胃と腸 7巻10号 (1972年10月)

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 食道炎特に原発性食道炎の内視鏡診断は従来の硬性食道鏡による基準が漫然と適用されて来た1)~11)

 最近グラスファイバー光学系の進歩と,光源の進歩があり,明るい視野のもとで微細診断が可能なファイバー食道鏡(Fiberesophagoscope,FES)が実用化されたので,過去6年間の症例を中心に癌性随伴性食道炎を除いた原発性食道炎ならびに術後食道炎の内視鏡的診断基準を,組織像と対比して検討した結果を報告する.

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 非特異性食道炎については種々の病因が考えられているが,胃液をはじめ消化液の食道内への逆流によってひきおこされる逆流性食道炎が最も屡屡経験される.下部食道から噴門にかけて,様々の食道内への逆流防止機構が考えれている.例えば食道下端における輪状筋の収縮が括約筋様作用をもつとか,噴門部の斜走筋の収縮で胃が吊り上げられ,噴門が閉鎖されるとか,His角,噴門の胃粘膜ひだによる弁作用とか,横隔膜のPinchcock様作用であるとかである.

 このような生理機構が不全であったり破壊されたとき,逆流性食道炎がおこりやすいのであるが,われわれは外科的立場より,手術操作のためにこれらの機構がこわされておこる食道再建術後の逆流性食道炎について,主に内視鏡的な面より検討を加えてみる.食道炎の診断基準についてはまちまちであり,その方法論からも問題のあるところであるが,内視鏡所見について一つの診断基準を考えてのべてみるつもりである.

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 上部消化管出血に占める食道静脈瘤の意義は大きく,吐血例では,まず食道静脈瘤出血と他の潰瘍性出血との鑑別を考慮するのが常である.さらに,肝硬変症を主とする門脈圧亢進症に伴なう食道静脈瘤では,その破綻による出血が致命的となる場合が多く,したがって,食道静脈瘤の有無を明確にすることが基礎疾患の予後判定上および治療上にも大切である.ところで,従来食道静脈瘤を診断するにさいして,我国では主としてレントゲン検査にたよるのみで,内視鏡検査による診断は静脈瘤損傷による出血の危険性を考慮しすぎて,あまり行なわれなかった嫌いがある.しかし,最近ファイバースコープによる内視鏡検査の普及と共に,優秀なファイバー食道鏡も製作され,これを用いての食道内視鏡検査が容易となるにつれて,最近では食道静脈瘤に対してもファイバー内視鏡検査が普及しつつある.すでに我々も第12回日本内視鏡学会総会(昭和45年2月)でのシンポジウム「食道病変の内視鏡」において,“食道静脈瘤の内視鏡診断の限界”をテーマとし,ファイバー食道鏡による食道静脈瘤の観察は容易かつ安全であり,しかもX線診断に比べて診断能が高く,静脈瘤の疑われる疾患のすべてに対して行なう必要があることを主張したところである1)

 また今春の第58回日本消化器病学会総会・第14回日本内視鏡学会総会共催の国際セミナーにおいてA. E. Dagradiは“Endoscopy of esophageal varices”と題し,約20年間にわたる研究結果から,内視鏡診断の価値を高く評価すると共に,肝硬変症に対しては食道鏡をルーチンに使用するとしている.

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 門脈圧亢進症は1936年,Presbyterian Hospital一派1)から発表されて以来,病態生理および治療に関して永年の追究が行なわれており,外科治療面での画期的な報告はWhipple2),Blakemore3)らの門脈下大静脈吻合術による門脈減圧手術である.この報告以来,欧米は勿論,本邦でも血管吻合術による門脈減圧手術は門脈下大静脈吻合術,脾腎静脈吻合術として外科的治療の標準術式として取上げられ今日に到っている.しかし門脈下大静脈吻合術も脾腎静脈吻合術でも術後肝性脳症の発生が多くみられ,血管吻合術に関する反省の報告4)~6)もしばしばみられるに到っている.本邦では術後肝性脳症の多発の傾向から肝硬変症に対しては門脈下大静脈吻合術は勿論のこと,脾腎静脈吻合術でもこれを施行するにあたって遅疑逡巡しているのが現況であり,むしろ選択的門脈減圧手術,selective portal decompression7)~9)と直達手術としての食道離断術10)11)が取上げられ,別に直達手術としてのgastroesophageal decongestion12)13)や胃上部切除術14)が報告され,これら手術手技に関する検討が行なわれつつあり,それぞれ良好な結果が報告されている.

 本論文では食道静脈瘤に対する治療を中心として保存的治療,血管吻合術,直達手術,緊急手術の各項について述べる.

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 常岡(司会)きょうの座談会のテーマは「食道炎と食道静脈瘤」ということでございます.食道炎につきましては比較的新しい問題と考えていいかと思いますが,特に最近内視鏡検査が進歩いたしまして食道炎を見る機会が非常にふえたということです.またそれによって食道炎の診断がいろいろ問題になり,先日の内視鏡学会でも食道炎の内視鏡的な診断基準はどうあるべきかということでいろいろお話願ったわけです.もちろん最終的な結論は出たわけではございませんけれども大方の先生の考えている方向というのは大体了解されたと思います.

 一方食道静脈瘤というのは,前々から診断はもとより,特にその出血によって非常に危険な状態になるということで,診断から治療まで重要な問題があるかと思います.また食道炎とある程度関連性もあるということで,この度の座談会としては食道炎と静脈瘤というのを一緒にしてやろうということになったのです.

一冊の本

Inflammation in Gut 竹本 忠良
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 今回は1970年Kargerから出版されているBibliotheca Gastroenterologica,No. 9, Inflammation in Gutを紹介しよう.編集のMaratkaとOttenjannは旧知のなかでこの本も実は1970年Copenhagenで開かれた第4回世界消化器病学会の会場でOttenjannから頂いたものである.

 本年の第14回内視鏡学会総会では「食道炎の診断基準」というシンポジウムがもたれたし,私達も目下十二指腸炎についてすこしずつ研究を進めているし,大腸炎にたいしても当然内視鏡的なアプローチを進めているので,先頃久方振1)に通読して,147頁の小冊子ながらたいへん教わるところが多かった.図はこの本の扉で,紙とぢで緑色の表紙で質素な本だから値段もおそらくたいしたことはあるまい.最初の頃の序文にOttenjannはThere is hardly a subspecialty in the field of internal medicine which participated in such an increase of knowledge and experience like gastroenterologyと書いて,各種の検査法の発達によって,消化管のいろんな部分の形態と機能の関連が解明されつつあり,多くの伝統的な見解やドグマがチャレンジされ変えられつつあると述べている.ここに盛られているテーマは国内,国際学会でしばしば討論されたものだけに簡明な記載である.

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 われわれは胃X線所見および胃内視鏡所見から多発性胃癌を疑い,切除標本の組織検索により2コのⅡc型の重複早期胃癌と判明した症例を報告する.

症例

 患 者:佐○孝○郎,45歳,農夫.

 主 訴:心窩部不快感.

 家族歴:母が子宮癌,兄が肺癌で死亡している.

 既往歴:昭和32年,黄疸あり,肝炎として入院加療をうけたことがある.

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症例

 患 者:I. U. 47歳,女.

 主 訴:心窩部痛.

 X線検査:46年3月4日.

 内視鏡検査:46年3月5日.

 手 術:46年3月14日.

X線所見

 充満像:図1の立位充満像で胃角が開いているのがわかる.そして,胃角から幽門前庭部にかけて,小彎辺縁の約2cmの範囲に,伸展不良と微細な凹凸を示す壁不整の所見がある.さらに,その小彎をつくっている線にバリウムの濃淡の差がみられる.辺縁に近くなるにつれてバリウムがうすくなっている,という所見である.図2,3は胃角の連続撮影像の一部である.胃角から幽門前庭部にかけての小彎辺縁にとげ状の微細な凹凸がみられ,やはり伸展不良と壁不整の状態は変っていない.これは病変自体の側面像で,粘膜面の凹凸を示す所見であり,浅いニッシェの概念を適応できるものであると考えられる.

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 最近,胃X線検査法および内視鏡検査法の進歩に伴い,胃ポリープはかなりの高頻度で発見される様になった.しかし,ポリープと粘膜下腫瘍,およびいわゆるⅠ型早期胃癌との臨床的鑑別は必ずしも容易ではない.

 われわれは,胃X線検査,内視鏡検査で,一見粘膜下腫瘍の所見を呈し,病理組織検査で初めて胃ポリープと確診しえた1例を経験したので,報告する.

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症例

 患 者:菅○喜○,64歳,男.

 主 訴:食思不振

 家族歴:姉が胃癌で死亡.

 既往歴:44歳の時胃潰瘍に罹患.

 現病歴:昭和45年1月頃から心窩部膨満感が出現し某医にて胃レ線検査を受けたが異常無しと言われた.昭和46年3月頃から上記症状に加えて食思不振,体重減少も出現し,4月11日再び某医にて胃レ線検査を受けたところ異常陰影を指摘され,本学第1内科を紹介され,昨年4月22日外来を受診した.受診時持参した胃レ線所見から胃粘膜下腫瘍を疑い,当日直ちに胃内視鏡検査および胃生検を行ない,胃粘膜下腫瘍の診断のもとに5月7日本学第2外科に入院,5月11日胃亜全摘術を施行した.

 入院時現症:体格中等度,栄養やや不良,結膜に貧血,黄疸無し.Virchowリンパ節を触れず,胸部に異常所見無し.腹部では心窩部に圧痛を認めた.

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 性器外に原発する悪性絨毛上皮腫はきわめてまれな腫瘍である.胃ないしはこれに近接する部位にこの種の腫瘍の発生をみたものは1905年Davidsohnの44歳男子の大網に悪性絨毛上皮腫を,胃幽門部に腺癌をみた例が最初である.先に田中らは68歳,男子の胃体部大彎後壁に発生した悪性絨毛上皮腫と腺癌の合併例を経験し,剖検により性器外原発を確認しえた1例を報告したが,その後さらに3例の男子胃に原発したと考えられる悪性絨毛上皮腫と癌腫の合併例を経験したので,これら4例を合わせて報告し,本腫瘍の本態ないしは組織発生について考察したい.

症例

 〔第1例〕68歳,男子.傘製造業.

 本例は報告ずみであり(癌の臨床,13(10):921~927 1967)臨床的事項は省略し,病理学的事項の要旨のみにとどめる.

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 原発性十二指腸癌は比較的まれな疾患であり,全剖検例の中,欧米ではMateer1)らによれば0.06~0.2%を占め,本邦では石原,長与3)らの0.1~0.2%という報告がある(表1).最近臨床的にも,原発性十二指腸癌の手術成功例の報告が散見されるようになったが,これらはすべて漿膜浸潤高度な進行癌であり,この部分の早期癌の報告には未だ接しないようである.われわれは最近十二指腸水平部末端に発生した病変で,切除標本の組織所見から粘膜層に限局した早期十二指腸癌と診断された貴重な一症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

 患 者:H. K. 67歳,女性.

 主 訴:上腹部とう痛,胃部膨満感,嘔吐.

 家族歴:特記すべきことはない.

 既往歴:1年前から膝関節ロイマチス,下肢静脈血栓症あり.

 現病歴:昭和46年6月上旬より,軽い上腹部痛,食後の胃部膨満感をきたすようになったので,6月中旬当外科を受診,胃X線検査および胃カメラが施行されたが,胃幽門部の胃周囲炎によるくびれを指摘されたのみで,他に特に異常は認められなかった.しかし患者はその後も上腹部痛があり,6月末頃から朝食べたものを夕方嘔吐するようになったので,7月上旬当内科を受診し,貧血を指摘され,精密検査をすすめられて入院した.

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 大腸早期癌の報告は胃早期癌に比べてまことに少く,術前診断例は文献上でもまれである9).St. Mark's HospitalにおいてMachida FCS & Olympus CF-LBを用いて行った112例の大腸内視鏡検査で著者らは6例の癌を発見した.そのうち2例はいわゆる早期癌であり内視鏡的に診断可能であったのでここに報告したい.

[症例1]

 患 者:53歳,男.

 主 訴:下血.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:34歳.肺結核のため左肺切除.

 現病歴:1969.10.旅行先で大量下血のため輸血,原因不明であった.

一頁講座

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 上部消化管出血の原因の一つでもある食道静脈瘤の破裂は,比較的稀ではあるが,前駆症状も少く,急激に重篤な状態に陥りやすく,臨床家にとって重要な消化器疾患の一つである.したがって,食道静脈瘤の存在を無症候の時期にさかのぼって把握しておくことが,出血源の早期発見のためにも大切である.

 食道静脈瘤の原因は,門脈圧亢進であることは言うまでもないが,我々が日常よく経験する主な疾患は,肝硬変,Banti症候群,Budd-Chiari症候群,肝外性門脈閉塞症などが挙げられる.我々の観察した114例のこれらの患者のうち,食道静脈瘤は55例(48.2%)の多くに見られ,吐下血の危険の予知,吐血防止のための外科的処置の適応の決定のためには,食道静脈瘤の正確な診断はきわめて重要である.

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〔第6例〕T. S. 54歳,男.

 主 訴:胃部不快感.

 理学的検査所見:特に異常なし.

 胃液酸度:ガストリン法で最高総酸度26mEq/L.

 胃カメラ所見:図1に示すように,体中部後壁の小彎よりに胃の長軸に平行した治癒過程期前半の線状潰瘍がみられる.辺縁の小彎よりには出血および白苔を伴う凹凸不整の多彩な所見がみられる.大彎よりにも同様の所見がみられる.小彎側から集中する粘膜ひだには,細まり,虫喰状中断,融合像がみられる.

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 胃体部後壁の単発潰瘍と思って切除してみたら対称性潰瘍であったり,単発潰瘍と思ったのが線状潰瘍や多発潰瘍であったりすることは日常よく経験することである.現在のすぐれたX線検査をもってしても,5mm以下の潰瘍や潰瘍瘢痕,短い線状潰瘍の診断率は決して満足すべきものではない.特に,短い線状潰瘍や多発潰瘍における潰瘍の一つ一つをニッシェとしてあらわすには,ある程度の技術を要し,直接症状のみで潰瘍を診断するやり方にはおのずから限界があるといえる.胃角の線状潰瘍の場合でも,小彎の短縮および囊状胃が目安となり,線状潰瘍を疑って検査してはじめてニッシェを証明できるのであり,間接症状の手がかりなしに最初からニッシェを証明することは不可能に近い.同じように多発潰瘍や短い線状潰瘍の場合も,目安となる変形があり,しかもその変形の形をみて潰瘍がどのような配列で大体どのあたりにあるかが予想できれば,ニッシェの発見も容易になるであろう.そこで,われわれは多発潰瘍や短い線状潰瘍の目安となる変形を追求してみた.

 対象として多発潰瘍症例の中から,最もsimpleな型である2コの潰瘍からなる症例を用いた.この2コの潰瘍を結ぶ線を配列線と呼ぶことにする.また,線状潰瘍に関しては切除標本を肉眼的にみて線状を呈しているものとした.

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 1972年7月11日,ErlangenにおいてL. DemlingとM. Classenの企劃した小腸鏡に関する国際会議が開かれた.たった1日の会合ではあったが,朝8時半から6時までSiemens-Hörsaalに完全にかん詰にされてしまった.そして熱心な討議が続いた.実質的にこの会合をアレンジしたのはClassenであるが,彼の緻密な構想とたくみな会の運営にほとほと感心した.

 invited guestsだけの発表と討論なので会場には30~40名程度しかいなかったが,このくらい内容のある充実した会議も珍しいと思ったし,日本の学会や研究会などの運営にも非常に参考となり学ぶべきことが多かった.

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欧文目次

編集後記 竹本 忠良
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 すぐれた性能をもった食道ファイバースコープあるいは“Panview”ファイバースコープがあいついで出現しているこの頃である.

 食道病変に対する消化器病医の関心は高まらざるをえない.もう食道病変の診断と治療を特殊な専門家にだけまかしておいたのでは,早期食道癌の診断も治療もタイミングを失ないかねない時代にきているように思う.食道ファイバースコープの普及度も御本家の日本で外国の1/3ぐらいだと聞いている.

基本情報

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胃と腸
7巻10号 (1972年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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