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神経疾患が,一般内科的あるいは他の診療科の疾患と同じようなレベルでの「治療」の対象となることが明確になってから,それほど時間が経ってはいない。私の個人的な感覚からは,ここ30~40年くらいではないかと思う。それまでは,感染症すら的確な治療ができていたかどうか怪しいし,重症筋無力症など免疫性疾患におけるステロイド治療もまだ確立しておらず,ましてパーキンソン病などの変性疾患については,経験的な抗コリン薬があった程度であった。だから,神経疾患に対する治療に関してだけで1冊の本ができるなどとは考えもつかなかったであろう。しかも,この本のいわば前身に当たる『神経疾患最新の治療2006-2008』が出版されてから3年にして,既に治療の分野での進歩が著しいがゆえに全面改訂が行われたというわけだから,もう神経疾患には治療法が少ないなどとは口が裂けても言えない時代に入ったというべきだろう。
本書は前版と同様に,島根大学医学部附属病院院長の小林祥泰先生と,東京医科歯科大学神経内科教授の水澤英洋先生のお2人の編集による。内容的にも「巻頭トピックス」に続いて,「緊急時の神経症候とその対処法」,「治療手技」,「疾患別各論」があり,最後に「神経疾患のリハビリテーション」が続くという構造になっている点も前版と同様である。しかし,よく見ると,それらの章の中での各項目の取り上げ方や,同じ項目であってもその著者が,前版と異なっている。同じ著者の名前があっても,担当している項目が異なっている。新しい学問的な進歩を,新しい目で捉え直そうとする,心遣いや気配りは見事という他はない。「疾患別各論」の章で新しく加わった項目には,「脳疾患」として低髄圧症候群とプリオン病・遅発性ウイルス感染症の2つがある。それぞれ当然入っているべき疾患であるが,プリオン病にさえ,新しい治療の試みがある時代になったことを感慨深く思うのは私だけではないだろう。さらに「内科関連の神経疾患」としてうつ状態と心身症の2つが追加されている。この2項目ともそれぞれの専門家がわかりやすく解説されているので,大いに参考になる。また,「神経疾患のリハビリテーション」の章で「高次脳機能障害の認知リハビリテーション」が,内容に大きな違いはないが「認知療法」に言い換えられている。「認知療法」とは,精神科医療において患者が自分の病態に気付き,それを自ら修正してゆくことを助ける治療法であると思っていたので多少戸惑った。
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