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Ⅰ.はじめに
近年胃切除後の障害のうち,ダンピング症候群と呼ばれる疾患が注目されるようになってきた.この疾患は胃切除後あるいは胃腸吻合術後に起こる特異な症候群であると云われているが,われわれは胃のある患者にも同様の愁訴を訴える者があることを報告した.したがってわれわれは,本症候群は食餌を摂取することによって起る特種な生理学的な変化の現われであろうと解釈している.
一般にいうダンピング症候群とは,胃切除や吻合術を行なった患者の食餌摂取後に起こる全身の不快感で,呼吸困難,胸部狭窄感,失神,眩量,動悸,顔面潮紅,熱感,発汗,口渇,悪心,嘔吐,腹鳴,下痢,疝痛,脱力感,倦怠感などの症状を云っているが,最初に報告したのはDenechau1)で1907年である.1908年にはJonas2)の報告があり,1913年にはHerz3)の報告がみられる.Mix4)が1922年にDumping Stomachと命名して,始めてDumpingなる言葉が用いられるようになった.これは吻合口から食餌が急速に腸内に移行するという事実からの命名であった.
Adlersbergら5)はダンピング症候群には,食後早期に起こって来る早期食後症状と,食後数時間してから起こってくる後期食後症状とがあり,前者は食物の急速排出が原因であり,後者は食後急速に上昇した血糖が反動的に下降するために起こる低血糖が原因であると述べている.
この分類は今日に到るまで使用されているが,一般に単にダンピング症候群というと,早期食後症状を意味する場合が多い.
本症の発生因子については,後期食後症状は低血糖で起こると云う説に対してはあまり異論はないが,早期食後症状の原因を食餌の急速排出のみに求めることはかなりの異論があり,多くの研究が行なわれているが現在に到るまで定説は確立されていない.
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