胃と腸 5巻7号 (1970年6月)

特集 胃生検特集

胃生検の手ほどき 高木 国夫
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はじめに

 胃生検法は胃内面から組織を採取する方法で,大きく3種に分けられる.始めは,吸引生検法(Suction Biopsy)である.この方法は胃内の生検が盲目的でびまん性病変,たとえば胃炎に適しているが,限局した癌,潰瘍,ポリープなどの病変に対しては無力であった.次に胃鏡による生検法で,直視下に生検できるが生検する部位が制限され,また患者の苦痛が大きいためにあまり普及しなかった.第3の方法が,ここ数年来驚異的進歩をとげたファイバースコープを用いる胃生検法であり,現在,わが国で行なわれている方法である.ファイバースコープによる直視下胃生検(略して胃生検)を略して,生検という場合,biopsyの生検と,X線,内視鏡の精密検査の精検と混同するので,注意を要する.

 X線,内視鏡検査の進歩により,胃内の微細病変が発見され,その肉眼的形態から良性悪性の鑑別診断がなされているが,良性か悪性かに迷う症例に多く出くわす.そこでこの際,X線,内視鏡検査で発見された病変から,直接組織を採取して診断ができればという切実な要求の上にたって,胃生検が生れて来たのである.

 ファイバースコープによる胃生検は,1964年に臨床的に用いられて,ようやく6年を経たが,その間胃生検専用のファイバースコープの技術的開発が盛んに行なわれ,現在臨床的に用いるに,ほぼ満足しうる段階に達している.

 最近開発された新しいライトガイド方式の生検用ファイバースコープについて説明し,胃生検の方法,生検組織の処置ならびに現在の胃生検の問題点につき,簡単に解説し,御参考に供したい.

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まえがき

 胃生検は,近年急速に発達した分野である.従来,X線検査,内視鏡検査が主要な胃疾患への精検の方法として著しい発展を遂げているが,より微細な変化を問題にするようになってから,胃生検の必要性が強調されるようになった.

 そしてほとんど悪性徴候の見られない胃潰瘍から検査の結果癌が証明されたり,癌がいわゆる悪性サイクルを繰り返すことなどが明らかになって来たが,この面への生検の役割は大きい.こうして生検はX線検査や内視鏡検査の進歩に,大きな貢献を果たしつつある現状である.

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はじめに

 Kenamore1)(1940年),Benedict2)(1948年)などにより初められた直視下胃生検は,Hirschowitzら3)(1958年)によるFiberscopeの開発につづき,これを用いた直視下生検法が初められ4)~7),その後本器の改良と手技の進歩により胃癌の生検がようやく臨床的に可能となった7)~13)

 現在X線,内視鏡,細胞診とならんで術前の唯一の組織診としての生検が早期胃癌診断のために欠くことのできないルチーン検査法の1つとなった14)15)

 ある程度の拡がりをもった早期胃癌病巣からの生検採取は比較的容易であったが,微小な病巣からの生検採取は必らずしも容易でなかった.しかし,最近生検用ファイバースコープの改良と技術の進歩により比較的小さな早期胃癌病巣からの生検も可能となってきた.

 本稿においては最大径1cm以下の微小早期胃癌の直視下胃生検について,その成績と手技を述べる.

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はじめに

 胃内視鏡検査法の特長は,病変の発見が容易であると同時に,その病変の質的診断がかなりの程度に可能なことである.このため,胃内視鏡検査は日常検査法として広く普及し,今日では直径1cm以下の微小病変も臨床診断の対象になってきている.しかしながら,このようなより微小な癌,より早期の癌の診断が求められるようになるにつれて,胃内視鏡による肉眼的診断法のみではもはや診断困難な病変が次第に問題になってくる.

 顕微鏡的診断法である直視下胃生検および細胞診は,このような胃疾患に対し最も確実な臨床検査法であり,次第に実地の臨床診断法として広く行なわれるようになりつつある.しかし,両検査法は,同じ顕微鏡的診断法であっても立場が異なるため,診断内容や検査手技の点で,その特長を異にする.

 そこで,筆者らの行なってきた直視下胃生検と細胞診の成績をもとに,胃癌診断における両検査法の特長を比較検討してみた.

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はじめに

 胃潰瘍の直視下生検の意義について述べるのはけっして楽ではない.実際,直視下生検法の意義がまず喧伝されたのは,胃癌の直接診断ことに早期冑癌の診断においてであったからである.

 本邦における胃疾患診断学の進歩は,X線検査,内視鏡検査の機種の開発と改良,手技の進歩に負うところが多いが,そのなかでも世界にさきがけた生検ファイバースコープの開発の占める位置は著しく高い.

 X線検査または内視鏡検査法はいかに習熟しても,あくまで検査方法としては間接診断法である.これに対して直視下生検法は,直視下細胞診法とともに,積極的な直接診断法であり採取された粘膜片が小さくとも,一応組織のレベルで診断されることを銘記しなければならない.

 本文では,胃潰瘍の診断の場での直視下生検法の果す意義ないし役割を,以下の項目によってまとめてみた.

慢性胃炎の生検 木村 健 , 竹本 忠良
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はじめに

 老若と疾患の軽重を問わず,幽門輪から胃,食道接合部までの胃の全域にわたって,正確な観察と自由な狙撃生検とをともに行なうことができる胃内視鏡は,慢性胃炎の臨床的,形態学的アプローチとしてもっとも有力な方法の一つである.

 わが国で急速に発達したファイバースコープによる直視下胃生検法は,慢性胃炎の生検診断において劃期的な特徴を有するものであって,これによって胃粘膜のhistotopographic1)な解析は,いちじるしく容易にかつ正確に行なえるようになった.しかし,あらゆる臨床的検査法には限界があるように,この進歩したファイバースコープ生検法でも慢性胃炎追求上におおきな制約と限界があることは否定できない.すなわち,生検はあくまでも“点”の解析であって,決して“線”あるいは平面の解析ではないということである.とくに程度(severity)と拡散(expansion)の二重の進展性で規定される慢性胃炎の動態を識るためには,この“点”のみの解析ではすでに不充分であって,厳密な意味では,無目的的に生検個数を増しても,それは“点”の集積にすぎず,慢性胃炎の姿を全貌としてとらえることは到底できない.われわれは慢性胃炎の生検法のあり方について考えるとき,まず第一にこの生検の限界を充分認識し,これをすこしでも克服する方向にもって行かなければならないと思う.

 慢性胃炎の生検診断において,胃内視鏡像との対比検討は胃生検法の出現以来継続されている研究テーマであって,それが重要であることは今日においてもいささかも減少していないが,本文では見方をすこし変えて慢性胃炎の生検法の新しい意義づけを求めてみたいと思っている.

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はじめに

 近年ファイバーガストロスコープ(以下FGSと略す)の開発とその応用である直視下狙撃生検法の発達によって,胃病変の診断は組織学的診断を加味してますます正確なものとなってきた.しかし,胃の隆起性病変のうち,とくに胃ポリープについては,現在の生検はまだ充分ではない.これは生検鉗子の性能上ポリープ,ことに有茎性ポリープについて生検部位の選択が困難なこと,また採取可能な粘膜の大きさと深さが期待するほど充分なものでないことから,組織学的診断は充分な正確さを保証されていない.また,最近問題にされているポリープの一部にみられる異型上皮または癌の存在の有無に関しても,生検材料からでは正しい判定を下しえない.

 著者らは従来より生検鉗子の改良を行なうとともに,とくにポリープのごとき癌との関連病変の生検には,組織をできるだけ大きく,しかも完全に採取できる方法はないものかと考えていた.一昨年以来,著者らは扁桃,鼻ポリープの切断にヒントをえて,内視鏡的にワイヤーループを用いて胃ポリープを切断し,かつ回収する方法を考案し,その方法・手技などについて発表してきた1)-7).この方法は良性胃ポリープの治療を主眼としたものではあるが,また完全な組織診を行なうためにも有用な方法である.本文では良性の胃ポリープと診断されたものについて,術前の生検診断と切断ポリープの全組織像とを対比した成績を中心にして,この方法が従来の生検診断の不確実さを補い,これに代る完全な生検診断法(完全生検法,仮称)として意義があることを述べたい.

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 今日,癌特に胃癌は国民病の一つとして全国民の最大の関心事であり,これの早期発見は,大学や大病院のみならず,筆者ら開業医が主力となってこれにあたらねばならぬ現状であり,レ線,内視鏡の併用はもちろんのことだが,その決定的診断法としての胃生検は,極めて重大な役割を果している.今回,胃と腸の編集部よりの依頼により筆者ら5名で座談会を行なったが,その際に討議された主な事項につき以下逐次記述する.

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 「胃と腸」編集室から全国主要施設に以下の各項目についてアンケートを求めたところ,つぎの施設より御回答を戴き,これを整理,収録した.

巻頭言

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 胃病変の生検が急速に発達して,胃疾患に関する正確な診断がたちどころに得られるようになったことは,日常この方面に携わるものにとってこんなに有難いことはない.いなそれは診療に従事するもののみの喜びではなく,胃腸疾患に悩む人の多い日本人全体の幸福につながるというべきであろう.もち論,その直接の判定は胃粘膜に見出された病変が癌か,癌でないかという点にしぼられるであろう.さらに癌でない場合には,手術の恐怖から解放される潰瘍患者も多かろうし,またこれは冗談に類するが,ポリープの場合だと逆に切除してもらえなくて,年に数回の割りで長年月にわたって生検をくり返される患者もでてくることになろう.

 しかし考えてみると,このようにして胃の疾患の確診が生まのままで得られるとなると,その恩恵はもっと大きなものがある.胃が無病と診断されれば,他の上腹部疾患,十二指腸,肝,胆,膵,などに原因があるであろうと推測されるようになるからである.最近膵疾患の研究が盛んになったが,その理由のひとつは胃疾患が完全に除外できるようになったためとも思われる.

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村上(司会) さてこの度“胃と腸”で生検に関する特集号を出したいということになりまして,胃生検のいろんな計画をしたのですが,どうしてもいちばんの基礎になりますのは病理の診断ということになります.

 それで先ず今日は病理の専門の方,殊に生検の診断に直接たずさわっていらっしゃる方々にお集まりいただいて,生検の病理的な面を主にお話しいただく.それから第2部としまして内視鏡,レントゲンの専門家,あるいは細胞診を主にやっている方などにお集まりいただいて,その方々とこの病理の先生の生検のお立場との関連を論じていただく.そういう二段構えの座談会をやりたいということになりました.

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村上(司会) 今日は,遠方の皆さまもお忙しいところをお集まりいただきまして,大変有難とうございました.

 生検という問題が胃の診断学の上で非常に大きくクローズ・アップされてまいりまして,しかも最終的には,この生検がなければ確定診断が下せないというようなところまで進んでまいりました.

 そのために,この生検に対するいろいろなご注文とかご希望が,各方面から声高く上がってまいりましたので,ここいらで「胃と腸」といたしましても,“生検”の座談会をもち,お話し合いをしてみたいというふうに考えたわけでございます.

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欧文目次

編集後記 佐野 量造
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 胃癌を含めて胃疾患の病理はKonjetzney Stout以来あまりめざましい進歩はないように思われましたが,胃生検の出現によって,臨床はもちろんのこと,胃の外科病理がにわかに活気を呈してきたことは事実でしょう.

 本誌を手にしてみて,胃生検に関する業績が短期間にこれほどの成果をあげるとは当初誰しも想像しなかったことと思います.まず診断面では微小癌の発見,潰瘍良悪性の鑑別にその真価を発揮し,また良性潰瘍,ポリープ,慢性胃炎の経過追求によって長年論争された難問題の解決の手掛りが得られたようです.また,基礎方面では胃生検材料を用いて電子顕微鏡,組織化学,または組織培養などによって胃疾患の動態的研究が可能となってきました.しかしなんと言っても,生検本来の使命は早期胃癌の発見であり,この点で最も心強いことは第一線の開業の諸先生が現時点における保険点数の採算を度外視して,胃生検を実施し早期胃癌の発見に努力されていることでしょう.

基本情報

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胃と腸
5巻7号 (1970年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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