言語聴覚研究 5巻3号 (2008年11月)

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 脳出血により中等度のウェルニッケ失語を呈した全盲の症例を経験した.症例は,発症により喚語困難・音韻性錯語および語性錯語・新造語などの発話面の障害,聴覚的理解力低下,熟練していた点字の音読・読解・表現困難を呈した.訓練で点字の音読や読解を実施し,実用的コミュニケーション手段として点字コミュニケーションボードを導入した.教材の準備にあたっては盲学校の協力を得た.結果,点字コミュニケーションボードを用いて日常の基本的欲求表現が可能となり,生活の質は大きく改善した.点字使用者は失語症により点字使用に障害が起こり得ること,実用的コミュニケーション手段として点字を有効に活用できる可能性があること,全盲失語症者におけるコミュニケーション能力の向上は晴眼の場合に比し生活への影響がより大きいこと,視覚障害者への支援に当たり関連施設との連携が重要であることが示唆された.

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 摂食・嚥下障害の臨床では,嚥下反射誘発初期の嚥下動態を「嚥下反射惹起性」として評価することが重要視されている.本研究では健常成人を対象に,食塊量を1ml,5ml,20mlと変化させ嚥下時の舌骨上筋群筋活動と喉頭運動を記録し,食塊量の違いが嚥下反射誘発初期の嚥下動態に及ぼす影響を検討した.さらに,嚥下時の嚥下困難感について官能評価を行い,運動的側面と心理的側面について検討した.

 結果は食塊量1mlで,嚥下反射誘発初期の嚥下動態を評価する「嚥下反射パフォーマンス指標」と「嚥下反射惹起指標」において他の食塊量に比し,有意な反応時間の延長を認めた.また,官能評価では1mlで「飲みにくい」と感じ,他の食塊量に比し嚥下困難感を感じていることが推察された.これらの結果より,食塊量という末梢性の感覚入力の違いが,嚥下反射誘発初期の嚥下動態と心理的な嚥下困難感に影響を及ぼすことが示唆された.

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 喉頭摘出者の食道発声訓練は患者会に委ねている場合が多く,言語聴覚士が訓練経過を長期間調査した報告は少ない.本研究では,当院で喉頭全摘術(以下,喉摘)および下咽頭喉頭頸部食道全摘術(以下,咽喉食摘)を行い,術後4か月以上食道発声訓練を実施した39名の患者について術式別に食道発声の帰結を比較検討することを目的とした.結果,①食道発声習得率は喉摘が48%,咽喉食摘が33%であったこと,②挨拶や単語レベルの食道発声習得期間は喉摘が約2~3か月,咽喉食摘が約10~11か月であったこと,③習得者でも必ずしも食道発声を日常の主コミュニケーション手段として用いているわけではなく,特に咽喉食摘ではその傾向が著明であったこと,④喉摘,咽喉食摘ともすべての患者が患者会に参加しているわけではないこと,が示された.咽喉食摘は喉摘と比べて食道発声の習得が難しいため,食道発声訓練においては長期的な指導が必要と考えられた.

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 注意障害を合併した重度ディサースリアの訓練経過をICFの障害モデルに基づいて後方視的に検討した.症例は58歳男性,過去に2回の脳出血既往歴があり,3度目の脳出血を発症した.訓練開始時では発話不能であり,意識障害,注意障害や右上肢機能低下のために代償手段による意思伝達も不可能であった.訓練の結果,機能障害では大きな改善はみられなかったが,筆談による代償手段を獲得したことで実用的コミュニケーションが可能となり,活動制限が改善した.コミュニケーション・パートナーが妻・看護師から見舞い客へと拡大したことで参加制約が緩和した.このことから,注意障害を合併した重度ディサースリアにおいて,①高次脳機能障害と並行したディサースリアの機能障害・活動制限への介入,ならびに②ICFの障害モデルに基づいて適切なアプローチを行うことの重要性が再認識された.

講演 第9回日本言語聴覚学会教育講演

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Ⅰ.Introduction

 The purpose of this paper is to introduce past, present, and future of Speech Language Pathology and Audiology in Korea. Speech Language Pathology and Audiology are separately developing and functioning in Korea. There are independent curriculum, academies, associations, and licenses. Speech Language Pathology and Audiology are still new fields in Korea. There are many challenges and tasks faced by professionals in this field.

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 NST(栄養サポートチーム)は低栄養患者の栄養状態改善をはかる多職種チーム医療である.NSTが低栄養患者の身体状態と予後を改善することは多くの報告で実証されている.NSTはまた,医療費削減にも貢献する.

 低栄養の主因の1つに嚥下障害がある.嚥下障害は3つの主な原因,すなわち機能性障害(脳血管障害など),機械的障害(腫瘍など),加齢により生じる.

 嚥下障害の診断は,さまざまな手技〔問診,診察,血液尿検査,画像診断(CTなど),嚥下造影(VF),嚥下内視鏡(VE)など〕を駆使して行われる.

 嚥下障害の治療には,原疾患の治療と摂食・嚥下訓練が重要である.SLHTは嚥下障害の診断・治療に活躍するため,NSTの主要メンバーたりうる.当院では5名のSLHTがNSTで活動中だが,高く評価されている.残念ながら本邦では,NSTに参加するSLHTはまだきわめて少ない.近い将来,多くのSLHTが低栄養患者のためにNSTで活躍することを願ってやまない.

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 わが国では現在,喉頭摘出を受け,声を失った人は約2万~3万人いるといわれている.そのほとんどの患者が食道発声の訓練を受けているが,発声が十分にできない人も多い.今回,下咽頭癌により喉頭摘出術を受け失声したが,日本ではまだ数少ない気管-食道シャント術(以下T-Eシャント)を受け,留置型人工喉頭プロヴォックスによって新たな声を得た.T-Eシャントは食道発声と比べて一度に発声できる語が多く,発声できるセンテンスも長く,また音圧,音量,明瞭度にも優れていて発声に努力を要さない.T-Eシャント法は,わが国でもさらに多く採用されるべき素晴らしい発声方法であると考えられた.

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 本研究は,外来で言語訓練を受けている失語症患者19名を対象に,在宅の活動状況を調査した.方法は面談および質問紙によるアンケートを実施し分析した.その結果,1週間の外出回数は平均4.95回(±2.69)であった.全体の63.2%が家庭内で何らかの役割をもっており,在宅で役割がある群は,役割なし群に比べ外出回数が有意に多かった(p<0.05).①在宅で役割をもつことが,高齢の失語症患者の外出回数を維持し,社会とのつながりをもつ機会となる可能性があると考えた.②日常生活における失語症患者の活動性を高めるためには,言語機能に限らず運動機能や適応能力を評価し,急性期の段階から在宅における具体的な役割を提案し,適応を支援することがわれわれ言語聴覚士には必要であると考える.

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テーマ 言語聴覚臨床のスコープ

 第10回日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会は,2009年6月13日(土)・14日(日)に岡山県倉敷市の川崎医療福祉大学で開催させていただきます.今回初めて西日本で開催することになりました.

 本学会の対象分野は広く,視点や方法論が多彩で,いくつもの専門学会が寄り集まったようなものです.そこで,メインテーマを「言語聴覚臨床のスコープ」とし,全ての分野における基礎的知識,最新の知見,臨床技術を学び,議論していただきたいと思います.幸いにもそれぞれの分野について高い業績を挙げておられる先生方にご講演いただけることになりました.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 今号には,2008年6月に開催された第9回日本言語聴覚学会で講演をされた,韓国ナザレ大学のMi Sun Yoon教授(SLP),社団永生会永生病院の赤木家康先生,聖隷浜松病院の磯崎泰介先生の寄稿を掲載しました.赤木先生の講演は実体験に基づくものであり,多くの臨床的示唆を得ることができる講演でした.また磯崎先生にはNSTで言語聴覚士が期待される役割についてわかりやすく解説していただきました.韓国の言語聴覚療法の現状について幅広く紹介されたMi Sun Yoon教授の講演によると,現在,韓国にはSLPが約3,000人,オージオロジストが約500人活躍しているとのことで,人口比からみてわが国よりも少数であるといえます.しかし,韓国では両専門職の教育は大学および大学院を中心として行われており,研究への関心は非常に高く,幅広いテーマで活発な研究活動が行われています.国家資格化や健康保険制度への参入などの問題があることはうかがわれますが,専門職の着実な努力で韓国の言語聴覚分野の未来は拓かれるものと思われます.

基本情報

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言語聴覚研究
5巻3号 (2008年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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