胃と腸 8巻10号 (1973年10月)

今月の主題 表層拡大型胃癌

主題

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 表層拡大型(表拡型)というのはA. P. Stout2)のsuperficial spreading typeの訳である.

 Stoutの“superficial spreading type of carcinoma of the stomach”Ach. of Surg. 1942によると,彼の経験した69例の切除胃癌のうち15例22%にsuperficial spreading type of carcinoma(表拡型胃癌)と称すべき表在性に拡がる傾向の強い癌を発見したと述べている.そしてその深達度は1例のみがいわゆる粘膜癌で,その他はすべて粘膜下層または固有筋層まで癌の浸潤が達していたという.他方,癌の拡がりの面積については,深達度の浅い割りに広いということを取り上げているだけで,正確な広さについては触れていない.

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 表層拡大型胃癌という表現は,今までいろいろの意味に使用されてきたようであるが,その語感から,直感的に浸潤範囲,Ⅱb(類似Ⅱb),残胃の癌といったことを連想しがちである.このように表層拡大型胃癌という言葉から,ある特定の胃癌を感覚的に想定することはできる.しかし,その大きさや肉眼所見などについて,明確な基準がないように思う.今までにも,表層拡大型胃癌について,幾つかの定義なり,基準は作られている.が,どれを頼りにしたらよいか迷ってしまう.そこで,安井にならい,癌研外科で手術した早期胃癌の症例を整理し,表層拡大型胃癌について,X線診断の立揚から検討してみた.

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 表層拡大型早期胃癌(superficial spreading type of early gastric cancer,以下SSCと略す)は外科医にとってやっかいな存在である.術前にその拡大した癌病巣の全貌を的確にとらえることができないと,切除範囲の選択を誤り,揚合によっては切り足しを必要とすることとなり,またときによっては癌巣を完全に切除し得ていないという事態も出てくるからである.

 われわれの教室における昭和42年5月から47年3月までの5カ年間の早期胃癌切除例数は195例であるが,これらのうち,病理組織学的検索により確認した癌病巣の拡がりが5.0×5.0cmをこえる,いわゆるSSCの症例は39例で,早期胃癌の20.0%であった.すなわち早期胃癌のなかで5例に1例はSSCがあるということであり,この確率は決して低いものではない.しかるに従来は日常の内視鏡検査に際して,このようなことはあまり念頭におかれていなかったといってよいであろう.もちろん外科の立場としては,とくに病巣の噴門側境界については常に厳しく観察を行なってきたつもりであるが,これをSSCとして把握したことは少なく,またその全貌を的確にとらえ得たSSC症例も多くはない.

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 胃のsuperficial spreading type of carcinomaは,A. P. Stout1)の命名による胃癌の一型とされている.過去において教室では,superficial spreading typeの再発症例の検討から,この型の胃癌は発育が緩徐であること,その生物学的特徴が通常われわれが経験する胃癌とはかなり異った“特殊な一型”と想定される点を指摘した2)3)

 また,進行胃癌の粘膜面での癌浸潤範囲と胃壁深層でのそれを比較してみると,きわめて表層拡大傾向が強いとみなされる症例がみられ,これらの症例が示す転移の傾向,予後が,表在癌でみられたsuperficial spreading typeのそれと類似していることなどを指摘し4)~6),superficial spreading type of carcinomaの生物学的特性を解明する上で,これら表層拡大傾向を示す進行胃癌を含めて検討することが有意義であろうと推定した.

胃と腸ノート

放射線直腸炎(Ⅱ) 小林 世美
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 今回は,放射線直腸炎の治療につき,私の経験をもとに述べてみる.放射線直腸炎をみた場合,まず試みるのは内科的治療である.急性期で出血がひどいときは,安静臥床,低残渣軟食,鎮痙・鎮静剤の投与,ステロイド浣腸等を行なう.絶食して2~3日点滴を行なうこともある.点滴中には,止血剤,ビタミン等を十分に加える.鉄剤の投与も重要だ.

 内服薬として,大腸の粘膜下組織に親和性を有するSalicyl azosulfapyridine(市販名はサラゾピリン)を用い,便量を少なくするため,野菜・果物等の線維成分の多いものをできるだけ避け,ビタミン不足になるので綜合ビタミンを加える.その他,消化剤,サラゾピリンの胃障害に対して制酸剤,胃粘膜庇護剤,腸管運動抑制のため鎮静剤,副交感神経抑制剤など潰瘍性大腸炎に準ずる薬物療法を行なう.

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 図1は前回(8巻8号1104頁)に提示したX線写真のシェーマです.図1は術前,図2は術後の二重造影像です.図2は切除胃と組織所見のシェーマです.Ⅱc型病変は胃角(A)と前庭部後壁(B)とにありました.病変Aは大きさが18mm×15mmでほぼ四角形を呈しています.病変Bの大きさは18mm×16mmで,形は佐渡ケ島に似ています.Ⅱcの境界はともに明瞭です.Niveau diferenzが明らかな粘膜陥凹を示しているわけです.深達度は両者ともmで,未分化型腺癌でした.

 2個のⅡcの組織所見上の違いは,AではⅡc病変部の粘膜下層に著明な線維化巣(図2の斜線部)がありますが,Bでは線維化巣は認めないということでした.Aの線維化巣はⅡcの陥凹部に一致して,その粘膜下層に箱形に厚く密に存在し,これを仲介として粘膜層と固有筋層が固着した様相をしています.Bのほうは病変部と周辺との間に胃壁硬化としての明らかな差はないのに,Aのほうは周辺との間に階段的な差をもつ胃壁の硬化がみられます.

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 わが国では上部消化管出血に対する緊急内視鏡診断が高く評価されるようになって以来,1本のスコープでなんとか食道から十二指腸まで簡単に観察ができるPanendoscopeをという要求がにわかに強くなってきた.

 これまでこの種のスコープは前方直視式で,日本人に多い鉤状胃,下垂胃を観察するにはあまりにも困難な部位が多かったのであまり用いられなかった.視野方向転換式はこれらの弱点をカバーするため技術的問題を克服して現在のpanview fiberscope(PFS)として誕生したわけである.

Segmental Colitis 長廻 紘 , 竹本 忠良
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 Segmental colitisは直腸が病変におかされていない,すなわち両端に正常部を有する大腸炎一般をいい,病変の分布様式だけを示す.病名とは直結しないnon-specificな言葉である.right-sided colitisと同義的に用いられることもあるが,segmental colitisの方が範囲は広い.segmental colitisに対する考え方も時代とともに変化してきているが,一番問題となるのは“ulcerative” colitisとの関係である.潰瘍性大腸炎は直腸に始まり,次第に口側へ進展する.すなわち程度の差はあっても必ず直腸には病変が存在する,と考えられている.

 1930年にBargenがregional migratory ulcerative colitisという論文を発表し,直腸が正常である潰瘍性大腸炎の亜型を提唱した.Crohnらのregional ileitis(1932年)に先だつこと2年である.Crohnの発表のすぐあとで同じような病変が大腸にもみられるという報告(Colp,1934年)があったが,Crohn自身が大腸に限局したCrohn病というものに対して懐疑的であったことと,Crohn病について始めて系統的にその病理組織像を記載したHadfieldがgranulomの存在を強調した(決してessentialとはいっていないが)ことなどもあって1950年代までは大腸に限局したCrohn病は稀(Warren&Scmmer etc.)という考え方が一般的であった.典型的なsarcoid-like granulomの認められない症例はsegmental colitisでも潰瘍性大腸炎とされることが多かった.1959年に発表されたMarshakの論文は,この問題に対する当時の一般的な考え方を次のように要約している.『segmental granulomatous colitisは,segmental ulcerative colitisほどは理解されておらず,また前者を認めるか否かということは議論の分れるところである.ある病理学者はこれを潰瘍性大腸炎の慢性型と考え,また他のものは大腸のregional enteritisと考えている.更に別の人は,segmental granulomatous colitisを別の病気と考えている』.大腸のCrohn病が疾患概念として確立されたのは1960年代のLockhart-Mummery&Morsonの一連の発表以来であり,それ以前は大腸のCrohn病については混乱が多かった.彼達は同時にまたCrohn病をgranulomの呪縛から解放した.それ以来segmental colitisの大部分はCrohn's Colitisと診断されることが多い.

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 ファイバースコープによれば,幽門輪を観察することはたいへん容易であるが,稀ならず真の幽門輪より口側に,幽門輪とだまされやすい第2の開口部をみることがあり,偽幽門(Pseudopylorus)といわれていることは周知のとおりであろう.

 ごく最近では,Medizinische Hochschule HannoverのPaulとSeifertの論文1)2)がある.彼らは偽幽門はB-Ⅰ,B-Ⅱの胃切除症例を除いて,内視鏡検査例の約10%も認められるというから,もしこれほどの高頻度とすればたいへん大きな問題でなければならない.

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 図の扉をみてもわかるように,L. Demling,R. OttenjannおよびElsterの共著で協力者としてDeyhle,Paul,RöschとStadelmannの名前がでている.いずれもわれわれの親しいErlangen大学の内視鏡グループのメンバーであるが,どういうわけか内視鏡のリーダーであるClassenの名がみえない.

 126頁にまとめられた食道・胃内視鏡の手頃な解説書であり,235におよぶ図版もたいへんシャープだ.カラーの印刷技術が美事であり,さすがに西ドイツの本だと感心させられた.

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症 例

 患 者:小○シカ○ 63歳 女性

 主 訴:軽度の腹部膨満感

 既往歴:糖尿病があり,毎日レンテインスリン16単位ずつ注射を受けている.

 家族歴:特記すべきことはない.

 現病歴:約2カ月前から食後軽度の腹部膨満感を覚えるようになった.すなわち,食物が胃につかえた感じで,空腹感が少ないような感じがするようになった.しかし,食物は食べればおいしいし,従来と変わらぬぐらいの量を食べていた.約40日前近所の内科で胃透視を受け,胃角部の硬化を指摘され,精密検査のため当院を受診した.

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 胃ポリープの癌化については,古くから多くの報告1)2)がみられる.レ線による追跡データでははじめから癌であったものが含まれている可能性があり,また病理組織学的にポリープ癌とされたものも,あくまでも推定されたにすぎない.そこで,最近10年間に急速に進歩した内視鏡検査法の導入により,多数のbiopsic followが試みられているが,ポリープの癌化例は意外に少なく,いまだその報告をみないように思われる.

 著者らは,生検結果から,ポリープの癌化を考えさせた興味ある1例を経験したので報告する.

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 Borrmann Ⅰ型の診断のもとに胃切除術を施行し,組織検査の結果,胃前庭部にⅠ型早期胃癌と細網肉腫とが相接して共存し,その一部は衝突腫瘍の像を呈し,これらの病変と独立して胃角部にⅡc型早期胃癌,胃体中部にⅡb型早期胃癌を合併した稀有な1例を経験したので報告する.

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 胃Reactive Lymphoreticular Hyperplasia(以下R. L. H.と略称)は,臨床的に,胃癌との鑑別診断が困難である.

 われわれは,胃X線検査でⅡc型早期胃癌を疑い病理組織学的には微小胃癌を合併したR. L. H.の症例を経験したので報告する.

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症 例

 患 者:竹○三○,64歳,男.

 主 訴:自覚症状なし.

 既往歴:特記すべきことなし.

 家族歴:父親および弟が胃癌で死亡.

 現病歴:昭和46年7月に札幌市がおこなった胃集検で異常を指摘され,当科で精密検査をおこない経過観察が必要であると説明された.健康には自信があったが約9カ月後の昭和47年3月,再度当科を訪れ精密検査の結果入院した.

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 わが国や西ヨーロッパで,ある種の幼線虫が,主として胃,腸壁で膿瘍,肉芽腫などを作った例が多く報告されている1)~11).この種の消化管の寄生虫膿瘍部で見出される幼線虫は,サバ,アジ,ニシン,スケソウダラなどの海産魚類に寄生するアニサキス型幼線虫であることが最近明らかにされた.しかしながら,病巣から生きた幼線虫を採取し,寄生虫学的に同定した報告は少ない.著者らは,最近,潰瘍底から生きた幼線虫を採取しえた胃アニサキス症の2例を経験したので報告する.

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 虫垂癌は,発生頻度の比較的少ない疾患であり,一般にその分類にはUihlein1)の記載の方法がよく用いられている.この分類によると,虫垂癌は,カルチノイド型(carcinoid type),悪性粘液瘤型(malignant mucocelle type),結腸型(colonic type)の3型に分類することができる.なかでも悪性粘液瘤型はcystic typeといわれており,高度のムチン産生能と,特異的に腹腔内へ発育進展し,腹膜偽粘液腫(pseudomyxoma peritonei)と称されるが,結腸型といわれる虫垂癌では血行性やリンパ行性に遠隔臓器への転移がみられ,その性状は腸癌のそれと同一形式であるとされている.

 McGregor2)は,虫垂癌の組織学的特徴についてカルチノイド以外の2つの型はいずれも同一起源の腺癌であるとしており,悪性粘液瘤型では比較的分化が進んでおり,乳嘴状を呈し,ムチン産生能が強く,発育はしばしば虫垂を穿孔し,回盲部全体が腫瘤の移植・転移で覆われるが,所属リンパ腺への転移は稀であるとしている.他方,結腸型では前者に比較して細胞は未分化であり,ムチン産生能は弱く,発育は粘膜から筋層にまで達し,とくに近接臓器である回盲部への浸潤増殖がみられることから,治療や予後は回盲癌と同一であると考えられている.また,Wilson3)は17例の虫垂癌を検索して悪性粘液瘤型と結腸型の中間の病型の存在を指摘しており,虫垂癌が必ずしも両型に分類できるとはかぎらないことを示している.

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 腸チフス,結核,梅毒,寄生虫,Crohn病,膠原病,尿毒症,メッケル憩室,Zollinger-Ellison症候群,胃腸吻合,レ線照射などとは関係のない,原因不明のいわゆる非特異的小腸潰瘍25)は,従来まれと考えられていたが,欧米では1960年頃から急速に増加し注目を引いた1)~6).症例数の増加のほかに,臨床像にも変化がみられ,以前には穿孔が多かったのに対し,1960年以降では閉塞を起す例が多くなってきた2)7)~9).これらの症例中には,当時急速に普及したサイアザイド系利尿剤とその副作用であるK喪失を補うためのKCl腸溶錠投与を受けている例が多い事が報告された1)~5)7)8).臨床的にサイアザイドよりもKCI腸溶錠の方が関係が深いとされ,実験的にイヌ・サルなどにサイアザイドではできなかった小腸潰瘍がKCI錠によって作成されるにいたった4)8)10)11).このようにKCl腸溶錠によって小腸潰瘍が起るという考え方は,欧米ではほぼ確立されたものであり,その症例はすでに数百例に達するもようである.これに対し本邦では著者らの調べえたかぎり,まだ1例の報告もないようである.著者らは最近KCl腸溶錠によると思われる小腸潰瘍の1例を経験したので報告する.

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 近年,胃レ線診断,内視鏡診断の充実により,早期胃癌症例は急激に増加してきたことは周知の事実である.しかし,日ごろ症例によっては進行癌との鑑別が必ずしも容易でない場合に遭遇する機会も多い.したがってそれら症例の術前診断法の確立が望まれる現状である.現在この点に関しては,肉眼および内視鏡的所見の立場から,奥田,広門らが癌病変部の硬化度,皺襞の形態等を検討し深達度の推定を試みている.近年,佐野らも同様の視点からの考察を発表している.

 しかし,結論として諸家は,胃癌深達度の判定はおのおの判定基準に基づいてかなり可能であるとしながらも,なお検討の余地を残している.その背景には,各症例の深達形式の多様性および随伴病変,さらには癌浸潤に伴う間質反応の存在等が関与し,一定の尺度に必ずしもあてはめがたい問題となっているからと考える.もとより深達度は,胃壁の立体構造を対象とするもので,現在の内視鏡診断を中心とする診断方法では“推定”の域を脱しえぬ方法論上の限界ともみられる.

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欧文目次

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 本書は1972年,Niceで開催されたHepato-Gastroenterologyに関するシンポジウムから,慢性小腸疾患に関するものを収録し,主として診断と治療についての論文が集められている.14人の執筆者中9人がフランスから集まり,この方面でのフランス学派の考え方を知るには好都合である.

 まず,小腸に対する薬剤作用についての総説,次いでthyrotoxicosis,thyroidのmedullar cancer,carcinoidなどのホルモン原性下痢に関する事柄が要約されている.

編集後記 村上 忠重
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 久しぶりに編集後記の順番が回ってきた.それだけ本誌の巻数が増加したということになる.ありがたいことだと思う.

 はじめ本誌の編集方針を模索している時代に果して最後まで特集という方針が貫けるかどうかで大いに心配した.恐らくそのうちにテーマが品切れになるであろうという不安からであった.そこでどうしてもだめだったら,5年たったところで以前のテーマをもう一回繰り返せばよいではないかということで落着いた.しかしやってみるとどうやらその心配は解消したようである.そのかわり毎号どのようなテーマを取りあげるかで全編集委員が唾を飛ばして激論する.

基本情報

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胃と腸
8巻10号 (1973年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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