臨床整形外科 56巻3号 (2021年3月)

特集 骨折に対する積極的保存療法

緒言 神宮司 誠也
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 新型コロナウイルス感染拡大に注目が集まっているが,わが国は切実な人口問題も抱えている.団塊世代が75歳となる2025年に向けて,感染拡大以前から医療の効率化が進められてきた.絶対的かつ相対的にも高齢者が多くなっており,高齢者骨折患者が整形外科入院手術患者の1/3を占めるようになっている1).80〜90歳以上の患者も多く,しばしば内科疾患や認知症を合併しているため,周術期における老年病専門医を含む多職種連携が強調されている.加えて,骨の脆弱性ゆえに骨折部の固定困難さや癒合不全など局所合併症の問題もある.従来の骨折治療に加えて,生体内に起こる治癒反応を,保存的に,かつ積極的に刺激する治療オプション(骨折に対する積極的保存療法positive conservative treatments for fracture repair:PCTFR)の併用が今後より必要になると思われる.

 低出力超音波パルス(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)照射はPCTFRの1つで,仮骨形成における細胞分化促進により治癒期間短縮や癒合確実性を上げる効果がある.本邦では,多くの基礎研究結果を背景に,比較的よく使用されている.リアルワールドデータの1つである,ナショナルデータベースを用いた解析では,高齢者脆弱性骨折増加に伴って術後LIPUS治療数が多くなっており,その使用頻度も高年齢ほど多いことが明らかになっている2).骨折患者の早期社会復帰の需要が窺われるデータである.

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 LIPUSの刺激伝達経路には,特に炎症・免疫応答を機転として展開される骨折治癒の過程において,多彩な骨の機能のすべてにわたって驚くほど広範囲にCOX-2/PGE2による制御が存在する.炎症が全身性に影響を及ぼすこと,その際,力学刺激の存在(全身性には身体活動(active)vs.不活動(inactive)から,局所的には不動(disuse)vs.可動ないし運動(mobileないしlocomotive)が前提になることは,両者においてCOX-2/PGE2が重要な位置を占めることからも容易に推測できる.単に骨折治癒にとどまらず,LIPUSなどの代替物理刺激はまだまだ可能性を秘めている.

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 高齢マウス骨折モデル,高齢ラット骨折モデルを用いて,加齢(エイジング)により骨折治癒が遅延することを示した.この骨折モデルによって内軟骨性骨化から硬性仮骨架橋までに要する期間が遷延することで骨折治癒が遅延することを明らかにした.低出力超音波パルスはエイジングによって生じる遷延治癒を促進し,特に内軟骨性骨化とリモデリングにかかる期間を短縮できることが示された.その機序の一端には骨折部周囲に生じる新生血管の発現増加が関与していることが推測された.

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 骨粗鬆症治療薬投与中の患者が骨折を生じる機会は決して少なくなく,骨折治癒を考慮した薬剤選択は今後ますます重要になってくると考えられる.骨吸収抑制剤は骨癒合を妨げることはないが,骨癒合した後の骨折部形状および仮骨の骨質復元に関しては,吸収抑制作用の程度に応じて遅延する可能性が高い.特にビスフォスフォネートは骨折部仮骨の著明な増加により骨折部の強度を増加させるものの,強力な仮骨リモデリングの抑制によって仮骨の成熟は遅延しており,骨折治癒過程の遅延を仮骨量で代償していると考えられる.一方,骨形成促進剤であるPTHは仮骨リモデリングを促進し,線維骨から層板骨への置換のみならず,皮質骨のオリジナルな形状への復元も加速し,健常な骨折治癒過程を促進すると考えられる.

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 難治性骨折に対して臨床で実用可能な骨癒合促進手段は限られており,新たな骨癒合促進療法の開発が切望されている.われわれはCD34陽性細胞を利用した再生医療を難治性骨折の新規治療法として開発すべく研究を進めてきた.まず動物実験で難治性骨折モデルにCD34陽性細胞移植を行うと骨癒合が促進されることを確認した.この成果をもとに臨床応用へと進み,第Ⅰ・Ⅱ相臨床試験を実施し,その安全性を確認した.さらに難治性骨折患者にCD34陽性細胞移植を行うと既存治療よりも骨癒合が促進されることを少数例の患者で示した.現在は承認申請を目標とした多施設共同医師主導治験を実施している.

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 手術方法や固定材料の発展により,大多数の骨折症例は治癒可能となった.しかし,遷延治癒や偽関節に至る症例は5〜10%存在する.成長因子を用いた骨折治癒促進効果の検討は1990年代初頭から行われ,これまでに多くの成長因子の効果が検証されてきた.2001年には長管骨の偽関節に対する骨形成蛋白-7(bone morphogenetic protein:BMP-7)の使用,2004年にはBMP-2の脛骨開放骨折への使用がアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)に認可された.一方,日本では2006〜2008年にかけて臨床試験が行われ,脛骨骨折患者に対する塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)の骨折治癒促進効果が実証された.本稿では,bFGFの骨折治癒過程における役割と骨折治癒促進剤としてのbFGFの作用について概説する.

LIPUSによる骨折の積極的保存療法

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 Low intensity pulsed ultrasound(LIPUS)は,骨癒合を促進するdeviceとして広く使用されている.LIPUSの有用性を示す文献が散見される中,最新の大規模ランダム化比較試験(TRUST study),そして,その後に報告されたsystematic reviewにおいて,新鮮骨折に対するLIPUSの有用性は認められなかった.しかし,現在報告されている文献のみで,すべての新鮮骨折に対する有用性を否定できるわけではなく,その評価においては,患者コンプライアンスとの関連も考慮する必要がある.本章では,LIPUSの有用性において,今わかっていること,そしてわかっていないことについて文献的に考察する.

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 LIPUSの効果を最大限に発揮させるためには,LIPUS照射のアドヒアランスをよくすることが必要であり,患者の治療に対するモチベーションの向上が求められる.そこで患者がLIPUS照射に対してどのように考えているのかを知ることが,アドヒアランスを向上させるためのヒントになるのではないかと考え,アンケート調査を行った.調査の結果からLIPUS使用上の問題点は少なく,患者の満足度は高いことがわかった.ただし約3割の患者は照射を面倒に感じているため,この点を改善させるようにアプローチをすることが,LIPUSのアドヒアランスを向上させるためのカギになるのではないかと考えた.

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 臨床診療で超音波骨折治療を有効活用するための鍵となる因子の1つが照射部位ターゲティングである.骨折部に正確に超音波刺激がデリバリーされないとその効果を得ることができないからである.超音波骨折治療がわが国に導入された当初は,骨折部付近に金属マーカーを置きX線撮影・透視を行って照射部位を決めることがよく行われた.近年では超音波画像診断装置を用いた照射部位ターゲティングが行われるようになってきた.X線被曝がないこと,簡便に実施できることが利点であり,患者にも照射部位,照射方法を理解してもらいやすくなると思われる.

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 われわれ整形外科は,専門とする体の部位からすれば運動器(外)科であるが,なぜ整形外科と名乗っているのか.教室を預かる身となり,学生やレジデントに整形外科とは何かと講義する機会が増え,改めて整形外科の歴史について勉強した.

 整形外科は東京帝国大学整形外科学講座の初代教授である田代義徳先生が名付けた名称である.明治になり,戦時での外傷学の必要性からドイツ外科学が導入された.ドイツから軍医が招聘され,ミューレル先生,シュルツェ先生,スクリバ先生と代々東京帝大で指導された.田代先生はそのスクリバ先生の門下生であった.田代先生はその教えを「外科手術篇」として著し,「チルマンスの外科書(各論・総論)」を全訳して活躍された.

境界領域/知っておきたい

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はじめに

 糖尿病の治療目標は,糖尿病の合併症の発症,進展を阻止し,ひいては健康な人と変わらない寿命の確保,健康な人と変わらない人生を目指すことである1).とりわけ,自立歩行できるかどうかは糖尿病を持つ人の生活の質に影響する.

 糖尿病性足病変の病態構成要素は,神経障害,虚血,感染である.糖尿病患者の足潰瘍は再発が多く,難治性で7〜20%が下肢切断となり,糖尿病患者の足切断の80〜85%は足潰瘍が先行する2).また,糖尿病性足病変に関する国際ワーキンググループの調査3)では,足潰瘍の既往がある人のうち,3年後に潰瘍を有する人は55.8%,切断に至る人は20.9%と報告されており,足潰瘍の発症を未然に防ぐことが重要である.わが国では,2008年から看護師など医療者が行うフットケアの診療報酬として「糖尿病合併症管理料」が加算されるようになった.このことからも糖尿病患者の足病変の危険因子を見極めていくことは医療者の責務である.

 糖尿病性足病変に関する国際ワーキンググループの予防ガイドライン4)(表1)では,足潰瘍発症リスクを4段階評価し,リスクが低い人に対しても,1年に1回はスクリーニングをすること,感覚低下や末梢動脈疾患を有するなどリスクの高い人には,足潰瘍の発症を防ぐために適切なセルフケア教育を行い,適切な履物を選択するといった医療者によるフットケアの内容と頻度を提示している.国際的な動向を踏まえながら,簡便で苦痛を伴わない神経・血管障害を評価する指標を取り入れた足潰瘍発症リスク評価表について紹介する.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・31

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 小連載の最後である本稿では,2群間の比較検討において幅広く利用されている“t-test(t検定)”と“p値”に関してお話しします.2群間に“差があるのか,ないのか”の判断は,研究を進めていくうえで極めて重要ですが,なんとなくt-testとp値を使っているのが実情なのではないでしょうか.改めて,その妥当性を検討します.

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背景:肩こりは有訴率の高い疾患であるが,治療法が確立されていない.

対象と方法:肩こり患者95例に対して25〜75mgのプレガバリンを投与した.

結果:有効率は83.8%であった.プレガバリンの用量別や,肩こりの原因別でも有効率に有意差はなかった.

まとめ:肩こりには神経痛の要素があることや,プレガバリンが過剰な筋収縮を抑えること,プレガバリンのC線維に対する特異性などにより,少量のプレガバリンでも肩こりに有効であると考えられた.

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背景:近年,ケイ素(Silicon;Si)は骨の形成や軟骨の代謝に重要な役割を果たしていることが報告されている.

対象と方法:閉経後女性795人を対象にケイ素を多く含む食品の摂取頻度調査票を用い調査した.ケイ素摂取量,摂取源となる食品群,ケイ素摂取量と骨密度との関係を検討した.

結果:閉経後女性のケイ素摂取量は平均8.7mg/日であった.ケイ素の摂取源は,穀類とその製品が27.0%と最も多かった.ケイ素摂取量と骨密度とは相関を認めなかった.

まとめ:ケイ素は骨疾病の治療や予防に潜在的な意義をもつためさらなる研究が望まれる.

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背景:MRIの性能向上と高齢化に伴い日常診療でも脛骨内顆の脆弱性骨折あるいは骨壊死様病変と遭遇する機会が増えている.

対象と方法:当院のMRI検査で上記診断に至った症例のうち,発症から初診まで4週間以内で,足底挿板を処方して保存的に加療した16例16膝の経過を検討した.

結果:症状軽快後すぐに自己判断で外側楔状板を除去して農作業やウォーキングを再開した2例以外,経過は良好であった.

まとめ:早期発見・早期治療を行えば,脛骨内顆の本病変に対する外側楔状板を用いた保存療法は有効と考えられた.

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背景:転移性骨腫瘍に対するリエゾン治療や骨転移キャンサーボードなどの有用性が報告されているが,その恩恵は大学病院などの一部の施設に限られている.

目的:市中病院における転移性骨腫瘍に対するリエゾン治療の効果を検討すること.

対象と方法:リエゾン治療開始前5年間と開始後1年間の転移性脊椎腫瘍に対する治療内容を比較した.

結果:リエゾン治療開始後1年間の画像スクリーニングで,82例を新規骨転移症例(転移性脊椎腫瘍69例)と診断し,8例に手術加療を行った.

まとめ:リエゾン治療により多職種間の良好な関係が構築され,骨転移に関する情報を院内で共有でき,早期治療につながった.

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 心筋梗塞に対する薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)を用いた経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)後9年で施行した整形外科手術直後に超遅発性ステント血栓症を生じた症例を経験した.PCIでは第1世代DESが使用されており,手術前の抗血小板薬の休薬が発症の誘因となった可能性が高いと考えられた.DESを使用したPCI後では,長期間経過した症例であっても周術期の抗血小板薬の取り扱いに関して十分に注意する必要がある.

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 これまで,臨床研究と基礎研究の両分野において,査読者として他者の論文を査読することと,論文投稿で査読される側の両者を経験する機会がありました.しかしながら査読者として,系統立てて査読の方法を学ぶ機会はなく,一字一句を読みながら論文の筋道を確認し,適切な査読ができるように四苦八苦するものであると認識していました.本書との出会いにより,場数の経験に頼らない,系統立てて査読するお作法を学ぶことができ,視界が広がりました.

 第1章は,査読とは何かと,査読者の役割についてわかりやすく解説されています.第2章では,論文の全体像を把握するために,査読のお作法6つのステップを提示し,要旨のまとめ方,研究デザインの型,主な統計解析が具体的に説明されています.第3章は,チェックリストを活用した系統的項目評価が解説されています.CONSORTやSTROBEなどのチェックリストを紹介し,科学的妥当性と再現性を評価するうえで著者が作成した査読用チェックリストが提示されています.また,バイアスと因果の評価について,詳しく解説されています.第4章はシートを用いた査読の実践内容となっています.「はじめに」の中で,内容が観察研究の査読を想定したものが中心であると述べていますが,研究の骨子は研究全般で共通する点でありますので,本書は,研究の種類にかかわらず,査読するポイントを学ぶことができます.また,本書から,知識の習得のみならず,実際の査読の際に,対応する項目を調べながら活用することができる充実した内容にもなっています.

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 史上最高の研究倫理に関する入門書である.一読して,まずそう思った.

 なにも著者の田代志門先生が,小生が国立がん研究センター時代に長らくお世話になった先生だからお世辞を言っているわけではない.研究倫理,特に臨床研究を巡る倫理の勘所をこんなにわかりやすく解説してくれた本に,小生は出合ったことがない.

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目次

欧文目次

次号予告

あとがき 仁木 久照
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 2021年1月,「ニューヨークヤンキースの田中将大選手,日本球界復帰」のニュースが飛び込んできました.2013年にシーズン24勝0敗という神がかり的な成績で楽天イーグルスに球団創設初優勝と日本一をもたらした伝説の男が,現役バリバリのメジャーリーガーとして戻ってくるのです.今でも,楽天優勝の時のリリーフ登板の興奮は忘れられません.おそらくコロナ感染症拡大がなければ実現しなかったでしょう.故野村克也監督が「マー君 神の子 不思議な子」と言っていたのが昨日のようですが,暗いニュースが多かった最近において,彼のように人に感動,夢を与えられるような選手が日本球界に復帰してくれるのは私たちにとって明るいニュースです.田中選手にとってはメジャーリーグでやり残したこともあり,悩みに悩んだ末の大きな決断だったと思いますが,再び日本で大活躍され,また人々に夢と感動を与えてくれるのを期待せずにはいられません.頑張れ,田中選手!

 さて,今月の特集「骨折に対する積極的保存療法」で,神宮司誠也先生に企画していただきました.低出力超音波パルス照射,骨粗鬆症治療薬,自家末梢血CD34陽性細胞移植,塩基性線維芽細胞増殖因子に関する基礎医学的な内容から,LIPUSによる骨折治療について取り上げていただきました.様々な器械が開発,進歩し,また手術書なるものが書店にはこれでもかと山積みとなり,手術的治療に偏りがちな外傷治療ですが,牽引,固定,ギプスといったこれまでの骨折の保存療法に変わる新しい保存療法の概念をお示しいただきました.特に,「積極的保存療法」というタイトルがとても魅力的です.本企画を通じて,骨折の積極的保存療法の最新事情に触れていただければと思います.

基本情報

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臨床整形外科
56巻3号 (2021年3月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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