臨床整形外科 56巻4号 (2021年4月)

特集 成人脊柱変形 手術手技の考えかた・選びかた

緒言 松山 幸弘
  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形の概念が行き渡るようになってきたのは,2012年にFrank Schwabらが分類を報告してからであろう.脊柱変形による症状はどのようなものか,また狭窄症による症状と合併している場合の見分け方はどのようにするのか,どちらを優先するのかなどに注目して治療計画を立案するようになったと思う.

 また成人の脊柱変形において思春期特発性側弯症と大きく違うのは,骨の脆弱性,背筋群の萎縮低下,また椎間関節,椎間板の変性など加齢に伴う構築学的な変化を伴っていることである.さらに股関節,膝関節などの大関節障害も伴ってきており,病態はより複雑化して治療に難渋する.

提示症例 後側弯例 松山 幸弘
  • 文献概要を表示

▶症例

症例:MM 59歳

主訴:腰痛,疲労性の腰痛

既往歴:高脂血症,肝機能異常,高血圧

現病歴:1990年頃から腰痛があり,整形外科を受診し側弯を指摘されていた.

2008年頃,横座りでくしゃみをしてから腰痛が出現した.

整形外科(理学療法,内服療法,簡易装具療法),整体(ストレッチ)・鍼灸を受診.

鍼灸で症状は和らいだ.

2015年11月,O病院受診.2018年2月,母の介護をしてから腰痛再燃.

臥位も大変になり手術を希望し,2018年9月初旬,当院外来に紹介され受診した.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形にはさまざまなタイプが存在するが,本稿では後弯と側弯の両方が硬くvertebral column resection(VCR)による矯正を行った症例を提示する.また,本症例はlowest instrumented vertebra(LIV)をL4としたfloating fusionを行った.成人脊柱変形の手術治療においてfloating fusionやshort fusionが成功する条件として,L5 tiltが少ない,下位腰椎の変性が少ない,などのいくつかの条件を満たす必要がある.Floating fusionやshort fusionのメリットとデメリットについても考察する.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形に対する手術は患者の生活の質を向上させるが,侵襲が大きく,ときに重大な合併症を引き起こす.成人脊柱変形に対する治療の目標は神経の十分な除圧と,矢状面・冠状面の立位バランスの改善,骨癒合の獲得であり,脊柱の変形を完全に矯正することではない.重大な手術合併症の発生リスクを低減させるためには,治療のゴールを達成するために必要な手術方法を,より侵襲の少ない術式から順に検討するように心がけることが重要である.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形に対する椎体骨切り術は,出血量の多さや偽関節などの問題はあるが,L4-S1に大きな前弯を形成でき,生理的なアライメントに近づけることができる有効な方法である.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形の治療目標は,良好な全脊椎アライメントを獲得することで,目標達成のためのフォーミュラーやストラテジーが報告されている.側方進入椎体間固定(lateral lumbar interbody fusion:LLIF)の導入により,低侵襲化が進んできたが,側弯変形は,変形の主体が椎間板であるのに対し,変性後弯では,椎体の変形と椎間の拘縮を合併している.そのため,LLIFでは矯正不足になる傾向にあり,PSO(pedicle subtraction osteotomy)などの3 column osteotomyが必要となる.

  • 文献概要を表示

 当院では成人脊柱変形に対して2013年10月から側方経路腰椎椎間固定術(lateral interbody fusion:LIF)と経皮的椎弓根スクリュー(percutaneous pedicle screw:PPS)を用いた経皮的矯正術を主に施行してきた1).本術式は術野を大きく展開する必要がないために術中出血量が少ないなどの利点を有するが,すべての症例に適応できるわけではない2).多椎間に骨癒合を認める症例や著明な変形癒合を有する症例では,従来の骨切り術が必要と考える.本稿では,症例を通して経皮的矯正術の適応ポイントや注意点などを述べる.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形患者に対する矯正固定手術の術式選択基準,LLIFとPSOの使い分け,特に骨性癒合を伴った硬い後側弯変形に対するPSOの適応,また,PSO施行時の骨切り高位選択基準,固定範囲,2期的手術計画の適応について,当科で使用している腰椎前弯矯正目標と術式選択ストラテジーを用いて説明する.また,矯正固定におけるoblique take offのリスクと複数椎の骨切りを要する症例について,われわれが経験し,治療に難渋した症例をもとに説明する.

  • 文献概要を表示

 近年増加しつつある成人脊柱変形症例では,各種検査で主訴に直結する所見以外にも多くの変性所見,狭窄所見を認めることが多い.われわれ脊椎外科医はそのすべてに処置を施すのか,もしくは必要最低限の処置を行うのか,患者のニーズも踏まえながら熟考して治療方針を検討すべきである.その上で脊柱変形の矯正には理想となるパラメータを念頭に置きつつ,状況と必要に応じた前方・後方手術の適応と実施を検討していく必要がある.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形に対してDVD(dorsal ventral dorsal)法で比較的短い範囲の矯正固定術を施行した症例の長期成績を提示する.DVD法は後方で椎間関節切除後に前方から前縦靱帯を切除して椎間開大を行い,再び後方から短縮して前弯形成を行うため,椎間板高位で最大の前弯形成が可能な術式である.現在,成人脊柱変形に対する変形矯正術は胸椎から骨盤までの長範囲固定術が一般的となったが,腰椎に限局した後側弯変形であれば,DVD法で固定範囲の短縮が可能となり,有用と考えられる.

  • 文献概要を表示

 成人脊柱変形に対して現状で行われているほとんどの矯正手術は,同時に,mobilityを失わせる固定術でもあり,「固定した範囲の代償能をなくす」ということでもある.したがって,固定をするからには可能な限りよいalignmentに矯正をすることが重要であり,もともと,代償能が低い高齢者に対しては特に重要な点である.高度な脊柱変形では,変形位での自然椎体間癒合を認めることが多く,矯正手術の基本は,しっかりとreleaseを行った後に,適切なalignmentに形取ったrodに脊椎を引き寄せることである.可能な限りよいalignmentへの矯正位を得るためのplanningとして,適切な高位で,適切な骨切りを選択することが重要であり,そのためには,それぞれの骨切り術(osteotomy)の特徴を熟知することが重要である.

視座

AI研究 稲葉 裕
  • 文献概要を表示

 AI(artificial intelligence:人工知能)という言葉が日常生活で普通に使用されるようになって久しい.以前は未来を描いたフィクション小説や映画の中でのものと思っていたが,現在ではスマートフォンでの音声認識やお掃除ロボットなどにも使用されている.またゴルフのドライバーなどでも‘AI設計’などと謳われるものも出現し,聞くだけで凄い印象を与える.

 医療分野においてもAI導入による発展が期待された.現代の医学ではエビデンスが重要視され,数十例程度の検討結果では不十分で,数千例というビッグデータの解析が望まれている.実際に海外の学会や学術誌で採択される研究は,ナショナルレジストリー研究や膨大な症例数の多施設研究などが多くなっている.このように膨大なデータを解析する研究や,診断・治療などの実臨床においてもAIの導入は期待されたが,現在までにはAI技術を用いた画像診断などの報告はあるが,予後予測や治療介入に有用なレベルには至っていない.

  • 文献概要を表示

背景:後側方アプローチで,脊柱管の除圧をしない脊椎内視鏡下椎間孔外腰椎椎体間固定術(microendoscopy-assisted extraforaminal lumbar interbody fusion:mELIF)を開発した.

対象と方法:52例,平均62.5歳.病名はすべり症が多かった.手術は腰椎椎間板外側ヘルニア手術の要領で片側の後側方から椎間板へ達し,脊椎内視鏡下にケージと移植骨を挿入.両側の経皮的椎弓根スクリュー,ロッドで固定する.

結果:平均経過観察24カ月で,臨床成績は大幅に改善した.Macnab評価では優,良が90%以上であった.臨床的な合併症はなかった.

まとめ:mELIFで良好な結果が得られた.L5/S1にも適応でき低侵襲で安全性も高い.

  • 文献概要を表示

症例:74歳女性.2013年頃から右手CM関節部の痛みを自覚.

その後,痛みが徐々に増悪してきたため,2020年当院受診.

身体所見:CM関節部に自発痛および圧痛あり.

舟状大菱形小菱形骨間(STT)関節には自発痛および圧痛なし

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・32

  • 文献概要を表示

 論文を雑誌に掲載するには,ほぼ例外なく,同じ研究領域の医師・研究者の査読を経る必要があります.このpeer review systemはアカデミアの基盤をなすものであり,論文の正当性,信頼性の担保に必須とされています.研究を始めてまだ日の浅い若手医師・研究者にとって,すぐには関係ないかも知れませんが,論文を書き続ければ,いつかは査読が回ってきます.今回から2回に分け,査読の対応法・心得と,peer review systemの問題点について,昨今の話題を交えつつお話しします.

  • 文献概要を表示

背景:昨今,画像あるいは画像診断報告書の見落としがしばしば問題となっている.腰椎疾患を疑って撮像した腰椎MRIで指摘された他科疾患について調査した.

対象と方法:1,531例の腰椎MRI画像診断報告書で指摘された他科疾患の有無とその治療方法を調査した.

結果:新規に発見された他科疾患は24例25疾患で泌尿器疾患,循環器疾患,婦人科疾患などであった.腎癌,腹部大動脈瘤など6例は該当科での治療を要した.

まとめ:腰椎MRIの読影では他科疾患が指摘されていることがあり,見落としをなくすための取り組みが必須である.

  • 文献概要を表示

 放射線照射長期経過後,同部位に生じた大腿骨転子下骨折偽関節のため治療に難渋した症例を経験した.54歳女性.27歳時に右大腿近位部脂肪肉腫に対して腫瘍摘出術,術後放射線治療(60Gy)を行った.51歳時に転倒し,右大腿骨転子下骨折の診断で,他院で2度の骨接合術を施行したが骨癒合せず,初回受傷後3年でインプラント折損を来たしたため当院に紹介された.当院でも2度の手術を行ったのち,最終手術後2年で骨癒合を得た.大量放射線曝露後の骨に対する晩期障害は恒久的で,偽関節となる可能性があり,放射線照射の既往の聴取と,手術方法に十分な注意を要する.

書評

疼痛医学 小川 節郎
  • 文献概要を表示

 『“痛み”に正面から対応するための本邦初の教科書.疼痛研究・教育に最前線で携わる執筆陣が結集し基礎研究から臨床まで「疼痛医学」のスタンダードを示す』.これは本書のカバー帯に書かれている紹介の文章であるが,この紹介文がまさに本書の特徴を正確に表している.

 現在におけるわが国の疼痛医学各分野のエキスパートを総動員して完成した本書は,基礎から臨床の隅々に至るまで,詳細で,かつ明快な解説によって構成されている.

  • 文献概要を表示

 本書は,1980年(昭和55年)に卒業した評者にはなじみ深いものである.研修医,勤務医であったころには,病院,出張先の外来などで治療に役立てていた必需品であり,開業22年を迎えた私は第16版を機会あるごとに活用している.今回の第17版は28章716項目のエキスパートによる書き下ろしであり,「子ども虐待と小児科医の役割」と新たな章の記載があり,小児科関連のガイドライン,小児科医に有用なウェブサイトURLなどの資料も充実している.

 本書は,診断後に治療指針を調べる,確認するのに役立つ簡便さが売りである.それだけでなく以下の特徴があることを知ってほしい.

INFORMATION

第12回セメントTHAセミナー

第32回日本末梢神経学会学術集会

--------------------

目次

欧文目次

次号予告

あとがき 山本 卓明
  • 文献概要を表示

 令和2年度が終わろうとしています.新型コロナ対策で生活が激変した1年でした.今年の後期研修医は,歓迎会もなく,送別会もなく,一緒に食事をする機会も一度もありませんでした.密を避けるため,総回診は行わず,疾患グループごとに必要最小限で行いました.一方,全体での術前・術後カンファは必須と考え,広い部屋で外気を入れながら,冬は凍えながら行いました.手術数は昨年度に比べ約二割減となり,その分担当できる症例が減りました.このような状況で,実力養成に資する良質な研修環境を提供できたのか,自問自答の日々です.

 人が集まることを前提とした社会活動が困難となり,医療界では特に学会活動に大きな影響がありました.WEBによる参加や発表が主となり,効率的かつ便利になった反面,初めて口演する研修医にとってコンピュータに向かって話すことで,果たして真の発表能力が培われるのか,疑問でした.そのような中,昨年11月の第140回西日本整形・災害外科学会学術集会(津村弘会長:大分大学教授)は現地開催となり,久々に会場で発表する機会を得ました.ほぼ全員が初陣で,発表前には緊張のあまり青ざめている者,ギリギリまで講演内容をブツブツ唱えている者,発表後は「めちゃ緊張した!」「質疑応答があんなに難しいとは思わなかった…」など興奮気味に振り返っている姿をみると,津村会長のご英断に改めて感謝しております.

基本情報

05570433.56.4.jpg
臨床整形外科
56巻4号 (2021年4月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)