胆道疾患診断法としての術中胆道内視の意義については,欧米では古くより認識されており多数の報告があるが1),わが国ではその数はきわめて少ない.欧米での報告は,ほとんどすべてWildegansの胆道鏡を用いてなされたものである.わが国においても,Wildegansの胆道鏡に類似した硬性胆道鏡が試作され,発売されたこともあったが2),広く普及することはなかったようである.その理由として考えられることは,胆道内視の重要性は明白であっても,①内視鏡が硬性であるため操作上慎重を要すること.②明視を妨げる胆汁を稀釈し排除するために用いる灌流液が胆道外に漏れ,そのため腹腔内汚染という外科医のもっとも嫌う現象を惹起したこと.③胆道鏡の胆道内挿入深度に限度があること.④単なる主観的観察が行なえるだけで,遺残結石・胆泥・胆砂等の除去ができなかったこと,などが挙げられよう.この硬性であるということは,硬性の食道鏡や胃鏡の使用がそれらの専門家達に限られていたことと規を一にすると考えられる.
近年,ファイバースコープが医学領域に導入されて以来消化管系各臓器に広く臨床応用が行なわれてきた.胆道系においては1965年,Shore & LippmanらがAmerican Cystoscope Makers Inc.(ACMI)製のfiexible choledochoscopeを使用し,胆道系内腔を手術時に観察し報告したのが最初である3).現在まで非開腹で経口的にスコープを挿入して胆道内視を行なった報告は,いまだみない.軟性の胆道鏡を使用することによって,硬性鏡を用いるより安全かつ容易に胆道内腔が観察できるようになったのは,大きな進歩であったが明視を妨げる胆道内胆汁の処置については,ACMI製品は灌流溝をスコープに内蔵させ注入を行なうようになっていて,Wildegansの胆道鏡と構造的には類似している.そのため灌流液が総胆管のスコープ挿入口より,腹腔内に漏出する欠点は解決されていない.したがって,軟性の胆道鏡において胆汁排除方式が確立されれば,外科医達によってひろく胆道疾患の術中診断に実施され普及することが予想される.