BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 67巻2号 (2015年2月)

特集 「食べる」を考える

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特集の意図

 「食べる」ことは三大欲求の1つであり,生命維持に不可欠な行為である。本特集では「食べる」を惹起させるメカニズム,「食べる」を実行するメカニズムについてレビューし,また,「食べる」の障害として,機能的な嚥下障害,精神的な摂食障害の捉え方と治療アプローチについて解説する。生物にとって「食べる」とは何だろうか。

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レプチンの発見以来,その作用機序の探索により,視床下部を中心とした神経系による摂食行動の制御機構が少しずつ明らかになりつつある。視床下部では,多くの神経ペプチドとそれらを産生するニューロン群が摂食行動の制御に深く関わることが解明されてきた。近い将来,視床下部のシステムが脳の広範なシステムに働いて摂食行動が制御されるメカニズムの全貌が明らかになることが期待される。

咀嚼の神経機構 井上 富雄
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咀嚼はエネルギー摂取の効率を上げ,哺乳類の高い代謝率を支える。咀嚼の運動パターンは,歯根膜感覚や閉口筋筋紡錘感覚をもとに咀嚼の中枢性パターン発生器が形成し,三叉神経上核や顔面神経背側の網様体などに存在するプレモーターニューロンを介して各運動ニューロンに送られる。また新生仔マウスからの摘出脳幹標本では,下顎と舌の協調運動指令は,舌筋運動ニューロンには同側性,顎筋運動ニューロンに交叉性に送られることが明らかとなった。

嚥下の神経機構 井上 誠
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嚥下は,反射性にも随意性にも誘発可能な運動である。また,嚥下は必要な栄養や水分を口腔から咽頭,食道を経て胃へと送り込む消化管活動であるだけでなく,誤嚥や窒息を防ぐための防御反応でもある。嚥下運動の誘発とパターン形成に関わるのは延髄のパターン発生器と呼ばれる細胞集団であり,咽喉頭からの入力や大脳皮質などからの入力が閾値を超えることにより,一連の活動が引き起こされる。

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嚥下障害は生命の危険につながる「食べる」機能の障害であり,さまざまな原因により生じ,病態もさまざまである。嚥下障害は摂食場面やスクリーニングテストにより疑われ,嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査などの嚥下機能検査により診断,重症度,治療法が決定される。リハビリテーションは大変有効である。食品使用の有無により間接訓練と直接訓練とに分類し,治療的アプローチと代償的アプローチが行われる。嚥下障害とリハビリテーションについて概説する。

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摂食障害は若年女性に多く発症し,拒食や過食などの食行動異常,またやせ願望や肥満恐怖,身体イメージの障害がみられる疾患である。摂食障害では特有の認知の歪みを認めることから,脳の機能異常の存在が注目されている。近年,脳機能イメージングの手法を用いて,摂食障害の病態に脳機能の観点からアプローチする研究が進められるようになってきた。摂食障害の臨床的特徴や認知的側面,脳機能画像研究について概説する。

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網膜は,出力神経細胞である網膜神経節細胞(視神経細胞)で視覚情報に応じた活動電位パターンを発生させ,脳中枢へと情報を送っている。マウスやウサギといった哺乳類の網膜神経節細胞には,形態的・機能的多様性が知られているが,今回,霊長類[新世界ザル(マーモセット)]網膜にも,方向選択性網膜神経節細胞などの多様な種類の細胞があることが,網膜組織培養法と緑色蛍光蛋白などの遺伝子導入により明らかになった。また網膜から視床を経由し視覚野に視覚情報を送るMとP経路以外の第三の経路を明らかにすることができた。

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神経核内封入体病/エオジン好性核内封入体病は,神経細胞核内の好酸性封入体形成を特徴とする神経変性疾患群の総称である。核内封入体は全身臓器でも確認可能である。臨床像は発症年齢によりさまざまで,幼児型,若年型,成人型に分類される。最近,白質脳症を呈し認知症を中核症状とする成人型の報告が増えている。特徴的なMRI所見や皮膚,直腸などの生検が本疾患の診断の決め手になる。

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パーキンソン病患者に対する外科手術は病状に大きな影響を及ぼす。術前には神経内科医,外科医,麻酔科医の連携が必要である。手術に関しては,麻酔薬は抗パーキンソン病薬との相互作用を考慮して選択し,自律神経症状を呈する症例では,血圧や体温の変動に注意する。術後は,術後痛,誤嚥性肺炎,イレウス,精神症状といった合併症の対策,治療を行う。周術期における問題点や治療法を,医療チームで共有し,対処することが大切である。

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症例は41歳,女性。2012年4月乳癌の脳転移による全身性痙攣発作を生じフェニトイン200mg/日投与が開始された。同年7月から乳癌に対してカペシタビンとラバチニムによる化学療法が追加された。9月中旬から食欲不振や歩行障害が出現し,増悪したために当院に入院した。左右注視方向性眼振と小脳性運動失調を認め,フェニトイン血中濃度は40μg/mL以上と高値であり,フェニトイン中毒と診断された。本例はフェニトインとカペシタビンとの薬物相互作用によりフェニトイン血中濃度が著しく上昇したと考えられる。フェニトインと化学療法を併用する場合は,薬物相互作用によるフェニトイン中毒に留意する必要がある。

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びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断された64歳女性に,8コースの化学療法終了後に複視と四肢のしびれが出現した。複視出現後7日目のFDG-PETでは異常集積はなく,完全寛解と判断された。その後,四肢のしびれと脱力が進行し,41日目のFDG-PETでは両側腕神経叢と坐骨神経に異常集積を認め,neurolymphomatosisが示唆された。

FDG-PETはneurolymphomatosisの高感度の検査法ではあるが,本症例のように初期には異常集積を認めないことがあり,その際は画像検査を繰り返すことが必要と考えた。

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はじめに

 9回目を迎える世界脳卒中会議(World Stroke Congress:WSC)が2014年10月22〜25日に開催された。WSCは脳卒中に関する唯一の世界団体WSO(世界脳卒中機構;現会長は豪州メルボルン大学Davis SM教授)が主宰する国際会議である。この学会は,日本で発足したInternational Stroke Societyを前身として誕生した経緯もあり,日本からも多くの医師が参加していた。ウィーンで行われた2008年の本会議では,あのECASS3(the third European Cooperative Acute Stroke Study)の結果が発表され,会場に鳴り響いたスタンディング・オベーションは鮮明に記憶に残っている。あれから6年,ソウル2010,ブラジリア2012と回を重ね,国際社会への情報発信や途上国の啓発など,時代の要請に合わせ本会の立ち位置も変わってきた。

 今回,個人的に事前チェックしていた発表は,純国産の新規経口抗凝固薬(NOAC)であるエドキサバンの脳卒中症例についての解析結果,アルテプラーゼに替わる新規血栓溶解薬デスモテプラーゼの第III相試験DIAS-3の最終成績である。

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 2014年11月15日から19日まで,米国ワシントンDCで開催された北米神経科学会(Society for Neuroscience:SfN)に参加してきました。毎年80カ国以上から3万人もの研究者が一堂に会する大規模な国際学会で,過去に参加された先生も多いことと思います。これだけの人数を収容できる会場は限られるので,近年はワシントンDC,シカゴ,サンディエゴの3都市で開催されています。そのため,毎年違った都市を回る楽しみはなく,特に今回は米国東海岸に大寒波が到来しており例年以上に寒かったので,ストイックに学会会場に朝から夕方までいることが多かったです。

 さて,私にとってのSfNは,大学院生時代には「在学中に1回は発表したい」と思っていた場所であり,ポスドクになった今では「少なくとも2年に1回は発表できるように日々がんばろう」と思う憧れの学会でもあります。今回で4回目の参加でした。

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 2014年11月20〜22日にフィラデルフィアで開催された第7回Clinical Trials on Alzheimer's Disease(CTAD2014)に研究室のメンバーと2人で参加した。この学会はタイトルが示すとおり,アルツハイマー病の臨床試験に関する討議や情報交換を目的として2008年にフランスのモンペリエで開催されたのを皮切りに,2009年ラスベガス,2010年トゥールーズ(仏),2011年サンディエゴ,2012年モンテカンルロ(モナコ)と続き,前回2013年は再びサンディエゴで開催されている。今回の会場はフィラデルフィアの中心City HallのすぐそばにあるLoews Hotelで,講演・口演は約700名収容のBallroom,ポスター発表と昼食(無料)はその半階下のMillenium Hall(写真1)が当てられた。われわれはこのLoews Hotelから通りをはさんだ向かいに立つMarriott Downtownに宿泊したが,そこでは行動と認知に関する2つの学会がCTADと同じタイミングで同時開催されており,ホテル内は複数の学会参加者が入り乱れている状態であった。

 さて,われわれが参加したCTADであるが,3日間の平均参加者数は席の埋まり具合から推測して400〜500名程度,おそらくそのほとんどは治験を担当する臨床医や製薬会社の人間であり,われわれのような基礎研究者はかなり少数派であるという印象を受けた。まず,参加者のほとんどがスーツ姿であり,平均年齢が高い。SfN(北米神経科学会)などで見かける学生っぽい,基礎研究者にありがちなカジュアルな服装の人間はほとんどいなかった(われわれもスーツで参加した)。また,最新の臨床試験に関する報告もいくつかあったが,どちらかといえば,発表内容の多くが臨床試験のよりよい体制づくりや,既にある臨床試験の結果からいかにして意味のあるデータを導き出すかというような話に終始しており,基礎研究者のわれわれからみるとあまり興味の持てない内容が多かった。「アルツハイマー病の新しい標的を見つけました!」とか,「新しい治療薬の候補化合物を見つけました!」とか,「新しい動物モデルをつくりました!」とかいうような発表を期待し,またわれわれはそのような発表をしに参加したわけだが,残念ながらそのような発表は非常に少なかった。少ないだけならまだしも,われわれ基礎研究者の発表になると,とたんに潮が引くように会場から聴衆がいなくなり,残っているのはせいぜい100〜150名のみという感じになってしまうのである。他の参加者とわれわれの興味の対象のズレを強く感じた次第である。

連載 神経学を作った100冊(98)

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 ラングレイ(John Newport Langley;1852-1925)は,1852年11月10日にロンドンの西80kmにあるバークシャー州ニューベリーで生まれた。彼の父は私立学校で教えていたという。1871年の秋にケンブリッジ大学のセントジョンカレッジに入学した。ここで生理学教授のマイケル・フォスター(Michael Foster;1836-1907)に出会ったことが彼の運命を決めることになる。フォスターの影響で医学・生理学を志した学生は,ラングレイのほかにもシェリントン(Charles Scott Sherrington;1857-1952)やガスケル(Walter Holbrook Gaskell;1847-1914)など多数いる。フォスターは英国の生理学会の設立者であり『Journal of Physiology(ロンドン)』誌の創刊者でもあった。フォスターの教え方は,科学の諸問題に学生の興味を湧き起こし,そして,この問題を解き明かすことほど楽しい人生はないということを示すものだった。

 1874年にケンブリッジ大学を卒業すると,フォスターの実地授業助手としてその後の9年間を過ごした。まだ学生ではあったが,フォスターの指導のもと,心臓に対するピロカルピンの影響について研究を始め,1875年に論文としてまとめた。1900年に教授に就任し,フォスターが英国議会に選出された後は1903年にその後任として指名された1)

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 私が神経心理学を志したのは,ほぼ同じ時期に出版された山鳥重先生の著作『神経心理学入門』と『脳からみた心』を読んだからである。そのころ,私は大学院で試験管を振って脳卒中患者の脂質代謝異常の研究をしていた。神経心理学や失語症といった領域には以前から興味があり惹き付けられてはいたのだが,その難解さゆえに自分などはとうてい手が付けられない分野だと考えていた。しかし,山鳥先生の2冊の本によって,私の中にくすぶり続けていた神経心理学への思いや興味が一挙に噴き出した気がする。「こんなに面白い分野があるのか」「難解なことをこんなにわかりやすい言葉で説明できるものなのか」と感激し,何度も読み返したのを記憶している。

 そのころの私の教室には神経心理学に興味を持つ人はおらず,学問領域としても認められていない雰囲気であった。私は神経心理学的徴候を持つ患者さんを診察できる機会の多い病院に赴任させていただき,学会にもできるだけ何とか演題発表を工面して参加し,学会での山鳥先生の言葉を聞き逃さないようにと必死であった。山鳥先生のおられる病院に押し掛けてカンファレンスに参加させていただき直接の教えを受けることもあった。山鳥先生の発する言葉はいつも適切で簡明でわかりやすく,聞いているものを納得させ感心させる内容であった。

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次号予告

投稿規定

「読者からの手紙」募集

あとがき 酒井 邦嘉
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 日本の食卓では,箸を使うのが今なお一般的であろうが,箸の形や材質は実にさまざまである。丸や四角の箸が圧倒的に多いのは,単に作りやすいからであろう。取り箸,菜箸,真魚(まな)箸といった使い分けにも表れているように,箸は食文化や習慣の違いを如実に反映している。中国や台湾では先が太い長めの角箸や丸箸が多い一方,韓国では平形のステンレス製の箸が一般的だ。毎日手にする道具だからこそ,割り箸はできるだけ使わずに良い箸を長く使いたいと私は思う。

 いろいろと考えて試行錯誤した結果,箸は五角形のものが最良だとわかった。まず「面」の数が少ないほど面積が増すため,ピンセットと同じ要領で豆類や麵類がつかみやすくなる。丸箸は先端が「線」で接するから,道理で使いにくいわけだ。しかも丸箸は手の中で滑りやすくて力を先端まで伝えにくい。一方,三角箸や四角箸となると,面取りがされていない限りどうしても箸のエッジが手や指に食い込んですぐに痛くなってしまう。四角箸が単に作りやすいという理由だけで,痛いのを我慢して使うのは理不尽であろう。そこで五角箸を試してみたところ,手と指に接触する面が自然と五角箸の面に一致することがわかった。箸が滑らず手に吸い付くように持てて,しかも先端の二面が正対するから,先が細ければ胡麻粒まで楽に摘まめるのだ。これこそ「機能美」の典型と言えよう。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
67巻2号 (2015年2月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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