には頭髪が皮表に現れなくなる病態である.

(「男性型脱毛症」より)

私の視点

皮膚科医学史

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 前回(41巻2号 P.182)は,幕末流行した暴瀉病(コレラ)の全国的な広がりに注目した.それは,全国に蔓延して数十万人にも及ぶ大災害だった可能性が高い1,2).今回は,その広がりの中から一点の地域を捉えて,当時の人たちは暴瀉病にどう対処したかを追ってみたい.

 高崎の隣町に中山道の宿場町玉村宿がある.そこでも暴瀉病騒ぎがあった.そこに住む渡辺三右衛門という人物が,暴瀉病を克明に日記に書きとどめた(図1).日記を読むと,当時の混乱と未知の病を恐れるさまがありのままに迫ってくる.さらに幕末の医療の実態も浮かび上がってくる.当時の医療は,蒙昧として稚拙というしかない.しかしすべての先人が通らざるを得なかった歩みの一端を知るよい機会ともなる.

(「はじめに」より)

リレーエッセイ 私のワークライフバランス

案件から学ぶ医療事故の対策と問題点

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・幼小児期発症の30歳代のアトピー性皮膚炎男性患者.

・種々の治療を行い改善と増悪を繰り返してきた.入院歴もあるが,ステロイド忌避傾向が強く,最近5年間は無治療で,紅皮症状態となり受診.再度高次医療機関での入院を勧めるも拒否.

・シクロスポリン200mg/日(4.4mg/kg/日)の内服を開始.体幹にはアンテベート軟膏とヒルドイドソフト軟膏の混合剤.シクロスポリンの副作用を話すと投薬を拒否されると考え詳細な説明はせず.シクロスポリン血中濃度,血圧測定や肝・腎機能の検査も未実施.

・シクロスポリン200mg/日に,悪化時はステロイド内服や注射を施行する.効果が下がり300mg/日まで増量した.精神状態が不安定で引きこもり状態になり,外来は薬のみの処方が主体になり数年が経過した.受診時のみ数回採血するも血清クレアチン値は正常値を示した.100mg/日に減量後の採血は行っていない.

・近医内科医が高血圧や高脂血症の治療を担当し,血液検査で血清クレアチン値が3.68mg/dLと高値のため高次医療機関腎臓内科を紹介.高血圧や腎不全を指摘され入院加療となり,シクロスポリンの内服は中止した.

(「経過」より)

皮心伝心

診察室の四季

早春 斉藤 隆三

皮膚科のトリビア

第177回 浅井 俊弥

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目次

次号予告

基本情報

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皮膚病診療
42巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN:2434-0340 印刷版ISSN:0387-7531 協和企画

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