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第43回「胃と腸」大会は,2004年5月25日(火)に第67回日本消化器内視鏡学会総会のサテライトシンポジウムとして,京都ホテルオークラで開催された.司会は飯石浩康(大阪府立成人病センター消化器内科)・清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科)・趙栄済(京都第二赤十字病院消化器科)が担当した.
〔第1例〕 83歳,男性.臨床,病理ともに腫瘍と炎症の鑑別が問題となった食道狭窄(症例提供 : 大阪医科大学第2内科 梅垣英次).
嚥下困難を主訴とし,画像で下部食道に著明な狭窄を来し腫瘍性病変が疑われたが,生検では腫瘍性変化が認められず診断に苦慮した症例であった.読影は小山(佐久総合病院胃腸科)が担当した.X線像で下部食道に全周性の狭窄があり,陥凹の口側境界が明瞭で陥凹面が不整であることから,全周性の表在型食道癌で深達度はsm massiveと診断した.田中(広島大学光学医療診療部)は画然した変形が認められないので炎症の可能性が高いとした.長南(仙台厚生病院消化器内視鏡センター)も軟らかさと辺縁の毛羽立ち像から炎症を支持した.幕内(東海大学消化器外科)はタッシェがみられないことから癌の可能性が高いとした.内視鏡像(Fig. 1)では,小山は口側の境界が明瞭かつ不整で病変の表面の凹凸が目立つことからやはり癌であり,病変がsquamocolumnar junctionの口側に存在するので0-I型扁平上皮癌でsm massiveに浸潤していると診断した.田中,長南は病変に硬さが乏しいことからやはり癌は考えにくいと述べた.幕内は病変が軟らかく上皮成分も残っていることから,比較的深達度が浅く,しかも腺扁平上皮癌などの腺癌成分を含む癌であろうと診断した.傳(獨協医科大学病理)は表面に扁平上皮が残っており顆粒状を呈していることから疣状癌,腺様嚢胞癌,類基底細胞癌などの特殊な癌を考えたいと述べた.超音波内視鏡像は長南が読影し,食道の壁構造が完全に破壊されているので炎症は考えにくく,進行した癌と診断した.神津(千葉大学光学医療診療部)は内視鏡像,超音波像を総合して炎症をベースに発生した腺癌と診断した.
噴門側胃切除が施行された.病理は江頭(大阪医科大学病理)が解説した.肉眼的には病変は食道胃接合部のやや口側にあり,大小不揃いの光沢のある結節とその間の不明瞭な陥凹から成っていた.病理組織学的には食道は全層性に著明に肥厚しており,その主体は粘膜下層の線維増生と炎症細胞浸潤であり,表面の顆粒状変化は上皮の棘状増殖によるものであった.粘膜下に島状に増殖した上皮が認められたが,上皮に分化傾向があり強い異型も認められないこと,増殖細胞が基底層に限局していることから癌とは診断できず,Ul-II~IIIの潰瘍瘢痕を伴う非特異的な炎症性変化で,上皮の過形成によって表面が結節状に隆起したと説明した.病変の存在部位から逆流性食道炎がベースにあると考えるが,結節状に隆起した原因については不明とした.幕内から食道胃接合部近傍の変化が少ないことから逆流性食道炎とは言えないのではないかと発言があった.渡辺(新潟大学名誉教授)は疣状癌に強い炎症性変化が加わった像ではないかと述べた.下田(国立がんセンター中央病院臨床検査部)は癌は考えられず,何らかの炎症性変化であることは間違いないが,逆流性食道炎でこのような変化は起きないと発言した.
本症例は病理診断が分かれてしまい,結局癌か炎症だけかの結論を得ることができなかった.いずれにしても非常に奇異な肉眼像を呈した症例であり,病変の成り立ちについてのさらなる検討が必要である.
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