臨床整形外科 53巻5号 (2018年5月)

誌上シンポジウム 外傷後・術後骨髄炎の治療

緒言 松下 隆
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 どのような手術であっても術後感染症をゼロにすることは不可能である.そのことは,骨折を中心とする運動器外傷の手術においては,骨髄炎の発生をゼロにすることはできないということを意味する.骨髄炎は難治性であり,慢性化すると病巣の完全切除と骨欠損の補填しか確実な治療法はない.

 今回の誌上シンポジウム「外傷後・術後骨髄炎の治療」を企画するにあたって,比較的初期の慢性化する前の骨髄炎の治療法については新倉隆宏先生にまとめていただき,病巣の完全切除を行わない持続洗浄療法と高気圧酸素治療の併用法について,数多くの症例を治療してこられた川嶌整形外科病院で田村裕昭先生に書いていただいた.「マイクロサージャリー」,「Masquelet法」,「骨延長術」を用いた治療法は,感染は病巣を完全切除することによって根治するという点においては同じであり,切除によって生じた骨欠損を補填する方法だけが異なっている.それぞれの方法について「マイクロサージャリー」は土田芳彦先生に,「Masquelet法」は渡部欣忍先生に,「骨延長術」は加藤成隆先生に執筆をお願いした.いずれも各々の治療法について豊富な知識と治療経験があり,その治療法を熟知されている.

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 骨折観血的整復固定術後感染の治療指針として,晩期の慢性骨髄炎,感染性偽関節に対する治療と,術後早期の感染では異なることがある.早期感染ではインプラント温存を試みることができる場合がある.術後約2週までの急性(早期)感染ではデブリドマン,抗菌薬治療でまずはインプラント温存を試みることもできる.術後約10週までの遅発性感染では,インプラントに十分な骨折部固定力があれば温存も可能といわれている.ただし,骨折観血的整復固定術後感染の治療目標の1つは慢性骨髄炎への移行阻止であり,インプラント温存治療が不調である場合にはこれに固執すべきではない.

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 骨髄炎に対する持続洗浄療法は,徹底した病巣の搔爬と洗浄後に,持続的なドレナージをしながら搔爬後の死腔を埋め,新鮮な肉芽形成を促しながら感染を鎮静させていく治療法である.高気圧酸素治療(HBO)は,血液中の溶解酸素を増加させて,強力な抗菌作用や創傷治癒促進作用,抗菌薬の抗菌作用の増強,骨形成能の促進などが報告されており,骨髄炎に有効な補助的治療手段である.現在まで,当院で治療した長管骨骨髄炎は474例で,そのうちHBOと持続洗浄療法を併用した220例中211例(95.9%)に感染の鎮静が得られた.骨髄炎治療にHBOと持続洗浄療法を併用することは,有効な治療手段と思われる.

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 四肢開放骨折に対してFix and Flapの原則に則り治療したとしても,深部感染の危険性は常に存在する.深部感染の原因の主たるものは局所的要因である.それは①不十分なデブリドマン,②死腔や血腫の存在,③骨の不安定性,④不十分な軟部再建,そして⑤遅延した軟部再建などである.

 不幸にして急性期感染がコントロールできずに骨髄炎となってしまった場合の治療原則は,「病巣部郭清と抗菌薬投与による感染のコントロール」,「健常な軟部組織による病巣部被覆」,そして「骨再建」である.

 最も重要な病巣部郭清は組織欠損を拡大化させ,その後の再建を困難にする.そして逆に再建の困難さが病巣部搔爬の質を不十分なものする.どのように大きな組織欠損となっても再建できる手段を有していることにより,十分な病巣郭清を行うことが可能となる.

 感染コントロール後に骨軟部組織を再建するが,この軟部組織再建は治療の要である.骨欠損が軟部欠損よりも大きな場合は,骨移動術(仮骨延長法)によって同時軟部組織再建が可能な場合もある.しかし,その軟部組織の質は不良であり,感染再燃に対する抵抗性は弱い.状況が重篤であればあるほど,「遊離皮弁術」を用いた軟部組織再建が最適である.

 骨欠損治療には現在のところ,Masquelet法,仮骨延長術,そして血管柄付き骨移植術の3通りが存在する.感染巣が十分にコントロールされ軟部状態が良好であり,しかも骨欠損が6cm以内であればMasquelet法の成功率は高い.しかし,分節状の骨欠損が6cmを越えるか,感染巣のコントロールに不安がある場合には,仮骨延長法あるいは血管柄付き骨移植術が有利である.どちらを選択するかは手技の得手,不得手に左右されるが,創外固定装着の長さと煩わしさを考慮すると,10cmを越える分節状の骨欠損には血管柄付き骨移植術がより適していると考える.

 患者が悲嘆にくれるような重篤な感染症には,マイクロサージャリー手技を用いた治療が最大の効果を発揮する.

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 感染性偽関節の治療は,1)局所感染の鎮静化と,2)巨大骨欠損の再建の2つを達成する必要がある.Debridement,pre-reconstruction stabilization,chemotherapyの3つにより局所感染を鎮静化させる.Debridement後に残った巨大骨欠損の再建法として,骨セメント・スペーサー充填と,セメント周囲に形成されるinduced membrane内への二期的自家海綿骨移植術(Masquelet法)は,新しい治療法として注目を集めている.当院では,自家海綿骨と人工骨(β-TCP)を併用したMasquelet法で骨再建を行っている.初期10例の治療成績は良好で,最大骨欠損長60mm(中央値)に対して,6カ月(中央値)で全例骨癒合が獲得できた.

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 骨髄炎の治療は悪性腫瘍の治療と類似する.病巣を切除したのちに再建し,補助として化学療法を行う.確実に病巣を切除しないと再発する.十分切除した後に生じた骨欠損は,仮骨延長で補填可能である.この方法であれば他の健常組織を犠牲にすることはない.一期短縮できれば脚延長,一期短縮できなければ骨移動術(bone transport)を行う.創外固定装着下では十分な固定性があるため,全荷重歩行が可能である.骨髄炎の1症例を提示し,治療の実際を詳しく紹介する.

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目的:大腿骨近位部骨折の術後合併症である深部静脈血栓症(DVT)について調査した.

対象:術前後に超音波検査でスクリーニング検査が行われた637股とした.

方法:性別,年齢,骨折型,併存疾患,body mass index,術前遠位型DVT発生率,骨折から手術までの期間,手術法,手術から超音波検査までの期間,術後DVT発生率について統計学的に検討した.

結果:術後DVTは220股(34.5%)に発生し,うち16股(2.5%)が近位型DVTで,2股に肺血栓塞栓症が発生していた.女性,高齢,受傷から手術までの長期化が統計学的な危険因子として抽出された.

まとめ:大腿骨近位部骨折の術後DVTの発生率は高値であった.

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はじめに

 関節リウマチ(RA)の前足部では外反母趾,槌趾,開張足を合併し,進行すると中足趾節間(MTP)関節が背側に脱臼する扁平三角状変形を呈する.足底や趾の背側に有痛性胼胝(タコ)が形成されるため,履物障害や歩行時痛に悩まされる.筆者らはこのような足の再建に,切除関節形成術ではなく,1982年から始めた中足骨の頚部斜め骨切り短縮術Shortening oblique osteotomy(以下,SOO)1)を行ってきた.新潟県立瀬波病院での中長期成績は1997年,Clinical Orthopaedics and Related Research誌に“Arthroplasty for rheumatoid forefoot deformities by a shortening oblique osteotomy”というタイトルで掲載された2).また,母趾にflexible hinge toe(Swanson implant)を挿入し,外側4趾にSOOを施行したRA症例の長期成績(平均12年)は2001年にJournal of Orthopaedic Science誌に報告した3).また,2011年,手術手技の改良点や成績を本誌に寄稿した4).これらの成績は医師側からみた客観的評価である.

 そこで今回,長岡赤十字病院での手術症例で患者立脚型の足部足関節評価質問票(SAFE-Q)5-7)によるアンケート調査を実施し,前足部変形に対する再建術の評価を行ったので報告する.

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はじめに

 足関節捻挫はスポーツにおける怪我の中で最も頻度が高いとされる.

 足部足関節の外傷の患者さんは“捻挫した”と訴えることが極めて多い.しかし,詳細に受傷機転を聴取すると,いわゆる内反捻挫ではないことがある.診察においても足関節外側靱帯以外の部位に圧痛点を認めることも少なくない.にもかかわらず足関節捻挫として漫然と治療されている例に遭遇する.足関節捻挫と鑑別を必要とする外傷および疾患について症例を提示する.

整形外科/知ってるつもり

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はじめに

 脊髄刺激法(spinal cord stimulation:SCS)は,1971年に初めて疼痛疾患に対して臨床使用されて以来,そのデバイスは改良を重ね,現在では,薬物治療抵抗性の難治性慢性痛の治療法として選択される機会が増加している.さらに,近年では,超高頻度刺激(10kHz)やバースト刺激などの新しい概念も導入され,低頻度刺激に特有の刺激感(パレステジア)を感じることなく,痛みを緩和することが可能になった.これまで推測されていた鎮痛メカニズム以外にも,いまだ解明されていない鎮痛メカニズムの存在も示唆されている.今後,SCSを用いた慢性疼痛治療は,新たな局面を迎える.

境界領域/知っておきたい

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サルコペニアの病態と漢方における腎虚の概念

 サルコペニアは,加齢による筋量・筋力の低下を意味し,寝たきりを引き起こす重要な因子として,近年注目されている.その発症機構には,加齢に伴って低下する身体活動,栄養状態の悪化,各種ホルモンの低下,炎症性サイトカインの上昇に加え,慢性閉塞性肺疾患や糖尿病なども関与する,いわゆる複合病変である1,2)(図1a).サルコペニアが進むことで疼痛を生じ,疼痛や筋力の低下から,移動能力が低下し,社会参加や生活活動に制限が生じる.高齢社会を迎えサルコペニアを抱える人口の増大が言われているが,サルコペニアに対しては有効な治療法は確立していない.というのは,複合病変であるサルコペニアに対して,複雑なさまざまな薬剤介入を行うと,かえって多剤併用による有害事象につながっていくからである3,4)

 一方,漢方はもともと複数の生薬で構成され,少量の化合物が多段階的に作用し,生体内において,複雑に動的に反応を引き起す.複数の生薬が体内で相互に作用し,どのような主作用を示し,どのような副作用を起こすか,何百年もの治験を積み重ねてきた歴史がある.そこから得られた知識を有効に活用すれば,サルコペニアに対して,安全で有効なアプローチが可能だと,われわれは考えている.

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 橈骨遠位端骨折は骨癒合が得られやすい骨折であり,偽関節に至ることは稀である.今回,橈骨の高度な短縮に加え,橈骨手根関節と遠位橈尺関節の破綻を伴った橈骨遠位端骨折後の偽関節の2例に対して,尺骨遠位端の切除による手関節形成を行い,その切除した骨片を移植骨として再利用し加療した.その結果,偽関節部の骨癒合が得られ,手関節の機能が改善した.

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 症例は44歳の女性で,妊娠33週で歩行時の膝折れを自覚し妊娠34週で当科を受診した.第9胸椎以下の知覚低下および痙性不全対麻痺を認めた.画像上,第10胸椎の椎弓と連続し左側優位に脊柱管内に進展する骨性腫瘤を認め,脊髄を圧迫していた.胸椎骨軟骨腫と考え,帝王切開後,椎弓および腫瘍切除術を行った.病理所見では異型性に乏しい軟骨下に骨組織を認め骨軟骨腫と診断された.術後,歩行障害は改善した.脊椎骨軟骨腫が脊柱管内に進展し脊髄圧迫を来すことは稀である.治療は一塊切除が推奨される.再発率は低いが,長期の経過観察が必要である.

コラム

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 月刊「東京人」2015年12月増刊「慶應義塾大学医学部の100年—異端と先導」に,明治8,9年頃の芝 三田の慶應義塾の地図(図1)が載っていた1).東南部に福澤諭吉の邸宅があり,北側に慶應義塾医学所がある.医学所は明治6年(1873)10月に開設され,大学東校(東大の前身)がドイツ医学で教育しているときに,イギリス医学を教授していた.初代校長は松山棟庵(図2)で,明治13年(1880)6月に財政難で閉校するまで300人の卒業生を輩出した.この医学所は慶大医学部の源流である2,3)

 松山棟庵は,住居が福澤邸の北側にあり,医学所の東側に屋敷があった小幡篤次郎とともに,諭吉の高弟である.医学所閉校後,棟庵は明治13年(1880年)11月に英国から帰国した高木兼寛とともに成医会を発足し,有志共立東京病院(のちの慈恵医大)を設立した4,5).また,1875年に福澤邸の南側,国道を挟んだ反対側に診療所 尊生舎を開設し,1893年に尊生病院,1906年に松山病院と改称し,1936年に新築された(図3).松山病院には,前田友助が東大外科から慶大医学部整形接骨科初代教授に転ずる前,1917〜1919年の2年間,外科部長として赴任していた6).松山病院は地域病院として繁盛していたが,昭和20年5月25日の空襲で焼失して,再建されることなく閉院した.筆者は焼失前の松山病院を憶えている.5歳の時の記憶でおぼろげであるが,白亜の2階建ての瀟洒な病院であった.

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目次

欧文目次

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 『慢性痛のサイエンス—脳からみた痛みの機序と治療戦略』は,わずか200ページ強の本である.しかし副題にもあるように,痛みについて痛みの局所からの視点ではなく,脳からの視点で最新の情報をコンパクトにまとめて書かれた本である.この本の趣旨は,決して局所の病態を軽んじているわけではない.痛む局所の病態を正しく評価したうえで,脳からの視点で慢性痛をどう理解するかが著者の趣意である.慢性痛治療に際して,慢性痛患者の頭の中で起こっている病態を,基礎知識として知っておくことは,非常に有益である.実際に治療戦略を立てるためだけではなく,慢性痛を持つ患者への痛みの共感をも一層育むことのできる本になっている.

 慢性痛が大きな社会問題になって久しい.慢性痛の頻度は,多い報告では全人口の30%,少ないものでも11%と報告されている.慢性痛の部位についてのアンケートでは,腰,肩,膝,頚,頭の順に多く,頭痛を除けばほぼ運動器の疼痛である.また現在では,元気で活動的な高齢者が増えているだけに運動器の痛みは,ますます重要になってきている.そして慢性痛が問題なのはその頻度だけではなく,難治のことが多いからである.特に「運動器に関する慢性痛」は,運動器の局所の病態だけでは説明しきれない部分が問題である.例えば,本来なら亜急性の痛みであるいわゆる腰痛症が慢性化して長引くのはなぜかという疑問である.腰の局所だけでは説明し得ない病態を単に心因性と片付けていた時代もあった.しかし,それがfMRI,PETの登場により脳内の変化も客観的に示すことができるようになった.その脳内の変化が慢性痛の原因なのか結果なのかは,現在のところ不明であるが,この科学の進歩の現況を知っておくことが極めて重要である.もちろん臨床家にとって,局所の病態を理学所見,神経学的所見,X線検査などの従来の画像診断を駆使して,慢性痛を持つ患者の局所の病態を正確に把握し評価する能力は大前提にある.その上で,慢性痛における脳内の変化を知っておくことは,治療上非常に有益なことだと思う.

次号予告

あとがき 吉川 秀樹
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あとがき

 骨・関節の感染症の制御は,整形外科医にとっては,歴史的にも長年苦闘を続けてきた課題の1つです.そこで思い出されるのがリスター鉗子で有名な英国の外科医,ジョセフ・リスター(1827〜1912年)です.1840年代,外科医ロバート・リストンが,エーテルを用いた全身麻酔手術に成功して以来,疼痛を伴う四肢外傷に対する外科手術が急速に普及しました.その結果,四肢の切断術などが,痛みを伴わず実施可能となりました.しかし,全身麻酔による無痛手術が多く行われるようになった反面,皮肉にも,術後の骨髄炎や敗血症で死亡する症例が増加しました.当時,手術場では,消毒という概念はなく,死亡原因は不明のままでした.リスターは,「術後の創部の化膿は,細菌感染である」と考え,手術器具,術者の両手,術野をフェノールで消毒し,手術に臨みました.その結果,開放骨折でも極めて良好な成果を得て,1867年,「The antiseptic system(無菌手術法)」として10症例をLancet誌に報告しました.以後,各種消毒法が開発され,手術による死亡率は激減し,人類に大きな貢献を果たしました.昨年はリスターの論文発表から150周年を迎え,英国ではリスターの業績を称え,記念出版やシンポジウムが開催されました.

基本情報

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臨床整形外科
53巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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