BRAIN and NERVE 61巻5号 (2009年5月発行)

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特集　Restless legs syndrome

Restless legs syndromeの疫学野村　哲志 , 中島　健二 61巻5号 , 2009年5月 , pp.515-521

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はじめに

　レストレスレッグス症候群（restless legs syndrome：RLS）は，主として睡眠時や安静時に下肢の不快感を引き起こす慢性疾患である。1685年，英国の内科医WillisがRLSと思われる疾患について最初の記録を残している^1）。1945年，EkbomがRLSという名称で，この疾患について詳細な報告を行った^2）。その後，RLSについての調査は独自の質問紙などで行われていた。1995年，International RLS Study Group（IRLSSG）がRLSの診断基準を提示し^3），2003年に改訂が行われた^4）。これにより診断基準の4症状を認める際にRLSと診断することと明確になった（Table1）。このため，1995年以前に行われた調査はIRLSSGの診断基準とは異なる尺度でRLSを判定している可能性があり，2002年以前の調査はそれ以降のIRLSSGの診断基準とは一部異なっているため注意する必要がある。

Restless legs syndromeの病態生理宮本　雅之 , 宮本　智之 , 岩波　正興 , 鈴木　圭輔 , 平田　幸一 61巻5号 , 2009年5月 , pp.523-532

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はじめに

　Restless legs syndrome（RLS）は，むずむず脚症候群，下肢静止不能症候群とも称し，主に下肢の不快感に伴う異常運動により不眠をもたらす病態である。ここではRLSの病態生理について，神経生理，神経薬理，神経画像診断，神経病理，動物モデルおよび遺伝的要因の観点から最新の知見を含め概説する。

Restless legs syndromeの診断井上　雄一 61巻5号 , 2009年5月 , pp.533-538

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はじめに

　レストレスレッグス症候群は，restless legs syndrome（RLS）の和訳である。RLSでは，夜間睡眠時間帯での下肢の不快な耐えがたい感覚のためにじっとしていられず，不穏な運動を生じる。今日のRLSの概念と一致した症状の存在は古く，1685年イギリスの内科医Thomas Willisにより既に報告されているが，restless legs syndromeという病名は，1960年Ekbomにより命名された。本症候群は，睡眠障害の中で原発性不眠症や睡眠時呼吸障害などについで有病率が高い。その割合は，欧米では人口の5～15％と報告されており^1），アジア人でも3～5％程度は存在すると思われる。本症候群は，睡眠薬治療に抵抗性の不眠の原因として極めて重要で^2），特にその有病率は加齢につれて上昇することから，高齢者不眠症例においては，RLSの有無を必ずチェックすべきである^3）。アメリカでは，患者団体が組織する財団（The Restless Legs Syndrome Foundation：ホームページhttp://www.rls.org）もあり，自助活動や啓発活動，研究援助などを行っている。

二次性restless legs syndrome 岡　靖哲 , 井上　雄一 61巻5号 , 2009年5月 , pp.539-547

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はじめに

　レストレスレッグス症候群（restless legs syndrome：RLS）は，下肢を動かさずにはいられない欲求が，夕方から夜間，あるいは安静により増悪し，運動により改善するという特徴を有する感覚運動障害である^1）。RLSは比較的若年で発症するものと中年期以降に発症するものに大別され，両者は臨床的特徴が若干異なるが（Table1），二次性RLSは特に中年期以降に発症するRLSに多くみられる。

　二次性RLSの原因となる疾患や病態は多岐にわたる（Table2)^2－7）。RLSの病態と密接に関連するとされる鉄欠乏に加え，感覚・運動系に関わる脊髄・末梢神経の障害，慢性腎不全などが主な二次性RLSの原因となるが，RLS症状をきたす病態機序は必ずしも明らかではない。

　本稿では，二次性RLSの背景となる疾患と臨床特徴，病態についての近年の知見を紹介するとともに，診断のポイント，治療上の注意点などについて解説する。

Restless legs syndromeの治療金野　倫子 , 内山　真 61巻5号 , 2009年5月 , pp.549-557

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はじめに

　レストレスレッグス症候群（restless legs syndrome：RLS）では下肢を中心とした不快な感覚が出現し，脚を動かしたいという強い欲求が生じる。この症状は重度の不眠の原因となり，QOLの著しい低下を招くとともに，抑うつや焦燥感の精神症状を引き起こすため，治療戦略の構築が求められている。

　本稿ではこれまでに提出されたRLSの病態仮説を概観し，ある程度確立され，効果の検証が進んでいる治療法の位置づけについて考え，RLSに対する非薬物療法，薬物療法の現状を展望する。

総説

レム睡眠行動異常症の歴史的展開とその病態生理立花　直子 61巻5号 , 2009年5月 , pp.558-568

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はじめに

　レム睡眠行動異常症［rapid eye movement (REM) sleep behavior disorder：RBD］は，レム睡眠において夢内容と一致した運動や行動（発声や発語を含む）が起こる睡眠随伴症（パラソムニア）であり，睡眠医学の領域では，レム睡眠の発現機構の観点から興味深い疾患（病態）として臨床家と研究者の両方から注目されていた。一方，最近になって，種々の神経変性疾患，特にパーキンソン病（Parkinson disease：PD）やレヴィ小体型認知症（dementia with Lewy bodies：DLB），多系統萎縮症（multiple system atrophy：MSA）の発症前に認められることから神経内科領域でも関心を集めつつある^1）。RBDの疾患概念はいまだ発展途上であり，1つの疾患単位として取り扱えるのか，あるいは，ある種の基礎疾患を持つ患者に起こる睡眠関連症状として捉えるべきなのか，睡眠医学と神経学との間で十分な検討がなされておらず，RBDの病態生理を今後さらに解明していくには，これまでの歴史的な流れを知っておく必要がある。本稿では，RBDの発見とそれ以前の前史，さらに発見後の疾患概念の展開についてまとめ，今後の進むべき方向について私見を述べた。

頸部内頸動脈ステント留置術の適応と成績根本　繁 61巻5号 , 2009年5月 , pp.569-574

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はじめに

　日本人の脳梗塞の多くはラクナ梗塞であり，頸部内頸動脈狭窄が脳梗塞の原因となることは知られていたが，これまで日本人には少ないと言われていた。アテローマ血栓性動脈硬化は冠動脈，四肢動脈，および内頸動脈に発生し，食生活の欧米化に伴い，日本人にも増加している。冠動脈に起こると不安定狭心症，心筋梗塞となり，下肢の動脈では間歇性跛行，下肢の壊死をきたし，いずれも予後不良となることが多い。アテローマ血栓性脳梗塞はラクナ梗塞に比べると重症となることが多い。近年，わが国の脳卒中死亡の中で脳梗塞の占める割合が増加しており，その中でもアテローマ血栓性脳梗塞の患者数が増えている。頸動脈狭窄はほとんどがアテローマ性動脈硬化によるもので，その治療が大きな課題となっている。

多発性硬化症におけるミトキサントロン治療小森　美華 , 近藤　誉之 , 田中　正美 61巻5号 , 2009年5月 , pp.575-580

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はじめに

　多発性硬化症（multiple sclerosis：MS）の再発予防薬として，本邦ではinterferon beta（IFNβ）製剤のみが保険認可されている。しかし，IFNβ治療抵抗性の重症型MSが存在し，また，MSとの異同が問題となるneuromyelitis optica（NMO）ではIFNβの有効性が疑問視され，ステロイド剤が十分効果を示さない症例が存在する^1）。

　Mitoxantrone（MITOX，Novantrone^(R)）はanthracycline系抗癌剤として開発され，本邦では急性白血病や悪性リンパ腫，乳癌，肝細胞癌に保険認可されている。しかし，実験的自己免疫性脳脊髄炎（experimental autoimmune encephalomyelitis：EAE）に対する臨床前試験^2），さらにMSに対する臨床試験を経て^3），2000年10月，米国医薬品局は既存の治療が有効でない再発寛解型（relapsing remitting：RR）MS，二次進行型（secondary progressive：SP）MSへのMITOXの使用を認可した^4）。今や欧米では，IFNβやglatiramer acetate（GA）など疾患修飾薬の効果がないRRMSやSPMSに積極的に使用されている。

　本邦でもわれわれは，30例以上の重篤なMSおよびNMO患者にMITOX投与を行っている^5－7）。IFNβによる病勢のコントロールが不十分な重篤なMS，およびステロイド剤でも再発が抑えられないNMOに対して，再発抑制ならびに予後改善に高い有効性を示した。

原著

急性期脳梗塞診断標準化の試み―院内診断マニュアルのコンセプトと臨床的効果清水　宏明 , 古井　英介 , 社本　博 , 板橋　亮 , 松本　康史 , 冨永　悌二 61巻5号 , 2009年5月 , pp.581-589

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はじめに

　「脳卒中治療ガイドライン2004」^1）により脳梗塞の標準となるべき治療が明確となった。個々の患者においては病態に応じた修飾が必要であるが，そのためにも柱となるガイドラインの存在は重要と考えられる。

　一方，治療ガイドラインの有効活用には，正しい診断が前提となる。脳梗塞であるかどうかはもちろん，脳梗塞の病型診断を的確に行うことがガイドラインに沿った，病態に合致した治療を行うための第1の必要事項と考えられる。しかし，診断に関する教科書的な記載は多数あるものの急性期の病態に合わせたものや標準化されたものはなく，各医師（あるいは診療チーム）の判断に一任されているのが実情である。そのため実際の救急患者を前にして行われる診断は施設によるばらつきが大きい可能性があるうえ，施設内においてさえ必ずしも均質とは限らない^2）。これらの問題点を少しでも解決するには施設内診断の標準化を文書で行うことが必要と思われる。

　当院では，急性期脳梗塞の診断・治療に関する院内標準化を目指し，主に研修医をターゲットとした院内診断・治療マニュアルを2004年6月より試作し，2006年よりほぼ現在のversionを使用してきた。これらは医学的に正確な診断・治療法を一期的に追求したものではなく，あいまいさをできるだけ排除して院内での均一性を高めることを主目的としている。診断・治療の均一化は定期的な自己評価を可能とし，定期的改善を図ることが可能になると考えられる。今回，そのうち診断マニュアルのコンセプト，内容，および臨床的効果を報告する。

新しい小脳性運動失調の重症度評価スケールScale for the Assessment and Rating of Ataxia（SARA）日本語版の信頼性に関する検討佐藤　和則 , 矢部　一郎 , 相馬　広幸 , 安井　建一 , 伊藤　瑞規 , 下畑　享良 , 小野寺　理 , 中島　健二 , 祖父江　元 , 西澤　正豊 , 佐々木　秀直 61巻5号 , 2009年5月 , pp.591-595

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はじめに

　小脳性運動失調の重症度や治療効果を評価する指標として，これまでInternational Cooperative Ataxia Rating Scale（ICARS）が広く用いられてきた^1）。ICARSは信頼性が高く^2），有用な小脳性運動失調の評価法であるが，評価項目が19項目と多く，多忙な日常診察の中で使用するには繁雑であることが多かった。

　2006年に新しい小脳性運動失調の評価方法として，半定量的な評価スケールであるScale for the Assessment and Rating of Ataxia（SARA）がSchmitz-Hubschらにより提唱された^3）。SARAは全8項目（歩行，立位，坐位，言語障害，指追い試験，鼻指試験，手の回内回外運動，踵すね試験）とICARSに比べて評価項目が少なく，施行時間が4分程度と短く簡便なスケールである^4）。また，同一評価者内および評価者間での評価のばらつきが少ないうえ，ICARS，Barthel index，UHDRS-Ⅳ（Unified Huntington's Disease Rating Scale, Part IV）との有意な相関も示されている^4，5）。本邦においても臨床試験における治療効果判定などにおいて，より簡便で有用な臨床評価スケールは有意義であるため，厚生労働省難治性疾患克服研究事業「運動失調に関する調査研究班」事務局においてSARA日本語訳が固定された（日本語版SARA；Table1）。しかし，この日本語版SARAが汎用される前に，今後国際的に使用されるであろうSARAの海外データとの比較に備えるためにも，その信頼性について事前に検討しておく必要がある。本研究では国内3施設において日本語版SARAを実際に使用し，その信頼性について検討することを目的とした。

症例報告

アルコール性ケトアシドーシスにより一過性の全盲と強い腹痛をきたした1例柳川　洋一 , 西　紘一郎 , 阪本　敏久 61巻5号 , 2009年5月 , pp.597-599

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はじめに

　アルコール性ケトアシドーシス（alcoholic ketoacidosis：AKA）はアルコールを多飲する人に生じるアシドーシスである。その原因はアルコールを主たるカロリー源とすることと，飢餓によりアセチルCoAが増加し，これがケトン体へ代謝されてβヒドロキシ酪酸優位のケトン体が産出されるために生じる^1，2）。主たる症状は悪心，嘔吐，腹痛である^2）。多くは糖液とビタミンBの投与で改善することが多いが，多臓器不全を合併して治療に難渋することもある^3）。稀ではあるがAKAでは一過性の全盲をきたすことがあり^4，5），今回はAKAに伴う視力障害1例に対する経験を報告する。

抗アクアポリン4抗体陽性の高齢発症反復性脊髄炎の1例中野　志仁 , 宮本　勝一 , 稲次　洋平 , 鈴木　秀和 , 楠　進 61巻5号 , 2009年5月 , pp.601-604

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はじめに

　高齢発症の多発性硬化症（multiple sclerosis：MS）は重症例が多く，慢性進行型に移行しやすいとされている^1）。本邦のMSは欧米に比べて，視神経脊髄型MS（OS-MS）の頻度が高いが，高齢発症例においても脊髄病変を有する例が多く，長大病変の頻度が高いとされている^2）。しかし，これまでの検討は十分ではなく，今後本格的な高齢化社会を迎えるに伴い，高齢初発のMSも増加してゆくと予想されるため，症例蓄積と対策の検討が急務である。

　近年，neuromyelitis optica（NMO）に高頻度で認めるNMO-IgGの対応抗原がaquaporin-4（AQP4）であることが明らかになり注目されている^3）。従来，OS-MSとされていた中にもNMOの診断基準を満たす症例が含まれていると考えられる^4）。NMOの臨床像は，①女性の割合が多く，②重篤な視神経病変を認めること，③脊髄長大病変を認めること，④抗AQP4抗体陽性，などが特徴である^5）。

　われわれは，NMOスペクトラムと考えられるが，通常NMOの特徴に合致しない高齢発症のMS症例を経験した。貴重な症例と考えられるため，若干の文献的考察を加えて報告する。

九九の障害を呈した右被殻出血の1例石井　麻紀 , 平山　和美 , 斉藤　敬子 , 小松　大介 61巻5号 , 2009年5月 , pp.607-613

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はじめに

　いったん獲得された計算能力が脳損傷により障害された状態を失算と呼ぶ。山鳥^1）は失算の大きな2型として，①数値の読み書きや意味理解ができない失象徴性失算と，②基本的な計算や繰り上がり，繰り下がりができない失演算とを挙げ，後者が九九の障害によっても起こり得ることを指摘した。両者の責任病巣としては左半球頭頂葉後方下部領域が重視されている^1，2）。計算能力が左半球だけに存在するという考えは根強く，Butterworth^2）は右半球に存在するのはアナログ的な数値判断の能力のみであると論じた。しかし，少数だが右半球病変後の失算の報告もあり^3－7），この考えが正しいかどうか疑問が残こる。欧米にも掛け算表（multiplication table）の障害の研究^8，9）はある。しかし，節を付けた過剰学習に着目してKashiwagiら^10）が「覚え歌（mnemonic rhyme）」と表現したわが国の九九においても，欧米の掛け算表と同様の障害が起こるかどうか検討の余地がある^11）。今回われわれは，右半球の被殻出血後に0の扱いを主とした失象徴性失算と九九の障害を主とした失演算とを呈した1例を経験し，九九の障害を中心に検討を行ったので報告する。

神経画像アトラス

硬膜外ブロック後に生じた広範な脊髄硬膜外膿瘍の1例相場　彩子 , 小鷹　昌明 , 平田　幸一 61巻5号 , 2009年5月 , pp.614-615

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〈症　例〉61歳，女性

　主　訴　発熱，意識障害，背部痛，歩行障害

　既往歴　50歳時に腰椎椎間板ヘルニアにてインプラント固定術を施行。60歳より境界型糖尿病にて食事療法中。

　現病歴　腰痛に対して，近医にて消炎鎮痛薬の内服と硬膜外ブロックを月に1回程度続けていた。2008年6月より歩行時の腰痛が増悪したが，ブロックを持続した。8月上旬より痛みのために歩行できなくなり，6日後に同院へ精査入院した。38℃の発熱を認め，抗菌薬が投与された。翌日には意味不明なことを話すようになり，頸部のこりを認めたため髄膜炎の疑いにて当院へ転院してきた。経過中に頭痛や嘔気の訴えはなかった。

　入院時所見　体温37.8℃で，副鼻腔や呼吸音に異常はなかったが，腰部の叩打痛を認めた。項部硬直が陽性であった。意識はJapan Coma Scale（JCS）I-2で，失見当識を認めた。脳神経系に麻痺はなかった。運動系では，疼痛のために評価が困難であったが，明らかな四肢筋力低下はなかった。腱反射は四肢で亢進し，両側Babinski徴候が陽性であった。感覚系では背部に痛みを訴えた。

学会印象記

第38回北米神経科学大会（2008年11月15日～19日) 高田　昌彦 61巻5号 , 2009年5月 , pp.616-617

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　2008年11月15日から19日までワシントンDCで開催された第38回北米神経科学大会に参加した（写真1）。この学術集会は年々巨大化しており，今回も当日の参加者数が3万1千人を超え，またもや記録更新したようである。私自身は1985年にダラスで開催された第15回大会に初めて参加して以来，（記憶違いでなければ）途中2回のお休みを除いてすべて参加しているので，今回で24回目ということになる。1990年の前半頃までは参加者が1万人台で今よりはこじんまりしており，定番のニューオーリンズ，サンディエゴ，ワシントンDCはもちろん，フェニックス，セントルイス，トロント，オーランド，マイアミなど，カナダを含む北米のさまざまな都市で開催された。しかし，参加者が激増するにつれて，収容できる規模のコンベンションセンターを持つ都市が限られるようになり，しばらくの間は定番の3つの都市を巡回することになったが，2005年のハリケーン・カトリーナの影響でニューオーリンズでの開催が不可能になった。ニューオーリンズは私の一番のお気に入りの都市なので，1年でも早い完全復興を期待したい。カトリーナ以降は，サンディエゴとワシントンDCを中心に，アトランタや今年2009年に初の開催が決まっているシカゴ（10月17日～21日）など，他の都市での開催も検討されている。

　参加経験がある読者はよくご存知かと思うが，会場の広さと人の多さには閉口する。特にポスター会場は，目的を持って歩かないと端から端まで5分以上かかってしまう（写真2）。また，ポスターはA～Zとアルファベット順に並べられているが，最近はAAA，BBBのように3巡目に突入している。驚くべきは，そのポスターパネルの林を押しのけるように，研究用機器や理化学用品，書籍等の展示ブースが会場の半分以上を占有していることである。ポスターセッションの人混みもさることながら，会場がクローズされる午後5時近くになると外に出るにも一苦労で，友人と待ち合わせる際にも場所をうまく指定しないと迷子になってしまう。ちなみに，私は○番シャトルバス停前を待ち合わせ場所と決めている。

連載　神経学を作った100冊(29)

アーバークロンビー「脳と脊髄疾患の病理と臨床的研究」（1828年）作田　学 61巻5号 , 2009年5月 , pp.618-619

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　ジョン・アーバークロンビー（Johu Abercrombie, Fig.1）は1780年にスコットランドのアバディーンで生まれ，地元のマリシャルカレッジを卒業して文学修士（artinum məgister）を，そののちエジンバラ大学で医学博士の学位を1803年に取得した。その後，ほんの短い期間ロンドンのセントジョージ病院で勉強をした。まもなくエジンバラのニコルソン街で開業し，1805年に王立公衆施薬所の外科医となった。これは，彼が得た公的な医学の地位としては唯一のものとなる。当時，医学の教育を有名な開業医のもとで見習い奉公して得るという習慣はまだすたれていなかった。しかし1830年になると珍しくなり，1850年にはほとんどなくなる。というのは1850年ころになると，医学の教室に出席して，病院で実地を学び，そののち大学や病院から医学の学位を得るようになったからである^1）。

　アーバークロンビーは開業後間もなくあらゆる疾患を網羅した非常に大規模な診療を展開し，彼に従う徒弟とともに地域診療にあたった。1年に5人を下らない徒弟を入門させたという。彼はエジンバラの町を5つの地区に分割し，それぞれの患者を上級の生徒たちに託し，言うなれば彼自身の医学校を作り上げたのだった。徒弟たちは一種の医学会を彼の家の中に作り上げたと言われている。そして，ドイツでは既に“ポリクリニック”として知られていた教育体制を彼の診療所に導入した。ここでは徒弟のほか，多数の学生が彼を囲んでいた^1）。

書評

「《脳とソシアル》社会活動と脳―行動の原点を探る」―岩田　誠，河村　満●編地引　逸亀 61巻5号 , 2009年5月 , pp.548

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　東京女子医科大学の前任の神経内科教授岩田　誠先生と昭和大学医学部神経内科教授の河村　満先生の編集から成る本書は，2007年11月30日に岩田先生が東京女子医科大学弥生記念講堂で会長として主催された第12回日本神経精神医学会のシンポジウム「脳からみた社会活動」を基としている。ただし，実態はそのシンポジウムの域をはるかに超えて，シンポジストのみならず神経心理学や精神医学，脳科学，社会心理学，経済学，倫理学などに携わる臨床医や基礎系の医学者，心理学者，文学，経済学さらには工学系の学者までもが執筆者として名を連ねた甚だ学際的な書物である。

　編者らは先に「神経文字学―読み書きの神経科学」という編著を出版している。この従来の神経心理学の対象である失語や失行，失認，中でも読み書きという高次の機能の神経基盤からさらに進んで，本書のテーマは人間の行動，特に社会的行動の原点としての神経基盤についてである。

「神経疾患最新の治療2009－2011」―小林祥泰，水澤英洋●編金澤　一郎 61巻5号 , 2009年5月 , pp.605

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　神経疾患が，一般内科的あるいは他の診療科の疾患と同じようなレベルでの「治療」の対象となることが明確になってから，それほど時間が経ってはいない。私の個人的な感覚からは，ここ30～40年くらいではないかと思う。それまでは，感染症すら的確な治療ができていたかどうか怪しいし，重症筋無力症など免疫性疾患におけるステロイド治療もまだ確立しておらず，ましてパーキンソン病などの変性疾患については，経験的な抗コリン薬があった程度であった。だから，神経疾患に対する治療に関してだけで1冊の本ができるなどとは考えもつかなかったであろう。しかも，この本のいわば前身に当たる『神経疾患最新の治療2006－2008』が出版されてから3年にして，既に治療の分野での進歩が著しいがゆえに全面改訂が行われたというわけだから，もう神経疾患には治療法が少ないなどとは口が裂けても言えない時代に入ったというべきだろう。

　本書は前版と同様に，島根大学医学部附属病院院長の小林祥泰先生と，東京医科歯科大学神経内科教授の水澤英洋先生のお2人の編集による。内容的にも「巻頭トピックス」に続いて，「緊急時の神経症候とその対処法」，「治療手技」，「疾患別各論」があり，最後に「神経疾患のリハビリテーション」が続くという構造になっている点も前版と同様である。しかし，よく見ると，それらの章の中での各項目の取り上げ方や，同じ項目であってもその著者が，前版と異なっている。同じ著者の名前があっても，担当している項目が異なっている。新しい学問的な進歩を，新しい目で捉え直そうとする，心遣いや気配りは見事という他はない。「疾患別各論」の章で新しく加わった項目には，「脳疾患」として低髄圧症候群とプリオン病・遅発性ウイルス感染症の2つがある。それぞれ当然入っているべき疾患であるが，プリオン病にさえ，新しい治療の試みがある時代になったことを感慨深く思うのは私だけではないだろう。さらに「内科関連の神経疾患」としてうつ状態と心身症の2つが追加されている。この2項目ともそれぞれの専門家がわかりやすく解説されているので，大いに参考になる。また，「神経疾患のリハビリテーション」の章で「高次脳機能障害の認知リハビリテーション」が，内容に大きな違いはないが「認知療法」に言い換えられている。「認知療法」とは，精神科医療において患者が自分の病態に気付き，それを自ら修正してゆくことを助ける治療法であると思っていたので多少戸惑った。

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あとがき水澤　英洋 61巻5号 , 2009年5月 , pp.622

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　本号の特集は，獨協医科大学神経内科の平田幸一教授にゲストエディターをお願いしたrestless legs syndrome（RLS）である。RLSでは，夕方から夜に静かにしているときに，下肢の不快感とともに下肢を動かしたいという衝動に駆られ，下肢の運動でこの不快感や欲求は減少し，消失する。既に1960年にEkbomにより詳細な記載がありよく知られた症候群ではあるが，日常診療でよく知られているとは言い難い。今回の特集では，この有名ではあるがちょっと縁遠いRLSについて疫学，病態生理，症候と診断，二次性RLS，そして治療とその詳細を網羅していただいた。筆者自身の驚いたことの1つは，その有病率の高さであり，欧米では5～12％，わが国では1.1～1.8％とされており，一般にも知られるようになっていることから受診する患者も増えているとのことである。今回の特集が，本邦におけるRLS診療と患者さんのADL/QOLの向上に大きく貢献するものと期待される。特集に引き続き，ドパミン仮説などRLSとも関係があると思われるレム睡眠行動異常症（RBD）の歴史的展開とその病態生理について総説を掲載していただいたのもタイムリーである。

　特集以外では，まず厚生労働省の運動失調班を中心に行われた，新しい小脳性運動失調症の重症度評価スケールSARA（Scale for the Assessment and Rating of Ataxia）の信頼性に関する検討を紹介したい。従来のICARS（International Cooperative Ataxia Rating Scale）に比べてはるかに簡便なSARAの信頼性が十分に高いことが証明され，今後，広く普及していくものと思われる。そのほか，多発性硬化症のミトキサントロン治療や内頸動脈ステント留置術（CAS）に関する総説，急性期脳梗塞診断標準化の原著など時宜に適った重要な論文を多くご投稿いただいた。ここにご執筆の先生方に感謝申し上げるとともに，読者の皆さまに十分ご活用いただくことを祈念する次第である。

基本情報

BRAIN and NERVE
61巻5号
(2009年5月発行)

電子版ISSN：1344-8129 印刷版ISSN：1881-6096 医学書院

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第7位脳血管障害と自律神経障害伊藤義彰 BRAIN and NERVE 74巻 3号 pp. 223-229 (2022年3月1日) 医学書院
第8位抗アミロイド抗体—アルツハイマー病篠原もえ子,小野賢二郎 BRAIN and NERVE 76巻 10号 pp. 1119-1125 (2024年10月1日) 医学書院
第9位 irAEとしての末梢神経・筋障害鈴木重明 BRAIN and NERVE 76巻 5号 pp. 605-611 (2024年5月1日) 医学書院
第10位視神経脊髄炎スペクトラム障害治療におけるCD19モノクローナル抗体製剤イネビリズマブの有効性および安全性—N-MOmentum試験を中心に藤原一男,佐藤裕一 BRAIN and NERVE 76巻 10号 pp. 1153-1160 (2024年10月1日) 医学書院

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BRAIN and NERVE 61巻5号 (2009年5月発行)

特集 Restless legs syndrome

総説

原著

症例報告

神経画像アトラス

学会印象記

連載 神経学を作った100冊(29)

書評

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