胃と腸 39巻9号 (2004年8月)

今月の主題 Barrett食道癌―表在癌の境界・深達度診断

序説

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はじめに

 Barrett食道癌の急激な増加が欧米で問題となってきて,本邦でもトピックスの1つとなっている.Barrett食道に関する論文は年間400件以上発表されていて,その関心の深さが推察される.Barrett食道の発生,病態,malignant potential から dysplasia,腺癌の発生機序,サーベイランス,腺癌の発生予防,そして治療に至るまで,種々の検討がなされているが,十分とは言い難い.

 Barrett食道はGERD(gastroesophageal reflux disease)の終末像と考えられているが,GERDの10~15%しかBarrett食道が発生してこないのはなぜなのであろうか.発生するための攻撃因子,防御因子における至適条件は何であろうか.胆汁酸の影響はどうであろうか.食道噴門腺(esophageal cardiac gland)がBarrett食道の発生にどのように関与しているのか.また,Barrett食道が噴門からcreepingするとしたらその速度はどのくらいか.Barrett食道に逆流性食道炎の合併率が低い理由は何か.Barrett食道を有する症例に胸やけの自覚症状を強く訴える症例が少ないのはなぜか.short segment Barrett's esophagus(SSBE)はすべてlong segment Barrett's esophagus(LSBE)になるのだろうか.ならないとしたらその理由は何か.Barrett食道のmalignant potentialは本当に高いのか.腺癌発生の主体はGERによるプロスタグランディン E2放出によりシクロオキシナーゼ(cox2)やプチティンキナーゼ(RKC)が誘発され増殖能を亢進すること1)でよいのか.もっと複雑な要素がからんでいるのだろうか.SSBEとLSBEのmalignant potentialに差があるのか.あるいは単に面積の問題か.不完全型腸上皮化生が腺癌の母地とされているが,癌の発生しないものもあり,どんな条件が加わる必要があるのか.LSBEにおける癌の発生部位をみると広範囲にわたっていて,意外に口側にも多い.Barrett食道がcreepingで発生するとすれば食道炎の発生からの時間経過や胃食道逆流にさらされる程度からみても当然Barrett食道の下端(肛側)に好発するはずであるが,どうしてそうでないのか.Barrett食道癌の進行癌は広範囲のリンパ節転移を来し予後不良となるがなぜなのだろう.腸上皮から発生した分化型の癌であるのになぜこれほどまでに予後不良となるのか.その他,種々不明の点が多く,エビデンスらしいエビデンスはない.今後研究すべき課題の宝庫であるとも言える.今回は Barrett食道癌の境界診断および深達度診断について検討していただくこととした.

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要旨 Barrett食道の診断にはesophagogastric junction(EGJ)の同定が重要であるが,それは困難である.それを解決する方法としては柵状血管の下端を認識することが現時点では最も妥当と考えられる.一方Barrett食道は食道の扁平上皮が円柱上皮で置換された状態であるが,その組織学的特徴は噴門腺粘膜,ならびにそれに杯細胞化生を伴った上皮で基本的には胃の形質を有している.またその発生に関してはいまだ明らかになっていないが,最近になり扁平上皮からの異分化,食道噴門腺の露出,multilayered epitheliumからの分化などが示唆されている.

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要旨 症例を通じてBarrett食道表在癌のX線像について述べた.Barrett上皮の造影像は,比較的規則正しい微細な顆粒状陰影ないし網状陰影を呈した.微細顆粒状陰影は胃の粘膜模様よりさらに微細なものであった.表在癌の深達度診断は,正面像ではバリウム斑の大きさや濃さ,顆粒状陰影の大きさ,隆起成分の有無やその様相などの粘膜像をみる.側面像では不整像や伸展不良などの壁の変形に着目する.食道造影によるBarrett上皮および食道表在癌の診断は,食道の粘膜像を丹念に描出し,その粘膜像を読み取ることが大切である.そのためには,良好な二重造影像を撮影する必要がある.

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要旨 Barrett食道癌と診断され,切除し病理学的検討がなされた18例20病変の検討では,m癌は3病変,sm癌は9病変で,この12病変の内訳は0-I型4病変,0-IIa型3病変,0-IIc型2病変,0-Ipl+IIc型1病変で,残り2病変は潰瘍型を示し,全体として隆起型を示す腫瘍が多い傾向にあった.一方,陥凹を有する表在型を呈した腫瘍の中には,mp癌の2病変が含まれていた.腫瘍の組織型は,20病変の中で高分化腺癌12病変,中分化腺癌7病変,乳頭腺癌1病変であった.またBarrett上皮の長さと腫瘍の位置に関しては,一定の傾向はみられなかった.X線検査においては,Barrett上皮は二重造影像により網目状,あるいは顆粒状粘膜として描出され,通常の造影剤の嚥下による撮影にて腫瘍の表面の性状も詳細に描出することができた.さらに本症では造影剤を胃から食道へ逆流させて撮影する方法も有効で,特に隆起性病変の輪郭ならびに表面の性状を明瞭に示すことができた.

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要旨 自験8例11病変のBarrett食道表在癌をもとに通常内視鏡,インジゴカルミンによる色素内視鏡,拡大内視鏡による側方伸展範囲診断成績を検討した.通常内視鏡での側方伸展境界正診率は45%と低く,インジゴカルミン撒布を併用しても正診率は向上しなかった.11病変中5病変に0-IIb伸展を伴っており,この0-IIb部の診断が困難であったためと考えられた.一方,拡大内視鏡を施行した7病変中5病変(71%)では側方伸展範囲を正診しえた.拡大内視鏡では腫瘍部に特有の異常血管が認められ,異常血管分布の境界として側方伸展境界を診断しえた.拡大内視鏡にて誤診した原因として癌が非腫瘍性粘膜で被われ中間層を側方伸展した発育様式が考えられた.しかし中間層置換範囲は最大2mmと短く,拡大内視鏡は Barrett食道表在癌診断に有用と思われた.

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要旨 内視鏡的および病理組織学的にBarrett食道(上皮)から発生したと診断された早期Barrett食道癌20例の内視鏡所見について検討した.LSBE由来は2症例,全周性のSSBE由来は6症例,部分的にBarrett上皮が認められたものが12症例であった.病変の局在部位は,LSBEに発生した1例を除いて全例が右側前壁に存在していた.Barrett食道癌の色調は,全例が発赤調であり,sm2以上の浸潤癌では全例が隆起性病変でBarrett上皮との境界も明瞭であった.m~sm1癌は発赤した極軽度の厚み,わずかな粘膜不整所見に注意することにより存在診断が可能であったが,病変境界は不明瞭であった.早期癌に対する内視鏡治療のためにはより正確な病変範囲の同定のための診断技術の確立が必要である.

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要旨 Barrett粘膜由来の表在型腺癌,12例13病巣を対象として,Barrett食道癌の深達度,伸展度診断におけるEUSの診断能について検討した.リニア型EUSは消化管壁の長軸方向に沿った断層像が描出されるため,層構造の変化からEGJを認識できるとともに,EUS上のhiatusとの位置関係を把握できる.腺上皮レベルにとどまるm癌の描出には限界があるが,それ以深の病変については,元々のEGJに接していなければ,食道側に主座を持つかどうかの判定は可能であると考えられた.sm深部癌の深達度診断は良好であった.細径超音波プローブでは Barrett食道は,腺上皮が第2層の薄い低エコー層として描出され,粘膜筋板からsm層は線維化の影響で層構造の分離が不明瞭となり,びまん性に比較的高エコーに肥厚して描出されることが多く,健常食道壁とは描出のされ方が異なっていた.Barrett食道癌は不均一な低エコーを示すことが多く,その下面のsm層も線維化や食道腺,脈管などが混在して不均一なため境界が不鮮明となり,深達度診断が難しかった.線維化が高度な場合には,壁構造の中に占める相対的な位置関係から深達度を診断する必要があると考えられた.

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要旨 外科切除表在Barrett食道癌5例を用いて,同癌の進展範囲と深達度診断について検討・考察した.粘膜内癌は,新生粘膜筋板までにとどまるものをm1,同粘膜筋板を越えて食道固有の粘膜筋板までにとどまるものをm2に,細分類した.m1癌は平坦,色調も周囲粘膜とほぼ同色調で,表面性状の変化にも乏しく,肉眼存在診断自体が困難であった.m2癌からは凹凸が出現し,褐色調,分葉状,微細絨毛状,顆粒・結節状などの表面性状から,存在診断・進展範囲診断が可能であった.m2癌の進展範囲診断では,癌が扁平上皮下を潜り広範囲に拡がっている可能性を常に念頭に置く必要がある.癌sm浸潤部は,① 褐色調の色調が強い,② 隆起,③ 表面光沢感の減少と平滑化,の3点でm2癌との識別が可能であったが,深い陥凹,びらん,潰瘍などの粘膜模様消失像を呈したものはなかった.これは,癌組織型が,smに浸潤しても粘膜内癌部の脱落を来すことの少ない,乳頭状癌や低異型度癌であったことに起因していた.m2癌の中には,sm大量浸潤癌と類似した肉眼形態を示すものがあった.内視鏡的治療を念頭に置いた表在Barrett食道癌の深達度診断を考える上で,こうした肉眼形態がm2癌の発育進展過程にとって一般的なものかどうかを明らかにすることが今後の重要な課題である.

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要旨 小児・成人の食道胃接合部,成人の食道噴門腺の観察から,Barrett食道の成り立ちについての仮説を提唱し,そこからBarrett食道・腺癌にかかわる諸問題について考察を行った.結論 ①Barrett食道は胃粘膜が食道側に連続的に伸び出した病態ではなく,食道噴門腺の露出による増殖能の活性化と下部食道粘膜の増殖幹細胞に潜在している円柱上皮への分化能の顕在化が関与して生ずる病態と推測される.②特殊円柱上皮がBarrett食道口側に観察される理由は,胃の影響が相対的に低い領域であり,食道扁平上皮の基底側に存在する増殖幹細胞は系統発生学的により根原的な腸型上皮への分化を発現しやすいためと考えられる.③Barrett食道は多中心性に発生した円柱上皮の癒合により形成されると考えられ,一部の腫瘍性病変の非連続性や多発の問題は,腫瘍性病変がBarrett食道の形成過程に発生すると仮定すると容易に説明できる.④Barrett腺癌の治療にEMRが用いられるようになり,病変の範囲決定はより重要性を増してきた.今後症例を蓄積し,臨床・病理が肉眼所見,内視鏡像,顕微鏡所見を詳細に比較検討し,整合性のある診断基準を確立することが肝要であろう.

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要旨 Barrett 粘膜・食道45例に対して狭帯域フィルター内視鏡(narrow band imaging;NBI)システム併用拡大内視鏡観察を行い,その有用性を明らかにすることを目的に拡大観察画像と病理組織像とを対比検討した.Barrett粘膜・食道において粘膜微細模様はround or oval,straight,villus,cerebriform,irregularの5つのpatternに,毛細血管像はType I~Vに分類された.“villus”または“cerebriform”を呈する粘膜微細模様の特殊腸上皮化生(specialized intestinal metaplasia;SIM)に対するsensitivityは81%であった.“Type IV”〔螺旋状に蛇行しつつ複雑に分岐し,絡み合う蔦(an ivy)あるいはDNA螺旋様構造を示す.しかも,隣接する毛細血管同士が鎖状またはネット状に連結している毛細血管像〕のSIMに対するspecificityは93%であった.表在型Barrett腺癌部では,“irregular”な粘膜微細模様とType V(不規則な走行と形状不均一を伴う異常毛細血管像)を認めた.粘膜微細模様と毛細血管像に基づいたNBI併用拡大内視鏡診断は,発癌母地として重要視されているSIMのより確実な拾い上げとともに,Barrett腺癌の早期発見とその範囲診断に有用である可能性が示唆された.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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拡大観察の基本とは

 Fig.1は,現在市販されている拡大電子スコープGIF-Q240Z(オリンパス)を用いて,約100倍拡大で内視鏡観察された胃体上部大彎粘膜である.斑状発赤がみられたために拡大観察したが,0.1mm前後の大きさの胃腺開口部である胃小窩(gastric pit)が白色の点として観察されている.

 筆者は1)1970年代後半に,30倍の拡大観察能を持つ拡大ファイバースコープFGS-ML II(町田製作所)で胃粘膜を観察して,拡大内視鏡観察された胃小窩単位の模様像に胃粘膜微細模様(fine gastric mucosal pattern)と名づけた.Fig.2に示すのが当時の写真である.papilla,pit patternなどと様々な名称で呼ばれているが,胃粘膜微細模様の形態の違い,そしてそのレベルの大きさの粘膜変化を観察するのが拡大観察である.

 一方,最近では微細血管の形態変化を中心に観察する拡大内視鏡診断が注目されている.Fig.3は IIc型早期胃癌症例であるが,このように胃癌の診断には特徴的な微細血管の観察が有用とされてきている.

早期胃癌研究会

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 第43回「胃と腸」大会は,2004年5月25日(火)に第67回日本消化器内視鏡学会総会のサテライトシンポジウムとして,京都ホテルオークラで開催された.司会は飯石浩康(大阪府立成人病センター消化器内科)・清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科)・趙栄済(京都第二赤十字病院消化器科)が担当した.

 〔第1例〕 83歳,男性.臨床,病理ともに腫瘍と炎症の鑑別が問題となった食道狭窄(症例提供 : 大阪医科大学第2内科 梅垣英次).

 嚥下困難を主訴とし,画像で下部食道に著明な狭窄を来し腫瘍性病変が疑われたが,生検では腫瘍性変化が認められず診断に苦慮した症例であった.読影は小山(佐久総合病院胃腸科)が担当した.X線像で下部食道に全周性の狭窄があり,陥凹の口側境界が明瞭で陥凹面が不整であることから,全周性の表在型食道癌で深達度はsm massiveと診断した.田中(広島大学光学医療診療部)は画然した変形が認められないので炎症の可能性が高いとした.長南(仙台厚生病院消化器内視鏡センター)も軟らかさと辺縁の毛羽立ち像から炎症を支持した.幕内(東海大学消化器外科)はタッシェがみられないことから癌の可能性が高いとした.内視鏡像(Fig.1)では,小山は口側の境界が明瞭かつ不整で病変の表面の凹凸が目立つことからやはり癌であり,病変がsquamocolumnar junctionの口側に存在するので0-I型扁平上皮癌でsm massiveに浸潤していると診断した.田中,長南は病変に硬さが乏しいことからやはり癌は考えにくいと述べた.幕内は病変が軟らかく上皮成分も残っていることから,比較的深達度が浅く,しかも腺扁平上皮癌などの腺癌成分を含む癌であろうと診断した.傳(獨協医科大学病理)は表面に扁平上皮が残っており顆粒状を呈していることから疣状癌,腺様嚢胞癌,類基底細胞癌などの特殊な癌を考えたいと述べた.超音波内視鏡像は長南が読影し,食道の壁構造が完全に破壊されているので炎症は考えにくく,進行した癌と診断した.神津(千葉大学光学医療診療部)は内視鏡像,超音波像を総合して炎症をベースに発生した腺癌と診断した.

 噴門側胃切除が施行された.病理は江頭(大阪医科大学病理)が解説した.肉眼的には病変は食道胃接合部のやや口側にあり,大小不揃いの光沢のある結節とその間の不明瞭な陥凹から成っていた.病理組織学的には食道は全層性に著明に肥厚しており,その主体は粘膜下層の線維増生と炎症細胞浸潤であり,表面の顆粒状変化は上皮の棘状増殖によるものであった.粘膜下に島状に増殖した上皮が認められたが,上皮に分化傾向があり強い異型も認められないこと,増殖細胞が基底層に限局していることから癌とは診断できず,Ul-II~IIIの潰瘍瘢痕を伴う非特異的な炎症性変化で,上皮の過形成によって表面が結節状に隆起したと説明した.病変の存在部位から逆流性食道炎がベースにあると考えるが,結節状に隆起した原因については不明とした.幕内から食道胃接合部近傍の変化が少ないことから逆流性食道炎とは言えないのではないかと発言があった.渡辺(新潟大学名誉教授)は疣状癌に強い炎症性変化が加わった像ではないかと述べた.下田(国立がんセンター中央病院臨床検査部)は癌は考えられず,何らかの炎症性変化であることは間違いないが,逆流性食道炎でこのような変化は起きないと発言した.

 本症例は病理診断が分かれてしまい,結局癌か炎症だけかの結論を得ることができなかった.いずれにしても非常に奇異な肉眼像を呈した症例であり,病変の成り立ちについてのさらなる検討が必要である.

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欧文目次

編集後記 小山 恒男
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 消化管の診断学が世界で最も進んでいるのは日本であり,そのリーダーが「胃と腸」誌であることに異論はない.だが,Barrett 食道癌に関しては例外であった.欧米諸国では食道腺癌が多く,特に白人男性では食道癌の 70~80 % までが Barrett 食道腺癌である.日本では圧倒的に Barrett 食道癌が少ないのだから,やむを得なかった.“欧米ではランダムバイオプシーによるサーベイランスが主流であり,彼らの診断学はだめだ"と多くの日本人が考えている.しかし,そうでもない.

 近年,欧米でも上部消化管拡大内視鏡が導入され Barrett 食道の拡大観察が急速に普及している.ニューオリンズで開催された DDW 2004 でも Barrett 食道の内視鏡診断に関する多くの発表があった.このままでは日本のお家芸である表在癌の診断でも欧米に遅れをとってしまう.危機感を持って,本号を企画した.

基本情報

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胃と腸
39巻9号 (2004年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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