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1996年1月,本誌で初めて胃MALTリンパ腫を取り上げた際に小生が担当した編集後記では,“本疾患の発生にはHelicobacter pylori感染との関連が取り沙汰されており,除菌治療の有効性が最近議論を呼んでいる.このようなMALTリンパ腫をめぐる様々な問題を語るうえで,本号が共通の物差しを提供できたとすれば幸いである”と結ばせていただいた.また,昨年刊行された本誌増刊号「消化管悪性リンパ腫」(33巻3号)の編集後記ではMALTリンパ腫(lsaacson)の登場を黒船襲来に例え,“今後日清,日露,世界大戦といった,更に大きな戦いに直面することも十分想定される”と,生意気な感想も述べさせていただいた.本号の内容を見ると,この3年間の進歩はめざましく,外国産の疾患概念でありながら,少なくとも診断の面については除菌療法の効果判定を含め,日本海海戦の大勝利にも似て,わが国の水準の高さが大いに示されている.特に,除菌治療の有効性の判断指標として褪色像がみられること,治療の抵抗性が組織像よりも肉眼形態(隆起所見)にあることなどの知見は各主題論文に共通しており,おそらく間違いのない事実と思われるが,これらは世界的にも十分に評価に価するものである.
本号を企画した際にもう1つ期待したこととして,長期経過からみて除菌治療をどう考えるかという課題があった.すなわち,除菌治療が有効であった場合,どれほどの期間が立てば治癒したと判断できるのか?知らぬうちに転移をしてしまうようなことはないのか?といった疑問への解答である.この点については,いまだ一定の見解が得られなかったが,完全寛解例では再発,再燃を引き起こすことが極めて少ないこと,経過観察上,他臓器のチェックが不可欠であることには論を待たないようである.大津論文にも紹介されているが,平成10年度の厚生省がん研究助成金によって「消化管悪性リンパ腫に対する非外科的治療の適応と有効性の評価に関する研究班」が組織され,大規模な多施設共同研究(prospective study)が開始されている.除菌治療の評価など,この研究班の報告を待ちたいところである.
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