CLINICAL CALCIUM 28巻11号 (2018年10月)

特集 悪性腫瘍と骨・カルシウム代謝

Preface

巻頭言~悪性腫瘍の合併症~ 米田俊之

Review

乳がん骨転移の病態と治療 石川孝
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 骨はエストロゲン受容体陽性乳がんが最も転移しやすい臓器である。そのため骨転移が成立する機序を解明して,有効な治療法さらには予防法を開発することが重要である。放射線治療や手術および薬剤を組み合わせた治療によって骨転移治療の成績は明らかに進歩している。その中で骨修飾薬が最も重要な役割を果たしている。現在,ビスホスホネート(BP)製剤のゾレドロン酸(ZOL)と,receptor activator of NF-κB ligand(RANKL)に対する完全ヒト型モノクローナル抗体のデノスマブ(Dmab)が広く使用されている。これらの骨修飾薬の登場によって明らかに骨転移症例のQOL(quality of life)は改善している。さらにこれらの薬剤は骨転移の予防や予後の改善効果も期待されている。どちらも安全な薬剤であるが,顎骨壊死や低カルシウム血症,腎障害や非定型骨折など頻度は少ないが重篤な副作用には注意を要する。

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 前立腺がんにおける骨転移はもっとも頻度の高い転移部位であり,硬化性病変が特徴である。特に椎骨・骨盤骨の転移が多いことも知られている。画像診断では99mTcを用いた骨シンチグラフィーが頻用されており,転移の程度はEODグレードとして臨床試験でも使用されている。CTやMRIなども用いて総合的な評価が必要である。去勢抵抗性前立腺がんに対するゾレドロン酸やデノスマブがSREおよびSSEの出現を抑制する効果があるとともに,近年上市されたエンザルタミドやアビラテロンなどの新規ホルモン剤やタキサン系抗がん剤であるドセタキセルやカバジタキセルも効果をもつ。近年,骨転移のリスクの高い非転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する新規ホルモン剤が,非転移再発率を指標に承認されており,前立腺がんの骨転移に対する治療戦略は大きく変わり始めた。

腫瘍性骨軟化症 福本誠二
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 腫瘍性骨軟化症は,原因腫瘍からの線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23:FGF23)過剰産生により,低リン血症,骨軟化症が惹起される腫瘍随伴症候群の一つである。本症惹起腫瘍は,骨や軟部組織の間葉系良性腫瘍が多い。本症治療の第一選択は,腫瘍の完全摘除である。一方腫瘍が摘除できない場合には,リン製剤と活性型ビタミンD製剤が通常投与される。現在FGF23作用を阻害する抗FGF23モノクローナル抗体の効果が,臨床試験により検討されている。

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 前立腺がんや乳がんは,性ホルモン依存的である。そのため性ホルモン核内受容体による標的遺伝子群の転写制御が,性ホルモン依存性がんの発症と増悪に深く関わることは自明である。本稿では,性ホルモン依存性がんにおける,性ホルモン核内受容体による転写制御と染色体構造調節の分子機構を転写とエピゲノム共制御を中心に概説する。また最近明らかにされつつあるnon-coding RNAの一種であるenhancer RNA(eRNA)の染色体構造調節の役割についても紹介したい。

がんとビタミンD 槇島誠
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 ビタミンD欠乏と大腸がんとの関連性,及び活性型ビタミンDである1α,25-ジヒドロキシビタミンD3[1,25(OH)2D3]による急性骨髄性白血病細胞株の分化誘導効果といった知見から,ビタミンDの抗腫瘍効果が注目され,多くの研究がなされてきた。1,25(OH)2D3は,核内受容体であるビタミンD受容体(VDR)を活性化することで,細胞の増殖抑制や分化を誘導する。VDRの活性化は,炎症や血管新生を抑制することでも抗腫瘍効果を及ぼす。また,VDRによる二次胆汁酸の代謝促進作用も,大腸がんの発症抑制に関与するかも知れない。大腸がん,乳がん,前立腺がん,骨髄性白血病など多くの悪性腫瘍において1,25(OH)2D3や誘導体の抗腫瘍効果が報告されているが,高カルシウム血症を誘導しない化合物の開発が課題である。

骨痛とがんの相互作用 奥井達雄
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 がんは高頻度に骨に転移する。その詳細なメカニズムはいまだ不明であるが,がんは骨微小環境,特に破骨細胞や骨芽細胞と互助的に,いわゆる悪循環を成立させ骨恒常性を破綻しながら増殖することが示されている。知覚神経は骨に豊富に終末し,骨微小環境の一要素であることが見出されている。近年末梢神経系の活性が悪性腫瘍の増大,転移に促進的に働くことが示されている。これらの知見は,知覚神経興奮の抑制は鎮痛効果のみならず,従来とは異なる抗がん治療アプローチとしても有効であることを示唆している。がん性骨痛とがんの相互作用に対する新知見をreviewする。

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 悪性腫瘍患者は,関節痛や関節炎(paraneoplastic arthritis)を呈することがあり,これらの症状が,悪性腫瘍関連のものか,リウマチ性疾患合併そのものによるものか,治療の副作用によるものか,再燃によるものかなど慎重に判断する必要がある。傍腫瘍性症候群の診断は,悪性腫瘍が明確もしくは肥大性骨関節症(hypertrophic osteoarthropathy)や手掌筋膜炎など典型的な症状があるときは比較的容易である。しかし,これら傍腫瘍性症候群の現象は悪性腫瘍診断前に起こりうることを臨床医は認識すべきである。それにより腫瘍の早期発見を導くことが可能となりうる。高齢で非典型的な臨床症状を呈したリウマチ疾患,通常の治療に反応不良,体重減少などの全身症状や疑わしい身体的所見があった場合,潜在性の悪性腫瘍の存在に注意すべきで,中でも血液腫瘍はなかなか表面化しないので慎重な観察を要する。

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 前立腺がんの骨転移は造骨性が多く,去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の末期になると約90%が骨転移を有し,骨痛や病的骨折などの症候性骨関連事象を呈する。α線放射線治療薬の塩化ラジウム-223(Ra-223)は,骨痛の軽減などQOLの改善とともに,骨治療薬として初めてCRPCの全生存期間延長を示した。有害事象として,貧血・好中球減少・血小板減少など血液毒性や,悪心・下痢・骨痛などの非血液毒性があるが,軽微であり忍容性は高い。化学療法前の新規ホルモン剤を投与中に前立腺特異抗原(PSA)上昇を来している時や骨痛などの症状が出てきた時が,Ra-223の6回投与完遂の至適タイミングである。

がん性骨痛のメカニズム 日浅雅博
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 骨転移を有するがん患者は,がんの進行に伴って制御の難しいがん性骨痛に頻繁に苦しむ。しかしながら,現在のがん性骨痛に対する治療法は,その重篤な副作用の点からも十分満足のいく結果が得られていないため,がん性骨痛に対する新たな治療戦略が望まれる。我々の知見を含む近年の研究結果から,がん細胞や破骨細胞の形成する酸性環境が,その治療標的として期待されている。

Therapy

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 腫瘍随伴性高カルシウム血症(malignancy associated hypercalcemia:MAH)は担がん患者の予後不良因子であり,直接の死因となることもある。本稿ではMAHの病態,疫学,マネージメントについて概説する。MAHは腫瘍が分泌する全身性液性因子により起こるhumoral hypercalcemia of malignancy(HHM)と,腫瘍が骨局所で骨吸収を亢進させる局所骨融解性高カルシウム血症(local osteolytic hypercalcemia:LOH)の二つの病型に大別される。MAHの治療は積極的な細胞外液と骨吸収抑制薬(カルシトニン,ビスホスホネート,デノスマブ)の投与である。

乳がんの内分泌療法 山下啓子
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 乳がんの内分泌療法はホルモン受容体陽性乳がん(全乳がんの約80%)に対して,① 卵巣や末梢組織でのエストロゲンの産生を抑制する(LH-RHアゴニスト,アロマターゼ阻害薬),または ② ホルモン受容体の機能を修飾することにより乳がん細胞へのエストロゲンの作用を阻害する,ことを基本概念とするエストロゲン-エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)を標的とした分子標的治療である。最近は特にER陽性転移乳がんに対して,内分泌療法と新規の分子標的薬(mTOR阻害薬,CDK4/6阻害薬)との併用が用いられている。

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 乳がんは代表的なホルモン依存性腫瘍であり,診断時に6割以上がエストロゲン受容体陽性で増殖にはエストロゲン(E)が必要である。乳がんは元来,微小転移を来しやすい腫瘍であるため,術後の再発予防にはEの作用を抑制する5年から10年間のホルモン補助療法(HT)が盛んに行われている。  しかし,術後閉経後乳がんに対するアロマターゼ阻害剤によるHTは体内のE濃度を著明に低下させ,顕著な骨量減少と骨折を招き,がん治療関連骨減少(CTIBL)の典型例,アロマターゼ阻害剤関連骨減少(AIBL)として知られるようになった。このような中,乳がんの治療を中断することなく骨量を増加,骨折率を低下させる支持療法として骨修飾薬の有用性が欧米を中心に明らかになり,私達も最近,骨減少や骨粗鬆症の日本人乳がん患者においても6カ月に一度のデノスマブ投与が有意に骨量を増加させることを示した。  国内における乳がん罹患者数は年間約9万人に達し,相当数がCTIBLの予備群と推定され,適切な対策が望まれる。

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 前立腺がんに対する内分泌療法はアンドロゲン除去療法と抗アンドロゲン薬であり,進行性前立腺がんの標準治療である。大部分の前立腺がんにおいて内分泌療法は効果を認めるが,治療継続に伴い内分泌療法に治療抵抗性を示すようになり,去勢抵抗性前立腺がんとなる。本稿では,前立腺がんに対する内分泌療法の種類,内分泌療法の生理学的な作用機序,本邦や欧米での実臨床での使用方法,去勢抵抗性前立腺がんに対する新たな内分泌療法,そして内分泌療法において注意すべき副作用に関して概説する。

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 ADT(アンドロゲン遮断療法)は前立腺がんに対する標準的全身療法であり,骨転移を認めない症例では脆弱性骨折の予防に努め,骨転移を認める症例では骨関連事象(SSE)の発症を予防することが生命予後の改善に寄与する。新規ホルモン剤の登場とそれらの早期導入への動きが活発化することで,骨量減少だけでなく筋量減少(サルコペニア)が誘発され転倒・骨折のリスクが益々増大する。骨折を未然に防ぐために,早期からのビタミンDや骨修飾薬(BMA)による介入が望まれる。骨管理アルゴリズムを参考に適切な時期に適切な薬剤を開始することが大事である。サルコペニアに対する薬剤はないので,運動療法などの生活指導を行うことも重要である。アビラテロンはステロイドと併用投与するので,BMAの併用が推奨される。Ra-223は骨転移に対する放射性医薬品であるが,新規ホルモン剤との併用には注意が必要である。とくにアビラテロンおよびプレドニゾロンとの併用は骨折・死亡のリスクが高まるため,併用は行うべきではない。

理解を助けるトレーニング問題

がん性骨痛に関して 奥井達雄
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(2018年11月号特集:「悪性腫瘍と骨・カルシウム代謝」に関連した設問です。知識・情報の整理にお役立て下さい)

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(2018年11月号特集:「悪性腫瘍と骨・カルシウム代謝」に関連した設問です。知識・情報の整理にお役立て下さい)

連載 ミニ連載 小胞体ストレス:小胞体が制御する細胞と個体の運命(Ⅶ-1)

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 効率的な代謝活動には,全身の各臓器が独立して働くのではなく,臓器間で密接に情報をやり取りし,それに基づき連関して調節することが必須である。近年,小胞体でのタンパク質の折り畳み不全への適応機構である小胞体ストレス応答が,細胞レベルでの機能制御に留まらず,臓器連関による個体レベルの機能制御も行うことがわかってきた。本稿では,臓器代謝ネットワークでの小胞体ストレス応答の役割について,最近の知見を紹介する。

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1.過剰なTGF-β活性の阻害はマウスにおける異所性骨化を減弱させる 2.Activin依存的なfibro/adipogenic前駆細胞におけるシグナルは進行性骨化性線維異形成症の異所性骨化を起こす

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特集予告(12月号、2019年1月号)

基本情報

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CLINICAL CALCIUM
28巻11号 (2018年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0917-5857 医薬ジャーナル社

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