胃と腸 6巻4号 (1971年4月)

今月の主題 消化管穿孔

主題

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 消化管の外科的疾患のうち,急性腹症として最も重要な地位を占めるのが,いわゆる消化管穿孔である.これはその大多数が良性の潰瘍性および炎症性疾患により起こるものであるが,広い意味よりみれば,最近とみに普及してきた内視鏡検査による穿孔や,手術による消化管吻合後の縫合不全などもこの範疇に含まれることになる.一方,胃をはじめとする消化管各部の診断学の進歩により穿孔を起こす原因となる諸疾患の早期発見,早期治療によりその発生頻度は理論的には減少の傾向を示すものと考えられ,また,もし穿孔を起こしても外科的立揚よりみれば,抗生物質の進歩,適切なる術後処置の進歩などによりその死亡率は減少しつつあるものと考えられる.これらの観点より,本稿においては消化管各部の穿孔例を昭和35年より昭和45年までの11年間の統計的観点より発生頻度の推移と,その治療成績の変遷を中心として考察したい.なお表1に教室での消化管穿孔例数を示した.

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 高年者のいろいろな疾患について検討する揚合に,疾患そのものの発生,経過などの特徴をみるものと,老人の身体状況と特定疾患との相関から特殊性をみるという2つのアプローチがある.老人に発生する穿孔もこの2つの点から検討することが必要と思われる.従来高年者の胃・十二指腸疾患の穿孔についての報告はかなりみられるが,消化管全体についての報告は少ない1)~5)7).筆者らは60歳以上の消化管を主とした穿孔症例について検討してみた.

新生児の消化管穿孔 植田 隆
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 新生児の消化管穿孔はさほど珍らしいものではない.大阪小児保健センター外科で,筆者が赴任後僅か3年間で8例が経験されている.筆者が阪大時代の例を加えるとその数は倍以上になる.

 近年のわが国の経験例数を,小児外科関係の雑誌からちょっと拾ってみても,小児外科症例を多く取り扱う施設では,かなりの数を報告している.昨年の仙台での第7回小児外科学会1)で,東京医大6例,広島県立病院12例,東北大13例,広島大5例,岡山大1例などの報告があり,近刊の雑誌では,名市大19例2),長崎大3)5例(剖例18例を合すると23例),など,ゴロゴロしている.

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 表題のようなテーマをひきうけたとき,実のところいささか困った.胃,十二指腸潰瘍の穿孔は,内科医にとっても,きわめて重要な問題ではあるが,実際にその処理に直接あたる外科側と異なり,なにぶん資料に乏しいからである.そこでこれを機会に,潰瘍の穿孔に関する全国調査を行ない,最近の動向を知るとともに,過去の報告と比較し,検討してみることにした.幸い多くの先生方の御厚意によって貴重な資料が寄せられ,まとめることができた.ここに厚くお礼申しあげたい.

 以下,アンケートから得た結果にもとづき,それぞれの項目ごとに若干の考察を加えながら述べる.

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 胃癌の穿孔は食道癌,胃や十二指腸の良性潰瘍,結腸癌などに比べてあまり遭遇しないように思う.

 癌研外科でも過去25年間に約4,756例(1970年1月末まで)の胃癌手術例があるが,7例しかない.地方の第一線の救急病院ではやや多いので,他病院の症例も5例加えて検討した.

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 消化管穿孔の誘因としては,本誌並木論文でも,特異な例としてゴルフによる穿孔や,バスケットボール,バレーボールなどの運動の他,重いものを持った瞬間とか,靴ひもを結ぼうと前屈した瞬間に穿孔を来した例などの面白い穿孔例が挙げられている.

 ここに供覧する穿孔例も,異物誤飲や他の原因により消化管に穿孔を来した興味深い症例である.

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 αfは電気泳動(pH8.6)においてアルブミンより遅く,αf-グロブリンより早く泳動する血清蛋白である,しかし,電気泳動だけで同定するのは量的にも困難であり,現在は専らその抗原性を指標とする抗原抗体反応を用いる.

 抗血清は普通胎児血清蛋白で動物を免疫し,えられた抗血清を成人血清で吸収する.吸収抗血清はαfとのみ特異的に反応する.

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慢性膵臓病の診断に大きく寄与した検査法の1つとして,まず膵外分泌機能試験があげられよう.

十二指腸液を採取して膵液分泌機能を知ろうとする試みは1910年に始まっているが,定量的条件が揃ってきたのは1955~56年頃からである.

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 一般に線状潰瘍と早期胃癌との合併は少ないとされている.この例は胃レ線での描写は難しかったが,胃内視鏡診断では割合に容易に悪性像を把握された.しかし,きめ手になるべき胃生検検査では癌細胞が検出され得ず,手術後の切除標本の肉眼的観察でも悪性変化の把握が難しかった.また軽い慢性膵炎も証明され,長年の自覚症状は,いわゆる膵庇護療法を行なうことで手術前に消失してしまうなど,種々の示唆を与えられた.

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Ⅰ.症例

 患者:S.S.47歳 男

 主訴:胃集検で要精検とされたため,精検を希望して来院

 現病歴:1969年11月15目に胃集検をうけ,前庭部に変形ありとされ,要精検とされたため,精検を希望して来院したが,自覚的にはなにも訴えなかった,

 既往歴:著明な疾患はない.

 家族歴:祖父は病名不明のまま死亡したが癌は否定されていない.祖母は胃癌で死亡.父は67歳で胃癌で死亡.弟は胃癌で死亡.長男は胃癌で死亡.母は現在健康であり,癌の遺伝はないようである.しかし,癌で死亡した人が家系の中で多いといえる.

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胃脂肪腫は,橋本ら(1970)6)の本邦症例の集計や欧米文献1)からみても,まれな疾患である.最近,筆者らは診断困難であった脂肪腫の1例を経験したので報告する.

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 チリにおける胃癌の頻度は,日本と同様に高いが,進行した胃癌が多く,治療成績も不良であった.近年めざましい進歩をとげた日本の胃診断法をとり入れて,チリーにおいて初めて,Ⅲ+Ⅱc型早期胃癌を発見したので報告する.

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 X線検査で,胃癌と診断し,切除胃の肉眼所見でも,Ⅱa+Ⅱc型早期胃癌を思わせた慢性びらんの1例を報告する.

一頁講座

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 早期胃癌の発見を指向し,胃のX線診断は急速に進歩してきた.確実な診断のためには病変を忠実に描写する技術と正しく読む眼が肝要で,両者は合競いながら向上する.透視を良い写真を得る一手段とし,透視診断の良否は診断価値を有するX線写真を得る基にしたい.

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 1966年「第3回世界消化器学会」が日本で開かれ,わが国の胃診断学が世界的にクローズアップされた.また,日本の胃診断学を世界的に拡げるために,早期胃癌研究会100回記念事業として発案され,海外技術協力事業国(OTCA)が主催し,早期胃癌検診協会が実務を担当して,「第1回海外医師早期胃癌診断講習会」が1969年3月に開かれた.この会に,東南アジアを主とした医師と共に,遠く南米チリーからも1名参加した.1970年の第2回の会にも,チリーから2名の医師が参加し,日本の早期胃癌診断の実状がチリー国内に知られるようになった.かかる最近の事情にもとついて,チリー消化器病学会が主催による「胃癌会議」が,4月20日から4月25日までの1週間,チリーの首都Santiagoと港で有名なValparaisoで開かれた.私はチリー消化器病学会の招請により昭和45年4月16目から4月30日までの2週間にわたり,チリー消化器病学会主催「胃癌会議」に出席して,チリーの胃癌の診断,治療についてチリーの医師と懇談した.以下簡単に,スケジュールとチリーの胃癌についての感想をのべてみたい.

 右表のスケジュールでチリーの中心的病院を5個所視察して,早期胃癌について講演し,持参した生検用ファイバースコープで胃生検を行なった.各病院をまわり,胃癌会議に出席したが,チリーの胃癌の頻度が高く,日本における胃癌頻度と同様で,瀬木教授の世界ガン統計に認められている.

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 胆道疾患診断法としての術中胆道内視の意義については,欧米では古くより認識されており多数の報告があるが1),わが国ではその数はきわめて少ない.欧米での報告は,ほとんどすべてWildegansの胆道鏡を用いてなされたものである.わが国においても,Wildegansの胆道鏡に類似した硬性胆道鏡が試作され,発売されたこともあったが2),広く普及することはなかったようである.その理由として考えられることは,胆道内視の重要性は明白であっても,①内視鏡が硬性であるため操作上慎重を要すること.②明視を妨げる胆汁を稀釈し排除するために用いる灌流液が胆道外に漏れ,そのため腹腔内汚染という外科医のもっとも嫌う現象を惹起したこと.③胆道鏡の胆道内挿入深度に限度があること.④単なる主観的観察が行なえるだけで,遺残結石・胆泥・胆砂等の除去ができなかったこと,などが挙げられよう.この硬性であるということは,硬性の食道鏡や胃鏡の使用がそれらの専門家達に限られていたことと規を一にすると考えられる.

 近年,ファイバースコープが医学領域に導入されて以来消化管系各臓器に広く臨床応用が行なわれてきた.胆道系においては1965年,Shore&LippmanらがAmerican Cystoscope Makers Inc.(ACMI)製のfiexible choledochoscopeを使用し,胆道系内腔を手術時に観察し報告したのが最初である3).現在まで非開腹で経口的にスコープを挿入して胆道内視を行なった報告は,いまだみない.軟性の胆道鏡を使用することによって,硬性鏡を用いるより安全かつ容易に胆道内腔が観察できるようになったのは,大きな進歩であったが明視を妨げる胆道内胆汁の処置については,ACMI製品は灌流溝をスコープに内蔵させ注入を行なうようになっていて,Wildegansの胆道鏡と構造的には類似している.そのため灌流液が総胆管のスコープ挿入口より,腹腔内に漏出する欠点は解決されていない.したがって,軟性の胆道鏡において胆汁排除方式が確立されれば,外科医達によってひろく胆道疾患の術中診断に実施され普及することが予想される.

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 本項では一般の消化管穿孔についてのべるのが妥当であろうが,範囲があまりにも広すぎるので,ここには一般臨床像がしばしば見のがしやすい十二指腸前壁潰瘍の診断についてのべることにする.

 十二指腸潰瘍が穿孔したとき,一般にはその患者はとりあえず外科を訪れることが多く,内科にまわされても,なんとなく穿孔だろうとされてすぐ外科にゆくのが多い.外科は最終までめんどうをみることになる.穿孔した患者が今まで一度も医師を訪れたことがない場合は仕方がないが,一度でも医師を訪れておれば患者は不信をいだくであろう.

診断の手ほどき

消化管穿孔の診断 四方 淳一
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 消化管穿孔という言葉の使い方を考えてみると図1に示すようになる.ここに墨東病院外科で手術をおこなった消化管穿孔による汎発性腹膜炎の症例の内訳を表1のに示す.この稿ではまずその代表的疾患である胃・十二指腸穿孔についてその診断を述べ,しかるのちにその他の腸管穿孔についてふれてみたい.

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欧文目次

編集後記 信田 重光
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 X線,内視鏡,細胞診,生検標本,切除標本,病理組織標本などの色とりどりのきれいな数多い写真を特徴としている本誌で,診断面とはいささか遠いテーマが今月号の特集となった.編集会議でこのテーマがとり上げられた理由は,「胃と腸」の腸の方を育てる意味合いと,また消化管の穿孔は臨床的には重要な地位を占める疾患であるだけに,消化管各部の診断学が進歩して来た現時点における病像の再認識という意味合いもあったものと思われる.その意味で老人や新生児の穿孔を含めて,胃・十二指腸潰瘍,胃癌の穿孔などが主題としてえらばれ,それぞれの分野のエキスパートである山城先生,植田先生,並木先生,西先生方の論文をいただいて骨組みをし,信田が総論的なことを述べ,さらに比較的珍らしい穿孔例を症例提示の形で諸先生方にまとめていただいた.そして技術解説として青山先生に穿孔を起こしやすい十二指腸潰瘍の診断面を,また診断の手ほどきの欄を急性腹症としての消化管穿孔症例をたくさんお持ちの四方先生に御担当いただいて消化管穿孔のしめくくりをしていただいたものである.消化管穿孔の現時点における病像の特徴が浮きぼりされれば,この特集の意義があったものと思われる.

基本情報

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胃と腸
6巻4号 (1971年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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