胃と腸 38巻2号 (2003年2月)

今月の主題 腸型 Behçet 病と単純性潰瘍の長期経過

序説

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 腸型 Behçet 病も単純性潰瘍もすこぶる奇妙な腸管の炎症性疾患である.病理学的には単純な炎症であるものの,病因から病態,治療法はよくわからない疾患である.一応,非特異性炎症として潰瘍性大腸炎や Crohn 病と同列に取り扱われているが,疾患頻度が少ないためであろうか,臨床サイドでは十分に研究されていない点が多い.

 予後の良いケースもあるが,逆に難治例も少なくない.腸切除術後も再発し,瘻孔を形成して生活にも支障を来し,Crohn 病と同様の末路を辿る.Crohn 病の場合は一応の診断基準や治療指針が明確にされており,難治性疾患であってもそれなりの診療手順は確立されている.腸型 Behçet 病にも Behçet 病の一亜型としての診断基準はあるものの,治療法については決め手がない.単純性潰瘍も診断は容易であるが,治療法については首を傾げる.

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 Behçet 病と腸型 Behçet 病の比較では,前者では steroid の投与が半数であり,大部分が少量~中用量の投与であった.後者では全例に投与され,大部分が高用量であった.steroid 投与の面からみると後者がより重症であった.腸型 Behçet 病完全型・不全型と腸型 Behçet 病疑い・単純性潰瘍の2群に分けて比較検討した.前者では眼病変や副症状がみられるが,後者では全くみられなかった.前者では Behçet 病の経過中に潰瘍が出現したのは2例みられたが,後者では全くみられなかった.腸の潰瘍は前者では大腸に広範囲にみられることが多く,後者では回盲弁上の下掘れ潰瘍が多かった.また,難治例はすべて後者に含まれていた.以上より,両者は病態が異なるものである可能性が高い.すなわち,前者は Behçet 病があり,その1病変として腸の潰瘍が出現する,後者は腸病変が先にあり,腸管外症状として Behçet 病の兆候が出現するという可能性が考えられた.しかし,症例数が少なく,観察期間も短いため,今後のさらなる検討が必要である.

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 過去26年間に腸型 Behçet 病ないし単純性潰瘍と診断された31例を臨床症状から Behçet 病確診(DBD)群,Behçet 病疑い(SBD)群,非 Behçet 病(NBD)群に分類し,1.2~16.2 年(平均 7.4 年)の腸病変の経過を比較した.6例は経過中に SBD から DBDへ移行したが,NBD からDBDやSBDへの進展例はなく,最終経過観察時にはDBD16例,SBD10例,NBD5例となった.消化管病変の再発率と腸切除率は DBD群で94%と50%,SBD群で70%と30%,NBD群で80%と20%で,いずれもDBD群で他の2群よりも高かった.非定型病変はDBD群の50%,SBD群の50%,NBD群の20%で認められた.DBD群の初回病変は定型病変10例,非定型病変4例,併存2例で,8例は定型病変のみ再発・改善を繰り返したが,6例では再発時に非定型病変を認めた.SBD 群の初回病変は定型病変5例,非定型病変4例,併存1例で,初回病変と同一の病型で再発した.一方,NBD 群では定型病変のみが認められ,3例は定型病変が再発し1例のみ再発時に定型病変と非定型病変が併存していた.以上より,腸型 Behçet 病と単純性潰瘍の腸病変はともに高率に再発するが,その経過は異なる可能性が示唆された.

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 単純性潰瘍6例,腸型 Behçet 病7例(完全型1例,不全型6例)に対し平均5.1年(1~13年)の経過観察を行った.初回,単純性潰瘍と診断された2例(16歳,27歳)で,腸管病変出現とほぼ同時に現れた口腔内アフタに加え,両者ともほぼ1年後に皮膚症状が出現し,不全型 Behçet 病の基準を満たした.最終診断は単純性潰瘍4例,腸型 Behçet 病9例で,平均発症年齢はそれぞれ38.2歳,28.4歳,腸管病変診断時年齢は44.0 歳,34.6歳といずれも単純性潰瘍が約10歳高齢であった.先行する感冒様症状や経過中の難治性再発性扁桃炎の頻度は両疾患の間に差はみられなかった.単純性潰瘍は,高齢発症し,症状が揃いにくい腸型 Behçet 病の一亜型として捉えられる可能性が考えられた.腸管病変の内視鏡所見の特徴によって対象症例は4つに分類された.①回盲弁または近傍に単発する2cm 以上の大きな辺縁明瞭な打ち抜き様潰瘍,②回盲部に多発する小型円形潰瘍,③回盲弁以外の,大腸の広い範囲にわたって多発する打ち抜き様潰瘍,④回盲部,主に終末回腸に多発するびらん.すべての症例で複数の治療が行われており,回盲弁の変形を伴う①,②の症例では腸管病変の改善はほとんどみられなかったがC回盲弁に病変,変形を認めなかった③,④の症例では保存的治療に反応し軽快した.

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 10年以上にわたり経過観察しえた腸管 Behçet 病(EB)の5症例を提示し,その臨床経過,特に病像と治療法の変化,さらに予後について解説した.EBの治療は steroid 薬が主体であり,急性期には通常 prednisolone30~60mg/ 日で開始し,症状・臨床検査値・画像所見などに基づき,数か月かけて徐々に減量し,5~15mg/ 日で長期間維持療法を続ける.必要に応じて、5-ASA製剤,colchicine,漢方薬(葛根黄連黄芩湯など)を併用する.免疫抑制薬は腸病変を悪化させうるため慎重に用いる必要があるが,azathioprine の有用性を主張する論文もある.EBでは診断後10~20年で沈静化してくる症例が多く,十分な管理により重大な合併症を未然に防ぐことが重要である.

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 過去に当科で経験した腸型 Behçet 病(以下,腸型 BD)17 例と単純性潰瘍3例の計20例の治療内容と経過について検討した.単純性潰瘍は内科治療の反応が得られず,3例全例手術となった.一方,腸型BDの手術例は8例であるが,再手術例はない.また腸型BDの経過は発症時に最も重篤であり,再燃と緩解を繰り返しながら,徐々に鎮静化することが,17例中10例で内視鏡的にも確認された.単純性潰瘍と腸型 BDの鑑別は,経過と他の随伴症状から可能であった.疾患entityについては議論のあるところであるが,互いに移行しあう症例はなかった.予後には病変の大きさも関与しているが,腸型BDに関しては原疾患自体の経過と腸管の病勢はほぼ一致しており,他臓器の病変も考慮した疾患自体のコントロールに主眼を置いて問題ないと考えられた.

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 腸型 Behçet 病と単純性潰瘍における難治群の特徴を明らかにするために,以下の検討を行った.まず,腸型 Behçet 病では再発率および手術率と腸病変の特徴との関連性について検討した.対象は当科において過去26年間に経験した15例,ならびに過去15年間の本邦報告例の中から病変の肉眼形態,部位の記載が明らかであった50例の計65例である.腸病変の肉眼形態的特徴と部位的特徴を I~V 型の5型に分類し,それぞれの再発率,手術率について比較した.再発率,手術率はともに回盲部の打ち抜き潰瘍とその周囲に多発小潰瘍を認めるII型において最も高かった.この結果より,周囲に小潰瘍を併在する打ち抜き潰瘍症例は難治例であると考えられ,同所見を伴う症例では再発,手術などを十分考慮した経過観察が必要と考えられた.次に,単純性潰瘍については当科において経験した7例と過去11年間の本邦報告例48例の計55例を対象とし,再発率,手術率と腸病変の特徴,同疾患の症候との関連性について検討した.単純性潰瘍は全体的に手術率が高く,それに関連する特徴的症候は抽出できなかったが,再発率においては,口腔内アフタを伴う単純性潰瘍の再発率が口腔内アフタを伴わないものの2倍であり,より難治性であると考えられた.

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 腸型 Behçet 病・単純性潰瘍は大きく深い潰瘍を形成するために外科的手術が行われる.しかし,吻合部近傍に潰瘍再発が約70%みられた.術後再発例では発症後に大きな潰瘍形成により再手術となる例が多い.そこで,術後早期に内視鏡検査を行うと,そのときに潰瘍が再発した場合でも小さな潰瘍であることが多いので,無水エタノールを撒布することで潰瘍の縮小ないし瘢痕化が期待できる.この治療により再手術例は今のところない.術後再発例に無水エタノール撒布による内視鏡治療は試みられて良い.

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 腸型 Behçet 病(B 病)と単純性潰瘍(S 病)の長期経過を,腸管合併症に焦点をあて検討した.当院で経験したB病20例とS病21例の中で,腸管合併症を認めたのは各々12例(60 %)と7例(33%)で,B 病のほうが高頻度な傾向を認めた(p=0.08).腸管合併症ののべ発生件数は27 回で,その内容は瘻孔が11回(41%)で最も多く,穿孔はB病にのみ3回認められた.5年以上経過観察しえた16例で,腸病変の経時的推移について検討すると,初回の消化管造影で腸潰瘍が管腔の半周以上を占めるほど大型で,周囲腸管の伸展性も不良の場合は,腸管合併症への進展が有意に高頻度であった.なお長期経過例の外科手術率は69%(11/16例)と高率であり,手術適応の82%(14/17回)を腸管合併症が占めていた.以上の結果より,B病とS病で腸管合併症の頻度や内容が異なるが,両疾患ともに長期経過で腸潰瘍が腸管合併症へ進展し,手術適応となる頻度が高いことが明らかになった.

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 単純性潰瘍 12 例と腸型 Behçet 病6例の X 線,内視鏡検査所見から両者の病変の分布および性状について検討し以下の結果を得た.①1例を除く17例が回盲部近傍に定型的病変を有していたが,腸型Behçet 病の2例(33.3%),単純性潰瘍の5例(41.7%)は回盲部以外にも病変を有していた.② 回盲部以外に病変を認めたもののうち,腸型 Behçet 病では2例中1例,単純性潰瘍では5例中3例が上部消化管から大腸まで至る広範囲な病変を有していた.③回盲部以外の病変はアフタなどの小病変のみならず全例で透亮像を伴う類円形ないし不整形の明瞭な潰瘍性病変を有していた.④単純性潰瘍では,非定型的部位として十二指腸の下掘れ潰瘍,食道,直腸の打ち抜き潰瘍が1例ずつみられた.以上の結果から,単純性潰瘍も腸型 Behçet病と同様に回盲部以外の病巣も多くみられ,さらに広範囲に多彩な病変を呈することが示唆された.

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 患者は36歳,男性.Behçet 病の主症状4項目のうち,眼症状がなく,陰部潰瘍,口腔内アフタ,皮膚症状のある,不全型 Behçet 病だった.画像検査で回盲弁上に境界明瞭な,深く,大きな潰瘍を認め,腸型 Behçet 病(本疾患)と診断された.保存的な治療に反応ないため,回盲部切除術を施行した.5年後の画像検査で吻合部に瘻孔形成を認め,その後保存的治療を開始したが効果なく,瘻孔は増悪傾向だった.症状も増悪し,1回目の手術12年後に吻合部および一塊となった回腸の切除術を行った.再手術後早期に認めた数か所の小さな潰瘍性病変は,経時的に消褪,再発を繰り返していたが,5年後に腸管の漿膜側への炎症の波及を示唆する所見が強くなり,潰瘍は深く,大きく典型的な本疾患の形態となった.2回目の手術から7年後に潰瘍は皮膚瘻を形成したため,再々手術となった.21年間の経過観察中に,3回の腸切除が行われ,小病変から本疾患に典型的な下掘れ潰瘍の形態を呈する経過を観察できた症例を経験したので報告した.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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は じ め に

 “早期胃癌研究会” に参加される先生方は診断能力向上のために出席されていると推察します. 形態診断能は個人の経験に左右されるところが大です.しかし,一個人や一施設で経験できる症例は限られていますので,研究会で他施設から呈示された症例をたくさん見て,自分の経験例に加えれば,その人の診断能力は向上するはずです.特に早期胃癌研究会では論文以上にたくさんの画像が呈示され,病理の解説もありますし,診断があたらなかった読影者が喰い下がりますから,論文を読むよりも効率的かもしれません.

 とすれば,呈示される症例では多数の参加者が納得し,症例を消化できるような写真が呈示されることが必要です.“良い写真” とは出席された先生の糧になる写真で “悪い写真” は糧にならない写真ということが結論です.しかし,それでは原稿になりませんので消化管診断についての私見を述べ,手許の症例を呈示して役目を果たさせていただきます.

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 患者は71歳,男性.心窩部不快感を主訴に来院.X 線検査でUt下部に30×15mm の粘膜下腫瘍様の隆起性病変と,その外側に石灰化を認めた.内視鏡検査で上切歯列より 23 cm に粘膜下腫瘍様の隆起を認め,この隆起上に15mmほどのわずかな発赤陥凹を認めた.陥凹部はトルイジンブルーに一部淡染し,ヨードに不染を呈した.EUSで粘膜下層以深の深層に石灰化を認めた.食道結核による粘膜下腫瘍様隆起上の早期食道癌と診断し,内視鏡的粘膜切除を施行.陥凹性病変は15×13mmでヨード不染部に一致した.0-IIc,扁平上皮癌,m2と診断した.

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 患者は77歳,女性.心窩部痛と下血を主訴に近医を受診し,胃の異常を指摘され紹介された.X 線検査,内視鏡検査にて胃角部の大彎に径3.5cm大の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)を認めた.SMTの基部口側には深掘れの潰瘍がみられた.貧血の進行があり胃部分切除術が行われた.切除標本の割面ではSMTは脂肪腫であったが,基部の潰瘍形成により大きく侵食された形態を示した.また漿膜面には1.5cmほどの脂肪腫を認めた.固有筋層は中央で途切れ,漿膜側の脂肪腫がその筋層間に入り込むような所見を呈していた.脂肪腫には未熟な部分や悪性部分はみられなかった.

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欧文目次

編集後記 飯田 三雄
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 原因不明の難治性腸疾患である腸型 Behcet 病と単純性潰瘍の異同が,本誌主題として取り上げられてから丸 11 年が経つ.この間の症例数,特に長期経過例の増加を期待するとともに,その検討から上述の難問が解決されることを目指し本特集号が企画された.

 結論的には,両疾患に長期経過からみた病態に大きな差異はないものの,その異同について言及した 7 論文中 4 論文が異なる可能性を示唆し,残りの 3 論文が同一との見解を述べている.このように意見が分かれる理由として,各施設とも前回の特集から期待したほどの症例数の増加がみられていないことと,単純性潰瘍の診断基準(再発性口腔内アフタを伴うものを含めるか否か)が不統一であることが挙げられる.単純性潰瘍から腸型 Behcet 病への移行例はすべて口腔内アフタを伴う Behcet 病疑い例であったことが報告されており(松本論文),診断基準について意見を統一する必要があると考える.

基本情報

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胃と腸
38巻2号 (2003年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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