胃と腸 45巻8号 (2010年7月)

今月の主題 直腸肛門部病変の鑑別診断─最新の知見を含めて

序説

直腸肛門部病変の鑑別診断 平田 一郎
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 直腸肛門部病変の特集は,過去に「胃と腸」で3回取り上げられている.直腸肛門部病変は診断自体が難しいものは少なく,病変を経験するか,直接経験しないまでもその存在を認識してさえいれば診断可能なことが多い.前回の特集(第38巻第9号)は7年前であったが,そこでは直腸肛門部の解剖など基礎的内容や,外来診察の項では肛門科的内容などが主題として盛り込まれ,肛門の3大疾患である痔核,痔瘻,裂肛などに関しても詳細に述べられていた.今回の特集でも,直腸肛門部病変の検査法と診断を主題の1つに挙げているが,そのなかでは肛門科的な内容にあまりかたよらず,外科的あるいは内科的側面も加えて述べてもらう.また,前回の特集以降に発展した新しい検査法〔拡大内視鏡,NBI(narrow band imaging)など〕による直腸肛門部病変の鑑別診断にも触れてもらうことになっている.

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要旨 肛門疾患は消化器内科の医師にとってなじみの薄い領域と思われる.しかし,肛門の基礎的な知識をもつことで気軽に肛門部の診察や診断ができるようになる.そのため肛門の解剖や機能を理解し,診察の基本である視診,肛門内指診,肛門鏡診を身につける努力がいる.そして3大肛門疾患である痔核,痔瘻,裂肛についての知識も必要となる.また,最近の肛門科領域のさまざまな検査や機能評価法のことを知ってもらいたいと思う.本稿ではこれらの内容をそれぞれに簡単に述べた.

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要旨 注腸X線検査は,容易に腸管の走行や病変の位置が把握できるとともに,3次元的な構造が理解しやすく直腸肛門部の検査には有用と考えられる.しかし,意識して検査を行わないと病変を見逃すことが多く,よい画像を撮影することも難しい.一方,CTやMRIにおける最近の進歩は著しく,直腸肛門部の診断には欠かせなくなってきている.直腸肛門部周囲の筋群の解剖は複雑であり,病変との位置関係を把握するためには,組織コントラストに優れたMRIを利用するべきである.しかし,MRIでは撮像される範囲が狭くなることが多く,より広い範囲の診断が必要な場合には,CTを用いるか,CTとMRIを組み合わせる必要がある.

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要旨 直腸肛門部は極めて狭い範囲でありながら,排便機能を有するなどの解剖学的特異性に加え,重層扁平上皮や円柱上皮など多彩な組織像を有することから多様な疾患の発生の場となる.内視鏡観察においては,このような特性を理解し見逃しのない検査を行う.さらに直腸肛門部にみられる炎症性疾患や腫瘍性疾患の診断は,この領域に特異的にみられる疾患も念頭に置き,病変の形態や局在性,および介在正常粘膜の性状を通常内視鏡観察にてとらえ,これに拡大内視鏡所見や超音波内視鏡所見を組み合わせて診断を行っていく.

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要旨 炎症性腸疾患に合併する直腸肛門部病変は,QOLに大きく影響を及ぼす病変として重要である.Crohn病では,直腸肛門部病変がCrohn病自体の潰瘍病変あるいはそこから発生した病変,すなわちCrohn病の合併症であるか,Crohn病自体には関連がなく,偶発的に通常の肛門病変がCrohn病の症例に生じたものかの鑑別が重要である.また近年,Crohn病に対する直腸肛門癌の合併が増加しており,その存在にも留意する必要がある.潰瘍性大腸炎にも頻度は低いものの痔瘻,肛門周囲膿瘍,直腸(肛門)腟瘻などが合併し,特に大腸全摘術を要する症例では,術式の選択を左右する場合がある.

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要旨 感染性腸炎には直腸を好発部位とする疾患がみられ,性行為感染症(STD)の側面が強い疾患も多い.アメーバ性大腸炎は約9割に直腸病変を認め,出血あるいは周囲に紅暈を有するびらん・小潰瘍が内視鏡的特徴である.クラミジア直腸炎は下部直腸に限局したリンパ濾胞増殖症の像を示し,潰瘍性大腸炎や原因不明のリンパ濾胞増殖症との鑑別が必要である.サイトメガロウイルス腸炎も約半数に直腸病変があり,HIVの合併が多い.急性出血性直腸潰瘍,潰瘍性大腸炎,アメーバ性大腸炎などとの鑑別が必要である.細菌性腸炎の中で直腸に病変を来すカンピロバクター腸炎,腸管出血性大腸菌腸炎についても述べた.尖圭コンジローマは肛門周囲皮膚や肛門管に発生するが,直腸病変を来すこともあり,覚えておくべき疾患である.アメーバ性大腸炎,クラミジア直腸炎,尖圭コンジローマの多くはSTDである.これらの疾患の診断,鑑別診断について主に考察した.

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要旨 粘膜脱症候群(MPS)とCP(cap polyposis)の臨床像,形態学的特徴について自験例を提示して概説した.MPSは排便時のいきみなど消化管粘膜の逸脱による慢性的機械的刺激や虚血性変化によって形成される病変の総称であり,直腸を中心に人工肛門近傍や憩室症に伴って発生することもある.MPSは肉眼的に隆起型,潰瘍型,平坦型に分類され,潰瘍型では歯状線からやや離れた部位に,隆起型では歯状線に接して発生することが多い.CPは半月ひだ上に広基性の隆起性病変が多発し,直腸からS状結腸を好発部位とする原因不明の疾患である.症状として粘液下痢を来し,血液検査で低蛋白血症を伴うことが多い.肉眼的,病理学的に隆起型MPSに類似点があり,広義のMPSに含まれるとする意見もあるが,症状,病変の分布,病理組織所見,治療を含めた臨床経過に相違点が少なからずあり,独立した疾患概念と考えられるようになってきた.

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要旨 IBD,感染性腸炎,粘膜脱症候群,cap polyposis以外の直腸潰瘍の概念,症状,診断,治療について概説した.本稿で取り上げた疾患は放射線性腸炎,虚血性直腸炎,急性出血性直腸潰瘍,直腸Dieulafoy潰瘍,宿便性潰瘍,NSAID坐剤起因性直腸炎である.放射線性腸炎やNSAID坐剤起因性直腸炎は,病歴からの診断が比較的容易である.直腸Dieulafoy潰瘍も特徴的な内視鏡像から容易に診断できる.しかし,虚血性直腸炎,急性出血性直腸潰瘍,宿便性潰瘍についてはそれぞれ病像が異なるものの,十分に理解されていないため混同される傾向がある.一方で直腸潰瘍の疾患概念がなお混沌としているのも事実であり,今後サイトメガロウィルス感染の関与を含めて明らかにしていく必要がある.

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要旨 肛門癌は比較的まれな疾患であるが,組織学的には多彩なものがある.これは肛門管が直腸と肛門周囲の皮膚との間にあって,発生学的・解剖学的に種々の上皮が入り交じっており,また歯状線の上方にはcloacaに由来するcloacogenic zoneがあり,さらには歯状線には肛門腺が開口しているなど,これらの多様な組織が肛門癌の発生母体となっていることに由来している.本稿ではこのなかから代表的な9種,すなわち,肛門管早期癌,痔瘻癌,Crohn病に合併した痔瘻癌,腺扁平上皮癌,類基底細胞癌,基底細胞癌,肛門部Paget病,Bowen病,悪性黒色腫について症例報告を加えて述べる.

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要旨 直腸悪性リンパ腫23例(MALTリンパ腫9例,濾胞性リンパ腫3例,マントル細胞リンパ腫1例,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫4例,T細胞性リンパ腫6例)の臨床病理学的特徴を遡及的に解析した.肉眼型と組織型に相関がみられ,隆起型ではMALTリンパ腫,びまん型・混合型ではT細胞性リンパ腫,MLP型では濾胞性リンパ腫が高頻度にみられた.非外科的治療群(化学療法,放射線,抗菌薬,無治療 ; n=15)と外科的切除群(n=8)では予後に差はなかった.多変量解析の結果,組織学的低悪性度(indolentリンパ腫)がoverall survivalおよびevent-free survival(EFS)のいずれにおいても独立した予後良好因子であった.穿孔,B症状,B/T免疫表現型,臨床病期はEFSのみを規定する要因であった.

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要旨 直腸肛門部の非上皮性腫瘍はまれであるが,GIST,平滑筋性腫瘍,脂肪腫,リンパ腫などがある.臨床的には内視鏡や注腸X線で粘膜下腫瘍として診断される.GISTと平滑筋性腫瘍は免疫組織化学染色で鑑別される.GISTと平滑筋性腫瘍は悪性の経過をとる場合があるため拡大切除する.再発GISTにはimatinibが有効である.大腸の脂肪腫はGISTに次いで多いが,直腸の発症は少ない.通常は無治療でよいが,まれに脂肪肉腫があるのでフォローを要する.肛門部の悪性黒色腫は色素細胞から発生する皮膚癌の一種であるが,早期に転移しやすく極めて予後不良である.転移性腫瘍は血行性転移よりも近接臓器の原発癌からの転移が多い.

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要旨 直腸肛門部疾患の中で,特に直腸には種々の腫瘍性疾患や炎症性疾患を認める.直腸疾患の診断には内視鏡検査を主として用いるが,超音波内視鏡(EUS)は病変の垂直断層像が描出可能であることから,腫瘍性疾患に対しては,直腸癌の深達度診断や粘膜下腫瘍の質的診断などに有用である.また炎症性疾患に対しては,潰瘍性大腸炎の重症度の評価や,Crohn病に合併する肛門病変の診断などに有用である.EUSは直腸肛門部疾患の補助的診断法として活用できると考える.

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要旨 フルニエ症候群は,感染の炎症が筋膜に沿って広範囲に波及する“感染性壊死性筋膜炎"であり,致死率が高く,緊急外科処置を必要とする.CT検査で診断し,速やかに外科治療を開始する.合併症として糖尿病,直腸癌に注意する.手術は,壊死部を含む感染巣の除去と切開排膿,ドレナージを行い,必要に応じて人工肛門を造設する.抗菌薬は,嫌気性,好気性菌の両方に感受性のあるものを使用する.治療が遅れると救命率は低下する.

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要旨 患者は65歳,男性で,肛門部の排液,疼痛を主訴に当科を紹介された.痔瘻からコロイド様の分泌物がみられ,臨床所見,検査所見より痔瘻癌が疑われた.麻酔下に粘液および掻爬組織を病理検査に提出し,痔瘻に対してシートン手術を施行したところ,組織は粘液癌であった.術前化学放射線療法(50.4Gy,UFT® 500mg/日,ホリナートカルシウム錠75mg/日)施行1か月後に,腹会陰式直腸切断術を施行した.剥離面切除断端(-)で,化学放射線療法の組織学的治療判定はGrade 2であった.術後2年が経過しており,再発なく外来通院中である.術前化学放射線療法を施行した痔瘻癌の1例を,文献的考察を加えて報告する.

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要旨 患者は60歳,男性.タール便と貧血のため近医より当科を紹介され受診となった.ダブルバルーン小腸内視鏡にて空腸に全周性の潰瘍を伴う狭窄性病変が指摘された.生検を行ったが悪性所見はなく確定診断は得られなかった.1年後の内視鏡再検査時の生検にてFL(follicular lymphoma)と診断した.CTでは大動脈周囲と腸間膜のリンパ節の腫大を認め,Lugano国際分類Stage II2期であったため,治療は化学療法を選択した.リツキシマブを併用したCHOP療法を7クール行い完全寛解し,3年経過しているが再燃は認めていない.FLでは,白色顆粒状病変として発見されることが多く,発症時から狭窄病変として示される症例はまれである.

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 2009年7月25日に第10回臨床消化器病研究会がグランドプリンスホテル新高輪で開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.胃 : 「粘膜下腫瘍様胃病変の診断」,主題2.腸 : 「小腸腫瘍の診断と鑑別」,主題3.食道 : 「Barrett食道癌の診断」の3セッションが行われた.

早期胃癌研究会

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 2009年11月の早期胃癌研究会は11月14日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は趙栄済(大津市民病院消化器科)と小山恒男(佐久総合病院胃腸科),病理は味岡洋一(新潟大学大学院医歯薬学総合研究科分子・診断病理学分野)が担当した.画像診断教育レクチャーは菅井有(岩手医科大学医学部病理学講座分子診断病理学分野)が「下部消化管病理診断の理解に必要な免疫染色」と題して行った.

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 2月の早期胃癌研究会は2010年2月17日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は斉藤裕輔(市立旭川病院消化器病センター)と長浜隆司(早期胃癌検診協会中央診療所),病理は八尾隆史(順天堂大学医学部人体病理病態学)が担当した.また,今月から新しく,内視鏡診断(拡大観察・NBIを中心に)に関する画像診断教育レクチャーが開始され,第1回目は井上晴洋(昭和大学横浜市北部病院消化器センター)が「食道癌内視鏡診断」と題して講演した.

学会印象記

第96回日本消化器病学会総会 斎藤 彰一
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 第96回日本消化器病学会総会は2010年4月22~24日の3日間,新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器・一般外科の畠山勝義会長のもと,新潟市において華々しく開催された.総会事務局からの報告では総参加者数は4,030名,市民公開講座180名,ポストグラデュエイトコース415名と盛況のうちに幕を閉じたとのことである.会場は白山公園横の新潟県民会館,新潟市民芸術文化会館,新潟市音楽文化会館および万代島の朱鷺(とき)メッセで,両者の会場間はシャトルバスで結ばれていた.あいにく初日から小雨が混じるぐずついた天気であったが,どの会場も熱気であふれていた.幸い,今年の天候不順の影響もあってか,4月からの低温続きで白山公園や信濃川沿いの桜が満開であったことが特筆される(Fig. 1).

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欧文目次

編集後記 江頭 由太郎
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「胃と腸」で直腸肛門部病変が取り上げられるのは今回で4度目である.前々回特集(第22巻3号)の序説で,“直腸肛門部病変は他の消化管病変に比べて,軽んぜられ疎まれており,胃腸疾患には精通していても直腸肛門部病変には不得手な消化器専門医が少なくない"と指摘されているが,それから二十数年経過した現在でもその状況は継続しているように思われる.直腸肛門部病変は診断自体が難しいものは少なく,病変を“知ってさえいれば"診断可能なことが多い.そこで,今回の特集では消化器専門医として“認知"が必要と思われる直腸肛門部病変を網羅し,再整理して鑑別診断を中心に解説し,直腸肛門部病変診療の座右の書となる内容を目指して企画された.

基本情報

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胃と腸
45巻8号 (2010年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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