胃と腸 5巻5号 (1970年5月)

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はじめに

 ここ10年間における本邦の胃癌早期発見の進歩はめざましく,胃癌の永久治癒という先人の悲願がようやく達せられてきた現状である.これはX線診断学を初めとし,内視鏡,さらに加えて胃生検技術の驚異的な進歩が,今日の成果をもたらしたものであることは論をまたない.

 さて,今日早期胃癌として定義されているものは,1963年第3回胃癌研究会(新潟)において「癌の浸潤が粘膜下層にとどまるもの」であった.しかし,リンパ節転移のあるものもこの枠に入れるべきか否か当然議論の対象となったが,それ以後この問題は論議されることなく,リンパ節転移を有するものも含めて早期胃癌として扱われ,現在に至っている.このようにして定義された早期胃癌もその後,年々症例が増加し,ようやく,その5年生存率の検討がせまられる時期になった.

 東大分院,林田教授は第11回日本内視鏡学会において全国の22施設から集計された早期胃癌2,364例中113例,4.7%の再発を報告した.

 また,1969年,第13回胃癌研究会(名古屋)では“早期胃癌切除後再発例の検討”の主題のもとに,再発の定義および統計,診断および外科治療,症例および病理の各項目についての報告が行なわれたが,その際,集計された早期胃癌の頻度は1,643例中,73例,4.5%であった.この数字は林田教授の集計にほぼ等しく,これらの成績から現在いわれている早期胃癌の再発死亡の頻度は4%近くとみてよかろう.

 いかなる型の早期胃癌がどのような型で再発するか,また,早期胃癌の予後を左右する因子を多少でも明らかにすることが今回の目的であるが,病理学的に詳しく調べられた早期胃癌再発死亡例の症例は少ないので自験例を中心とし,第13回胃癌研究会に報告された症例を参考として上記の問題をのべてみることにする.

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はじめに

 わが国において早期胃癌が注目されはじめてからすでに久しく,内視鏡の発達と普及により早期胃癌の発見には著しい成果がもたらされている.近年早期胃癌の5年生存例も数を増してきたが,早期胃癌の予後は絶対に良好であるという初期の報告に反して,早期胃癌再発例が報告されるようになった1)~8)12)14).第13回胃癌研究会においてもこの問題が取り上げられ,発表されたデーターの集計だけでも,早期胃癌1,700例弱のうち再発死亡例は70例余(約4%)におよんでいる.ここで東京大学第1外科の症例をもとに,早期胃癌再発の要因を分析しその対策を検討してみたい.

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再発の頻度について

 城所(司会) 最初に,この春の内視鏡学会(44年度)で,22の施設からの早期癌の5年遠隔成績のアンケートを集計して発表させていただいたものがございます.

 その成績の中で,再発の部分を見てみますと,まず,直接死,他病死および死因不明を除いて,純粋に癌の再発という記載のあったもののみを見ますと,昭和37年と38年の早期癌手術症例398例中再発が9例になります.この頻度は2.3%になります.

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はじめに

 近年,早期胃癌の切除例が著しく増加し,その予後はきわめて良好である.しかしながら,早期胃癌(表在癌)といえども術後再発はありうる.その形式としては2っに大別される.

 Ⅰ.連続性再発←主病巣の取り残し.m,smにおけるow(+)あるいはaw(+)

 Ⅱ.非連続性転移からの再発

  a)壁転移

  b)リンパ節転移

  c)血行性転移(肝,肺,骨etc.)

 微小壁転移巣は,組織間隙やリンパ管内に癌細胞が遊離栓塞し,定着増殖することによっておこり,リンパ節転移と同様な機序による.また血行性転移や,早期癌にはまれな腹膜播種などの再発は,リンパ節転移から二次的にも起りうる.

 進行癌では早期癌とことなり,周囲組織からの再発や腹膜播種の形も多いことは周知の通りである.

 今回は,12年後残胃再発再切除例について述べその他の癌研外科における断端再発再切除例にっいてもその概略を報告する.

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はじめに

 早期胃癌で胃切除を行ない,その後6カ月ごとにfollow-upを続けていたが,6年2カ月後に癌の再発が確認され,6年4カ月後に再手術を実施したところ,今度も早期胃癌であった症例を経験したので報告する.

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はじめに

 早期胃癌の手術例が増加し,その術後経過年数の長い例が多くなるにっれ,早期胃癌手術例にも再発例がみられるようになった.先に,筆者らは早期胃癌の再発例から,その発育を論じて来たが1)~3),今日までに教室では早期胃癌手術後の再発例を10例経験するにいたったので,第11回日本内視鏡学会夜の研究会および第13回胃癌研究会でその概要を報告した.因みに,教室で昭和43年の末までに手術を行なった早期胃癌は106例で,そのうち消息の明らかなものは105例(消息判明率99.1%),術後死亡例は12例(事故・他病死4例,再発死8例)で,再発例は10例(再発後再手術による生存例2例を含む)であった.再発例の再発様式は胃切除断端癌遺残例3例,肝転移例3例,胃壁内転移と推定されるもの2例,多発癌の残胃遺残と推定されるもの1例,不明1例であった.このうち,胃切除断端癌遺残例,胃壁内転移と推定される例,肝転移例についてはその詳細をすでに別誌1)~4)に報告したので,今回は紙面の関係から,多発癌の残胃遺残と推定された1例について報告する.

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Ⅰ.症例

 患者:63歳男職業農業

 初回手術時臨床所見

 主訴:心窩部重圧感

 現病歴:40歳頃より食後心窩部に重圧感があり,またときに空腹時に腹痛もあった.そのほか自覚症状はなかった.昭和37年10月胃集団検診をうけ,要精検といわれ,千葉大学第1内科で精密検査をうけ,ポリープ癌(早期胃癌の疑い)と診断され,同年11月28日綿貫外科に入院した.

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はじめに

 胃癌の治療成績が,他臓器の癌にくらべ劣っていることは,とりもなおさず,多数の医師のたゆみない努力にもかかわらず,胃癌の早期発見には多くの困難な問題が横たわっていることを物語るものであろう.

 昭和36年6月,新潟において開催された第3回胃癌研究会で,早期胃癌とは“胃癌が胃粘膜層(m)にとどまるものおよび粘膜下層(sm)に一部浸潤した表在癌でリンパ節転移をみとめないもの”という意見にまとまったが,sm浸潤のあるものではリンパ節転移をみとめる症例が多く,リンパ節転移陽性例をも早期胃癌に含めるという意見')もあり,現在は早期胃癌の解釈はリンパ節転移を含めたものが基準とされている.

 岡山済生会総合病院外科において,昭和34年より43年までの10年問に111例の早期胃癌を手術し,その治療成績は著者の1人がすでに報告した2).これらの症例のうち,昭和44年12月現在において癌再発による死亡例5例と残胃に新に胃癌が発生したいわゆる胃の異時性多発癌による死亡1例を経験し,これらの6例のうち3例の剖検を行なった.

 残りの例は,臨床経過より胃癌再発死と考えた.それらの年度別頻度を表1に示す.なお,この表において異時性胃多発症による死亡は他病死例として取り扱っているため,5例の再発死亡となっている.

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欧文目次

第2回海外医師講習会終わる
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 昨年3~4月早期胃癌検診協会が主催して,第1回「海外医師早期胃癌診断講習会」が海外技術協力事業団のコロンボプランの一環として成功裡に行なわれたことは既報の通りである.それが内外ともに非常に好評であったので,昨年にひき続き今年もその第2回講習会を催すことになり,本年は1月25日から3月25目までの2カ月間,後述の各国の消化器病専門医師を招いて講習を行なった.

 最初の1週間を総論および各論的な講義に宛て,東京駅前八重洲口の早期胃癌検診協会中央診療所で英語で説明が行なわれた.ついで,あとの約1カ月半を主として順天堂大,東京女子医大,東京医大,東大分院,国立がんセンター,癌研などの諸施設における実習にあてた.

編集後記 城所 仂
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 本号では早期胃癌の再発がとりあげられた.早期胃癌の診断・治療については,かなり全国的にも同じような考えで,また同じような方法でお互に学会や研究会を通じて頻繁な接触を保ちながら討論し意見を調整しながら今日まで一路進歩を続けて来たと思われる.

 そしてこの方面では世界をleadする業績が数多く出されていることは周知のことである.

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症例

患者:A.M.54歳 女

主訴:心窩部不快感

現病歴:約2年前より,時々心窩部不快感があり,来院する.

現症:特記すべき病的所見なし.

臨床検査成績:特記事項なし.

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はじめに

 早期胃癌,特にⅡc型早期胃癌の呈する所見についてはほとんど出っくされた感があり,その診断も病変がかなりの拡がりを有しているかぎり,さほど困難ではなくなっている.しかし,その陥山内部ならびに周辺粘膜をあますことなく,しかも素直に描写することにっいては,未だ困難なことにしばしば遭遇する.本症例は胃X線的に陥凹像およびその辺縁,さらにその周辺粘膜の変化が比較的素直に把握されたⅡc型早期胃癌の症例である.

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はじめに

 近年,胃X線および胃内視鏡検査の診断技術の飛躍的発達と,生検,細胞診などの併用により,早期胃癌の診断は1cm前後の病変でも術前診断がほぼ可能となってきた.しかし,一方ではかなり大きい病変でも,すうへき集中のない極めて浅い陥凹型早期胃癌の術前診断,特に病巣の拡がりの決定に困難を伴う場合がしばしばある.最近,筆者らはごく浅いⅡc型早期胃癌の1例を経験したので報告する.

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はじめに

 筆者の教室で最近2年間に早期胃癌切除例47例を得たが,そのうち長径が1.0cm以下の病巣を有するものが7例あり,うち5例は術前に早期胃癌と診断することができた.ここに示す症例はそのうちの1例で,1.0×0.6cmの大きさのⅡc+Ⅱa型早期癌である.誤診をした2例は,1例はポリープ.中に0.3×0.3cmの癌病巣を有するものであり,他の1例は線状潰瘍の一部に0.2×0.2cmのⅡb型病巣を有するもので,前者は生検・細胞診ともに陰性,後者は線状潰瘍に目をうばわれて,生検.細胞診など検査を施行しなかったものである.以下に示す症例はX線で発見し,以下カメラ,細胞診,生検のすべてで癌病巣の存在を証明し得たので報告するに値すると思う.

 またⅡc+Ⅱa型,後のBorrmann 2型を形成する例では,一般に癌の浸潤が比較的早い時期に粘膜下層に達しやすいといわれている.したがって,この型のものは少しでも早い時期に的確な診断を下し,手術を行なうことが重要である.

基本情報

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胃と腸
5巻5号 (1970年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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