胃と腸 16巻6号 (1981年6月)

今月の主題 胆道系疾患の臨床(1)―総胆管結石症を中心として

序説

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 最近の,国の内外を問わない消化器病学領域にみられる出版物のブーム状態はどう評価したらよいのだろう.本当に,心の底から喜んでよいのか,われわれ“渦中の人”はいささかとまどうのである.単行本だけではない.消化器の専門誌もいくつか登場した.それぞれの雑誌は,優れた個性を備えているので,まさか過当競争にはならないだろうと想像しているが,今後激しい鍔迫り合いが続くだろうと思っている.

 蛇足ではあるが,わが「胃と腸」は,単に消化管だけを守備範囲として編集されているものではない.このことは,少し息の長い読者ならよく御存じのはずである.膵も,胆道系も,「胃と腸」の重要なterritoryとみなしている.消化管の病態生理,病変を十分に考慮しないで,膵とか胆道系の病態が正しく理解できるわけはないし,逆もまた真である.

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 近年,胆道疾患の診断法の進歩は著しく,PTC,ERCなどの直接胆道造影法や超音波検査,X線CTなどが用いられてきている.排泄性胆道造影法に加えて,これらの多彩な診断法の出現により,それぞれの診断法の適応が見直されてきている1).ところで,排泄性胆道造影法には経口法と経静脈法(IVC)とがある.前者は簡便に胆囊を造影しうるが,胆管の造影に難点があり,胆管病変の診断には専らIVCが用いられる.

 胆管胆石症の診断にも種々の検査法が用いられてきたが,現在でもIVCが診断の基本となっていることに変わりがない1).しかしながら,“IVCの造影能は劣っており,たとえ胆管が造影されても胆石像までは明瞭に写し出されることが少ない”という先入観もあって,直接胆道造影法に頼りがちな傾向がないとは言えない.直接造影はしばしば,疑問を差し挾む余地がないほどの完壁な情報を与えてくれるが,安全性や患者の負担などを考慮すれば,その適応は慎重でなければならないと考える.

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 ERCP(endoscopic retrograde cholangio-pancreatography)は1969年に開発され,今日では胆道,膵疾患の診断には不可欠の検査法として広く臨床に活用されている.今回のテーマである総胆管結石症は日常高頻度に遭遇する疾患であり,ERCPは胆膵の両者にわたり広い情報を得ることができるので,結石の診断のみならず周辺の病態を知るうえからも必要な検査法と考えられる.

 ここでは教室の11年にわたるERCP経験例を中心に,総胆管結石診断の現況と,更に総胆管結石をめぐって周辺の病態がどこまで解明できるか,ERCPの総胆管結石診断における利点と問題点とについて検討する.

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 胆道系疾患に対する放射線学的検査には従来の経口または静注による胆道造影に加えてPTCやERCなどの直接造影がその主体を成している.近年,核医学検査,X線によるコンピュータ断層撮影(以下CTと略す),超音波検査(US)などがその機器の開発や改良によって非侵襲的検査として重要な位置を占めるようになった.ここでは主としてCTおよびUSによる総胆管結石の診断の有用性とその限界を検討する.

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 総胆管結石症はその病態が複雑多岐にわたるため,正確な診断,病態の把握などに基づく的確な治療が必要となる.本症は治療上,内科,外科両領域にまたがる疾患で,内科的には,合併症を伴う有症状期における鎮痛・鎮痙剤投与,化学療法,経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD)が主体であり,原則的には外科的手術が適応となる病態と考える.しかし,高齢化社会になるに従って,高齢者や社会の第一線から引退した人を診療する機会も多くなり,そうした症例では病状が非定型的で,しかも個々によって大きく異なるため,手術時期や適応など,治療に関して苦慮する場合が少なくない.

 本稿では内科的立場より,急性閉塞性化膿性胆管炎に播種性血管内凝固(DIC)を合併した症例を中心に有症状期の化学療法,胆道ドレナージなどについて述べると共に,主として高齢者の剖検例の検討から無症状期,無症状総胆管結石症における治療について私見を述べてみたい.

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 総胆管結石症の治療について主として外科的立場から稿を求められたが,結石の種類によってその対処の仕方がかなり異なることをまず強調しなければならない.周知のごとく胆石は主としてコレステロール系石(純コレステロール石,混成石,混合石,以下コ系石と略称)とビリルビン石灰石(以下ビ石)とにおよそ2大別され,その生成機転,臨床症状など相互に全く異なるからである.以下総胆管結石についてもかかる観点から考察を進めてみよう.

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 胆石症,殊に総胆管結石症は,従来外科手術の絶対的適応と考えられてきた疾患である.この総胆管結石症に対する非観血的治療法として開発されたのが内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)であり1)~4),今日では外科的治療法に匹敵する優れた内視鏡的治療法として高い評価を受けるに至っている5)~9).本法の手技の詳細については既に著者ら5)10)~13)を始めとして多数報告14)~19)されているので割愛し,本項では種々の観点からみた本法の現況について述べてみたい.

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 春日井(司会)総胆管結石症は,日常臨床においてしばしば遭遇する比較的ポピュラーな疾患ですが,最近,日本人の食生活の変遷に従って,その種類と頻度が変わり,病態にも変化が見られるようになったと思います.更に臨床医学の開発,進歩によって,診断および治療法についても進歩が見られます.本座談会においては,これらの進歩を踏まえながら,日常臨床に役に立つclinicalな問題を中心にお話し合いをいただきたいと思います.

 まず総胆管結石症の疫学から入っていきましょう.総胆管結石症を含む広義の胆石は,最近増加しているでしょうか,また胆石の種類と頻度はどうなっているか,中山先生からお願いします.

Coffee Break

膵炎診断の進歩
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 急性膵炎の診断に際し血中および尿中アミラーゼ値が主要な検査データであったが,膵外性アミラーゼなどのため必ずしも膵損傷の状態をそのままあらわしているとは限らないので,CAm/CCrの増加が特異的に膵炎の診断に役立つということになってこの疾患の診断が行われていた.しかし,実際にはこれも膵炎特異的だというには何がしかの問題がある.

 それに比べて,トリプシンは膵特異性が高いと言われている.血中トリプシンのラジオインムノアッセイができるようになったので有力なラボ診断法として注目されている.血中トリプシン値は急性膵炎ではいずれも高値を示し,正常者のそれとオーバーラップしない.だから,アミラーゼ測定とCAm/CCr測定と併用するとより診断は正確になる.

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 ガストリンは胃液分泌の検査に広く使用されている.また,甲状腺の髄様癌の診断にも使われていることも皆さん御存じのとおりである.というのは,ガストリンがC細胞(カルシトニン分泌細胞)からカルシトニンを分泌させるからである.腫瘍化したC細胞の刺激をすることによってカルシトニンを分泌させ,診断に役立たせるのである.

 ところで,H2受容体阻害剤はガストリンによる胃液分泌を抑制する.それではガストリンによるカルシトニン分泌をもH2受容体阻害剤は抑制するであろうか.

腎疾患患者の血中トリプシン値
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 Rumpfらによると腎疾患患者で血中クレアチニン値と血中トリプシン値が相関関係をもっているという.ということは,トリプシンの排泄に腎が大きな関係をもっているという予想もできる.

 同様に腎疾患患者について調べたAntonucciらの成績では,GFR(glomerular filtration rate)が血中のトリプシン値やアミラーゼ値と関係が深かった.つまり,これらの酵素の血中濃度はGFRと逆相関を示すのである.GFRが同じ例の中では血中膵酵素濃度とPTH(parathormone)値とが相関していた,PTH濃度が同じ例の中では血中膵酵素濃度とGFRは相関しない.だから,腎不全患者の血中膵酵素濃度が高いことの理由として,腎からの排泄が低下していることよりもむしろGFR減少と関連したPTH値が上昇していることが何らかの形で関与しているものと考えられる.

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 近年の消化器内視鏡学の進歩は目覚ましいものがあり,上部・下部消化管疾患の診断技術は飛躍的に向上した.しかしながら,胆道系疾患については,ERCP,PTC,US,angiography,schintigramなどのいわゆる映像診断法には進歩がみられたのに対して,内視鏡本来の目的である直視下診断・生検などの技術が立ち遅れているのが現状である.1973年以来内視鏡的乳頭切開術(EPT)が行われるようになり1)~5),胆道系疾患に対して様々な内視鏡的アプローチが可能となった6)~23).著者らも1977年に経口的胆道鏡の試作・開発に着手した15)22).町田製作所・オリンパス光学の協力を得て,現在までに親子式,スライディング・チューブ式,ダイレクト式の3種の方式の胆道鏡を試作開発した.これらを用いて内視鏡的乳頭切開術を受けた患者を対象として胆道内視鏡検査を行ってきたので,その開発状況および問題点などについて比較検討を加えて報告する.

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 胆道への診断学的アプローチはX線診断が主体となっていたが,胆道鏡の開発以来,術中,術後の胆道鏡検査が次第に進歩してきた.また,経口的膵・胆管内視鏡検査法(PCPS)が開発されるに至り,全く外科的処置のされていない患者の胆道の内視鏡検査が可能となった.更に,内視鏡的乳頭切開術を施行した症例に対しては細径直視型ファイバースコープを用いて経口的直接胆道内視鏡検査法(PDCS)が開発されるに至り,胆道の内視鏡検査も精密診断の時代に入ろうとしている感さえある.

 1977年3月以来,閉塞性黄疸症例に対して経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD)を行った後に,ドレナージカテーテルの内腔を通して細径の胆道ファイバースコープを挿入して,胆管閉塞部の内視鏡検査を行ってきた.そして,この検査法を経皮経肝胆道鏡検査法(Percutaneous Transhepatic Cholangioscopy, PTCS)と名付けた.PTCSを更に精密検査の領域にレベルアップするために,PTCDの瘻孔を更に太いものにし,そこへ更に太径の胆道ファイバースコープを挿入して,悪性閉塞性黄疸症例に対する胆道鏡直視下生検および,胆管結石症に対する経皮経肝的な截石術をすることに成功した.PTCSが胆道疾患に対する診断学的意義ばかりでなく,治療的意義をも併せ持つことを確認したので,その具体的な検査方法,内視鏡器種の開発について紹介すると共に,将来への展望について述べる.

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 1973年,池田らは内視鏡で観察された傍乳頭総胆管十二指腸瘻の8例を報告し,本症が総胆管結石の自然脱落と関係の深いものであることを指摘すると共に,その発生機序と関連した分類を提唱した1).その後,胆石症の患者において本症の診断に注意が払われるようになり,十二指腸ファイバースコープの普及と相俟って報告例が急速に増加してきた2)~11)

 筆者らも最近10年間に,先に報告した25例2)を含め83例の傍乳頭総胆管十二指腸瘻を内視鏡的に診断したが3),その中にまれな型として乳頭近傍に各々2個ずつの瘻孔を有する5症例を経験した.このような傍乳頭総胆管十二指腸瘻の多発型についてはまだ文献上に記載を見ないので,その臨床的特徴と内視鏡像を中心に,若干の考察を加えて報告する.

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 本邦における結腸癌の発生頻度は胃癌,直腸癌に次いで多く,全消化管癌の4%,大腸癌の30.5%と報告されている19).30歳以下の若年者結腸癌は,同一施設の報告では全結腸癌の2.5%である20).しかし15歳以下の小児結腸癌はまれで,本邦報告例は18例にすぎない.最近,われわれは14歳男児結腸癌の1例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:14歳,男児.

 入院時主訴:便秘,腹痛ならびに嘔吐.

 家族歴:父親は35歳時に,父方の祖父は40歳代で,共に胃癌のため死亡.父の同胞6名中,妹が40歳時に乳癌で死亡.母方には血族中の癌患者はない.

 既往歴:患児は8歳時に心臓カテーテル検査の結果,大動脈縮窄症ならびに左総頸動脈,左鎖骨下動脈起始部形成不全(狭窄)による,subclavian stealと診断され,同年coarctotomyを受けた.術後経過は順調であった.

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 世界で最も著名な人類学者の1人であったM・ミード女史は,世界の文化を過去志向型,現在志向型,未来志向型の3つに分類した人であるが,彼女の著書「地球時代の文化論―文化とコミットメント―」(太田和子訳,東京大学出版会)によれば,“第二次大戦前に育ったわれわれは,これまで過去を理解し,現在進行中のことを解釈し,未来を予想する際に用いてきたどの方法によっても,とうてい捉えることのできない「現在」に入り込んでしまった.……電子革命以前に生まれ育ったわれわれの多くは,その革命が何を意味するのかまだわからないのである.われわれは今なお権力の座にあり,われわれの知っている種類の社会を組織し,その秩序を保つのに必要な技術や財源を支配している.教育制度が年季奉公の制度といった,若者が一歩一歩登らなければならないキャリアへの階段を支配している.……それにもかかわらず,われわれは引き返すことのできない地点にまで来てしまった.不慣れな状況で生活する破目に陥りながら既知のことに頼って,なんとかやっているのである.確かな品質の新しい材料を用いて,古い様式のまま当座しのぎの住居を建てているようなものである.”と述べている.抜き書きながら長文の引用になってしまったが,このミードの言葉を,この印象記の初めの言葉としよう.

 サウジアラビア・エジプトの旅から帰った翌日の3月30日から3日間,第67回日本消化器病学会総会が都立駒込病院長松永藤雄先生の会長のもとに開かれたのであるから,時差などなんでもないといったら嘘になる.会場は高層ビルが水晶のように並ぶ新宿副都心の京王プラザホテルであった.ギザ,サッカラのピラミッドなど見てきた眼には,いつも見慣れている高層ビル群も,感覚的な異和感があった.会場費の高くなるホテルを学会場にしなければならなかったのは,消防法のため改築中の国立教育会館その他の会場候補施設が使えなかったためで,苦心が多かったと思う.経済大国と自負している日本国の首都に,大きな収容能力を持った,数会場を備えた大会議場がないということは,1万人以上の会員を持った消化器病学会としては大きな問題である.反射的に思い浮かぶのはハンブルグの会議センターである.もっとも,会員が1万人の大台を突破したということは,医師の過剰時代が,もうそこまで来ていることを示すものかもしれない.

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欧文目次

編集後記 武内 俊彦
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 本号では“胆道系疾患の臨床”シリーズの1つとして総胆管結石症を取り上げたが,その趣旨は竹本忠良教授が序説で述べられていることに尽きる.

 周知のごとく,総胆管結石症は本邦に多い病態であるが,これを真正面から扱った特集は見当らず,胆石症における1つの隘路といえよう.戦後間もなく発刊された松尾巌著「胆石及び胆道の疾患」(大雅堂,昭和22年)にはもちろん総胆管結石という言葉はなく,輸胆管の胆石と称されており,エリトロシンによる経静脈性胆囊造影,十二指腸ゾンデ法が胆道疾患の診断法として記載されている.最近10年間の本症の診断,治療面における進歩は確かに目をみはるものがあり,PTC,ERCPなどの直接胆道造影法の出現で,その診断は飛躍的に向上したし,さらにUS,CTも加わってきた.しかし,経口,経静脈性造影法やリオン法の臨床的意義は失われていないし,新しい検査を含めた検査法の体系づけも確立されたとは言い難い.総胆管結石症の診断,治療の現況について第一線で活躍されている方々に執筆していただき,臨床上の問題点を座談会で率直に述べていただいた.本特集を通して各施設に応じた検査体系が築き上げられればと考えるし,そろそろ検査づけ診断のそしりを免れるためにもこれは重要な課題であろう.

基本情報

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胃と腸
16巻6号 (1981年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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