胃と腸 6巻11号 (1971年10月)

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 胃の前壁撮影法をとりあげる場合病変のひろいあげを目的としたルチン検査法と,病変の質的診断を行なう精密検査法とを分けて考えなければならない.

 ここでは主として後者,すなわち精密検査法について,日頃行なっている方法について述べたい.

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はじめに

 胃後壁病変は二重造影法と圧迫法の駆使によって,5mm前後の微小病変もルーチンX線検査で比較的容易に現わせるようになってきた.これは,後壁病変のルーチン検査体系が確立されたためである,これに反して,前壁病変は,従来,経験的に頻度が少ないと考えられたことと,従来より行なわれていた粘膜法が面倒なわりに診断能がよくなかったために余り熱心に行なわれず,圧迫法が前壁検査法の主体をなしていた.しかし,胃カメラの普及により前壁病変がかなりの頻度に存在することがわかってくると,X線検査で見落しやすい前壁病変をいかに現わすかが問題になってきた.とくに,圧迫法のない胃集団検診,および,圧迫法がかならずしも十分に行なえないX線テレビ検査では大きな問題になる.新しい前壁撮影法がつよく望まれているわけである.

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はじめに

 進行癌や,大きな潰瘍やポリープなどがX線診断の対象になっていた時代には,胃前壁病変のX線診断はあまり問題にならなかったようである.充盈法や粘膜法,圧迫法(現在のレベルの圧迫法ではない)で診断される病変が,そのままX線診断の限界と考えられていた,ところが,仰臥位の二重造影法によって胃後壁の早期癌が適確にX線診断されるようになり,次いで,胃カメラで胃前壁の早期癌(とくに表面陥凹型早期癌Ⅱc)がぼつぼつ発見されるようになったころから,胃前壁病変のX線診断はむずかしいと取沙汰されるようになった.仰臥位の二重造影法では適確に現わしえないからである.私どもが昭和40年に胃前壁の病変のX線診断には腹臥位二重造影法がよいことをはじめて報告したのはこの頃のことである.その後,腹臥位二重造影法は急速に普及し,多くの報告が発表された.工夫も加えられた.しかし,腹臥位二重造影法は,仰臥位の二重造影法に比べて,技術的にむずかしい,胃液の多いときにはよい写真がとれない.瀑状胃や肥満者では実施できないといったことから,どうものびなやみの感がある.

 これとは別に,胃前壁病変とはいっても,隆起性病変か陥凹性病変かによって,病変の大きさや陥凹の差,存在部位,それに患者の個人差などによって,X線検査の仕方も当然変ってくる.また,病変を単にチェックするだけでよいのか,それとも精密検査をして病変を忠実に現わすことが必要なのかどうかによって,X線検査は違ってくる.

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 胃の後壁病変のX線診断に関しては,二重造影法の開発によりほぼ完成されたと言っても過言ではないが,前壁病変に関しては腹臥位二重造影法あるいは圧迫検査によって目ざましい向上をみたとはいえ,技術的な問題も含めて未だに困難が多いことは否めない事実である.これに反して,内視鏡検査では前壁はレンズ面からの良好な観察距離が容易に保たれ,広い視野での観察が可能な部位である.このことから考えても,前壁病変については内視鏡検査が優れた診断能を発揮し,とくに前壁病変の存在診断に関しては極めて能率の良い検査法であることが首肯されるのである.したがって,良好な内視鏡的条件で,すなわち,病変部を十分に伸展させた状態のもとに正面直上方向,ならびに斜方向からの観察が適確な距離で行なわれておりさえすれば,前壁病変の診断に関しては鑑別診断すなわち観察された病変の内視鏡的質診断のみが残された問題として登場するはずである.しかし,実際問題としては,上述した観察あるいは撮影が十分に行なわれていたか否かが重要な問題であり,本稿ではかかる観点から下記の問題点について,前壁病変の内視鏡診断を考察してみたい.

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 白壁(司会) 胃の前壁といえば,薄層法という言葉がすぐ浮かびます.薄層法という呼び方をなさったのは入江先生,きようご出席の高橋先生,狩谷先生などです.言葉は同じ薄層法でも内容は全く異質な面もございます.内容的にみても,昔から粘膜像と呼んでいるものを薄層法といってたり,また同じ撮影法を薄層法といったり,前壁二重造影像と呼ぶ人もあります.なぜかというところを論じていただきたいと思います.

 ご出席の先生方は,前壁診断の第一線を歩んでこられた方々です.高田先生は1963年以来,増田教授とともに集検を対象にした場合,前壁病変に対して腹ばいの粘膜像の導入が必要であると主張されてきております.高橋先生は1964年以来,まず75%のバリウム30ccのあと,10%のバリウム70ccを使ってスクリーニングする.これを薄層法と言われております.中島先生は1964年以来通常のバリウムを使って腹ばいの粘膜像を高圧でとることを発表されてます.この点についても,いまは何か変法をなさっているかもしれません,古賀先生は1967年以来,前壁検査はroutine検査には不適である.圧迫検査で目的を達すると言われて,きれいな前壁像を掲げていらっしゃいます,狩谷先生は,1969年から50%,50ccのバリウムに空気300ccを加える方法,すなわち積極的に空気を注入することを主張しております.八尾先生は,1966年以来,岡部先生とともにバリウム50ないし100cc,それに空気を多量に入れる検査をなさり発表されています.望月先生はたくさんのご経験から,いろいろな批判や,いままで申し上げてきました方法の改良なんかも工夫なさっているんで,そういうお気持ちを十分に述べていただくと幸いです.きようは具体的な最高の討論が行なわれるのではないかと,楽しみにしております.

一頁講座

Comptonの囊 竹本 忠良
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 以前,胃鏡検査をやっていた頃のことである,しばらく廊下の長椅子に坐ってやれやれ苦しい検査も終ったと思っている患者から稀ではあったが,両顎のところが急にふくれているが心配ないでしょうかといわれたことがあった.

 たしか4~5例は経験したように思う.患者の訴えがあってよく視ると,たしかに両側の耳下腺の下が対称性にプーと腫れている.触ってみると柔かい腫脹で,血腫ではないことはすぐわかる.自発痛もないし,圧痛も訴えない.空気が入ってふくらんでいると表現するのがいかにも正しい.

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 本誌20頁でComptonの囊(Compton's pouches,Compton-Taschen)について説明したが,それと一見似ていてことなり内視鏡検査役の顎下腺の腫脹について述べよう.

 OttenjannらのGastroenterogische Endoskopie,Biopsie und Zytologie(1970)は146頁の新書版よりほんのすこし大きい小冊子で,このなかに顎下腺腫脹について,簡略な説明(p.51)がなされている.そこにも文献が引用されて,その項の説明は1)の内容をkurzfassenしたものと思われるが,Slaughterら(1969)の報告が最初と思われる.

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 びらん性胃炎という言葉は,びらんが多発し,所見として著しく目立つ場合に,胃炎の一つの修飾亜型として使うべきであって,独立疾患(entity)と見なすべきではない.肉眼およびAH法実体顕微鏡観察からびらんは次のように分類し得る.①点状,②線状,③樹枝状(図1),④類円形,⑤星形(多角形)(図2)⑥広汎地図状(図3),⑦たこいぼ(図4),⑧出血性,⑨堤尖びらん,またその分布状態から,A)幽門腺域ことに小彎部に多発する型,B)中間帯付近に多発する型,C)体部腺域に多発する型に分けられる.Aが最も多く,次いでB,Cの順である.B,Cが単独でおこることは稀で,多くの場合Aと合併しておこる.

 びらん面は図1,2,3,4のごとく,胃小溝模様(SP),胃小窩模様(FP)の不鮮明化,あるいは消失を来し,またヘマトキシリン不染巣を示すことが多い.びらん周囲の胃粘膜のFPやSPは,図1(右1/3)のごとく著しく乱れていることが多い.この部は再生した粘膜で,かつてはその範囲までびらんであったことを物語っている,多発性びらんの場合は各種びらんが多彩性に入り交って現われる.すなわち,多数の星形(多角形)びらんが散在し,その間を樹枝状びらんが連絡しているような像をしばしば見る.また図1左端のような肉眼的には点状ないし米粒大位のUl-Ⅱの小潰瘍(私はこれをmicroulcerとよんでいる)が散在し,この間を樹枝状びらんが連絡していることも多い(私はこのようなものをulcero-erosive gastritisとよんでいる),たこいぼびらんはびらん辺縁の粘膜が,炎症反応(細胞浸潤,浮腫など)によって,あるいは粘膜上皮や腺の過剰増生によって隆起したものである.図4のたこいぼは前者で,図5は後者でしかもその治ゆ像である.また前者のみによるたこいぼは消えやすいが,後者によるものは消えにくい.出血性びらんは,種々の程度の粘膜壊死と強い出血を伴う斑状,線状,地図状びらんで,塩酸ヘマチンを形成して黒褐色を呈する.だいたい,1,2週位で消失することが多い.堤尖びらんは粘膜のごく表層のみのびらんで一種の剥離性カタル性炎(desquamative catarrh)で,肉眼,内視鏡などで診断しにくいことが多い.

印象記

ヨーロッパ学会見聞 川井 啓市
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 今回チェコスロバキアのプラハで会長Prof.MaratkaのもとUrgent Endoscopyに関する国際シンポジウムが開かれたのですが,このことについては既に東京女子医大の竹本教授から御報告がありましたので省略し,ヨーロッパの消化器学会での動向を含めて2,3の気付いた点をお知らせします.

 筆者は,プラハでの学会を終えてMedizinische Hochschule Hannover(日本流にいえばハノーバー医科大学,入院ベッドは新築中のものを入れると2,500ベッドでヨーロッパでは最大)に招聘され,目下内視鏡検査の指導や,放射線科で日本で開発された二重造影法のデモまたは病理学教室とタイアップして切除胃の管理などを行なっています.

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ウルグアイ

 人口280万人,面積18万7千平方キロ,ブラジルとアルゼンチンにはさまれ,南米のスイスといわれるウルグアイは本年12月に,第12回パンアメリカン消化器病学会の開催国になったため,早期胃癌の発見に関しての気運が高まりつつあった.

 首都モンテヴィデオは,隣りのブェノスアイレスから飛行機でわずか30分の距離である.有名なアルゼンチンタンゴもブェノスアイレスで始まったものと思っていたが,実はモンテビデオの下町から始まったのだと聞いて,認識をあらたにした.この国には,まだ日本製内視鏡器械は導入されていないが,Hirschowitzのスコープを用いての長い歴史があり,パンアメリカン消化器病学会のシンポジウムにも,内視鏡,胃癌早期発見の方法等のテーマを中心に,ちからを入れている.日本の胃癌診断技術が高く評価され,この度の学会には駐日ウルグアイ大使館が協力して,日本の医師達の参加を強く呼びかけている.

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はじめに

 消化管のカルチノイドの報告は,最近比較的多くみられるようになったが,胃原発カルチノイドの症例は比較的少ない.欧米諸国では,Askanazy(1923)1)が剖検で偶然に発見して以来,1968年までに89例を数えるといわれる2).本邦における胃カルチノイドは,1962年の大杉らの報告3)を初めとして1970年までに14例が報告されており,その他,阿部によると,5例みられるという24).しかし本症例のように,術前に診断し得たのは,八尾らの報告16)に次ぐものであり,また本邦の報告症例の中では最年少であり,かつ最も小さいものであるので,経過の概要を述べるとともに,若干の文献的考察を加えてみたいと思う.

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はじめに

 自覚症状は全くなく,職域の胃集団検診で,偶然に発見されたⅠ型,Ⅱaおよび粘膜下腫瘍の混在した1胃表層癌症例を経験したので報告する.

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はじめに

 1888年Menetrierは胃の粘膜が胃腺の肥大によって限局性,もしくは瀰漫性に大脳回転を思わせる程に発達し,特異な巨大皺襞を呈する良性の疾患に病理組織学的な考察を加え,polyadenomesen nappeという名称を与えて報告した1).今日,Menetrier病といわれるのがこれである.しかし,本症には20に近い同義語2)~5)があり,臨床的概念および病理組織学的本態は未だ確立しているとはいい難い.

 筆者らの症例は文献的考察から本症に該当するが,臨床診断学的ならびに病理組織学的に興味ある所見を呈したので,本症をめぐる問題点に若干の考察を加えて報告する.

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はじめに

 筆者らの教室における胃の非上皮性腫瘍は25例で,そのうち3例の胃壁内迷入膵および3例の炎症性肉芽腫を含んでいる.これは教室の切除胃2,400例に対して,約1%の頻度にあたる.明らかな良性腫瘍例は11例で,8例は胃原発性悪性リンパ腫である.これらの非上皮性腫瘍は術前の胃X線検査,内視鏡によっても,胃癌との鑑別の困難な症例が多く,これらの症例の19例に細胞診を施行した.その経験例をもとに胃癌と鑑別すべき細胞について,悪性リンパ腫例を中心に述べてみたい.

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欧文目次

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 高橋正宜博士のColor Atlas of Cancer Cytologyを一読して,私の敬愛する高橋博士が数年間に亘って努力して完成したこの書を,心から同学の士に座右の銘とさるるようにおすすめする.本書は英文であるが,これは単に外国にだけ届けるべきではなく,わが日本の学者も共に愛読すべき書物である.

 この快著の,最もひかれる所以は,すべての写真が著者自らの卓越した技術による撮影であることによる.それは単に記録の写真ではなく,正に顕微鏡下に見ている標本そのものといってよい.単に技術員が撮したのと違って,著者が説明しようとするところを徹底的に捉えているので,正に生きているといってよい.このような著書が世界中に未だ嘗てなかったのである.

編集後記 高田 洋
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 近時,胃のX線検査は体系化され,その診断も微に入り細をきわめ,後壁あるいは彎在性病変に関してはAreaのオーダーに於て論じられるまでの進歩をみた.その中で,こと前壁病変に関する限りX線診断に対する考え方も,また検査方法も未だ取り残された感が深い.早期胃癌の胃内占居部位についての諸家の報告をみても前壁に局在する%は後壁のそれに比して極端に低いとは言えない.吾々の経験からしても前壁に局在する病変が数多くの体位での撮影フィルムの中で彎側に近くなり辺縁像に異常として現われたり,後壁の二重造影像に輪廓像として表現されたり,あるいは注意深い圧迫撮影で発見されたりしている場合が多い.しかし,圧迫法を除けば積極的に前壁病変を診断しようという立場とはいえない.多分に偶然性が介在しているのである.

基本情報

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胃と腸
6巻11号 (1971年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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