胃と腸 18巻1号 (1983年1月)

今月の主題 臨床の場における上部消化管スクリーニング法―X線と内視鏡

序説

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 上部消化管スクリーニング法としてX線と内視鏡のいずれが優先するかなどという問題は5,6年前まではとても考えられないことだった.そのころまでは直視の内視鏡が側視に勝るという人も非常に少なかったし,実際盲点なく観察できる良い直視鏡がなかった.

 ちょうど10年前になるが,西ドイツのHeinkel教授の病院に1週間ほど滞在する機会を得たが,そのとき直視の内視鏡を自信をもって使用し,良い直視鏡を作ることが最も重要な課題だと主張されていた.半信半疑で耳を傾けながらX線検査との対比をさせられ,汗だくになって真剣に二重造影像を撮った記憶がよみがえってくる.当時はまだ良い直視鏡がなかったので,むしろ二重造影像の微細変化の描出力を高く評価され,ルーチン検査はX線か内視鏡かなどを論ずるまでに至らなかったが,Heinkel教授の先見の明に今更ながら敬服している.というのは筆者自身が1978年より,今まで用いてきた側視をすべて細径の直視鏡に切り替えたからである.広角で操作性が良く,盲点が非常に少なくなり,観察も撮影されたフィルムも著しく改善され,総合的にみれば今までの側視鏡に劣ることがない.

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 上部消化管のスクリーニングは,まずX線検査,次いで内視鏡検査というのが従来から常識的に行われている方法である.

 ところが,第24回日本消化器内視鏡学会総会(1982年5月)のパネルディスカッション,“上部消化管スクリーニング法として内視鏡検査はX線検査にかわりうるか?”で討議されたように,内視鏡装置の進歩に伴って,従来とは異なった発想が生まれようとしている.しかし,本当に内視鏡はX線にかわりうるのか,われわれX線診断を行う側からは,大いに関心のあるところである.

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 内視鏡機器の進歩,特に細径の直視鏡の登場により,1980年5月日本消化器内視鏡学会総会でのパネルディスカッション“上部消化管におけるpanendoscopyの位置づけ”,続いて1982年5月日本消化器内視鏡学会総会のパネルディスカッション“上部消化管スクリーニング法として内視鏡検査はX線検査にかわりうるか”と内視鏡検査の有用性がX線検査と対比して討論されるようになった.このスクリーニングでX線検査が先か,内視鏡検査が先かの検討は,今後の検査体系の改革にかかわる極めて重大な問題であり,徹底的な検討,討議が行われねばならない.

 今回,われわれはX線検査の立場から,X線検査により,どこまで診断できるのか,特にX線診断の弱点と言われている病変,部位について検討しスクリーニング法の臨床的意義について述べる.ここでは検討内容の複雑化を避け,論旨を簡明にするため,形態的異常を示す代表的疾患として胃癌について検討を行った.

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 われわれは1973年に2,500回の細径前方視鏡を用いた検査成績を報告して,これからの上部消化管の検査は,胃透視→内視鏡→生検という習慣を脱却して,内視鏡を中心に行うべきでなかろうかとの見解を述べた.この方針で診療を続け,1976年から1981年までの6年間の細径前方視鏡を用いた検査は16,318件に及び,同期間の胃透視の6,838件の2.39倍に達している.本特集号に執筆の機会を与えていただいたので,われわれの資料をできる限り詳しく分析して,反省を加えた.

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 X線と内視鏡のどちらを臨床のスクリーニングの場で優先させるべきであるかの評価を正しく比較検討するには多くのfactorを考慮しなければならず,安易にその結論は決められない.日常,上部消化管疾患の診断には両検査の協同作業下に拾い上げから確診までが行われ,相互の情報を総合的に利用するのが現況であり,スクリーニング法としてはケース・バイ・ケースで選択されている.

 実際に経験された多数の小病変についてretrospectiveにみると両検査とも“そこに病変がある”と指摘された場合には,その描出はほとんど可能であり,また,X線フィルム,内視鏡フィルムの再読影でもチェックできるものが大部分である.

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 大柴(司会) 本日の座談会の主題であるX線と内視鏡の問題はお互いの歴史からみても非常に難しい問題で,これを純粋に比較検討して,どちらが優れているかを討議するためには,いろいろな方面からの攻めが必要です.

 1つは,精度の問題が一番大きく取り上げられなくてはならない.もう1つは,実際にスクリーニング法としてやっていくためには,経済的な問題や,患者に与える苦痛など,いろいろな要因が入ってくると思います.そういうものも,この座談会の中に含めていただきたいと思います.初めに各施設の現状を竜田先生からお願いします.

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 赤痢アメーバによる大腸炎は,本来日本にはない疾患と考えられ,過去の臨床ではあまりかえりみられなかった.ところが近年海外渡航が頻繁となり,感染して帰ってくる場合と,渡航歴がなくても国内で感染する可能性もあり,そのような患者に遭遇する可能性を身をもって経験した.最近の国内でのアメーバ性腸炎の報告例でも,渡航歴のないものが散見される.しかも直腸だけを侵すことが多いので,特に潰瘍性大腸炎の直腸型として扱われることがあり,欧米の文献でも,初めにアメーバの詳しい検索をして,両者の鑑別をしっかりしておかなければいけないことを強調している.そのことを十分承知しながらも,筆者は最近苦い経験をした.潰瘍性大腸炎として長く治療し,初診から2年半後に初めてアメーバを検出した例を経験し,ここに改めて潰瘍性大腸炎類似患者の診療の初期に,詳しい糞便検査や病巣の擦過などによるアメーバの証明,あるいはアメーバ性病変の確実な否定の必要性を痛感した.症例を紹介しよう.

 41歳の男性で,職業は調理士.主訴は血性下痢,1978年2月に発症,某医で潰瘍性大腸炎の診断を受け,その後,数ヵ所の医院をまわったが症状は改善せず,1979年7月13日当院を受診,その当時は排便回数は約5回,直腸指診で血液を認めた.一般検査では特に異常を認めず,検便でアメーバを認めなかった.海外渡航歴は当院受診前は全くなく,それ以後1980年2月と1981年8月の2回台湾へ行っているが,発症とは関係がない.

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 学会初日の午後.顔を合わせたら立話をするといった仲間うちの評判をひと言で要約すると,“聞きたいテーマはたくさんあるが,会場が分散していて,時間も重複しているから欲求不満だ”ということであった.これについては筆者も全く同感で,2日目の午後からは自分は場所を移動せずに他人の話をメモするのが印象記を書く最善の方法と思い怠惰を決め込んだ次第である.もう少し真面目な表現をして,今回の学会をわが国の学会のやり方の1つのスタンダードとして定着してしまったものとしてみるならば,これが限界と言えるものであろう.学会期間中,好天に恵まれたことは分散した会場を移動するのに苦痛をあまり感じなかった大きな理由の1つであった.

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 原発性食道癌の大部分は扁平上皮癌であり,腺様囊胞癌は非常にまれとされている.

 最近,われわれは小さい隆起性食道癌で腺様囊癌と診断された症例を経験したので,当センターで,これ以前に経験した2例を含め,若干の文献的考察を加えて報告する.

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 いわゆるBarrett食道は1950年Barrettにより報告され,彼により後に“The lower esopha-gus lined by columnar epithelium”という概念が提唱された.Poleynardらによれば1977年までにBarrett食道に発生した腺癌の報告は50例であり,その後の報告を含めても70例に満たない.本邦では中村らの報告を嚆矢とし,2例と数少ない.今回われわれは小体症を伴う,Barrett食道に発生した早期癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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 われわれは胃角部にⅡa集簇型があり,その口側に不整な陥凹を含む低いⅡa部分があり,これらの周辺にⅡb様病変が広範囲にみられた隆起を主体とする表層拡大型胃癌の1例を経験したので,この症例のⅡb様病変部のX線所見について若干の検討を加えて報告する.

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 十二指腸カルチノイドは本邦では小原らの報告を最初とし,消化管カルチノイドの中では比較的まれなものとされていた.その後,報告例は次第に増加し,われわれの集計では自験例を含めて58例であった.今回,われわれは十二指腸Vater乳頭部に発生したカルチノイドの1例を経験し,膵頭十二指腸切除により治癒しえたのでここに報告し,併せて若干の統計的考察を試みた.

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 von Recklinghausen病(以下R病と略す)は特有の皮膚病変のほかに,身体のいろいろな部位に多彩な随伴病変を生じる.消化管病変としては,非上皮性腫瘍の合併が知られているが,その報告例は比較的少ない.われわれは,イレウスおよび大量下血で来院した2名のR病患者を手術し,それぞれの小腸に単発性,多発性の神経鞘腫を見出したので報告する.

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 大腸の悪性腫瘍の大半は癌であり,悪性リンパ腫はまれである.消化管悪性リンパ腫は消化管の壁内より発生した原発性のものと,全身に拡がったリンパ節性悪性リンパ腫の部分病変のものとに分類されるが,われわれは直腸に原発した悪性リンパ腫を経験したので,症例を報告し若干の文献的考察を加えてみた.

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 本邦において腸結核は決してまれな疾患ではなく,しばしば経験されている.しかも,昔の活動性病変の多い時代に比べ,最近では治癒傾向が強く,瘢痕化したものが多く,一層病変の形態を多彩なものにしており,クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患との鑑別が重要な課題となってきている.また,腸結核の局所性の合併症として,腸狭窄,腸出血,膿瘍形成,穿孔,瘻孔形成,癒着などが挙げられているが,実際上,膿瘍や瘻孔を形成した腸結核は極めて少なく,鑑別診断に苦慮する.

 今回,われわれは瘻孔を形成し,腹壁に膿瘍を伴った横行結腸結核の1例を経験したので報告する.

Coffee Break

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 今回は,腸上皮化生の“化生”について語源探索といこう.

 私には,本を読むときに,あとで引用することがあるかもしれないと思う所は,赤線を引いて,そのページに折り目をつけておく習慣がある.ごく最近,宗教関係の本で,“化生”についてやさしく説明してあったので,折り目を頼りに,いろいろな本を探して,この原稿を書くつもりであったが,結局わからなかった.雑学,乱読のたたり,最近読んだ本がわからないし,引用したい本を見つけ出すのが一仕事となっている.こんなときには,辞典は有難いものである.

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 ERCPが1969年に大井らとわれわれにより臨床的に成功して,膵臓のX線撮影が可能となれば,早期胃癌なみに,膵癌の早期発見も夢ではなく,膵癌退治に希望が持てると当時思ったし,その後,ERCPで何とか,膵内に限局し転移のない癌(早期膵癌とも言うことができる)を発見しようと努力してきました.ERCPに初めて成功し,X線モニター上に造影された細い主膵管を見たときの感激は,この検査法に熟達した医師にとっても,生涯忘れえないほどのもので,他の検査法では味うことができないものと思います.われわれも初めてERCPに成功した症例は,10年以上経た現在でも,身近なものに感じています.ERCPに成功したときの感激と同時に,腹部の暗黒大陸とさえ言われた膵臓の疾患で,最も手強い膵癌にこの方法でアプローチできると感じないものは誰もいなかったでしょう.

 しかしその後,多くのERCPに対する経験を積んでいるうちに,いつの間にか,膵癌退治の夢が失われていってしまったのは,どうしたことでしょう.膵癌を早期に発見しようと努力したが,なかなか発見できないためか,ERCPで早期の膵癌を発見したと,喜んでいざ手術してみて,切除不能であったり,切除しえても数カ月で死亡したりの落胆の連続で,結局ERCPによる膵癌の早期発見は不可能だとあきらめてしまったものでしょう.全世界においても,ERCPに熟達した医師らも同じような目にあってきたものでしょう.どうして膵癌の早期発見ができないのだろうか,世界中のERCPを行っている医師の疑問だと思います.このように,なかなか発見が困難な早期膵癌がここ数年,報告されるようになって,誰しもどうして発見したのだろうという疑問がまず第一に浮かんでくるでしょう.

“知見”ということ 竹本 忠良
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 この“Coffee Break”という欄を,「胃と腸」の編集委員で受け持つことになったのは,ごく最近のことである.堅い論文のつまった専門雑誌のなかの,埋め草になるものだから,肩のこらない主題を取り上げて,さりげなく書き流し,読者には,気楽に読める文章でなければならない性質を持っている.

 ところが,題を指定されないエッセイなど,意外に書きにくいものである.私自身の経験から言っても,もう8年以上,ある経済雑誌に,“カルテ”という欄を受け持って雑文を書き続けているが,半ペラの原稿用紙5枚に,ちょっと気のきいたことを書こうとすると,たいへんな重荷に感じるのである.よく続いているものだと,われながら感心しているぐらいである.

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欧文目次

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Recurrence and Reoperation for Crohn's Disease. The Role of Disease Location in Prognosis: M.R. Lock, R.G. Farmer, V.W. Fazio, D.G. Jagelman, I.C. Lavery, F.L. Weakley (N Engl J Med 304: 1586~1588, 1981)

 クローン病の術後再発は3~100%と報告されている.この相違は,再発の定義,病変部位,経過観察の方法,データの分析法など多くの要因に基づいている.

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 著者の長廻紘博士は外国にも広く名の知られた一流の内視鏡学者であるばかりでなく,東大病理学教室で病理学をも勉強され,大腸疾患の病理に関しては一流の見識を持った若き学徒である.博士はこの2つの分野における一流の見識を見事に結合させて,ここにすばらしい1冊の本を生み出してくれた.この本は著者の前著である“大腸疾患アトラス”が土台になっていると思われるが,その内容は本書のほうが数段優れており,7年間の間に著者の辿ったこの道における進歩の跡,見識の深化が如実に示されている.

 本書を手に取って先ず感じることは,そのずっしりとした重みと重厚な感触であり,中に何が書いてあるのだろうという期待を抱かせる,いかにも洋書らしい雰囲気が感じられるのである.簡単なanatomyとhisto1ogyの記述の後に,著者が最も興味を持ち,力を入れて書いたと思われるulcerative colitis, Crohn's colitis両者の鑑別疾患の記述が続く.内視鏡の写真が美しいのは著者のお家芸で当然であるとしても,切除標本,そして特に組織像の写真が完全と言ってよいほど見事なものである.病理組織像,X線像,内視鏡像,各病期の所見,鑑別診断が詳細にして簡潔に記載されているので,専門家のみならず初心者にも非常に参考になる.写真の数が多く,内視鏡所見と組織所見を対比してゆくだけでも大変楽しむことができる.

書評「胃癌の構造」 西 満正
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 「山ほどのものから石をひとつとれ,その石には山ほどの力がある」という言葉がある.この本は山ほどの力をもった本である.

 著者中村教授は,私の癌研外科時代の畏友であり,この本の基幹をなす「胃には2つの癌がある,胃の固有の癌と胃の腸癌である」という説についてはずいぶんいろいろと討論したものである.

編集後記 中澤 三郎
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 上部消化管診断におけるX線,内視鏡は,これまで,車の両輪のごとく,その特徴を生かし欠点を補い合って,すばらしいチームワークを誇ってきました.が,しかし,このところ緊密な両者の間にいささか怪しい雰囲気が漂ってきました.その原因は単一ではなく,種々の要因が挙げられますが,その1つに内視鏡器具の改良があります.そして現在では上部消化管検査のスクリーニングにはX線不要論さえ聞かれるようになりました.

 しかし,スクリーニングとしてのX線検査がこの世から消え去った場合を考えるとき,何の不安も感じない人はないのではないでしょうか.そこには,単に従来,慣れ親しんできたものを失う淋しさだけでなく,本質的に両者は異なった素質を持っているからです.徒らに“目糞鼻糞を笑う”の愚を繰り返すことなく両々相まって発展すべきではないのでしょうか.上部消化管を診るということは,すなわち,腹部全体を,いや全人的に考慮することにほかなりません.“鹿を追う者は山を見ず”のたとえは臨床医が常に心得るべき戒めでありましょう.と,ここまで書いてきましたが,今度この同じテーマで特集が企画されるときには果たしてどうなっているのでしょうか.時代の波に押され“わが心千々に乱れる”といった心境です.

基本情報

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胃と腸
18巻1号 (1983年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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