BRAIN and NERVE 77巻8号 (2025年8月発行)

選択した文献の文献概要を表示する書誌情報をダウンロードする

すべて選択

特集　M蛋白と神経筋疾患

扉 77巻8号 , 2025年8月 , pp.845

PDF(61KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

神経筋疾患では，モノクローナル蛋白（M蛋白）の合併は診断の手がかりとして重要視されている。従来，M蛋白は生命予後に大きな影響を及ぼさないとされ，血液内科の分野ではMGUS（monoclonal gammopathy of undetermined significance）という，やや軽視されるような名称で呼ばれてきた経緯がある。しかし近年，M蛋白が各神経筋疾患の病態にどのように関与するかが解明されつつあり，neurological gammopathy of clinical significanceという呼称も提唱されている。本特集では，M蛋白が関わる神経筋疾患の病態や最新の治療について，第一線で活躍するエキスパートの解説をお届けする。神経筋疾患診療の新たな地平を拓く一助となれば幸いである。

ALアミロイドーシス井手　俊宏 , 小池　春樹 77巻8号 , 2025年8月 , pp.847-855

PDF(14372KB)

有料閲覧

文献概要を表示

ALアミロイドーシスは免疫グロブリン軽鎖のミスフォールディングにより多臓器にアミロイドが沈着する全身性疾患である。感覚解離や自律神経障害を伴うニューロパチーは本疾患の重要な初発症状の1つであり，時にCIDPとの鑑別が必要である。本論では，臨床症候，診断，神経生検を含む病理所見，最新の治療法を概説し，脳神経内科的視点からの診療の重要性について論じた。

POEMS症候群水地　智基 , 三澤　園子 77巻8号 , 2025年8月 , pp.857-866

PDF(573KB)

有料閲覧

文献概要を表示

POEMS症候群は単クローン性の形質細胞増殖と血管内皮増殖因子（VEGF）の異常産生を病態の基盤とする全身性疾患である。疾患概念の確立や治療開発に，日本の研究者が大きく貢献してきた。その病態はいまだに不明な点も多いが，形質細胞を標的とした治療により，本疾患の生命予後は大幅に改善する可能性が高い。しかし，本症候群の適応を有する薬剤は，2021年に承認されたサリドマイドのみである。さらなる予後改善に向けて解決すべき課題は多い。

MAG抗体陽性ニューロパチー佐藤　亮太 , 神田　隆 77巻8号 , 2025年8月 , pp.867-874

PDF(1853KB)

有料閲覧

文献概要を表示

MAG抗体陽性ニューロパチーは特徴的な臨床像と病理所見を有する独立した疾患単位として確立されている。疾患概念の提唱から40年以上が経過し，病態メカニズムの解明，診断法の標準化，治療法の開発において着実な進歩を遂げてきた。近年，M蛋白陰性例の存在や，MYD88変異に基づくブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬による治療などの新たな知見が蓄積され，早期診断と適切な治療選択により患者の予後改善が期待されている。適切なバイオマーカーの確立，より効果的な治療法の開発，個別化治療の推進が今後の課題である。

モノクローナル蛋白とニューロパチー—診断までのプロセスを中心に古賀　道明 77巻8号 , 2025年8月 , pp.875-881

PDF(484KB)

有料閲覧

文献概要を表示

M蛋白血症とニューロパチーはともに有病率が高く，因果関係なく偶然に合併することが多いが，一部のM蛋白はニューロパチーを惹起する。M蛋白によるニューロパチーは多彩で，M蛋白の特性や神経所見，電気・病理所見，全身合併症など多面的なアプローチが必要である。発症時にM蛋白血症は良性であっても，経過中に血液悪性腫瘍への進展リスクを管理することが脳神経内科に求められ，日常診療で押さえておきたいポイントを概説した。

孤発性成人発症ネマリンミオパチー（SLONM）倉重　毅志 77巻8号 , 2025年8月 , pp.883-890

PDF(1562KB)

有料閲覧

文献概要を表示

孤発性成人発症ネマリンミオパチー（sporadic late-onset nemaline myopathy：SLONM）は，遺伝子異常を伴う先天性のネマリンミオパチーとは異なる疾患である。M蛋白血症を伴うSLONM症例は数多く存在するが，治療反応性および生命予後が不良であり，SLONMの背景には後天的な免疫学的異常が存在すると考えられている。M蛋白陽性SLONMに対して高用量メルファラン療法と自家末梢血幹細胞移植による高用量メルファラン併用自家造血幹細胞移植（HDM-ASCT）を施行し，良好な経過が得られた症例が長期経過も含めて相次いで報告されている。そのため，SLONMでは早期診断が重要であるが，診断までに時間を要する場合や他疾患と誤診される場合が多いのが現状である。近年，SLONMおよびネマリンミオパチーの病理に関する知見は徐々に増しており，本論では特徴的な臨床所見および筋病理所見に着目してSLONMを概説する。

総説

アファンタジア—頭の中でイメージを形成できない人たち工藤　駿 77巻8号 , 2025年8月 , pp.891-896

PDF(503KB)

有料閲覧

文献概要を表示

アファンタジアとは「頭の中で自発的にイメージを形成できない」ことを指す。多くの研究では質問紙法を用いてアファンタジアを評価しているが，近年は瞳孔反射や皮膚電気反応など客観的な指標により定量を試みる動きもある。現時点において治療法は確立しておらず，脳機能についても不明な点が多い。一方で，言語機能などの代償が働くことによって当事者たちの精神的苦痛や生活への支障は少ない可能性も指摘されている。

眼球運動の神経回路からみた“Active Vision” 高橋　真有 77巻8号 , 2025年8月 , pp.897-905

PDF(1282KB)

有料閲覧

文献概要を表示

視覚系は外部からの情報を受けとる受動的なプロセスにとどまらず，環境との能動的な相互作用を通じて情報を取得し，行動を調整する。この「アクティブビジョン」の概念は，視覚がどのように周囲の世界に関与し，適応的な行動を導くかを示す重要な枠組みである。アクティブビジョンの重要な要素である視覚的注意を切り替えるサッケード眼球運動の抑制（固視）と生成をスイッチするトリガーの神経回路について述べる。

早期症候性アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体薬ドナネマブ—臨床試験結果の概要佐藤　祥一郎 , 岩田　淳 , 石井　賢二 , 神木　恵理子 , 西本　高明 77巻8号 , 2025年8月 , pp.907-920

PDF(1497KB)

有料閲覧

文献概要を表示

アルツハイマー病は加齢に関連する神経変性疾患であり，認知症の60〜70％に関与していると考えられている。近年，アルツハイマー病発症の一因である脳内アミロイドβ蛋白（Aβ）の凝集体に直接作用し，臨床的進行を抑制する抗体薬が相次いで承認され，本邦のアルツハイマー病治療が変わりつつある。本総説では，そのような抗Aβ抗体薬の1つであるドナネマブに焦点を当て，臨床試験の結果を概説する。

症例報告

胸骨正中切開拡大胸腺摘除術を控え，クリーゼ予防としてジルコプランを導入した球麻痺を伴う全身型重症筋無力症の一例山中　菜々美 , 本田　真也 , 神田　創 , 田中　俊樹 , 清水　文崇 , 古賀　道明 , 中森　雅之 77巻8号 , 2025年8月 , pp.921-925

PDF(405KB)

有料閲覧

文献概要を表示

誤嚥性肺炎を契機に胸腺腫合併重症筋無力症と診断された50歳女性。少量の副腎皮質ステロイド薬と経静脈的免疫グロブリン療法が行われたが嚥下障害が残存した。胸骨正中切開拡大胸腺摘除術を行ううえでクリーゼ予防のため免疫治療の強化が必要で，効果発現の早さや併用薬の観点からジルコプランを選択しすみやかに嚥下障害は改善し，術後の良好な転帰を得た。本例はジルコプランを周術期のクリーゼ予防に使用した重要な報告である。

連載　日本人が貢献した認知症研究の足跡・5

前頭側頭葉変性症とC9ORF72リピート伸長変異森　康治 77巻8号 , 2025年8月 , pp.927-931

PDF(338KB)

有料閲覧

文献概要を表示

はじめに

　前頭側頭葉変性症（frontotemporal lobar degeneration：FTLD）は，前頭側頭型認知症（frontotemporal dementia：FTD）とも呼ばれ，前頭葉および側頭葉を中心とした高度の神経変性をきたす疾患である。本論では臨床診断としてはFTDを，病理診断としてはFTLDという用語を用いる。

　FTDの臨床症状は大きく脱抑制行動，無関心，思いやりの欠如，強迫的・儀式的な行動などの行動異常と特徴的な失語症とに区別される。神経病理学的には神経変性部位と一致した封入体病理を認めるが，Tau，TDP-43，FUS/EWS/TAF15（FET）蛋白質がそれぞれ蓄積しており，蓄積蛋白の種類ごとにFTLD-tau，FTLD-TDP，FTLD-FETと分類される。家族性FTD/ALS（amyotrophic lateral sclerosis；筋萎縮性側索硬化症）の原因遺伝子変異として最も高頻度にみられるものがC9ORF72遺伝子のリピート異常伸長変異であり，神経病理学的にはFTLD-TDPに分類される。

書評

「《シリーズ・高次脳機能の教室》記憶障害の診かた」—河村　満【シリーズ編集】　石原健司【著】前島　伸一郎 77巻8号 , 2025年8月 , pp.906

PDF(222KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　本書は，河村満氏が編集する《シリーズ・高次脳機能の教室》の1冊として刊行されました。著者は，長年にわたり高次脳機能障害の診療と研究の最前線に立ち続けてきた石原健司医師（旭神経内科リハビリテーション病院）です。

　石原氏は1995年に千葉大学医学部を卒業後，昭和大，亀田総合病院，汐田総合病院などの神経内科で研鑽を重ね，2006年に昭和大学神経内科講師に就任，2016年より現在の旭神経内科リハビリテーション病院に勤務されています。神経症候の精緻な観察，神経病理に基づいた深い理解，そして画像診断における卓越した読影力を兼ね備えた，まさに現場と理論を融合する第一級の臨床家です。

「—苦手な人もこれで安心！—4つのStepで考える　てんかんの精神症状」—兼本浩祐【著】音成　秀一郎 77巻8号 , 2025年8月 , pp.926

PDF(234KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　てんかんと精神障害—非専門医にとって，この組み合わせほど「コモン」でありながら，「自分が診るものではないランキング」の上位に入るものはない。多くの身体科の医師が避けてきた分野である。思うにこの絶妙な距離感は，学問側の責任でもあるだろう。てんかん発作の分類は複雑で分類はすぐに改訂されるし，精神疾患の用語もややこしくユーザーフレンドリーとは言いがたい。

　しかし，当直前夜にどれだけ願ったとしてもERで遭遇するのが「発作」であり，対応に困るのが関連する精神症状である。もちろん精神科医に相談したくなるが，「それほど頼りにならなかった」と感じた経験もあるだろう。ただし，これは精神科医の力量の問題ではない。むしろわれわれ身体科の医師がてんかんに関連する精神症状への理解を十分に持たず，「丸投げ」してきた構造的な問題と捉えるべきである。

--------------------

目次 77巻8号 , 2025年8月 , pp.843

PDF(192KB)

フリーアクセス

欧文目次 77巻8号 , 2025年8月 , pp.844

PDF(40KB)

フリーアクセス

バックナンバーのご案内 77巻8号 , 2025年8月 , pp.936

PDF(501KB)

フリーアクセス

次号予告 77巻8号 , 2025年8月 , pp.937

PDF(122KB)

フリーアクセス

あとがき髙尾　昌樹 77巻8号 , 2025年8月 , pp.938

PDF(181KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　8月号がやってきました。暑い日が続いているのでしょうか。本号は「M蛋白と神経筋疾患」が特集です。特集になるくらいなのですから，ずいぶんとさまざまな病態があるものだと思いました。

　最近のことですが，10年以上にわたって末梢神経障害として経過を診られていたIgM型のニューロパチー患者さんに遭遇しました。10年間，それほど症状が変わっていなさそうでしたが，80歳を超える年齢になられているので，これからどのように経過を診ようか悩んでいました。私にとって実にタイムリーな特集です。きっと読者の方の中にも，まさに本号の特集や総説が，ご自身の診療や研究で知りたいと思っていたことにぴったりフィットした方がいると思います。それほどフィットした内容はないなあと思われた方も，ぜひ一通り目を通しておいてください。フィットするものが見つかることもあるかもしれませんし，明日の診療では本誌が急に必要になるかもしれません。

基本情報

BRAIN and NERVE
77巻8号
(2025年8月発行)

電子版ISSN：1344-8129 印刷版ISSN：1881-6096 医学書院

お気に入り登録(雑誌)
お気に入り登録(号)
最新号をみる

前身誌

バックナンバー ( 閲覧可 )

文献閲覧数ランキング(
11月24日～11月30日
)

第1位脳卒中木村浩晃 BRAIN and NERVE 72巻 4号 pp. 311-321 (2020年4月1日) 医学書院
第2位アジテーション吉山顕次 BRAIN and NERVE 77巻 11号 pp. 1231-1240 (2025年11月1日) 医学書院
第3位シャルコー関節—足部を中心とした病態，診断，治療と予後菊池恭太 BRAIN and NERVE 77巻 11号 pp. 1201-1209 (2025年11月1日) 医学書院
第4位シャルコー・マリー・トゥース病—疾患概念の確立と現況矢野直志,髙嶋博 BRAIN and NERVE 77巻 11号 pp. 1176-1184 (2025年11月1日) 医学書院
第5位サイコオンコロジー—国内初の遺族ケアガイドライン松岡弘道 BRAIN and NERVE 75巻 1号 pp. 77-83 (2023年1月1日) 医学書院
第6位小さな運び屋エクソソームを介した脳腸相関杉浦圭,志村日向子,星野歩子 BRAIN and NERVE 73巻 8号 pp. 879-887 (2021年8月1日) 医学書院
第7位老齢動物の認知不全疾患の脳病理中山裕之 BRAIN and NERVE 77巻 11号 pp. 1241-1247 (2025年11月1日) 医学書院
第8位脳血管障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群赤岩靖久,宮本智之 BRAIN and NERVE 77巻 10号 pp. 1087-1093 (2025年10月1日) 医学書院
第9位パーキンソン病舩山学,古川芳明 BRAIN and NERVE 77巻 5号 pp. 448-454 (2025年5月1日) 医学書院
第10位神経疾患と特発性レム睡眠行動異常症西川典子 BRAIN and NERVE 77巻 10号 pp. 1101-1104 (2025年10月1日) 医学書院

投稿規定