胃と腸 43巻12号 (2008年11月)

今月の主題 早期胃癌発育の新たな分析─内視鏡経過例の遡及的検討から

序説

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 胃癌の発育・進展と自然史には解決されなければならない問題が多い.例えば,スキルスはどのような癌から進展するのか? その潜伏期はどれくらいか? スキルス胃癌では,おそらくは通常の内視鏡経過例の遡及的検討では発見され難い病変が主役であろう.また,組織学的な癌発生と進展,遺伝子異常,epigeneticな異常,など精緻な科学的手法による分析がいまだ継続されている.「胃と腸」誌が取り上げる胃癌の発育・進展と自然史の問題は,内視鏡で発見される病変あるいは発見困難な要因など臨床的な側面であり,これまでもしばしば取り上げられてきた.最近では,27巻1号「胃癌の自然史を追う─経過追跡症例から」(1992年)で本号と同じ主旨に基づき有用な原著が著された.その号以前にも,非常に多くの先駆者の業績があるにもかかわらず,“早期癌はどのくらいで進行癌となるのか?"との質問(clinical question ; CQ)には容易に答えられない.ガイドライン的な発想のCQに正しく答えられないようではいけない.特に海外の研究者に向けては答えられない状態である.胃癌の発育進展に関する議論は,本誌27巻1号以来本格的には行われていない.

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要旨 内視鏡写真の遡及的な検討が可能であった53症例54病変について,内視鏡で発見可能な初期像を隆起型,陥凹型,潰瘍型に分類し形態変化を検討した.隆起型では深部浸潤を来すことはまれで側方への進展速度も遅かった.陥凹型の深部浸潤の速度は様々であり,初期像からの浸潤速度の予測は困難であった.潰瘍型も様々な深部浸潤速度をとり一定の傾向を認めなかった.今後,胃癌の発育の多様性と患者側の要因も考慮した治療方針の決定と,見逃しを減らすために初期像を念頭に置いた内視鏡検査が必要と思われた.

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要旨 内視鏡的に6か月以上経過観察しえた早期胃癌105病変を対象とし,壁深達度が進展する速度について検討した.(1) M癌,SM癌の進展頻度と進展速度 : M癌の平均観察期間は46か月で進展頻度は30.0%(M癌からSM癌16.7%,M癌から進行癌13.3%)でSM癌の平均観察期間は23か月であり,SM癌から進行癌73.3%でSM癌の進展頻度が有意に高かった(p=0.001).M癌の進展期間にはSM癌と比較して大きな幅があり,早期癌における発育進展の多様性はM癌の時期に規定されると推定した.(2) 早期癌の累積進展率 : 累積進展率50%に要する推定時間はM癌からSM癌で85か月,SM癌から進行癌で31か月で,SM癌から進行癌への進展はM癌からSM癌への進展と比較して進展速度が有意に速かった(p<0.0001).(3) M癌からSM癌への進展に影響する因子 : 年齢,肉眼型などの臨床病理学的因子別に累積進展率を比較したが,すべての因子において有意差は認めなかった.そこで,M癌のうち4年未満に進展した急速発育群(RG群)11病変と4年以上進展しなかった遅発育群(SG群)15病変を抽出し臨床病理学的因子別に頻度を比較した結果,組織型で高・中分化型腺癌主体群と低分化型腺癌・印環細胞癌主体群に頻度差はなく,超高分化型腺癌主体群は他2群と比較してSG群の頻度が有意に高かった(p=0.02, 0.006).以上の成績より,内視鏡的にM癌からSM癌まで要する平均的な時間は7年程度,SM癌から進行癌まで2~3年程度と推測した.各種の臨床所見よりM癌の発育進展の予測因子は特定できなかったが,sub解析では病理組織学的に超高分化型腺癌,あるいはそれを主体としたM癌においては極めて遅い発育進展がありうると推測される.

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要旨 過去の内視鏡像の見直し診断で異常を指摘できた経過例121例を対象として,早期胃癌の発育進展を粘液形質の相違から解析した.粘液形質は,胃型46例,混合型32例,腸型42例,無形質型1例であった.症例の肉眼型は,表面型が117例とほとんどを占めていた.隆起型4例および表面隆起型33例の発育速度を腫瘍径で比較すると,混合型と胃型が腸型に比べて速く,その中で最も速かった症例は,約5年の経過で腫瘍径が約3倍となり,胃体部では経過中にSM浸潤を認めた症例もあった.表面陥凹型84例では,発育速度を深達度で比較すると,胃型と混合型は,組織型にかかわらず,2~4年の経過でSM浸潤癌となった症例が多かった.一方,腸型は,長期にわたって粘膜内癌のまま推移した症例が多かった.以上から,早期胃癌の発育速度を粘液形質から解析した結果,胃型と混合型の発育速度は類似しており,腸型に比較して速かった.

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要旨 早期胃癌の内視鏡画像を遡及的に検討し,特に背景粘膜からみた早期胃癌の自然史について考察した.対象は41病変,平均観察期間は2.4年であった.最終病理診断で粘膜内癌の診断を得たものは34病変(82.9%).粘膜内癌の間は発育速度が緩やかで,背景粘膜の違いによって明らかな差異は生じないものと考えられた.また,癌の初期像を検討したところ,背景粘膜が固有腺領域の外側(F,f領域の外側)では,隆起型の初期像は顆粒状の粘膜隆起を示し,陥凹型の初期像は発赤調の極めて浅い陥凹を呈した.これに対し固有腺領域(F,f領域内部)は,未分化型は3病変のみであり,遡及的な内視鏡像の検討でその初期像を同定することが困難であった.早期胃癌の自然史の全貌を解明するには,未分化型微小胃癌の診断方法を確立することが今後の課題であると考えられた.

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要旨 早期胃癌の自然史を明らかにするため,内視鏡で早期胃癌,病理学的に癌と診断されながら,切除されなかったか,切除が診断から6か月以上遅れた症例を検索し,それより同定した80例の前向き研究を行った.病巣の経過観察は61例において可能であった.早期胃癌が進行癌に進展する割合は次第に増加し,44か月までに50%が進行癌に進展した.5年累積進展率は64.7%であった.46例においては胃癌切除が実施されなかった.胃癌で死亡した場合と死因不明例を“死亡",他の原因で死亡した場合を“生存打ち切り"として,非切除早期胃癌の生存率を算出した.5年累積生存率は60.5%であった.早期胃癌の大多数は“癌もどき"でなく,放置すれば進行癌に進展し,やがては胃癌死すると結論した.

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要旨 初回生検から切除まで1年以上経過観察された早期胃癌25例(27病変,9施設より提供)を低異型度胃型癌(LG-G)群(11病変),低異型度腸型癌(LG-I)群(8病変),高異型度癌(HG)群(8病変)に分類して解析し,以下の特徴を抽出した.(1) 切除時年齢はLG-I群(切除時平均73歳),LG-G群(切除時平均69歳),HG群(切除時平均60歳)の順に高く,経過観察期間はLG-G群(平均41か月),LG-I群(平均36か月),HG群(平均27か月)の順に長かった.(2) 3群とも胃中下部の陥凹(IIc)成分を有する病変が多く,大きさはLG-I群(平均16mm)が他の2群(LG-G : 平均22mm,HG : 平均23mm)に比べ小さかった.(3) LG-G群のみSM浸潤(6/11例)がみられたが,他の2群は全例Mであった.(4) 経過観察中の組織(癌)異型度の増大はLG-G群SM浸潤3例,HG群1例のみに限られた.(5) 生検回数はLG-G群(平均2.8回)とLG-I群(平均2.6回)はHG群(平均1.8回)よりも多かった.(6) 見直し生検診断Group I~IVの頻度はLG-G 群(41%),LG-I群(31%),HG群(7%)の順に多かった.(7) LG-G・LG-I群では腫瘍表層のはく離や変性によりGroup IVとした例が半数以上あり,両群とも腫瘍採取量不足や標本作製時の問題も,Group V診断不能の要因となった.以上,病理医がLG-G,LG-Iの特徴を熟知して生検診断することと,生検で低異型度癌が疑われた際の臨床医との緊密な情報交換が重要である.

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要旨 粘膜内(M)癌からSM塊状浸潤癌ないし進行癌に進展する過程を速度面から分析する目的で,多施設アンケート調査を行った.対象と方法 : 230例の早期胃癌の内視鏡追跡例(72%が遡及例)が解析された.初回観察時の推定深達度は,M癌211病変,SM癌19病変であった.初回M癌の肉眼型はIIcなどの陥凹型107病変,隆起型104病変であり,平均経過観察期間は33.6か月で,最終的には44病変が進展癌(SM塊状浸潤ないし進行癌)へと発育し,非進展癌は167病変であった.また,M癌の最終観察時の組織型は,分化型癌が176病変で未分化型癌が35病変であった.結果 : (1) M癌から進展癌となる過程 ; 50%のM癌が進展癌へとなるのに91か月を要した.初回の深達度がMないしSMであった場合,50%が進行癌へと進展するまでの期間は111か月を要した.(2) 発育に関与する因子 ; 性と腫瘍の存在部位は,発育速度に関与しなかった.組織型の検討では,未分化型癌は分化型癌よりhazard比2.48と有意(p<0.01)に早く発育した.また,年齢が10歳高いと進展速度がhazard比1.34と有意(p<0.05)に速かった.以上より,遡及例を中心としたM癌は,内視鏡治療の適応を越える深達度に達するのに約7年を要し,早期癌が進行癌になるには9年を要すると考えられ,分化度が低いことと年齢が高いことが発育速度に影響していた.また,SM浸潤癌の発育速度はM癌に比し速かった.

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要旨 Helicobacter pylori 感染が胃癌発生の重要な危険因子であることが明らかにされ,現在除菌介入による胃癌発生の予防が期待されている.一方,除菌成功後に胃癌が発見される例も臨床上少なくない.今回,多施設にて行った100症例の集計結果から除菌成功後に発見された胃癌の臨床病理学的特徴は,大きさ20mm大以下の0IIc病変を中心とした陥凹型の分化型早期癌(主にM癌)であり,胃体部には萎縮性胃炎を伴っていた.胃体部に萎縮を認める胃潰瘍,早期胃癌・胃腺腫の内視鏡切除後症例では除菌成功後においても胃癌発生のリスクがあるため,除菌後も年1回の内視鏡検査による経過観察が必要である.

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要旨 症例は64歳の男性.1991年11月に胃角部小彎からの内視鏡生検でGroup IVと診断された.1996年3月の再生検でGroup V,中分化型管状腺癌と診断され,当院に紹介された.当院で3回にわたる内視鏡生検を施行するも,癌組織の量が少なく,部位の確定には至らなかった.時間をおいての再検査を指示したが,その後11年6か月間受診することなく,放置されていた.2007年10月に胃集検で要精検を指示されて受診し,内視鏡検査で胃角部小彎のIIc型早期癌を診断された.低分化腺癌成分を含み,粘膜下層浸潤も疑ったため,外科的切除を施行した.病理組織学的深達度はpT1(M)であり,11年6か月間放置されたにもかかわらず粘膜内であり,緩除な発育を示した症例と考えられた.

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 〔患 者〕 50歳代,女性.2007年4月,胸部不快感を主訴に前医を受診.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,十二指腸に異常を認めたため当院紹介となった.

 〔低緊張性十二指腸造影所見〕 背臥位充盈像で,下十二指腸角から十二指腸水平部に拡がる長径50mm大の透亮像を認めた(Fig. 1a).背臥位および腹臥位の二重造影像では,病変は全周性で大小の結節が集簇した形態を呈していた.表面にびらんや潰瘍形成はみられず,壁の伸展性は良好で明らかな変形を認めなかった(Fig. 1b~d).

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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はじめに

 実体顕微鏡から始まった大腸腫瘍の拡大観察1)~3)は,拡大内視鏡の開発・改良により生体内で応用されるようになり,工藤らによりpit pattern診断学として確立された4)5).現在,拡大観察によるpit pattern診断を行うことで,高い精度で大腸病変の腫瘍・非腫瘍の鑑別,腫瘍の質的・量的診断が可能となっている4)~9)

 拡大観察は,超音波内視鏡検査のように特殊な器械は不要で水を充満する必要がなく,通常観察の延長線上で検査可能である.挿入性に関しても,拡大内視鏡の太さ,先端硬性部長や操作部などのスペックは汎用機と同じであるため操作性に全く差を認めない.しかしながら,pit pattern診断学への理解不足,若干の煩雑さ,これまで施設間でpit pattern診断(特にV型)基準が統一されていなかったことなどから,拡大観察をルーチン検査の一部として取り入れていない施設・内視鏡医もまだまだ多い.

 また,近年,narrow band imaging(NBI)system の開発により,拡大内視鏡による腫瘍表層の微細血管模様の観察が新たな診断学として注目されつつあり10)~12),ますます拡大観察の臨床的重要性が高くなっている.

 本稿では,大腸拡大観察の手順とコツを中心に解説する.

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 切除標本の撮影法について,当院で行っている方法を器材から順に紹介する.

器 材

 標本用撮影台はM130-DR2-XY(エス・エフ・シー)を使用している(Fig. 1).この撮影台は左右別々にライトのオン・オフと角度の調節が可能で,後に述べるように粘膜面の微妙な凹凸の表現に威力を発揮する.また,標本は無反射ガラスに載せ,背景板は青色を用いている.新鮮標本はフォトセンターの専属カメラマンが35 mm フィルムおよびデジタルカメラで撮影する.固定標本の撮影はNikon D300に35mmレンズ,Nikon D200に60mmのマクロレンズをつけて筆者が行っている.35 mm フィルムで撮影することもあるが,基本的にはこの構成で論文等の投稿にも必要十分な画像が得られる.もちろん,35 mm フィルムに比べると,デジタルカメラは絶対的な表現力では劣るが,症例の記録という点では数多くの利点がある.撮影時には,フィルムの枚数を気にすることなく撮影をすることができ,ベストショットが得られやすくなるし,その場で画像を確認することができるので撮影の失敗によって使える写真がないという事態を回避することが可能となる.また,保管場所やコストの削減,貴重症例写真の紛失の防止にも役立つ.

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要旨 患者は70歳,女性.自覚症状なし.定期検診の上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部に白色顆粒状病変の集簇を認め,同部位からの生検でfollicular lymphoma(FL), Grade 1と診断された.十二指腸下行部に異常はなかった.ダブルバルーン小腸内視鏡検査で空腸にも十二指腸球部と同様の病変を認めた.一方,回腸終末部には広基性扁平隆起性病変を認め,表面はやや結節状で周辺の健常粘膜とほぼ同じ色調を呈していた.生検では空腸および回腸病変ともにFL, Grade 1と診断された.腹部CT所見で傍大動脈周囲のリンパ節腫大を認め,Lugano国際分類Stage II2と診断した.治療はrituximabを併用したR-CHOP療法を6クール施行し,完全寛解した.消化管原発FLは十二指腸下行部の白色顆粒状病変として発見されることが多いが,本症例のように十二指腸球部に病変を認める症例はまれである.

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要旨 患者は57歳,男性.便潜血陽性にて近医で大腸内視鏡を行い上行結腸の病変を指摘され,2006年9月紹介受診となった.注腸X線像では,病変は大きさ約4cm弱の透亮像として描出され,丈の高い隆起と平坦部分から成り,中央にバリウム斑が観察された.12日後に内視鏡検査を行い,上行結腸に立ち上がり急峻な隆起と淡く発赤した平坦部分を認めた.隆起部分はLST-NG(flat elevated type ; F)様で,平坦部分はLST-NG(pseudo-depressed type ; PD)に相当し,両成分の境界ではI型pitの帯状粘膜が観察された.43日後の内視鏡検査では陥凹は厚みを増してVn型pitを示し,境界の正常粘膜は幅が狭く,一部で不規則不明瞭となった.11月手術を行った.切除標本では病変は37×13mmで,LST-NG(PD)様部分は18×10mm,LST-NG(F)様部分は19×13mmであった.病理組織所見では,病変は粘膜固有層深部に囊胞状に拡張した腺管を有する中等度異型腺腫の隆起部分と高度異型腺腫から成る平坦部分の異なる2つの腫瘍から構成された.これらは粘液性状からも区別され,境界部に正常腺管が残存し移行像を認めなかったことから,2つの腫瘍が衝突した衝突腫瘍と診断された.また,Vn型pitの部分では中分化腺癌の所見で,pSM3(1,050μm), ly0, v1, pN0であった.

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要旨 患者は87歳,女性.上腹部痛を主訴に近医を受診し,腹部超音波検査にて小腸腫瘍が疑われたため当科紹介となった.小腸X線検査,およびダブルバルーン内視鏡検査では空腸に丈の低い全周性の結節集簇様病変が認められ,その中心部では結節状隆起と狭窄を伴っていた.生検組織所見では高度異型腺腫と診断されたが,臨床的に小腸進行癌と考え外科的治療を選択した.術中内視鏡では病変肛門側にも粗大結節の集簇と丈の低い扁平隆起がみられた.切除標本の肉眼所見では大小不同の結節が集簇した病変で,組織学的には大部分は種々の異型度を呈する腺腫であり,その中心部で粘膜下層および固有筋層まで浸潤した癌がみられた.しかし,癌と腺腫の境界は不明瞭であった.自験例は腺腫が結節集簇様病変を呈し進行癌へ進展したと考えられた.

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要旨 患者は28歳,女性.中学生のころより数か月に1度の頻度で腹痛が出現していたが,いつも数日で軽快するため様子をみていた.同様の腹痛が出現したため近医受診し,腹部超音波検査にて小腸の腸重積と診断され,経口小腸透視にて回腸に粘膜不整領域が発見された.当院で行ったダブルバルーン小腸内視鏡検査にて回盲部から60cm口側の腸間膜対側に径2cmほどの憩室を認めMeckel憩室と診断した.内視鏡下で点墨を行い,待機的に腹腔鏡補助下回腸部分切除術を施行した.若年者の腸重積を来す小腸疾患では,Meckel憩室も考慮すべきであり,Meckel憩室の診断と治療においてはダブルバルーン小腸内視鏡検査が有用であると考えられた.

「胃と腸」と私

「胃と腸」と私 望月 福治
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 「胃と腸」が発刊されたのが1966 年である.折よく,早期胃癌研究会に提出していた症例が「胃と腸」に採用となり,本邦初の早期食道癌症例を1 巻1 号に報告させていただいた.思い出深い症例報告であった(山形敞一,望月福治,他.1 巻,1966).この「胃と腸」 1 巻には,その後も引き続き3 か月間連続して,早期胃癌の症例を報告させていただくことになった.

 一方,当時,多くのドクターが集まる八丈会というclosedの研究会があり,年1 回開催されていた.私の提出した症例が最優秀賞となり記念の盾をいただいたことがある.故佐野量造先生から胃癌の発生・発育経過を示唆するものと大変なお褒めをいただき「胃と腸」への投稿を促された.後年,先生が亡くなられたころ「胃と腸」に投稿したところ,不採用となってしまい,少しばかり複雑な思いをしたものである.

追悼

神津照雄君を偲ぶ 吉田 操
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 神津照雄君が“定年まで1年余りだが,この時間は自分のために使うのだ"と嬉しそうに話すのを6か月前に聞きました.しかし今年の5月末に知らせを聞いて千葉に駆けつけたとき,既に意識がなく別れの挨拶を無言で交わしました.高齢化の時代に入って久しい日本で63歳は早すぎ,失うに惜しい人でした.

 神津君と私は千葉大学医学部で同級生として過ごしました.受験戦争と言われる時代でしたが,彼にとって現役突破は当たり前でした.何事にも積極的である彼の姿勢は生来のものでした.1969年に卒業して,神津君はかつて中山恒明教授の主宰なさった母校の第二外科教室に,私は中山教授が新たに設立された東京女子医科大学消化器病センター外科に所属し,食道疾患を専門にすることになりました.このころは食道癌早期診断の黎明期にあり,1966年に本邦第1例目の“早期食道癌"が報告され,ファイバースコープの開発が始まっていました.われわれの世代は自然に食道疾患の内視鏡診断にのめり込むようになりました.食道の色素内視鏡検査法を開発,粘膜癌の診断ができるようになり,粘膜癌の病型分類を作り,粘膜癌の病態を明らかにし,局所治療で治癒できると確信できたので,内視鏡的粘膜切除法(endoscopic mucosal resection ; EMR)を開発しました.充実した毎日でした.

神津照雄先生を偲ぶ 幕内 博康
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 親友,心の友の神津照雄先生は2008年6月2日天国へ旅立たれました.ご冥福をお祈り申し上げます.

 5月21日に病状悪化の知らせをいただき,翌22日千葉大学医学部附属病院へお訪ねし,松原久裕教授のご案内でICUの神津先生にお会いしました.respirator装着中でしたが,お顔もふっくらとされていて顔色も良く,彼の大きな温かい手を握っていると,これまでのことが次々と思い出されて涙が止まらなくなりました.

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欧文目次

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 2008年9月17日(水),笹川記念会館国際会議場で行われた早期胃癌研究会の席上,第14回白壁賞と第33回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第14 回白壁賞は浜田勉・他「Crohn 病における食道病変」(胃と腸42 : 403-416,2007)に,第33 回村上記念「胃と腸」賞は八尾隆史・他「非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)起因性腸病変の臨床病理学的特徴と病態」(胃と腸42 :1691-1700,2007)に贈られた.

編集後記 浜田 勉
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 胃癌の発育に関しては過去多くの論文がある.発育速度が急速か緩慢かに影響する因子はある程度臨床では認識されているが,今回は検討材料を内視鏡的に経過観察された症例に絞って胃癌発育が論じられたところに意義があるだろう.時間的にみて胃癌の発育速度はどうであるのかが焦点だが,果たしてどのような結論が得られたのであろうか.

 初回内視鏡像が明瞭となった全国多施設集計の解析論文では,初回肉眼型がM癌では5年以上の長期間大きさや肉眼型に変化は認められなかったのに対し,SM癌では2年以内で速やかに進行癌へと発育したとしている.また,津熊らは早期胃癌と内視鏡診断および生検診断で確認された症例を追跡した結果,約7年以内にその80%が進行癌に発育し,早期癌はほぼ進行癌に発育することを示したが,速度に関しては初回肉眼型など有意差のある因子は認められなかったという.さらに,長浜らはM癌からSM癌まで7年,SM癌から進行癌まで2~3年とし,超高分化型腺癌が発育の遅い因子と挙げた.これらの点は,従来言われてきたこととほぼ同様であり,内視鏡的にも確実に裏づけられたと考えられる.  

基本情報

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胃と腸
43巻12号 (2008年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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