言語聴覚研究 5巻1号 (2008年3月)

シンポジウム 急性期における言語聴覚士のあり方―早期言語聴覚療法のポイント

座長記 立石 雅子
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 医療費抑制の流れの中,在院日数がさらに短縮化されている昨今,急性期に関わる言語聴覚士の数は着実に増加している.急性期の言語聴覚療法を実施している施設を対象として急性期の言語聴覚リハビリテーションに関する基礎的なデータ収集を行い,さらに,実際に急性期に行われている対応についての情報収集に基づき,日本言語聴覚士協会学術研究部急性期小委員会が急性期における言語聴覚リハビリテーションに関する指針を出したのは2005年3月のことであった.以来,すでに3年が経過した.急性期において留意すべき方向性については指針にまとめられたが,より具体的な言語聴覚士の関わり方,どのように対応するのかという点について明確にする必要があった.

 急性期において特に重要となるのは,どのように経過を追い,どのような点に注目することでどの障害が残り,どの障害は消失するのかについて予測を立てるのか,状況の変化の中でおおよその評価をどのように行い,必要なリハビリテーションが実施できる施設にどのようにつないでいくかという先の見通しが必要となる.

画像診断・評価 佐藤 睦子
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 急性期における画像診断と評価は,その後の治療や支援活動の質を左右する重要な作業である.本論では,自験例を紹介しながら,病巣局在の違いはもちろんのこと疾患の違いによっても臨床経過が異なることや,画像所見と神経心理学的症状が乖離することがあり画像診断と評価は相補的役割を果たすことを示した.急性期においては,症状が変動しやすく時間的にも制約があるため,評価は,脳機能局在を想定しながら,患者への負担を最小にしつつ得られる所見を最大にすることを目指して行うべきである.画像診断自体は医師の業務であるが,より質の高い臨床サービスを提供するために,画像所見と臨床症状を統合的に把握することは,チーム医療の一翼を担う言語聴覚士にも求められる.すなわち,脳機能や疾患自体およびさまざまな疾患から生じる神経心理学的症状の多様性について理解を深めるとともに,症状を評価判断する力量をさらに向上させることが必要である.

情報の収集と統合 春原 則子
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 脳血管障害に関わる急性期の言語聴覚療法について,いかに情報を統合し,どのような側面から対応するかという観点から検討した.症例はいずれも脳梗塞にて失語症をきたしていた.構造化された検査が実施できた1例のみでなく,他の2例においても臨床観察や自由会話などをとおして多くの情報を得ることができた.カルテや他職種などから得られた情報と言語聴覚士(ST)自身が得た情報を統合することによって,3例それぞれに異なる問題点が抽出され,それぞれに必要と考えられる対応を行った.急性期の言語聴覚療法における主な目標は,コミュニケーション状況の把握,コミュニケーションルートを確保するための症例と周囲への対応,今後の方針を立てるために必要な予後予測などにあると考えられる.情報を統合するには,その情報を収集する目的が明確になっていることが必要と思われる.入院期間短縮の中で,必要な情報の収集と統合,問題点の適切な抽出,必要な対応の見きわめを行える高い専門性が今後ますます求められると考えられる.

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 近年,診療報酬改定に伴い脳卒中患者の在院日数の短縮化が年々はかられ,高次脳機能障害を含むコミュニケーション障害への対応も早期から求められ,言語聴覚士による早期介入の重要性が認識されつつある.急性期からの当院における取り組みの紹介と,高次脳機能障害を呈した自験例2例の急性期における言語聴覚士の臨床活動について報告した.急性期において効率のよい臨床活動を行う際には,①現病歴やCT,MRI,家族などの情報から,生じている高次脳機能障害をある程度推定する.②推定した高次脳機能障害を中心に評価を実施し,症状出現の程度やコミュニケーション上に与えている影響を見定める.③軽快すると予想される症状と,残存すると考える症状に対して,関わる関連スタッフと情報を共有し,家族にも的確な指導を行うことによって質の高い医療を提供することができると考えた.

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 近年,急性期リハビリテーション(以下急性期リハ)の重要性が高まり,急性期リハに従事する言語聴覚士にも短期間で一定の成果を出すことが望まれている.

 しかし,その一方で急性期にある患者は全身状態が安定せず,ベッドサイドから訓練開始となる例も少なくない.また摂食・嚥下障害や意識障害を合併することも多い.

 今回,摂食・嚥下障害や意識障害がある場合の対応について,それぞれ症例を取り上げて検討しポイントをまとめた.

 摂食・嚥下障害がある患者の場合,1)嚥下障害の原因,障害のタイプを把握し,訓練プログラムを立案する.2)訓練前には必ずバイタルを確認する.3)意識障害を合併する場合は覚醒を促す働きかけもする.4)覚醒のよい時間帯に訓練することが大切である.また意識障害がある患者の場合は,1)1回の評価で障害を判断しない.2)評価の視点をもって訓練を行う.3)些細な反応も見逃さない.4)コミュニケーション回路を確保することが大切である.

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 学齢前に聴覚情報処理障害(APD)を呈した症例1例を報告した.標準純音聴力検査,ASSR,DPOAEに異常は認めなかったが,MLRで閾値上昇を認めた.APDスクリーニング検査では,両耳分離聴検査と騒音下での単語受聴検査で正答率の低下とLI値の上昇を認めた.SPECTでは右頭頂側頭葉皮質および皮質下の局所脳血流量の低下を認めた.よって同部位の機能低下が本児のAPD症状に何らかの関与をもつと考えられた.本症例でAPDが著しい言語発達の阻害要因とならなかった背景には日本語と英語の言語体系の相違があると考えられた.しかし日本語においてもAPDに他の認知障害を合併する場合,より言語発達に与える影響は重篤となる可能性が示唆された.

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 一卵性双生児の1例に認めた書字障害の特徴を中心に報告した.症例は初診時6歳10か月の右利き,女児である.神経心理学的検査の結果,以下のことがわかった.明らかな知的低下は認めず,文字の音読についても問題がなかったが,仮名1文字の写字ではバランスや歪みが目立ち,文字列の場合には文字の重なりなど空間配置に問題があった.本例の書字障害について,崎原(1998)が報告した幼児期における書字(写字)の発達分析を参考に,双生児の妹の書字と比較した.その結果,本例の書字障害は,視覚-運動(構成)能力の発達の遅れによると考えた.

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 NST(Nutrition Support Team)は,さまざまな形の栄養障害に対して,総合的な対応を行うチームであり,病院における栄養管理の主流となっている.NST活動において栄養摂取法を検討する場合,まずはじめに経口摂取の可否が問題となり,全栄養摂取量における経口摂取量の割合を検討する必要がある.現在,経口摂取の評価や検討は多くの施設において,言語聴覚士が中心となって行っている.

 適確な経口摂取を実現するためには「機能評価・予後予測・リスク管理」を行うことが重要であり,これらは,言語聴覚士がNST活動を行ううえでのポイントになる.特に誤嚥性肺炎に関する患者のリスク管理は重要であり,言語聴覚士が摂食・嚥下機能の評価や訓練に加えてリスク管理を徹底すれば,理想的な形での経口摂取が実現し,チーム活動のうえでもより重要な役割を担うことができる.

 安全な経口摂取のためのリスク管理のポイントと栄養管理の重要性を含めて,NSTにおける言語聴覚士の役割について検討した.

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Ⅰ.はじめに

 近年の医療保険,介護保険改定において,医療,福祉におけるリハビリテーションの流れは,急性期,回復期,維持期の役割を明確化しようとする方向へ加速している.急性期リハビリテーションの重要性は再確認され,診療報酬上の点数は依然手厚く設置された.維持期リハビリテーションは中核部分を介護保険において実施する方向で議論が進んでおり,今後の展開に予断を許さない.その間に位置する回復期リハビリテーションは,急性期と維持期をつなぐ重要な役割を担っているが,180日問題など医療保険に加えられた厳しい制限の影響を受ける中,その前途は必ずしも楽観できるものではない.特に言語聴覚士はいまだ配置が義務付けられていない現状ながら,回復期リハビリテーション病棟での雇用は急速に拡大しており,現場ではさまざまな問題が浮かび上がっている.

 言語聴覚士は,今後回復期リハビリテーション病棟で,関連職種との連携を図りながら一層の役割を確立し,社会的貢献を果たしていくことが求められている.日本言語聴覚士協会学術小委員会回復期リハビリテーション委員会では,回復期リハビリテーション病棟で働く言語聴覚士の現状と課題を明らかにすることを目的として,施設概要,実績,施設および訓練実施環境,業務内容,連携に関してアンケート調査を行ったので,報告する.

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テーマ:言語聴覚療法の最前線

会 期:2008年6月21日(土)・22日(日)

会 場:栃木県総合文化センター(栃木県宇都宮市本町1-8 JR宇都宮駅西口下車 バスで県庁前下車徒歩3分)

会 長:藤田 郁代(国際医療福祉大学 保健医療学部 言語聴覚学科)

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 立石 雅子
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 言語聴覚研究第5巻1号をお届けします.

 本号では第8回日本言語聴覚学会におけるシンポジウム「急性期における言語聴覚士のあり方」の講演内容がまとめられています.佐藤先生は言語聴覚士が画像と神経心理学的な症状とを対応づけられることが重要であると報告され,春原先生は症例により問題点も異なり,対応も異なるという前提に立って問題点の抽出を的確に行い,情報を統合すること,個別に対応の順序を考えていくことの重要性を強調されています.諏訪先生は適切に次の過程につなぐために,医療における仕組みの検討と同時に言語聴覚士としては軽快する症状と残存する症状の見極めが重要であると述べられ,布施先生は摂食・嚥下障害の場合には原因の確認と障害タイプの確認が重要であること,意識障害がある場合には症状について繰り返し評価すること,小さな変化を見逃さないことが重要であると報告されています.様々な要素が絡み合い,対応の難しい急性期であっても,評価,対応,先への継続のいずれにおいても,根拠に基づくより具体的で適切な対応が必要となっています.

基本情報

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言語聴覚研究
5巻1号 (2008年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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