胃と腸 6巻3号 (1971年3月)

今月の主題 早期胃癌と紛らわしい病変

主題

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はじめに

 胃疾患に対するX線診断ならびに内視鏡診断および胃生検技術の進歩により,早期胃癌の診断学はほぼ確立されたのではないかと思われる.すなわち,検査体系の方向を誤まらない限り早期胃癌の診断はⅡb型と1cm以下のものおよび診断困難部位にある小さなものを除いては,比較的容易になったといえるだろう.

 それにつれて,近年,早期胃癌類似の肉眼所見,X線所見,内視鏡所見を呈する早期胃癌と紛らわしい病変が数多く経験されるようになり,それらが症例報告として論文に,研究会での討論の対象とされるようになってきた.これもやはり,診断学の進歩の過程での一つの現われであると考えられる.

 種々の診断技術が向上して,以前は看過されていた微細な変化がとらえられ,かつ微細な読みがなされるようになったため,逆に早期胃癌に特徴とされている所見と類似した所見が非癌病変にも認められ,しばしばその鑑別に迷わされることがある.またそれと同時に,胃疾患の診断に従事する者は,どちらかといえば悪性の方に傾いて診断の思考過程を進めがちである.このことも非癌病変を癌と誤まる一つの原因ではなかろうか.それ故に早期胃癌と紛らわしい病変と早期胃癌との鑑別診断の正確さがますます要求されているというのが現状であろう.

 X線診断の立場では,1967年に白壁らが「早期胃癌の鑑別診断」として類似病変に関して総括的かつ詳細に論述している.基本的にはその論文につけ加わえるものはないように思われる.ただ,それ以後の約4年間になされた症例報告,研究発表と筆者らが自験した経験例から得られた若干の知見が補足されるのみである.それで,この小論は,先達の文献および研究会,雑誌などで発表された症例を参考としながら,筆者らが開業医の立場において経験した自験例を中心として,早期胃癌と紛らわしい病変について述べてみることにする.

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はじめに

 数年前までは,良性潰瘍の増悪期あるいはその不完全な治癒過程の病像やその完成した瘢痕,良性びらん,慢性胃炎あるいはポリープなどが早期胃癌と紛らわしい病変の主役をなしていた.しかし,これら病変の鑑別診断については今日のような早期胃癌に対する診断学が進歩する過程において,数多くの研究がなされ,すでにほとんど集大成されたようにも思われる.しかし,日常癌を見逃がすまいとする内視境検査の場においては,これら良性病変の作り出す病像が多彩であるため,今もなお,その良悪性の鑑別に苦慮することがしばしばである.さらに,最近は胃生検をはじめとする内視鏡診断能の進歩と普及により,以前にはあまり知られていなかった悪性リンパ腫,reactive lymphoreticular hyperplasia(RLH),好酸球肉芽腫,胃梅毒,またはいわゆる異型上皮などが内視鏡診断上,早期胃癌類似病変として経験されるようになってきた.このように,早期胃癌と紛らわしい病変は言葉をかえればfalse positiveの病変として筆者らを悩ませているわけである.胃集検などによる早期胃癌発見率の向上により,従来あまりみられなかった非定型的な早期胃癌症例,微小早期癌,Ⅱb病変などが術前に診断されるようになり,他方その面でもうかうか診断に従事することができなくなった.これらの病変はfalse negativeの病変として筆者らの関心をひく.これら両面から早期胃癌と紛らわしい病変の大部分は,すでに本誌2巻5号の総説をはじめ,多数の論文,著書などがあるので別に事新しい問題ではないが,表題のごときテーマを与えられたので,筆者らが経験した早期胃癌と誤診され易い良性病変および良性病変と誤診し易い早期胃癌の内祝鏡診断について述べてみたいと思う.

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はじめに

 近年,早期胃癌の症例も全国的に各施設が数多くの経験を持つようになり,胃内視鏡診断学も進み,胃生検診断が加わるに及んで,早期胃癌,あるいは進行胃癌の表面微細な変化を含めて,悪性様相を決定づける因子が解明され,確立されてきた.しかしながら,内視鏡的には,たとえば,Ⅱcの浅い陥凹を診断するのに,その全周が明らかに追求できるという写真は筆者らの経験で驚くほど少ない.集中粘膜ひだ先端の性状においても同様で,肥大は目立っても,その先端における癌浸潤特有の蚕蝕像,不規則なけずれなどの微細な特長を描出し得た症例も多くはない.これらは胃液などの液性介在とか,撮影態度,空気量の多少,体位変換の有無などの条件が大きな原因である.

 これらの条件を考慮し,きめ細かな撮影が行なわれて初めて病変部の微細所見の描出も可能となってくるが,普通,多数の患者を扱う一般外来では,いつも満足し得る写真が得られるとは限らない.もちろん,全体像,経過像,さらにはレントゲン検査を含めて,総合的な結果から理論的には判定を下し得ても,実際の内視鏡診断の立揚では困難なことが多く,その場合には胃生検がその役目を果してきた.

 最近では,Ⅱb型早期胃癌の存在を疑うことをも含めて,胃内視鏡ではあらゆる映像に対し一応悪性の存在を疑わざるを得ない.とくに以前に,良性と思い込んで経過を追求しているうちに,胃生検を行なってみたら,癌が証明されたという苦い経験を持っていれば,次に以通った病変像に出会った時,良性よりは悪性へとover readingしてしまうのはむしろ当然であろう.とは言っても,それだけの理由で,良性のものをたびたび悪性として処置することは,当然のことながら許されるべきではない.良性病変で強く悪性を疑わせた所見を悪性病変のそれと対比し,その意味の違いを反省して,今後,良悪性鑑別の手がかりの一つとすることは大変有意義なことと思われる.筆者は,過去に経験した内視鏡像で,良悪性ともに大変よく似た症例を比較して,両方の違いを出そうと試みた.症例は,なるべく多くを供覧するようにした.

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はじめに

 胃疾患の診断の進歩により,最近では微細病変がとらえられるようになった.筆者らの施設でも1cm以下のいわゆる微小胃癌が6例発見されているのは,X線および内視鏡検査の発達を如実に物語るものである.そして,発見された早期癌も従来の定型的なものは勿論だが,切除胃の肉眼所見をみても,これが癌かと一驚する症例も報告されるようになってきている.しかし一方では,術前早期胃癌を疑って手術を行ない良性病変であった例もしばしば報告されている.

 今回のテーマは早期胃癌と紛らわしい病変であるが,当院では,癌,もしくはその疑のあるものを優先して手術するわけで,特に胃生検を実施してからこの傾向はかなりつよく,非癌病変の手術例は少ない.

 今回は胃生検を実施できたこの5年間の手術例にしぼり,早期胃癌に紛らわしい病変を検討したい.

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 X線,内視鏡による診断能の向上,さらに生検・細胞診の普及により,早期胃癌の診断学は目覚しい進歩の跡をみせているが,他方,早期胃癌と鑑別困難な病変に遭遇することも多々あることは現状では否めない.

 X線,内視鏡を中心に,紛らわしい隆起性,陥凹性の病変のそれぞれにつき,鑑別診断の手がかりを豊富な経験からお話し願った.この診断の克服が,ひいてはⅡbの術前診断学の確立へと向かうことは臨床家の一致した意見であり,また今後の大きな課題でもある.

早期胃癌と紛らわしい症例

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はじめに

 早期胃癌も定型的なものから非定型的なものまで,個々の症例においては千差万別で,また一方,慢性胃炎による胃小区の変形,びらん,潰瘍,その他の胃疾患による粘膜変化の多彩性にも驚きの目を見はることがある.そして,ある病変の形態的特徴を規定することの困難さを痛感する.しかし,さらに詳細な観察をすることによって表面的に類似した病変相互の差異を発見し,誤診をまぬがれるよう勉強を続けなければならない.このような点から,早期胃癌各型に類似した病変のうち,代表的なものをそれぞれ2,3選び肉眼的,組織学的に検討してみた.

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はじめに

 胃疾患の診断は,最近の目ざましい技術の進歩によって非常に正確になってきた.この症例は,まだファイバースコープや生検を行なっていなかった昭和42年のもので,レ線と切除標本から間違いなくⅡcと思われたのであるが,病理診断で良性潰瘍(Ul-Ⅱ)と訂正された例である.現在では,直視下生検などで誤診されることはないと思われるが,形態だけからはⅡcと極めて紛らわしい潰瘍もあるという点で興味深く,報告する.

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1.早期胃癌の深達度診断はどの程度まで可能か―smの癌で深達度が判かるのは50%程度―

 smに浸潤している早期癌といっても,組織学的に調べるとピンからキリまであります.顕微鏡でやっとsmの浸潤が認められる程度のものから,これが早期癌かと思われる程に広くsmに浸潤しているものまでその程度は全く多様です.以上のような理由で肉眼的にmとsmの癌を区別するのにはおのずから制約があります.いま,潰瘍を伴う型の癌のsmに浸潤している程度を+(ミクロでsmの浸潤が判かる程度),++(潰瘍縁の1部にある程度の拡がりを有しているもの),+++(潰瘍の周囲にかなり広く浸潤しているもの)の3種に分けて調べると,70例では+21%,++48%,+++31%の割合になります.

 +の程度ではsmの肉眼診断はまず不可能で,mの癌と区別がつきません.+++のものは診断可能.++のものは診断できるものと,できないものが半々程度です.こうしてみるとsmの肉眼診断可能例は50%程度ではないかと思います.

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はじめに

 この症例は,内視鏡とX線の術前診断が大きく相違していた症例である.内科入院約2カ月の問に,X線検査を3回,内視鏡検査を5回施行した.その結果,多発潰瘍が治癒傾向を示していること,および胃角に線状潰瘍があるということでは両検査法の結論は一致していた.しかし,現在,内視鏡検査のレポートは残っているが,フィルムそのものは,術前3週間のものしか残っていない.しかも,撮影条件が極めて悪いものしかなく,経過を明らかにできないのが残念である.

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はじめに

 最近の胃X線,内視鏡検査の診断能の向上は著しく,多数の早期胃癌が発見されるようになったが,一方ではそれでも術前に癌の拡がりを正確に捉えることが難かしい症例も次第に報告されるようになってきた1).確かに,切除胃の組織学的所見とX線または内視鏡所見の把握(時には肉眼所見も含めて)にかなりの差を認めるために,さらに注意深い観察のみならず,何らかの補助的診断法の導入または基礎的なgastric areaの解析が望まれる症例も少なくない.すなわち,早期胃癌の病像がその内部や周辺の潰瘍性病変や隆起性病変に修飾されることに注目して癌の拡がりを診断し,組織所見との精確な対比による病像の解析を常々行なう習慣づけが望ましい.本例は,病理組織学的な検討による癌の局在がやや特異的で,生検採取部位の決定にあたっても注意しなければならない2,3の興味ある所見がみられたので報告する.

診断の手ほどき

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 早期胃癌の内視鏡的分類は,主として目本内視鏡学会の分類が基本となっている.

 この各型における良性との鑑別は時に非常にむずかしいことがある.

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欧文目次

編集後記 佐野 量造
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 「胃と腸」を読まれている大部分の先生方はおそらく本号の主題である“早期胃癌と紛らわしい病変”に毎日悩まされつづけておられることと思う.この主題について,開業,一般病院,がん専門病院,大学病院と,患者層や設備を異にする立場の先生方に本号でこの問題を論じていただいたのは有意義なことである.

 早期胃癌の診断について,それぞれ制約された条件のもとで懸命に努力され,成果をあげておられる皆様に敬意を表したい.

基本情報

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胃と腸
6巻3号 (1971年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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