胃と腸 40巻8号 (2005年7月)

今月の主題 免疫異常と消化管病変

序説

免疫異常と消化管病変 飯田 三雄
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免疫とは,疫(病気)から免れるためにもともと生体に備わっている防御反応のことである.このシステムは免疫系と呼ばれ,主として①T細胞,B細胞,NK細胞などのリンパ球,②マクロファージ,単球,好中球などの食細胞,③補体,から構成されている.この免疫系のいずれかに何らかの欠陥が生じると,病原微生物に対する正常な防御機構が破綻し,易感染性かつ感染症の遷延・重症化を招くこととなる.このような病態を免疫異常(状態)あるいは免疫不全(状態)と呼んでいるが,その欠陥が先天性であれば原発性免疫不全,後天性であれば続発性(二次性)免疫不全と呼称されている.本号は,免疫異常状態にみられる消化管病変の特徴像を明らかにすることによって,分類困難あるいは診断困難な消化管病変に遭遇した場合でも適切な診断・治療へのアプローチが可能になることを目的に企画された.

主題

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消化管に病変を来す原発性免疫不全症(PID)はCVID,XLA,IgA欠損症,SCID,Wiskott-Aldrich症候群,ataxia-telangiectasia,慢性肉芽腫症,Chediak-Higashi症候群,無汗性外胚葉形成不全症,高IgE症候群などが挙げられる.これら疾患にみられる消化管病変としては消化管感染症,スプルー様病変,潰瘍を伴う多彩な炎症性変化,自己免疫病変(IBD,PA),消化管の悪性腫瘍(癌,リンパ腫)がある.これら病変の多くは病変成立機序に反復・遷延する重篤な感染が重要な役割を果たしていると考えられる.続発性免疫不全症の原因疾患としてはAIDS,ATL/L,GvHD,膠原病,α鎖病,医原性要因などが挙げられる.これら疾患にみられる消化管病変は,種々の寄生虫やウイルスを中心とした日和見感染,組織のapoptosis,Kaposi肉腫,原発腫瘍の消化管浸潤などがある.既存のカテゴリーにあてはまらない消化管病変に遭遇した場合,患者の全身徴候に注意を払い,免疫学的検索を行うことが必要である.

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免疫異常状態における消化管病変は,多彩な病像を呈するため,診断に際してはこれらの特徴をよく理解しておく必要がある.このような状態を来す代表的疾患として,AIDS,ATL,GVHD を取り上げ,代表的症例を呈示しながら特に生検診断とその際の鑑別を念頭に,各病態を概説した.病像を複雑にする要因の1つは日和見感染症であるが,病理像とともに部位・内視鏡所見が特徴的なものが多く,これらも対比しながら説明した.

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免疫不全状態として先天的免疫異常,臓器移植などに伴った医原性免疫異常,HIV感染,その他のウイルス感染,血液・リンパ系の腫瘍性疾患などが挙げられる。特に、HIV感染によるAIDS患者は全世界的に増加し、またAIDS関連の消化管悪性腫瘍は高頻度でみられ,その早期診断が重要な今日的課題となっている.今回,上部消化管内視鏡120例(男111例,女9例,平均40.2歳),大腸内視鏡63例(男59例,女4例,平均39.8歳)の計154例で Kaposi 肉腫11例,悪性リンパ腫7例,大腸癌3例を経験し,内視鏡的特徴像と鑑別診断について検討した.その結果,Kaposi肉腫は鮮やかな赤みを伴う血豆状,うろこ状を呈し,悪性リンパ腫は正常から軽度の発赤を示した.また,両者は種々の形態を示し,悪性リンパ腫でより大きな潰瘍型,隆起型を示す例がみられた.Kaposi肉腫の微小病変の拡大内視鏡観察では,病変は小さな平坦・隆起で色調は鮮やかな発赤を呈し,食道では血管網の途絶とIPCLの不明瞭化,胃では微小表面模様の腫大,小腸では腫大した絨毛,そして大腸では疎なI型pitを認め,またびらん部分で模様の消失がみられ,発赤は明瞭な境界を有した.悪性リンパ腫では同様の微細表面模様を認めたが色調は正常から淡い発赤で,発赤の境界は不明瞭であった.また,大腸癌を3例4病変認めたが腫瘍性pitから明瞭に鑑別された.一方,AIDS関連の感染症としてカンジダ真菌症,CMV,アメーバ,HSV,MAC などが経験されたが,びらん・潰瘍および隆起部分の性状を通常・拡大内視鏡観察により詳細に検討することで悪性腫瘍を含めた鑑別診断が可能であった.以上から,HIV感染者は既に悪性腫瘍のhigh risk groupという認識で,その早期診断を目的としたスクリーニングとして内視鏡診断学を位置づける必要があると思われた.

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免疫不全と移植片対宿主病(GVHD)における消化管病変の臨床的特徴を概説した.先天性免疫不全の中でも,リンパ球機能低下における消化管病変の報告は少ないが,その多くは小腸の原虫・寄生虫感染症とそれによる吸収不良症候群である.これに対し,慢性肉芽腫症や糖原病などの好中球機能低下症では慢性の大腸病変が発生し,臨床像や画像所見は特発性慢性炎症性腸疾患に類似している.後天性免疫不全の中でもHIV感染症とHTLV-1感染症では原虫・寄生虫感染による小腸病変が認められる.また,後天性免疫不全では真菌感染による食道病変とウイルス感染による潰瘍性病変に遭遇することが多い.一方,医原性免疫過剰反応であるGVHDでは多彩な病変が消化管のいずれの部位にも発生するが,その基本は腺窩上皮の浮腫および粘膜脱落と考えられる.免疫異常状態における消化管病変の画像診断に際しては,消化管感染症の病態を熟知しておく必要がある.

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初診時AIDSと診断された患者のうち138例に症状に基づいて内視鏡検査を行った結果,20例に消化管病変を認めた.上部消化管の15例全例に食道病変を認め,12例はカンジダ,cytomegalovirus,herpes simplex virusの日和見感染病変(疑いを含む)であった.このうち2例は胃に悪性リンパ腫を伴っていた.大腸病変は6例で,5例はアメーバ性大腸炎であった.上部消化管症例のうち6例,大腸症例のうち1例は消化器症状で発症していた.悪性リンパ腫の2例が死亡した.AIDSの消化管病変は診断の契機となりうるだけでなく,治療方針や予後にも影響する重要な因子であり,内視鏡検査において常に念頭に置いておかねばならない.

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ATL/L(adult T-cell leukemia/lymphoma)において,免疫不全状態を背景として消化管に発生する病変を,自験例191例を対象として検討した.ATL細胞浸潤による消化管病変の肉眼形態は,臓器により異なり,胃では混在型が,小腸では多発隆起型が多い傾向がみられた.ATL/L以外の消化管の悪性リンパ腫との比較では,多発性,びまん性の傾向がみられた.消化管の日和見感染は,4.2%に認められ,化学療法による骨髄抑制に伴う免疫不全または,ATL/Lそのものの病勢の進行による免疫不全が背景と考えられた.また,ATL/Lでは,HTLV-1感染により,キャリアーの時期から免疫能の軽度の低下があるとされており,これを背景とした糞線虫症の合併や,他臓器癌の合併についても言及した.

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内視鏡検査を施行した同種造血幹細胞移植症例155例を検討した.41例が病理組織学的にGVHDと確定診断され,うち12例は他臓器GVHDを伴わない消化管GVHDであった.上部消化管で31例,下部消化管で19例が診断された.上部消化管では胃,下部消化管では終末回腸・深部結腸での内視鏡的有所見率,GVHD診断率が高かった.内視鏡所見としては,粘膜浮腫,発赤,びらん,潰瘍などを認めた.炎症細胞浸潤をあまり伴わない間質浮腫を反映したびまん性の粘膜浮腫像が高率にみられ,比較的特徴的な所見と考えられた.上部消化管で17例,下部消化管で8例のCMV感染を認めた.うちGVHDを伴わないCMV感染例が6例あり,びまん性粘膜変化を伴わないdiscreteな病変が特徴であった.消化管GVHDの早期診断のみならず,日和見感染との鑑別においても,積極的な内視鏡検査の重要性が示唆された.

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患者は79歳,女性.主訴は胸のつかえ感と食思不振.近医の内視鏡検査で食道にやや深めで白苔に覆われた潰瘍が多発していたため当科紹介入院.初回から10日後の内視鏡検査では,食道潰瘍の白苔はほぼ消失し発赤調の陥凹面を呈していた.同X 検査でも多発するバリウム斑と皺襞集中像が描出された.食道潰瘍からの生検でhaloを伴う核内封入体および免疫染色でサイトメガロウイルス(CMV)抗原を確認し,CMV食道炎と診断した.末梢血白血球中にもCMV抗原陽性細胞を認めた.また,末梢血中の異常リンパ球,CTでの頸部,鼠径部および傍大動脈リンパ節腫大,HTLV-1抗体陽性が確認された.以上より,成人T細胞白血病/リンパ腫を基礎疾患として発症したCMV食道炎と考えられた.

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症例は17歳,男性.生後3か月時に糖原病Ib型と診断され,10歳時より好中球減少症による易感染性に対してG-CSFの投与を受けていた.1999年1月より1日4~5行の水様性下痢が出現したため当科を受診した.注腸X線検査では全大腸に及ぶ鉛管状ないしは萎縮瘢痕帯様の所見がみられ,横行結腸と下行結腸には輪状傾向を有する不整形潰瘍が認められた.内視鏡検査では,不整形潰瘍に加えて介在粘膜の血管透見像の乱れが観察された.以後6年間の経過観察中,不整形潰瘍が散発性に出没し,腸管長軸方向への短縮がわずかに進行したが,腸管狭小化や瘻孔出現はなかった.糖原病Ib型では慢性炎症性腸病変を合併することが知られているが,自験例ではその進行は緩徐であった.

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症例は52歳,男性.下痢と体重減少を主訴に入院.小腸造影検査ではKerckring皺襞の腫大がみられ,小腸内視鏡検査では十二指腸から上部空腸にかけてびまん性に白色絨毛,粗そう粘膜を認めた.同部の生検病理組織所見でHE染色にて粘膜固有層に多数のfoamy macrophagesがみられ,PAS染色で強陽性であり,電顕にて多数の桿菌がみられた.Tropheryma whipplei DNAをPCRで確認して確定診断した.抗菌薬により症状は改善した.その後ST合剤を内服しているが,15か月後の小腸内視鏡検査でやや浮腫性変化は残存していたものの,白色調粘膜所見は消失していた.

学会印象記

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第91回日本消化器病学会総会は2005年4月14日(木)からの3日間,荒川泰行会長(日本大学消化器肝臓内科教授)の下,東京国際フォーラムにて開催された.荒川会長が掲げられた会の理念は「消化器病学の共創未来―新しい可能性の扉を拓く」であり,その内容は招聘講演2題のほか,特別講演7題,各分野のトピックスに関連した教育講演11題,ポストグラデュエイトコース,市民参加特別企画など大変多彩で豊富であった.さらにその内容は,シンポジウム12題,パネルディスカッション11題,ワークショップ10題の計33に及ぶ主題発表,さらには一般演題726題と質,量ともに大変充実していた.

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欧文目次

編集後記 平田 一郎
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 本号は「免疫異常と消化管病変」というテーマで企画編集された.過去にも「膠原病と腸病変」(1991 年),「AIDS と ATL の消化管病変」(1999 年),「全身性疾患と消化管病変」(2003 年)といった主題があり,その中で “免疫異常に関連した消化管病変"が部分的に取り上げられている.本号では,それら消化管病変がより充実して網羅され,系統的に取り上げられているので,より理解しやすくなっていると思われる.GVHD もより充実した内容で掲載されている.また,非常にまれな興味深い疾患(糖原病,Whipple 病など)も取り上げられている.日常臨床の場において,既存の範疇に当てはまらない消化管病変を見た場合や,あるいは免疫異常状態を有する症例がどのような消化管病変を呈してくるのかを考察する上で本号は有用であると考える.本書によって,免疫異常が背景に潜む症例の消化管病変に対する理論的・系統的な診断学が読者の中に構築されることを願う.

基本情報

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胃と腸
40巻8号 (2005年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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