胃と腸 20巻12号 (1985年12月)

  • 文献概要を表示

要旨 表在癌17例(上皮内癌8例,粘膜内癌2例,粘膜下組織浸潤癌7例)および,組織学的に癌浸潤は固有筋層であるが癌の大部分は表在癌である3例の合計20症例を対象として,食道扁平上皮癌の組織学的診断基準,組織発生,および上皮内癌の定義についての考察を行った.扁平上皮癌の組織学的診断基準としての所見を必要十分条件と付加条件とに類別し,それに基づいて癌組織発生を検討した結果,異型扁平上皮巣の癌化は少ないものとみなされた.上皮内癌の組織学的な定義として,実際的な面を考慮して“粘膜表層1/2に限局した癌で,それから分離した癌蜂巣が粘膜内に存在しないもの”とすることを提唱した.

  • 文献概要を表示

要旨 食道のdysplasia(異形成)を正確に位置付けるために,これと炎症,潰瘍,放射線照射などに続発する反応性幼若(未熟)上皮および浸潤癌とを組織学的に比較検討した.反応性幼若上皮とdysplasiaはTable 1に示す所見で鑑別が可能であった.反応性幼若上皮では,高度の萎縮性上皮の場合を除き,未分化細胞からなる胚芽層は上皮の下1/3以下に限局していた.異形成は未分化異型細胞が上皮内を占める厚さの比率で,軽度異形成(下1/3以下),中等度異形成(下1/3~2/3未満),および高度異形成(2/3以上)に分けられた.上皮内癌は未分化異型細胞が上皮のほぼ全層を占める場合と,全層でなくとも核が高度の多形性と大小不同を示す場合とに相当した.ここに述べた異形成や上皮内癌の判定基準は確定的なものとは言えないが,患者の治療指針,食道癌発生母地の研究などの一助となるであろう.

  • 文献概要を表示

要旨 国立がんセンターで手術切除された表在性食道癌34症例,42癌巣の肉眼的・組織学的病理検索結果を供覧し,肉眼深達度判定基準および肉眼型分類の作成を試みた.深達度別頻度はintraepithelial(ep)8例,粘膜筋板まで(mm)6例,粘膜下層まで(sm)28例であり,リンパ節転移はsm癌の11例(38%)に認められた.深達度診断,特にsm浸潤は,隆起を呈する部位,深い明瞭な陥凹部位に認められることから,両所見(隆起と明瞭な陥凹)が重要であると言える.肉眼型分類は大まかに(Ⅰ)表在隆起型,(Ⅱ)表在平坦型,(Ⅲ)表在陥凹型の3基本型に分け,更に亜分類を設けた.混合型も半数ほどあり,それらはⅢ+Ⅰ,Ⅱ+Ⅲなどのごとく表現することが深達度推定の立場からも良策と考えられた.更に組織学的診断の問題点として,①epとmmの鑑別,②食道腺および同導管内癌進展の深達度判定との関係,③dysplasiaとcarcinoma in situとの鑑別,④上皮内癌の分化度の基準などを挙げて考察した.

  • 文献概要を表示

要旨 食道における大きさ10mmまでの上皮性異型病変を“微小病変”(ほとんどが上皮内病変)と呼び,これらについてわれわれが用いている癌とdysplasiaの組織学的鑑別の基準を紹介した.まず,上皮内異型病変における上皮の増殖様式をみるために,進行癌に隣接してみられる上皮内異型病変(ほとんどが癌)の観察を行った.上皮の増殖様式は次のように分類された.(a)papillaryあるいはverrucous type,(b)replacing type,(c)bulky(downgrowth)type,(d)branchingあるいはanastomosing type,(e)basal typeおよびPagetoid type.進行癌に接してみられる上皮内異型病変において最も頻度の高い増殖様式は(b)と(c),特に(c)であった.“微小病変”については上皮内癌(ep癌)は,(b),(c),(d)の3型を示したが,dysplasiaは原則的に(b)であった.癌とdysplasiaの鑑別には,一般に異型病変における分裂像の高さ(上皮内)を調べることが有用であるが,(c),(d)の増殖様式を示すものでは下方への発育(downgrowth)の深さを“より悪性の生物学的態度を示す指標”として重視したい.また,大細胞や巨細胞を混在するなどのpleomorphism(軽いものは除く)の所見はそれ自体で癌を示唆するものと考える.

  • 文献概要を表示

要旨 (1)食道のm癌17例中15例(88.2%)にX線像で変形または辺縁異常像を認めた.特に食道の幅の1/4以上を占める病変では57.1%に4コマ(2分割フィルム2枚)のうち1コマ以上に明らかな辺縁異常像を認め,ルーチンX線検査でチェックしうる.(2)ルーチンX線像の変形または辺縁異常像を参考に,あるいはパンエンドスコープでチェックされた所見を参考に精密X線検査を施行したところ,94.1%に異常所見を現しえた.(3)パンエンドスコープをルーチン化することがm癌を発見し増加させるためのポイントである.

  • 文献概要を表示

要旨 食道粘膜内癌の内視鏡所見,超音波内視鏡による食道癌深達度診断を中心に検討し,以下の結論を得た.(1)食道粘膜内癌の内視鏡所見は,粘膜面の凹凸変化はごくわずかで,表在平坦型あるいはそれに近い所見を呈していた.表在癌症例で混合型を示した11例中1例(9.1%)のみが粘膜内癌であり,他は粘膜下層癌であった.(2)食道粘膜内癌を診断するには,内視鏡検査時に,粘膜面の色調差に注目することが最も重要であり,癌が疑われる場合には,食道ルゴール法を併用することにより,粘膜内癌をより正確に診断することが可能であった.(3)超音波内視鏡で,正常食道壁は基本的に5層構造を示し,粘膜内癌症例でも,癌深達度をこの層構造の変化として客観的に診断することが可能であった.

  • 文献概要を表示

要旨 sm食道癌のX線診断は至適な体位で二重造影法を巧みに利用してタイミングよく撮影すれば可能である.しかしsm食道癌のみならずep,mm食道癌の診断もX線学的に解決して食道癌の予後を良好にしなければならない.ep,mm,sm食道癌のX線所見の型分類は,X線所見だけでなく,肉眼所見,組織所見,予後などを反映させる分類が望ましい.この問題を解決したX線型分類として隆起,平坦,陥凹,混合型の4型に分類し,臨床上非常に有用であると考えられたので,実例を加えて報告した.

  • 文献概要を表示

要旨 当センターで切除した食道sm癌92例の脈管侵襲,リンパ節転移の有無に関し病理所見,臨床像を検討した.(1)切除標本の検討では,sm癌の70%に既に脈管侵襲を認め,そのうち45%がn(+)であった.1cm前後の大きさで,表層平坦型,隆起成分の少ない表在隆起型ではリンパ節転移は少ない.また,小範囲のieを伴う複合型が,全く伴わない単純型や,広範囲にieのみられる複合型(すなわち表層拡大型)に比べてn(-)である頻度が高い.組織型では分化傾向を示す扁平上皮癌,特に高分化型で早期癌の頻度が高い.(2)n(+)sm癌は大部分2群以上の遠隔リンパ節に跳躍型の転移を起こしており,n(-)sm癌の累積5年生存率85%に比べ,n(+)では29%と極端に悪い.(3)表在癌のX線診断では,表在平坦型と亜有茎性腫瘤では早期癌の可能性が高い.その他の型では型分類のみでは転移の有無は判定できないが,個々の病巣の不整像,随伴病変の有無およびその性状を参考にすれば,〔1y,V〕と〔n〕はある程度予測できる.(4)表在癌の深達度は内視鏡の病型と密接な関係があり,sm癌は表在隆起型,潰瘍型が大部分であり,びらん型の一部が含まれる.隆起型とびらん型より成る“混合型”は,規約にはないが,sm癌の中でも脈管侵襲の頻度が高く,予後不良の型である.

今月の症例

  • 文献概要を表示

 〔患者〕62歳,男性.約2か月前から,食物摂取時に前胸部にしみる感じを自覚するようになった.

 切除標本肉眼所見 隆起は 1.7×1.0cm,深達度は粘膜筋板(mm)に達していたが,周囲の上皮内進展の大きさは 5.5×5.0cm,深達度は上皮内にとどまる上皮内癌(ep)であった.血管侵襲(v),リンパ管浸潤(ly),リンパ節転移(n)はなかった.

  • 文献概要を表示

要旨 最近大腸早期癌の中でも低い隆起,扁平ないし陥凹型の病変が注目されているが,われわれはS状結腸のⅡcないしⅡb類似の平坦型m癌を経験したので報告する.患者は64歳男性.当院人間ドックにおける一次スクリーニングとしてのS状結腸ファイバースコープにて,肛門縁より28cmの部位にほぼ平坦な限局性発赤病変が発見され,生検の結果腺癌と判明した.S状結腸切除を施行したところ,切除標本では18×12mmのほぼ平坦な発赤病変であり,組織標本では粘膜内に限局した高分化腺癌であった.単発性の平坦ないし陥凹型の早期高分化腺癌は数少ないと思われるが,内視鏡検診の普及などにより今後症例が集積される可能性もあり,大腸早期癌の一型として注目したい.

学会印象記

  • 文献概要を表示

 第30回日本消化器内視鏡学会総会は,去る10月3日から5日(6日に内視鏡セミナー)にかけて,島根医科大学島田宜浩会長のもと松江市で開催された.

 参加登録者全員に配布された「出雲古代史を行く:原出雲王権は存在した」を読むまでもなく,数々のロマンを秘めた神話の国出雲.出雲の10月は旧暦では神在(アリ)月で,全国の神様が出雲に集まると記されている.参加者も神様であるとユーモアを混じえた島田会長の挨拶で開幕された.すなわち,シンポ,パネル,特別講演など主要演題が重ならないようにし,可能な限り多くの会員が聞けるように配慮されていた.その代わり,十数領域の一般演題がすべて重なるという問題もあり,一長一短という感もなきにしもあらずであったが,これも1つの試みとして評価されるべきであろう.また,会長御自身の御専門領域である肝疾患と腹腔鏡に関する話題が大勢を占めたことも特徴であり,ここ数回の内視鏡学会総会とは全く異なったという印象を大方の参加者が受けたようである.

  • 文献概要を表示

 潰瘍の治癒後,再発防止のために維持療法を加えることは臨床的常識であるが,その方法についての意見はまちまちである.維持療法に用いる薬剤,あるいはその組み合わせの問題もさることながら,ここでは,その期間をどうするかという問題を取り上げてみよう.それについて,あるいは3か月といい,また6か月とし,1年といい,更にはなるべく長くとするなど,収拾は困難である.更に問題なことは,3か月といい,1年とする根拠がいっこうにわからないことである.

 この問題を,前回に述べた五十嵐らの報告によって検討してみる.その報告における観察対象を維持療法という点からみると,制酸剤や抗コリン剤を主とした薬剤を,若干の中断を交えて,15~22年の全観察期間中服用しつづけた患者は6名,その他は服薬,休薬常ならずというところで,全体としてみれば1/3程度の服薬群とみなされよう.五十嵐らは,この対象の1例1例について再発の起こった時点を明らかにしている.延べ110回の再発が観察されているが,それぞれの再発について,前回の潰瘍の治癒からの経過期間,すなわち再発間隔を調べてみると表のようである.再発の77%は,前回の潰瘍の治癒後2年以内に発生していて,それ以降の再発は著明に減少する.この数字からみれば,維持療法の期間を2年とするのが適当ではあるまいか.

  • 文献概要を表示

 4.治療とfollow-up

 質 問 silent stoneのfollow-upおよびそのfollow-up中の検査は何をどのくらいの期間行えばよいでしょうか.

 神津 silent stoneの揚合には,悪性病変の合併が一番大きい問題だと思います.そこで最初は短い期間で,例えば,1か月とか,3か月とかいうところで一度follow-upします.そこで石そのものも変わらず,壁も含めて大きな問題がなかった場合には,次は6か月後にします.あとは6か月ごと,もしくは1年ごとという形でfollow-upしていく.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 Achalasia as a Risk Factor for Esophageal Carcinoma: A Reappraisal Chuong JJH, DuBovik S, Mc-Callum RW (Digest Dis & Science 29: 1105-1108, 1984)

 アカラジアの患者での食道癌発生の第1例は,1872年に報告された.以来,この両者の関連が年々報告され,一般にはその頻度は,5%以下だが,20%と高い報告もある.

  • 文献概要を表示

 肝・胆・膵における小腫瘍の診断能が目覚ましく向上したのは超音波診断の発達によるものであり,超音波検査は消化器疾患の診断のみでなく,穿刺やドレナージによる治療にも不可欠な手段として定着した.聴診器と同程度かそれ以上の必需性と気軽さで日常診療において汎用されるようになった超音波診断も,習熟した技術と診断能力がなければ,十分に威力を発揮することができないばかりか,落とし穴にはまり誤診を招くことになる.序で著者は“簡便な操作で生体の内部構造を実時間で即座に観察し,診断することの利点に魅了されて積極的に臨床応用を行ってきた”と述べているが,まさに,手近にありながら,底知れぬ深さと妙味を持つのが超音波診断である.

 消化器を中心とした腹部の超音波診断が目覚ましく進歩・普及し,本格的な消化器超音波診断学書の刊行が待ちに待たれていたときに,大藤正雄先生をリーダーとする本邦での第一人者のチームワークによる本書が発刊された意義は非常に大きい.消化器領域における超音波診断に関する著書は数多く出版されているが,入門書的で図譜的な要素が強く,消化器疾患の超音波診断を系統的に記述した著書は皆無に近かった.専門的な学術書でありながら,初心者にも理解しやすいように配慮されている本書は,きっと多くの読者に,消化器超音波診断の本質を教示し,一層興味を深めさすであろう.この領域における著者らの御高名と御活躍は,今更私らの述べるまでもなく,常に本邦における指導的立場におられ,超音波の特性を最大限に発揮した独創的な多くの研究成果は,本邦のみでなく国際的にも高く評価されているのは周知のことである.

  • 文献概要を表示

 Long-term sclerotherapy of bleeding esophageal varices in patients with liver cirrhosis: An evaluation of mortality and rebleeding risk factors: Sauerbruch T, Weinzzerl M, Köpcke W, et al (Scand J Gastroenterol 20: 51-58, 1985)

 食道静脈瘤出血の治療法として,硬化療法は門脈下大静脈吻合術に匹敵するようになった.長期硬化療法が食道静脈瘤出血を来した肝硬変患者の予後を改善するという報告はあるが,肝疾患の重症度と硬化療法後の患者の予後の関連についてのデータはわずかしかない.

  • 文献概要を表示

 Relation between recurrence of cancer of the colon and blood transfusion: Blumberg N, Agarwal MM, Chuang C (Br Med J 290: 1037-1039, 1985)

 輸血は免疫抑制を起こすことが知られている.輸血を受けた動物では,受けていない場合に比べて,腫瘍の成長が速いことが実験的に示された.

編集後記 渡辺 英伸
  • 文献概要を表示

 本号は世界に先駆けて,難問の1つである“食道癌の早期診断”を立体的に企画したものである.特に,完治が期待される上皮内癌や粘膜内癌および食道粘膜下層癌のうち予後の良い癌の特徴とその診断法を明らかにすることを主眼としている.前半は病理形態学的側面より,反応性病変,異形成(dysplasia)および癌の鑑別法と深達度の判定法に重点が置かれている.今までの論文に比較し,より具体的・客観的に表現されてはいるが,未だ統一的見解を得るに至っていない.後半では早期食道癌,表在食道癌の臨床診断法が大きく進歩したことを如実に物語っているが,異形成病巣との鑑別は未だ明瞭ではない.

基本情報

05362180.20.12.jpg
胃と腸
20巻12号 (1985年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)