耳鼻咽喉科・頭頸部外科 91巻2号 (2019年2月)

特集 ここまできた! 頭頸部希少癌の治療戦略

頭頸部希少癌の治療戦略 丹生 健一
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はじめに

 国立がん研究センターのがん情報サービスによると,2016年度の本邦における主な癌の死亡数は,肺癌は約7万4000例,大腸癌は約5万例,胃癌は約4万5000例で,頭頸部では発生数は,喉頭癌が約5000例,口腔・咽頭癌は全部位を合わせて約1万9000例であった1)。多彩な病理組織像を示す鼻腔や唾液腺の悪性腫瘍,原発不明癌となるとさらに少なく,一施設の経験や前向き臨床試験で治療方針選択の指標となるエビデンスを生み出すことは難しい。本特集では,こうした頭頸部の希少癌を取り上げ,最新のエビデンスと治療戦略を,本邦を代表するエキスパートの皆様に解説していただくこととした。

聴器癌(外耳道癌) 志賀 清人
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POINT

●聴器癌(外耳道癌)は希少疾患であり,他の頭頸部扁平上皮癌とは異なる臨床像を呈する。症例は女性が多く,外耳道真珠腫などとの鑑別も必要であり,生検による病理診断の確認が必須である。

●造影CTによる腫瘍陰影と骨破壊像の程度の診断が病期分類の決め手になる。診断時には進行癌となっている場合も多い。

●根治手術が可能な場合は手術治療も可能であるが,解剖学的に切除マージンが取りにくく,病理で切除断端陽性になる場合が散見される。また側頭骨亜全摘などの根治手術は,熟練した術者がいない施設では困難である。

●頭蓋底への進展例など手術困難例で行われている化学放射線治療は,標準的なシスプラチン(CDDP)レジメンでは無効なことが多く,今後の治療成績向上のためには新たな併用療法の有用性を確認する臨床試験が望まれる。

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POINT

●標準的治療は腫瘍切除と術後放射線治療である。

●臨床病期分類はKadish分類とDulguerov分類,病理組織学的分類はHyams分類が用いられる。

●早期例では,低侵襲な経鼻内視鏡下の頭蓋底手術で,開頭術と同等の局所制御が期待できる。

●長期経過後の再発が多いため,5年以上の経過観察が必要である。

粘膜悪性黒色腫 池田 雅一 , 林 隆一
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POINT

●粘膜悪性黒色腫は比較的稀な腫瘍であり,頭頸部領域での発生が多い。

●頭頸部の発生部位は鼻・副鼻腔領域,口腔領域が多く,咽頭・喉頭領域は少ない。

●MRIでは腫瘍内のメラニン色素により特徴的な画像所見を呈するが,メラニンが乏しい腫瘍は同様の特徴を呈さないことがある。

●治療は手術療法が主として行われるが,放射線治療機器の進歩や新薬の開発により治療選択肢は増えつつある。

頸部食道癌 朝蔭 孝宏
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POINT

●頸部食道癌では,他の亜部位と比較して化学放射線療法が選択される傾向にある。

●頸部食道癌に対する標準的治療は,外科では補助化学療法+手術であるが,耳鼻咽喉科・頭頸部外科では手術±化学放射線療法である。

●化学放射線療法は手術と比較して生存率に差はみられないが,高い喉頭温存率を示す。

●喉頭温存手術後,化学放射線治療後は誤嚥性肺炎に注意を要する。

原発不明癌 別府 武
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POINT

●原発不明頸部転移癌の患者では,原発巣検索のために必要な検査を,抜けなく,順序よく,1か月程度内に施行し,速やかに治療に移行すべきである。

●転移リンパ節からの組織検査が必須で,p16免疫染色とEBER-ISH検査を施行し,p16陽性中咽頭癌と上咽頭癌を除外する必要がある。

●節外進展を強力な予後因子としてとらえたTNM分類が新設され,今後,系統立った治療成績の記述,検討ができるようになった。

●頸部郭清術が治療の主軸をなし,これによって得られた頸部リンパ節の病理結果によって術後の補助治療を検討する。

唾液腺導管癌 多田 雄一郎
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POINT

●他の高悪性度唾液腺癌と同様に,初回治療の原則は,外科治療および高リスク症例の術後放射線治療である。

●切除不能再発転移例に対する治療として,NCCNガイドライン2018年版では,アンドロゲン受容体,HER2の発現を解析し,それぞれを治療標的とする薬物治療が提示された。

●日常臨床では,切除不能再発転移例に対する化学療法として,白金製剤とタキサン系抗癌剤の併用療法の報告が増えている。

●海外では遺伝子変異に応じて薬物を決定する治療報告が増えている。

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POINT

●潜在リンパ節転移に対する治療の意義は不明瞭であり,前向きの臨床試験が待たれる。

●近年,粒子線治療が手術に次ぐ局所治療法として期待されている。

●遠隔転移症例は予後不良である一方で,肺転移単独例など緩徐進行性の場合もある。稀な腫瘍であることから全身化学療法の生存延長効果については十分なエビデンスがなく,治療目標は症状緩和になる。

頸動脈小体腫瘍 小澤 宏之
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POINT

●頸動脈小体腫瘍の根治治療は手術切除であるが,易出血性で頸動脈と癒着しているため,大量出血や脳梗塞などの合併症リスクがある。

●術前に血管造影検査を行い,栄養血管の評価および頸動脈遮断テストを行う。栄養血管の塞栓術を行うことで術中出血がコントロールしやすくなる。また頸動脈遮断の可否を確認し,頸動脈損傷時に安全に対応できる準備を行う。

●術前から複数の診療科による診療を行い,チームとして腫瘍摘出術を行うことが,安全で確実な手術には不可欠である。

小児悪性腫瘍 松本 文彦
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POINT

●多職種で小児特有の問題に対処しながら診療を行う必要がある。

●甲状腺癌では頸部リンパ節転移や遠隔転移を認める症例が多い。

●横紋筋肉腫では化学療法を中心として他科との連携をとりながら治療にあたる。

●治療後の発達障害,妊孕性,二次がんに留意する。

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はじめに

 誤嚥防止術が必要とされる重度の嚥下機能障害患者の場合,嚥下機能改善術のみを行っても誤嚥の制御は困難であり,むしろ確実な誤嚥防止が優先されるべきであると考えられる。しかし,嚥下機能が残存している症例に関しては,術前に嚥下機能を評価したうえで,機能改善効果のある手技を選択し,誤嚥防止術に追加することは有用であると考えられる。

 現在当科では,U字皮弁とV-LocTM(コヴィディエンジャパン社)を用いた声門下喉頭閉鎖術1)(subglottic laryngeal closure using U-shape flap and V-LocTM:SUV)を誤嚥防止術として行っているが,これに輪状咽頭筋起始部離断術(cricopharyngeal myotomy at the attachment part:CPMA)や舌骨下筋群切断術などの嚥下改善手技を必要に応じて組み合わせて行う術式,嚥下機能改善型声門下喉頭閉鎖術(functional subglottic laryngeal closure for dysphagia:FSLC)を開発した。これまで誤嚥防止術と同時に舌骨下筋群を選択し,切断する概念はみられなかったため,その実際とともに報告する。

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はじめに

 孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)は間葉系腫瘍であり,多くは胸膜を由来とし発生する。胸膜外ではあらゆる部位で発生の報告があり,頭頸部領域においても報告が散見される。今回,われわれは外耳道に発生したSFTに対して術前血管塞栓をし,大量出血することなく,腫瘍を経外耳道的に摘出しえた症例を経験したので報告する。

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はじめに

 癒着性中耳炎は,鼓膜が陥凹し中耳腔の内側壁と癒着した病態である。中耳粘膜の線毛機能やガス交換能,耳管機能が高度に障害されており,手術を施行しても鼓膜が再癒着することも少なくない。種々の手術の工夫の報告もみられるが,他の中耳疾患に比べ手術成績が良好ではない。

 subannular tube(SAT)とは,菲薄化した,または鼓室内に接着・癒着した鼓膜を介することなく,外耳道皮下から鼓膜輪下を経由して挿入するチューブのことで,チューブ脱落や脱落後の鼓膜穿孔をきたす可能性が低く,長期留置が可能という報告もある。

 2016年より当院では,癒着性中耳炎をはじめとする難治性中耳換気障害に対し,SATを取り入れてきた。今回,当院においてSAT挿入を施行した症例について検討を行ったので報告する。

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はじめに

 再発性多発性軟骨膜炎(relapsing polychondritis:RP)は,系統的に全身の軟骨組織を侵す自己免疫疾患である。診断は臨床症状と病理生検に基づいて行われるが,症状は多彩で出現時期も一定しないため,確定診断に至るまでさまざまな疾患が鑑別に挙げられる。今回われわれは,慢性中耳炎急性増悪と鑑別を要し,経過とともに症状が出現して確定診断に至った症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する。

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 このたび『今日の耳鼻咽喉科・頭頸部外科治療指針 第4版』が刊行された。本書は初版が26年前(1992年)に刊行され,その後も第2版,第3版と各時代の耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の治療学の粋を網羅するバイブル的テキストの役割を果たしてきている。

 第3版から第4版に至る10年間は耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の疾患概念の整理が進み,エビデンスに基づいた医療(EBM)が急速に普及し定着してきた。その結果,多くの診断基準や診療ガイドラインが提唱されている。さらに2017年に新専門医制度が開始され,耳鼻咽喉科専門医のための研修カリキュラムも発表された。このような10年を反映した第4版の特徴は,(1)最新最良の診療“事典”であること,(2)研修カリキュラムを遂行する上で必要十分な知識を習得することができること,(3)付録として巻末に研修カリキュラムの内容,診断基準,診療ガイドライン,身体障害者診断書・意見書の書き方などを掲載し,実地臨床において不可欠な情報を提供していること,以上3点にまとめられると考える。

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あとがき 鴻 信義
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 厳寒の候,皆様いかがお過ごしですか?

 4月からいよいよ働き方改革関連法が施行されます。ご存じのように,本法は政府が打ち出した「日本一億総活躍プラン」のなかで最大のチャレンジと位置づけられ,長時間労働の是正が提唱されています。といっても,医師には応召義務が定められているなど職種の特殊性から運用が5年間猶予され,実際には2024年からの施行となりますが,猶予期間も時間外労働時間の削減を,という決議が附帯されています。そのため,1月100時間,1年960時間以内という残業時間の上限(これはちなみに過労死ラインと呼ばれるほどのものですが)や,終業と始業の間に一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」に少しずつ対応していく必要があります。まだ若かりし頃,部活の合宿さながら何日も医局に泊まり込んでは,急患対応はもちろんのこと,出前の中華を食べつつ先輩から手術の奥義を聞き,実験のお手伝いや学会のスライド作成に勤しんだ身からすれば,隔世の感があります。当時は夏休みが3日くらいだったか……。今では楽しい思い出です。でもきっとこれからはAIやIoTがどんどん活用され,われわれの勤務時間を短縮してくれるのでしょう。10年後,20年後の医療はどうなっているのか,考えるとワクワクしてきますね。

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
91巻2号 (2019年2月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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