胃と腸 5巻6号 (1970年6月)

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 早期胃癌とくに陥凹性早期胃癌内の潰瘍が治癒傾向をもち,治癒する潰瘍かならずしも良性ではないことが,臨床例多数をもって明らかにされたのは比較的最近である1)~4)

 胃カメラにつづく各種胃ファイバースコープの改良と普及が,このような臨床資料をつくった主な原因といってもよいであろう.

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 胃静脈瘤に関する報告は従来少なく,食道静脈瘤に比して極めて稀な疾患であると考えられてきた.しかしながら食道静脈瘤の存在する門脈圧充進症患者のレ線像をよく検討すると,胃静脈瘤が併存する場合が稀でないこと,また食道静脈瘤を伴わず胃静脈瘤のみ存在する例もあることが認められてきた1).一方血管外科の発達してきた今日,胃静脈瘤の外科的処理の観点から術前に,病変を正確に把握することは緊急の問題であり,その第一段階として胃静脈瘤の正確な診断が要求されるわけである.最近,食道静脈瘤を伴わず,典型的な胃レ線および内視鏡所見を呈し,経動脈性の門脈造影により確診しえた胃静脈瘤の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.症例

 患者:60歳 ♀

 主訴:上腹部膨満感

 既往歴,家族歴:特記する事項を認めない.

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 日本住血吸虫は古くは広島,岡山,山梨,佐賀,福岡のほか,茨城,千葉,埼玉県などにも分布していたが,現在では山梨県の甲府盆地および広島県片山地方,福岡,佐賀の両県にまたがる筑後川流域のみにみられ,他の地方ではかげをひそめている.

 日本住血吸虫症の病原体である日本住血吸虫は腸管壁の細小血管に産卵するため,本虫卵が腸管壁に寄生して外科的障害を惹起したとの報告はかなり多く,腸管,特に直腸,虫垂壁,回盲部,S状結腸壁に日本住血吸虫卵(以下日虫卵と略す)の介在をみたとの症例報告は数百例を数える.日本住血吸虫は門脈に寄生する関係から,その分枝領域にある胃および十二指腸にも当然虫卵の介在は起こりうるが,人体でははなはだ稀で,胃・十二指腸潰瘍および癌腫に日虫卵の介在をみたとの記載は表1に示すように,宮川5例1),古賀1例2),矢野1例3),佐藤1例4),古賀3例5),鈴木2例6),土方1例7),大野1例8),川久保1例9)の計16例を算するに過ぎない.

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 腸管に生じる良性腫瘍のうちで,十二指腸は回腸につぐ好発部位である.その多くは腺腫,平滑筋腫によって占められる.消化管においては,上皮性の良性の隆起をポリープと呼びならわしているが,十二指腸の場合には腸上皮,腺による場合と,ブルンネル腺が主であるadenomatous po1ypがある.これらは発生部位,性格をかなり異にすると考えられ,区別して考えられるべきものである.

 本稿では,十二指腸に生じていた,おそらく炎症性であろうと思われるadenomatous polypを報告し,若干の考察を加えることとする.

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 本邦では成人の十二指腸粘膜面の先天性異常についての報告は稀である.筆者の一人木原は,先にIncomplete congenital septa of the duodenal bulbのレ線像を報告したが,1)今回はIntraluminal Duodenal Diverticulaの1例について報告する.この症例は3年前に診断し,その臨床経過を観察,最近手術を行なったものである.Intraluminal Duodenal Diverticula報告例はレ線所見,手術所見を中心とすると,欧米では38例の報告例があり,極めて稀なものでもない.しかしながら,筆者らの調査した文献の範囲では,本邦ではこの症例が初めてのように思われるので,その特徴的なレ線所見を中心に報告したい.

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 Peutz1)-Jeghers2) Syndromeは比較的稀有の疾患群とされてきたが,本邦では1955年長洲ら3)の報告以来126例が報告されている.しかし,その多くは色素斑を中心に皮膚科から,または腸重積の手術例を中心に外科から観察されたものであり,内視鏡が発達した昨今でも内科からの報告は少ない.このたび筆者らは同症例に遭遇し,胃のほか食道・十二指腸・大腸をも内視鏡的に観察する機会を得たので報告する.

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 糞線虫Strongyloides stercoralis(Bavay)は熱帯亜熱帯地方に広く分布し,人体に寄生する小桿線虫である.本邦においては沖縄,奄美群島地方に多く,流行地では罹患率もかなり高いが,大量の感染および頻繁な自家感染のある場合を除けば大部分は無症状に経過する.他の地方でも流行地からの移住者がなんらかの誘因によって急性症状を呈した報告が散見される.筆者らは最近著明な低蛋白血症および腸管吸収障害を伴った重症糞線虫症のthiabendazole治癒例を経験したので,その概要について報告する.

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 腸重積症は臨床上稀な疾患ではないが,その多くは小児に発生し,しかも全体の75%は2歳以下の年齢層で占められている.これに反して成人における発生頻度はかなり低いといわれている.

 臨床症状として小児の場合は特徴ある症候(嘔吐,腫瘤触知,仙痛)を呈することにより本症を疑わしめることが多いが,成人の場合はかなり非典型的な経過をとるため両者の間には臨床的にかなりニュアンスが違っているように思われる.

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 胃のX線検査ほど,患者には「透視」ということばで知られ,放射線専門医の手をかりなくても,一般臨床医によって手軽く,しかも広く行なわれている造影検査はない.その反面,透視による的確な病変部位の把握も行なわずに,明るい部屋でがぶっとバリウムを飲ませて撮影するに過ぎない簡略な方法から,微小焦点廻転陽極管を使用したテレビ透視下での狙撃分割撮影をfullに行なった詳細な検査法まで区々である.

 検査にあたっては,まず装置の優劣,胃液1)や粘液2)の存否,造影剤3)4)の良悪ないし胃内外陰性造影剤(発泡剤5)や人工気腹6)7))を併用するかどうかなどが問題となるが,いずれも胃の粘膜像をより見落とし少なく,広範かつ正確に画き出そうとする試みにほかならない.従来,多くの研究者によっていろいろな工夫がなされてきたが,いずれも適当な体位8)で,適量の圧迫dosierte Kompression9)を加えて粘膜像を現わすことが基本となっている.

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 ファイバースコープの出現は,胃内視鏡の活動分野を急速に拡大し,病巣の部位を弁別して生検試料をえることすら可能にした.いわば体内にある胃壁をあたかも体表に直視しうる臓器のように我々の手ちかな対象にしてくれた.いまこの胃壁に対して自由に注射が行なえるとすれば,次のような広範囲の目的に有効であろうとは誰しも容易に想いいたるところである.

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 最近の細胞化学的染色法などの発展にともなって,もはや胃の細胞学的診断法は完成の域に達したかの感がある.また種々の細胞採取法とくに内視鏡器具の改良によって,現在では諸氏の報告をみても非常に高い診断適中率がえられている.しかしいずれの場合にも細胞の形態学的な事項が根底をなし,細胞鑑別の重要な因子となるのはいうまでもない.すなわち胃癌のみならず胃潰瘍,胃炎,ポリープなどの良性疾患の際にも著しく異型度の強い細胞が出現するのは周知のとおりである.acridine orange染色法は1924年にStruggerによって考案され,1956年Bertalanffyによって細胞学的診断法に応用されるようになった.この染色方法の特徴はacridine orange色素が細胞内の核蛋白と結合しDNAは緑色にRNAは赤色に染まるため,細胞診にもちいると悪性細胞は螢光輝度が強く良性細胞と容易に区別でき,弱拡大のscreeningも簡単である点にあるとされている.筆者らは細胞診screeningをより迅速にしかもより正確にしようと試み,細胞採取と同時に細胞が染色される方法(筆者らはこの方法を胃螢光洗浄細胞診と呼んでいる)を考案したが,手技も簡単で診断成績も良好,しかも経済的な方法であるのでここに報告する.

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 最近,胃癌早期診断の発達に伴ない年々その遠隔成績は向上しているとはいうものの,まだわれわれの前に訪れる患者の中には高度の進行胃癌が早期胃癌に比べ圧倒的多数を占めていることは明らかであり,この高度の進行胃癌をどうするかがわれわれ外科医の大きな悩みとなっている.

 現在,手術療法,放射線療法,化学療法の癌3大療法が何れもその独自の立揚だけでは決定的なカを欠き,満足すべき遠隔成績を得ていない現況である.そこでわれわれは,術前放射線療法との併用により,手術適応の拡大を主眼とし,その治療効果を内視鏡学的にとらえ種々なる角度より検討を加え興味ある知見を得ている.

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 最近は手術手技,麻酔,術前術後の管理などの進歩,改善に伴って胃全摘,噴門側胃切除術などが日常盛んに行なわれるようになった.しかしこれら手術では通常の幽門側胃切除術に較べ術後の栄養,貧血,逆流性食道炎,断端部癌再発,社会復帰などの点でなお多くの問題が残されている.

 筆者らは最近5年間に当教室で手術した胃全摘および噴門側胃切除後の患者に対して町田食道ファイバースコープ(FES)による食道,食道空腸あるいは食道胃吻合部,空腸脚,幽門側残胃の内視鏡的観察を行ない,同時に各所の生検組織検査を施行し,特に食道については逆流性食道炎の実態を愁訴,内視鏡,組織学的立場から究明し,これらを相互に比較検討した.

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 近年serotoninおよびその関連代謝産物,さらに症候学上の問題などの点でいわゆるcarcinoid tumorが漸次注目を集めつつあることは,周知のとおりである.ことにその組織発生に由来すると思われる腫瘍発生部位による組織化学的,発生病理学的,ひいては臨床病理学的な差については興味ある報告がみられている2)7)8)25).すなわち,前腸系由来の気管支・胃・上部十二指腸などに発生するcarcinoidはargyrophil細胞を主な構成成分とし,中腸系由来の小腸・虫垂などのcarcinoidはargentaffin細胞を主な構成成分とすることが多く2)7)25),flushingなどの臨床症状発現の面でもその差違が指摘されている8)25)

 筆者らの研究室で,1965年8月以来飼育中のMastomysに発生した最初の腺胃部腫瘍の組織像が人のcarcinoidに極めて類似していることは筆者らの注目をひくところであった.しかしその後に発生した数箇の腺胃部腫瘤は,明らかに悪性上皮性腫瘍の組織像を示していたが通常行なわれているargentaffin反応は常に陰性であり,一方電顕的には極めてまばらに散在する特殊な球形顆粒を見出してはいたが,組織化学上の陰性所見より結論がつかぬままに,検索をすすめていたところ,米国NIHで古くより当動物の自然発生腫瘍について,観察をつづけておられるK.C.Snellよりの私信18)でargyrophil反応を試みるよう示唆があり,その所見が電顕上の解決困難であった問題の解明に一つの前進を促す結果となった.今後,人のcarcinoidと臨床上の諸問題を解決する手がかりを得るためのモデル動物としてMastomysが大いに活用されることが期待される.

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欧文目次

編集後記 内海 胖
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 今回はすべて投稿原稿であるが,症例についても,また研究面についても,いずれも興味深々たるものがあり,ねていてまつ“ぼたもち”式の出来あがりものでないことは,一読されればよく分ることと思う.

 たとえば,崎田氏らの症例報告にしても,今後問題となる食道の早期癌発見について大きな役割をなすであろうし,日本住血吸虫卵の報告(矢野)も目あたらしく,十二指腸ポリープの診断も現在はすでに内視鏡の分野に入ってきている.いずれの症例も,こくがあるものであり,読めば読むほど,勉強になるものである.

基本情報

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胃と腸
5巻6号 (1970年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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