臨床整形外科 53巻6号 (2018年6月)

誌上シンポジウム 変形性足関節症のフロントライン

緒言 仁木 久照
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 いま,日本足の外科学会で最も参加者が集まる会場は「変形性足関節症」のセッションではないだろうか.そしてついに2018年,日本人工関節学会では大会史上初めて「人工足関節」のセッションが設けられ,案の定立ち見が出た.数年前にはみられなかった光景である.

 股・膝関節ご専門の先生からすれば,「なぜ,今頃足関節OA?」と思われるかもしれない.超高齢社会となり変形性OA患者の数が増えた,足の外科医が増えた,人工足関節に関する情報が増えた,など理由はさまざまだろう.いずれにしても,この数年,足関節OAに対する注目度が上がっているのは紛れもない事実である.

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 変形性足関節症は臨床で取り扱う機会が少なく,一般成人における有病率も1%未満と推測される.病因別分類では,欧米では外傷性が大半(>70%)を占め,1次性は少数(<10%)とされるが,本邦では外傷性が半数程度で,1次性が30%以上と頻度が高い.「繰り返しの捻挫」といった比較的軽微な外傷に続発している症例では,元来の関節制動性が低い骨形態的特徴を有している場合が多く,同様の特徴を有する多くの1次性とともに「関節形成不全に伴う慢性不安定症が関節症につながる」という発症メカニズムを共有する病態である可能性が高い.

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 変形性足関節症は近年,高齢者人口の増加により,本邦においては内反型の変形性関節症が増加している.診断は高倉・田中分類による病期分類が広く用いられており,治療法選択のうえで重要な指標となるが,手術療法を念頭に置く進行例にはCTやMRIによる追加精査を考慮する必要がある.保存療法は薬物療法,理学療法,装具療法,関節注射など複数の方法を組み合わせて行う.理学療法,装具療法においては病期に応じた適切な治療法選択が,より高い治療効果を得るうえでは重要となる.

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 手術の低侵襲化は時代の流れであり,関節鏡へのニーズは高い.足関節についても同様である.変形性足関節症に対する関節鏡視下手術は主として鏡視下デブリドマンと鏡視下足関節固定術の2通りである.鏡視下デブリドマンのエビデンスは少なく,明確な適応は明らかとなっていない.しかし,症例を限定すれば有効な治療法となり得る.一方,末期変形性足関節症に対する鏡視下足関節固定術は既に確立された手術方法である.

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 一次性変形性足関節症では,脛骨下端関節面は内反することが多い.脛骨遠位で楔開き骨切りを行う低位脛骨骨切り術は,X線病期分類(高倉・田中分類)stage 3aのような進行期変形性足関節症のよい適応である.腓骨は外果先端から7cm近位で骨切りし,Kirschner鋼線で固定する.脛骨は内果先端から5cm近位で骨切りし開大させたうえで移植骨を挿入し,ロッキングプレートで固定する.矯正目標は脛骨正面天蓋角96°,側面天蓋角81°とする.当科で施行したstage 3aの19症例では,臨床成績としてJSSF Ankle Hindfoot Scaleは術前47.4点から91.1点に改善した.

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 遠位脛骨斜め骨切り術(distal tibial oblique osteotomy:DTOO)は,進行した変形性足関節症に対する手術法である.関節外の操作により骨性アライメントを矯正する従来の骨切り術と異なり,関節内を骨切り矯正することで関節の安定化と荷重分散による治療効果を期待する術式である.関節症の進行とともに生じる関節不安定性は,荷重時と非荷重時の下肢アライメントを変化させる異常可動性であり,DTOOはこれを制動することを主目的とした新しいコンセプトを持つ治療法である.

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 関節リウマチ(RA)患者における人工足関節置換術は,距腿関節の可動域を残すことが可能な手術手技である.しかし,人工足関節置換術は小さな関節面に荷重が集中する解剖学的特徴のため術後合併症が多く,また長期成績は不明である.RA薬物療法の進歩とともに人工足関節置換術は,より高いADL獲得のための有用な手術手技だが,綿密な術前計画およびRA特有の骨粗鬆症,疾患活動性に対する注意が必要である.

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 末期の変形性足関節症(OA)や関節リウマチ(RA)による足関節変形に対する治療として,これまで足関節固定術が一般的に行われてきたが,骨癒合までの長期間の外固定の必要性,偽関節の可能性,隣接関節障害の可能性などの問題も指摘されてきた.固定術以外の方法の1つとして1973年に初めて人工足関節が報告され,これまでにさまざまな種類の人工足関節の臨床成績が報告されている.われわれは2012年からTNK ankle(京セラ株式会社)を使用しており,本稿ではTNK ankleの適応や手術手技などについて詳述し,人工距骨を使用した新しい試みについても報告する.

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目的:脊髄腫瘍の初期は,脊椎変性疾患として加療されることが多い.当科で手術を施行した脊髄腫瘍をretrospectiveに調査し,初期診断が遅れた症例について検討した.

対象と方法:脊髄腫瘍56例を対象とした.脊髄腫瘍と診断されるまでの平均期間は5.0カ月であった.

結果:診断に6カ月以上要した症例は13例(23.2%,男性8例,女性5例,平均69.5歳)であった.

結語:下肢疼痛あるいはしびれを主訴とする胸髄腫瘍は腰椎変性疾患として加療され,初期診断が遅れることがあるため,臨床症状の推移に注意が必要である.

Lecture

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はじめに

 凍結肩は全人口の約2〜5%程度が罹患するcommon diseaseとして知られている1).近年,肩関節疾患に対して鏡視下手術が普及し,関節内の詳細な病変の確認および診断が可能となった.凍結肩の分子生物学的な手法による病態解明が進んできてはいるが2-4),いまだその全容は明らかではない.また,肩関節は肩甲上腕関節のみではなく,胸郭を構成する胸椎・肋骨・鎖骨・肩甲骨の動きと連動することが,凍結肩の病態解明をさらに難しくしている.本稿では,凍結肩の病態と治療について述べる.

整形外科/知ってるつもり

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はじめに

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は原因不明の慢性炎症性疾患であり,適切に疾患活動性が制御されないと,遷延する滑膜炎による疲労,抑うつをもたらし,長期的には関節破壊や変形を生じる.疾患過程においてRA患者ではbody imageに障害を来していることが報告されているが1-6),body imageは患者の主観的評価であり,他者からはその状態がみえにくく判断しにくいため,愁訴は見過ごされがちである.一方,変化に伴うbody imageの障害に対して,必要なときに適切な介入を行うためには,body imageを数値化して客観的に捉える必要がある.本稿ではRA患者におけるbody imageについて最近の知見を交えて述べる.

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はじめに

 超高齢社会を迎えたわが国では,多くの人が関節や脊椎など運動器の障害による症状を訴えており,これらは加齢により一層症状の回復が困難となることから,その予防,早期発見,早期治療が喫緊の課題となっている.今回のテーマであるロコモティブシンドローム(ロコモ),サルコペニア,フレイルや運動器不安定症には運動器が関与し,おのおの密接に関連している.運動器の障害を放置すると社会参加が困難となり(表1),その結果,運動器以外の身体機能や精神機能にも影響を与える.しかし,運動器に対する人々の意識は低く,厚生労働省の調査による有訴者率1)は,男性は第1位腰痛,第2位肩こり,第5位関節痛,女性は第1位肩こり,第2位腰痛,第3位関節痛であり,多くが運動器に関する愁訴である.しかし,通院者率の高い上位5傷病の内訳は,運動器疾患では,男女それぞれ第4位と第2位に腰痛症が含まれているのみと,高い有訴者率の割に通院者率が低く,病院を受診していない人が多い.つまり本来であれば治療可能な運動器疾患が悪化し,運動器不安定症となり要支援・要介護や寝たきりとなっている人が,他疾患と比べ多く存在すると考えられる1)

 本稿では,運動器の観点からロコモティブシンドローム,サルコペニア,フレイルと運動器不安定症について概説する(表2).

追悼

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 大阪大学名誉教授 小野啓郎先生が,平成30年1月24日にご逝去されました.享年87歳でした.先生は昭和5年に神戸市でお生まれになりました.昭和30年,大阪大学医学部をご卒業後,整形外科に入局され,昭和36年に奈良県立医大整形外科助手,昭和38年に大阪大学整形外科助手,昭和42年に同講師を歴任され,昭和47年6月,41歳の若さで大阪大学整形外科教授に就任されました.就任直後から,幅広い領域での臨床研究,基礎研究を展開されました.教授在任期間は22年にわたり,多くの世界的業績を残され,また多くの人材を育成されました.

 基礎研究では,同種保存骨移植,骨形成蛋白(BMP)の精製・生化学的研究,骨肉腫,骨折治癒や仮骨延長におけるBMPの発現解析,後縦靱帯骨化症の病態解析および実験モデルの作製,軟骨細胞の3次元培養,Ⅸ型,Ⅺ型コラーゲンのクローニングと機能解析,同種移植腱の生物学的・生体力学的研究,運動器のバイオメカニクス研究などを展開されました.

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目的:整形外科疾患でも偶発悪性腫瘍に遭遇することがあり,その頻度を調査した.

対象と方法:当科で施行した初回人工股関節全置換術(THA),人工膝関節全置換術(TKA)の計1,045例に対し,全例に術前,術後1週に下肢静脈超音波検査を実施した.血栓が疑われた症例に対して,胸部から下肢までの造影CTを行い,読影レポートで血栓が認められた症例と,悪性腫瘍が疑われた症例を調査した.

結果:造影CTで血栓を認めた98例中,実際に悪性腫瘍であったのは2例2.0%であった.

まとめ:静脈血栓症の背景に悪性腫瘍が隠れている可能性があり,CTの結果に注意が必要である.

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 長期透析患者に発症した腰椎破壊性脊椎関節症(destructive spondyloarthropathy:DSA)に対して,側方進入腰椎椎体間固定術(lateral lumbar interbody fusion:LLIF)および経皮的椎弓根スクリュー(percutaneous pedicle screw:PPS)を用いた低侵襲脊椎安定手術(minimally invasive spine stabilization:MISt)を施行し,良好な手術成績を得たので報告する.症例は68歳と66歳の長期透析患者で,頑固な腰痛を主訴としていた.LLIF,PPSを施行したところ周術期合併症は認めず,早期に骨癒合を得ることができ,約1年半の経過でADLの改善も良好である.LLIFおよびPPSを用いたMISt手技は低侵襲で,ハイリスクなDSAに対しても有効な手術オプションになりうる.

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目次

欧文目次

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 従来,大学での医学研究は基礎的な研究が主流だった.テーマは教授から与えられ,それを従来の手法で行うのが常だった.しかし,現在では質の高い臨床研究により,さまざまな疾患の診断や治療の科学的な根拠を明らかにすることが可能となった.臨床研究の質は,研究デザインの質とそのアウトカムが,個人や社会にどの程度大きなインパクトを与えるかにより決まる.質の高い臨床研究を行うことは容易ではない.それを教育する資材は極めて乏しい.本書は外科系医師のための臨床研究を行う教材としては最も優れた本といえる.

 1990年代に臨床研究のエビデンスが重要視されるようになり,外科的な疾患に対する診断や治療のエビデンスが求められるようになってきた.本書は,『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』というタイトルである.第一に臨床研究を行う場合,質の高い臨床研究をデザインすることが求められる.本書はそのための手順を初心者にでも理解できるように平易に記述している.1つの手術手技のエビデンスを明らかにすることは簡単ではない.しかし時代がエビデンスを求めている以上,それに応える臨床研究を行うことが,今われわれ外科系医師に求められている.若い医師からベテランの外科医に至るまでぜひ読んでいただきたい1冊である.

INFORMATION 第6回 SKJRC SEMINAR

次号予告

あとがき 金谷 文則
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あとがき

 この原稿を書いている5月初旬の沖縄は,暑いと思われる人もいるでしょうが,東京や大阪に比べると海風がある分,過ごしやすく感じます.さて,沖縄観光のbest seasonはいつかと聞かれることがあります.本誌を購読されている忙しい先生方には,台風で飛行機が欠航の可能性がある7〜9月はお薦めしません.またこの時期は紫外線がとても強く,昼間のゴルフは過酷になります.過去のデータから10月の第4週には台風は来ないはずでしたが,昨年の10月第4週の日本整形外科学会基礎学術集会(沖縄県宜野湾市)では土日に台風が直撃しました.地球温暖化のせいかもしれません.晴天率は10月が最も高く,プロ野球の冬季キャンプが開催される1〜2月は曇りの日が多く,梅雨は5〜6月なので,大雑把には3〜4月,10〜12月がお薦めです.とはいっても正月でも晴れれば25℃を超え,2月には日本で最も早い寒緋桜の開花もみられることから,12月〜2月はとりわけ雪国の人にとって素晴らしい時期と思います.

基本情報

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臨床整形外科
53巻6号 (2018年6月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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