胃と腸 16巻5号 (1981年5月)

今月の主題 胃リンパ腫(4)―治療と経過

主題

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 胃に発生する悪性腫瘍の中で,肉腫はまれであるが,その発生母地より,悪性リンパ腫と平滑筋肉腫に大別され,その頻度は悪性リンパ腫が平滑筋肉腫より多いと言われている.特に悪性リンパ腫は,発生母地となるリンパ組織の分布の上から,胃に原発したものか,全身性のリンパ節より発生し胃に転移したものか,の鑑別が困難な場合がある.今回は,胃に認められた悪性リンパ腫について,単発性および多発性のものから,胃と共に消化管(小腸)に悪性リンパ腫が合併したもの,ならびに頸部リンパ節に悪性リンパ腫が認められたものに対する外科治療およびその成績について検討を加えてみたい.悪性リンパ腫の肉眼形態,組織学的分類,深達度ならびにリンパ節転移などは,外科治療成績の検討の上から詳細な分析が必要であって,胃癌について既に用いられている取扱い規約1)(以下規約と略)に準じて,悪性リンパ腫の病変を取り扱った.なお,胃診断学の進歩により早期胃癌が数多く見出されているが,早期胃癌様の病変を示した,悪性リンパ腫で病巣が粘膜下層までに止まるものは早期悪性リンパ腫として報告がなされている2)~4).悪性リンパ腫の中で,早期悪性リンパ腫も経験しているので,併せて検討する.

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 悪性リンパ腫は従来より化学療法に対する反応性が高く,癌腫に比べ良好な治療成績を示しているが1)2),近年,その腫瘍細胞の免疫学的特徴も明らかにされ3)~7),化学療法における多剤併用療法についても改良が加えられる8)など,種々の側面からアプローチがなされるようになった.

 一方,胃悪性リンパ腫においては根治性が高いこと9)10),穿孔,出血の原因となるなどの理由から外科的治療が第一選択となる場合が多く,通常化学療法は,手術不能例,あるいは術後の症例に対してのみ行われているが,このような手術不能例においても化学療法時には原発例,非原発例を問わず,その形態像に変化を来すことがまれならず観察される11)12)

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 最近われわれは,扁桃悪性リンパ腫に続いて発生した胃悪性リンパ腫を経験したので報告し,合わせて21例の胃悪性リンパ腫手術症例における他部位の悪性リンパ腫の既往を検討する.

症 例

 患 者:58歳,男,会社員.

 主 訴:心窩部痛.

 現病歴:生来健康であったが,1978年6月咽頭痛を主訴として当院耳鼻咽喉科を受診し,右口蓋扁桃悪性リンパ腫の診断のもとに1,200radの60Co照射を受けた.1979年2月中旬より心窩部痛が出現するようになったために,3月初旬,同放射線科を受診した.胃X線,内視鏡,生検などの諸検査の結果,胃悪性リンパ腫と診断され,3月16日から4月5日にかけて総線量3,000radの60Co照射を受けたのち,4月22日当科に入院した.

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 胃細網肉腫手術後の残胃に5年後再発した胃細網肉腫の1例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:57歳,男.

 主 訴:心窩部重圧感.

 既往歴:1943年,右胸膜炎.1957年,交通事故にて右腎臓摘出術.1958年,虫垂切除術.1971年,脳血栓.1974年,胃細網肉腫にて胃切除術.

 家族歴:父,脳卒中.

 現病歴:1979年3月ごろから夜間の胸部絞扼感が出現し,近医にて心電図に異常なしと言われた.その後,夜間の心窩部重圧感も覚えるようになり,同年7月2日当科を受診し,胃X線検査にて異常を指摘されて入院した.

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 いわゆるlymphoid hyperplasia(LH)を疑い,約4年2カ月間経過観察を行った胃悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:38歳,男.

 主 訴:心窩部痛.

 既往歴,家族歴:特記すべきものなし.

 現病歴ならびに経過:1974年7月初旬より心窩部痛が出現し,当科を受診.胃X線検査,内視鏡検査よりLHを疑ったが,確定診断のつかないまま経過観察がなされた.症状は軽快していたが,1975年8月,症状の増悪とともに,検査所見にも異常所見が増大し,胃悪性リンパ腫を強く疑い,手術の目的で入院した.しかし,2カ月後の検査所見で著しい改善を示し,生検にても陰性であったため,更に経過観察をすることになり,その後,来院がとだえがちで放置されていた.1978年7月より再び心窩部痛が激しくなり,同年8月14日入院した.

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 最近,われわれは数個の小さな粘膜隆起が2年5カ月間に著明な変化を示し,巨大皺襞所見を呈した進行胃悪性リンパ腫を経験したので報告する.

症 例

 患 者:51歳,男,会社員.

 主 訴:食思不振,心窩部痛.

 家族歴:特記することなし.

 現病歴:1970年7月,某病院の人間ドックで胃X線検査を受けたが,特に異常所見は指摘されなかった.しかし,便潜血反応が陽性であったため内視鏡検査をすすめられた.同年9月,精密検査の目的で癌研内科を受診した.胃X線(9月10日)および内視鏡検査(9月12日)では,異常なしと診断された.1971年12月4日(1年3ヵ月後)のX線検査では,胃体上部の粘膜下腫瘍と診断され,内視鏡検査(12月5日)では,同部位の限局性肥厚性胃炎と診断された.患者は,1972年8月ごろより食思不振と心窩部膨満感を覚えるようになり,同年9月20日,某病院で胃X線検査を受けたが異常所見は指摘されなかった.しかし上記症状は改善せず,同年12月中句ごろよりとう痛を伴うようになったため,同年12月25日(2回目の検査の1年後)再び癌研内科を受診.胃X線検査(12月25日)の結果,胃体上部の進行癌と診断され,1973年1月19日手術の目的で入院した.

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 表層拡大型(Ⅱc型早期胃癌類似)を示した胃悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:69歳,男.

 既往歴:胸部打撲による胸膜炎,胆石症.

 家族歴:弟癌死(病名不詳).

 主 訴:心窩部痛.

 現病歴:1974年,胃部不快感を訴え胃X線検査を受けるも,著変なし.1978年10月ごろから心窩部痛が出現,芦原胃腸科診療所にて胃X線,内視鏡,生検施行.悪性リンパ腫の診断にて当センターを紹介される.

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 短期間に著明な形態的変化がみられた胃悪性リンパ腫を経験したので報告する.

症 例

 患 者:55歳,男.

 主 訴:心窩部痛.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:結核性胸膜炎,腹膜炎(19歳).胆石症(39歳,胆のう切除術施行).

 現病歴:1979年9月中旬より心窩部痛出現,食事とは無関係で,飲酒後の早期に強い.体重減少も出現し近医受診,胃X線検査にて異常を指摘され,10月13日当科紹介となる.

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 3年4カ月の逆追跡ができた胃悪性リンパ腫の1例を報告する.

症 例

 患 者:56歳,女.

 主 訴:心窩部痛.

 臨床経過および検査所見 1975年1月,心窩部痛があり当院初診.

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 2年6カ月にわたり経過観察しえた良・悪性境界領域に属すると考えられるreactive lymphoreticular hyperplasiaの1例を供覧する.

症 例

 患 者:西○ス○,47歳,女,主婦.

 主 訴:心窩部痛および背部痛.

 家族歴:父,胃癌.

 既往歴:特記することなし.

 現病歴:以前から胃弱であったが,治療することもなかった.1974年12月末ごろから,胃部不快感,胸やけあり,近医に通院していた.1975年4月に入り,心窩部痛および背部痛激しくなり,ときどき嘔吐も出現したため,1975年5月24日当科を受診し,病変を指摘.1975年6月6日より8月1日まで入院(第1回入院).一時,症状の改善をみたが,1976年12月中旬ごろから再び心窩部痛,腹部膨満感が出現し,1977年1月18日より2月28日まで入院(第2回入院).その後も,ときどき軽い上腹部痛を認めていたが,1977年11月に入り再び心窩部痛,背部痛が増悪し,胸やけも激しくなったため,1977年11月15日入院する(第3回).

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 本例は初診より2年4カ月経過後に切除したにもかかわらず,深達度粘膜下層までにとどまる早期胃癌に準じた,いわゆる早期の胃non-Hodgkin悪性リンパ腫であり,年齢も比較的若年者を経験したので報告する.

症 例

 患 者:23歳,女,事務員.

 主 訴:空腹時の心窩部痛.

 既往歴:3カ月前に女児出産.

 現病歴:約2年半前より空腹時に心窩部のキリキリする痛みを覚えるようになったため,近医にて胃透視を受け胃潰瘍と診断され,内視鏡検査をすすめられるも行わず,薬の内服治療のみを続ける.その後,散発的に心窩部痛を来すも自制できるため放置していた.1ヵ月前よりとう痛がひどくなったため来院す.食欲減退,体重減少などなし.

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 胃悪性リンパ腫は胃癌に比し放射線治療や化学療法によく反応するだけに,術前に正確な診断を下すことは,適切な治療方針を決定するにあたって大切なことと言える.

 われわれも術前に胃原発性重複細網肉腫との確診を得たが,開復術によって切除不能と判明したので保存的療法を施行し,興味ある効果像ならびに経過を観察できた症例を経験したので報告する.

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 胃に多発性潰瘍を生じ,CHOP療法が著効を示した悪性リンパ腫の1例を報告する.

症 例

 患 者:58歳,男.

 主 訴:心窩部重苦感.

 既往歴,家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1977年,右頸部リンパ節腫脹が出現し,某大学病院で悪性リンパ腫と診断され,放射線治療を受け軽快した.1978年10月,心窩部重苦感が出現し,近医で胃X線検査にて胃潰瘍と診断され治療を受けたが,軽快せず,同年12月4日当科に入院した.

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 全身性の悪性リンパ腫に対する化学療法は近年好成績を上げているが,胃悪性リンパ腫は,その多くが手術療法の対象となるため,化学療法に対する報告が少なく,化学療法の効果も全身性悪性リンパ腫ほど明らかではない.今回,われわれは胃悪性リンパ腫にVincristine,Endoxan,Predonineの化学療法を行い,X線,内視鏡的に著効を示した1例を経験したので報告する.

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 胃悪性リンパ腫の全身性に転移したと考えられる症例を経験したので,X線,内視鏡所見および病理学的所見につき供覧する.

症 例

 患 者:66歳,男.

 主 訴:食欲不振,胃部痛,体重減少.

 家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1978年9月ごろより主訴が出現したため,同年10月近医を受診した.同医にて右下腹部の腫瘤を指摘され,更に胃X線,内視鏡検査によりて胃穹窿大彎にかけてBorrmann 2型の腫瘤が認められたため,同年11月当院を紹介され入院した.

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 胃噴門部から穹窿部にかけて存在した胃悪性リンパ腫が,横隔膜へ浸潤した後,左胸腔内へ穿孔し,左肺の血気胸を起こして急激に死の転帰をとった症例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:47歳,男,国鉄職員.

 主 訴:吐血・下血.

 既往歴:34歳のときに流行性耳下腺炎に罹患した以外は特記すべきものなし.

 家族歴:父に脳血管障害,母に高血圧,糖尿病がある.

 現病歴:半年前に上腹部不快感を訴え本院を受診し,胃X線検査によりFig. 1のごとく,穹窿部の変形および壁の不整,硬化像を認め,特に噴門部および穹窿部大彎側には陰影欠損を見る.更に穹窿部から体上部にかけて粗大皺襞の蛇行が認められ,また小彎線は体中部まで,大彎線は体下部までの壁の直線化を認めるが,胃の伸展性は保たれている.この時点で粘膜下腫瘍,特に胃悪性リンパ腫を疑われ,精査をすすめられるが,以後当院を受診せず放置されていた.今回,約2週間前より上腹部鈍痛,食欲不振があり,前日コップ半分の吐血が2回あり,更にタール便を来したため当院を受診した.緊急内視鏡検査では,胃穹窿部より体上部にかけて多最の血液を認め出血部位の確認ができなかった.貧血を認め全身状態不良のため緊急入院となった.

Coffee Break

低亜鉛血症と発育障害
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 蛋白栄養障害と亜鉛欠乏症との間には次のような共通の特徴がある.

 すなわち,食欲不振,下痢,発育障害,衰弱,皮膚剝離,皮膚潰瘍形成,毛髪脆弱化,色素沈着異常,リンパ組織減少,易感染性,などなどである.

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 膵の消化酵素分泌は迷走神経刺激により高められる.CCK-PZによる体液性刺激と異なる刺激系である.しかし,迷走神経刺激によってガストリンも分泌される.だから,もしかすると迷走神経刺激による膵酵素分泌にはガストリンがmediatorとして介在しているのかもしれない.

 1969年にSteningとGrossmanはガストリンは膵酵素分泌刺激としてCCK-PZの約1/3の効力を持つという報告をした.Rosenbergらも,幽門洞切除したあとインスリン低血糖による迷走神経刺激性の膵酵素分泌は80%まで低下したことを1976年に報告している.Preshawらも幽門洞のpHを下げておくと,迷走神経刺激による膵酵素分泌は低下すると報告している.

ソマトスタチンによる止血
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 ソマトスタチンという消化管ホルモンは,食物やガストリンによる胃液分泌を抑制するばかりでなく,ガストリンの分泌をも抑制する効果を有することはBloomらやGomez-Panらの報告を引用しなくても,今ではほとんどの消化器病学者が知っていることである.

 そこで思いつくことは,ソマトスタチンを使って消化性潰瘍や胃炎による消化管出血の治療ができないであろうかということである.現在のところ,消化管ホルモンを用いた上部消化管出血に対する治療はセクレチンが比較的広く臨床に用いられているが,ソマトスタチンもそういう利用価値は当然ありうるはずである.

胎児生長支配と癌の非癌化力と
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 肝は多様な代謝系を有するので酵素の研究には非常に都合がよい.発癌物質によってラットにつくられた実験癌の中にMorrisのhepatomaと言われるものがある.このhepatomaは自然のヒト癌のように,いろいろな発育の仕方をしたり,いろいろな分化程度を示したり,いろいろな肝機能障害を来したりするので,癌の生物学的研究には好都合な実験癌である.

 例えばアイソザイムの研究などにも有用なものであるとされている.Weinhouseのラットの研究で癌と非癌の臓器におけるヘキソカイネース・アイソザイムのパターンの対比をしたものがある.Glucokinase(gk)と他の3つのアイソザイムを総称したhexokinase(hk)の活性についてみると次のようになる.

MEA型のcross-over
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 1954年Wermer,1971年Sipple,1976年Schimkeによって報告されたMEA(multiple endocrine adenomatosis)には,

○MEA,Ⅰ(Wermer's syndrome)

 1) Pituitary adenoma

 2) Parathyroid adenoma (or hyperplasia)

 3) Pancreatic islet cell tumor

の3Pと,

○MEA,Ⅱ(Sipple's syndrome)

 1) Pheochromocytoma (bilateral)

 2) Medullary thyroid carcinoma

 3) Parathyroid adenoma (or hyperplasia)

の2種類がある.

 それに1966年Williams&Pollockらによって報告された,

○MEA,Ⅲ

 1) Mucosal and gastrointestinal ganglioneuroma

 2) Skeletal anomaly

 3) Parathyroid abnormalityはないのがふつうがある.

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 Vater乳頭部に発生する腫瘍はほとんどが癌腫であって,カルチノイドは非常にまれである.われわれは最近,Vater乳頭部の腫瘍の中に組織学的にカルチノイドと腺癌が共存した1例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:43歳,男,食堂経営(790308).

 主 訴:上腹部痛,黄疸.

 既往歴,家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:約半月ほど前より食後に腹部膨満感があったが放置していた.1979年1月24日夜半,急に上腹部の激痛を訴えて井上病院に入院した.

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欧文目次

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 Campylobacter fetus subspecies jujuni; Å Common Cause of Diarrhea in Sweden: Å. Svedhem, B. Kaiser (J Inf Dis 142: 353~359, 1980)

 Campylobacterはbivrio fetusと呼ばれたグラム陰性桿菌で,微好気性,40~42℃が至適温度,培養が困難な菌である.1977年Skirrowの報告以来,ヒトの下痢症の原因として注目された.過去21カ月の2,550例の下痢症患者の便培養で,277例10.9%に本菌が証明された.この期間に検出された他の菌はサルモネラ菌183例,赤痢菌89例,エルシニア菌17例で,本菌が最も高頻度であった.年齢,性に差はないが,スウェーデン国外で感染したと思われる例が73%あり,ほぼ全世界に及んでいる.

編集後記 望月 孝規
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 胃のリンパ腫についてのシリーズが,本号で完結しました.多数の症例が貴重な資料と共に掲載されましたので,これを読まれた方は自験症例のように,詳しく理解しえたと思います.いろいろな肉眼的形態の型が提示されていますが,これらに基づき,胃癌の場合と同じように正しく診断することができるようになり,更に形態の変化や進展が明らかにされるでありましょう.

 病理組織学的には,なお分類の問題が残されていますが,現在,国際的に討議されている,リンパ節悪性リンパ腫の良い組織学分類が将来確定し,それが胃にも妥当するか否か検討されることになると思います.その際の肉眼的形態,進展様式,予後などとの関連についての資料として,本シリーズの症例と論文は重要であります.

基本情報

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胃と腸
16巻5号 (1981年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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