言語聴覚研究 5巻2号 (2008年7月発行)

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シンポジウム　言語聴覚士のあり方―小児の言語聴覚領域の現状と課題

座長記佐場野　優一 5巻2号 , 2008年7月 , pp.86-87

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　小児の言語聴覚障害領域における言語聴覚士のあり方は，言語聴覚士が誕生してから10年足らずの間にも，さまざまな次元での変化が指摘されている．1つには少子化にもかかわらず増加する対象児の実態と障害像の変化，そして医学・医療・療育・教育それぞれの領域での知識・技術の進歩がある．さらに，健康観・発達観の変遷に伴う個々のニーズや療育理念の変化，保健・医療・福祉・教育にわたる領域間・職種間連携の拡大，各領域の法制度の変化もいちじるしい．

　これらの諸要因の変化は相乗されて速やかに小児の言語聴覚療法のあり方に影響し，各地域・施設間でも，小児の言語聴覚療法の実態に個性の違いが拡大しているようにみえる．言語聴覚障害をもつ児や家族が，必要とする支援を，いつでも，どこでも，一貫性のある療育理念のもとに，一定の水準で受けられることを理想とするにしても，現在は多様性のなかに可能性をみつけていくことが必要であると思われる．

地域の療育センターの立場から斉藤　吉人 5巻2号 , 2008年7月 , pp.88-95

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　北九州市立総合療育センターの過去約20年間(1985～2005年)の受診児の動向を調査した．少子化が進む中，療育センターの初診児数はむしろ増加傾向にあった．年齢分布は出生時・乳幼児期から学齢期まであり，発達段階に即した幅広い支援が求められていた．遠隔地からの受診は減少する傾向にあり，地域の療育環境が整備されてきていることが推察された．初診時の主な問題として，発達障害の疑われる子どもが増加する傾向を認めた．

　このような動向の中で総合療育センターの言語聴覚士に求められる支援のあり方も多様なものとなってきている．支援のあり方の具体例として，①医師による障害告知後の家族支援，②家族会とピア・カウンセラーの組織化，③通園施設に対する支援，④言語の通級指導教室に対する支援を報告した．

　以上より，言語聴覚士には，生活モデルの視点から，対象を子どものコミュニケーション環境全体へと拡大するニーズがあることを強調した．

耳鼻咽喉科医院に勤務する立場から長嶋　比奈美 5巻2号 , 2008年7月 , pp.96-102

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　耳鼻咽喉科医院に勤務する言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist)の立場から，言語聴覚障害をもつ小児の現状を分析するとともに，今後の課題について検討した．

　院内における小児言語障害児の診断治療とともに，乳幼児健診や学校健診への参画や研修会の開催など，地域に根ざした院外活動を行ってきた．その結果，福祉や教育の関連諸機関と密接な関係が取れるようになり，1歳台と3歳台を中心に種々の疾病をもつ小児の紹介が増えている．

　今後の課題として，言語聴覚士の参画による乳幼児健診の充実，新生児聴覚スクリーニング後の精査治療機関としての体制作り，一般耳鼻咽喉科診療所への言語聴覚士雇用拡大などが挙げられる．これらの小児領域や聴覚領域における言語聴覚療法の発展を図るためには，言語聴覚士の制度上の位置づけや経済的裏づけをはかる必要がある．

県レベルでネットワーク作りに取り組む立場から―小児言語聴覚療法の普及を目指して下田　祐輝 5巻2号 , 2008年7月 , pp.103-108

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　熊本県では発達障害児の実数に対してそれをフォローする療育施設・訓練機関が足りず，言語聴覚士(以下ST)による十分な支援を受けることができずにいる子どもたちが溢れている．このような現状を是正すべく，熊本県言語聴覚士会では，2004年から医療機関における小児言語聴覚療法の開設サポートと，人材育成に取り組み始めた．開始より3年経過したが，小児言語聴覚療法に取り組む医療機関が着実に増加している．

　今後も，この活動を継続し，STによる支援を必要としている子どもや保護者が，身近なところで言語聴覚療法を受けることかできるよう，発達支援を地域に根づかせていきたい．

特別支援教育に携わる立場から岡崎　宏 5巻2号 , 2008年7月 , pp.109-114

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　平成19年4月に学校教育法が一部改正され，従来の「特殊教育」に代わって，「特別支援教育」が本格的にスタートした．特別支援教育の対象は，従来の盲・聾・養護学校や特殊学級に在籍する障害児および通級による指導を受けている障害児のみならず，幼稚園や小・中・高等学校の通常の学級に在籍するLD・ADHD・高機能自閉症など，発達障害のある幼児・児童・生徒へと広がり，量的にも質的にも大きく変化した．

　この流れにおいて，言語聴覚士などの専門職が特別支援教育に参画することが求められており，われわれ一人一人の身近な課題でもある．本稿では，特別支援教育の理念とシステムについて概説するとともに，現在言語聴覚士がどのように特別支援教育に関わっているかを，日本言語聴覚士協会の調査に基づき報告する．また今後の展望を踏まえ，言語聴覚士が特別支援教育へどのように対応していく必要があるかを考える．

原著

学齢期に読み書き障害が顕在化したクモ膜囊胞開放術後の一例―乳幼児期早期にシャント術を施行した児の長期フォローアップ経過から新川　里佳 , 川崎　聡大 , 小野　成紀 , 伊達　勲 , 福島　邦博 5巻2号 , 2008年7月 , pp.69-76

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　中頭蓋窩クモ膜囊胞開放術施行後，学齢期にひらがな読み書き障害を呈した一例を経験した．対象児は現在通常学級1年に在籍する右利き男児である．術前後のSPECT所見では左頭頂葉下部から側頭葉にかけての局所脳血流量の低下を認め，同部位の機能不全が示唆された．対象児のひらがな読み書き困難は，神経心理学的評価から，視覚認知障害と音韻処理障害に起因することが明らかとなった．いっぽう，言語性意味理解や音声言語の長期記憶への影響は軽微であった．よってひらがな書字読字を可能とするために「聴覚法」と一部「キーワード法」を併用した介入を行い，ひらがな書字読字が可能となった．

　本症例をはじめ水頭症などで言語習得期に開頭術を伴った児の長期的予後の報告は少ない．特に本症例のように比較的発達良好とされた場合でも，局在性大脳機能障害に起因した認知障害をもち，言語モダリティーに影響を及ぼす場合があり，学齢期での神経心理学的評価の必要性が示唆された．

文字刺激による補完現象の検討―仮名一文字の音読で語彙化する2症例から橋本　幸成 , 大塚　裕一 , 宮本　恵美 5巻2号 , 2008年7月 , pp.77-85

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　脳血管障害により失語症を呈し，仮名一文字の音読で語彙化する症状を認めた2症例を認知神経心理学的に比較検討した．2症例は書記素-音韻変換機能に差があるため，異なる言語処理を経て症状が出現したと考えられた．そこで，本研究では仮名一文字の音読・書き取り・聴認知に加え，非語の音読，未完成仮名単語の音読を実施し，両症例の症状出現に至るメカニズムを分析した．その結果，2症例は同様の症状を呈するものの，仮名一文字の形態を視覚的に認識した後，形態的に補完して語彙化する場合と，仮名一文字を音韻へ変換し音韻的に補完して語彙化する場合が推測され，症状の発現メカニズムには相違点があることが示唆された．

短報

支援技術を活用した支援によって心理面の改善が認められた読み書き障害児の一例河野　俊寛 5巻2号 , 2008年7月 , pp.115-119

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　漢字の読み書き障害のある小学校3年男児に対して，支援技術(assistive technology:AT)を使った支援を5か月間行ったところ，心理面での改善が認められたので報告する．これまでの読み書き障害児の症例報告では，読字あるいは書字という障害そのものへのアプローチが多い．しかし，読み書き障害は生涯を通じて残るのであるから，自尊感情の保持向上こそが重要であるとすると，コミュニケーション分野におけるAAC(augmentative and alternative communication)のような，障害の補助・代替という支援も考えられる．本症例では，テキストリーダーソフトによって読字の困難さを聴覚的に補助し，ワープロの漢字変換によって漢字の書字困難を代替した．支援前後の心理状態を学童用Y-G性格検査を使って測定したところ，支援前に認められた情緒不安定性が支援後には改善していた．ATを使った支援は，読み書き障害児の心理面での改善に有効であることが示唆された．

調査報告

高齢期臨床に携わる言語聴覚士の聴覚臨床業務についての実態調査報告鈴木　恵子 , 柴﨑　美穂 , 熊谷　文愛 , 倉内　紀子 , 廣田　栄子 , 山口　勝也 , 吉岡　豊 5巻2号 , 2008年7月 , pp.120-126

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Ⅰ．はじめに

　急速に高齢化が進展し加齢による聴覚障害を見逃すことのできない現在，高齢期の臨床に携わるすべての言語聴覚士にとって，聴覚障害の臨床は必須の業務といっても過言ではない．ところが，言語障害や嚥下障害を主な対象とする多くの言語聴覚士にとって，合併する聴覚障害への臨床的な介入は，その範囲や方法が十分に明らかにされているとはいえず，試行錯誤で実施している現場も少なくないと推察される．そこで日本言語聴覚士協会・学術研究部・成人聴覚小委員会では，あらゆる障害領域の高齢期の臨床に携わる言語聴覚士が，聴覚に関して実施している臨床業務の現状と，各種の職場におけるニーズを把握し，臨床の充実に向けた今後の指針を得ることを目的にアンケート調査を行ったので，結果を報告する．

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「言語聴覚研究」購読会員のご案内日本言語聴覚士協会 5巻2号 , 2008年7月 , pp.127

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　本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました．本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります．

　購読会員を募集していますので，下記のとおりご案内いたします．

投稿規定 5巻2号 , 2008年7月 , pp.128

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執筆要綱 5巻2号 , 2008年7月 , pp.129

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投稿誓約書 5巻2号 , 2008年7月 , pp.130

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編集後記藤田　郁代 5巻2号 , 2008年7月 , pp.131

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　6月14日，大学の研究室にいて，長く続く地震の揺れを感じました．それは，岩手・宮城内陸地震の揺れであったことが，後でわかりました．本年は，中国四川省の大地震に続き，わが国でもこのような天災が生じ，多数の方々が被災されました．被災された方々に心からお見舞い申し上げますとともに，一日も早く平穏な日々を取り戻されるよう祈ります．

　本号では，第8回日本言語聴覚学会におけるシンポジウム「言語聴覚士のあり方―小児の言語聴覚領域の現状と課題」を掲載しました．小児言語障害領域では，平成19年から特別支援教育が本格的に始まり，対象児の幅が従来の特殊教育対象者から大きく拡がりました．通常の学級に学習や行動で著しい困難を示す児童が6.3％在籍するといわれており，このような児童への言語聴覚士の専門的対応が進むことが期待されます．本シンポジウムでは，このほか地域の療育センター，耳鼻科医院，県レベルの取り組みと今後の課題が実践例を通して紹介されており，臨床の今後の方向性が見えてきます．

基本情報

言語聴覚研究
5巻2号
(2008年7月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1349-5828 日本言語聴覚士協会

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