胃と腸 13巻8号 (1978年8月)

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 最近,胃疾患の診断技術の向上につれて,微小早期胃癌の報告も多くなってきた.しかし多発例の場合,術前に正確な診断を下すことはかなり困難となってくる.われわれは,7×7mmと1×4mmのⅡc型微小早期癌と,12×11mmのⅡa型早期癌の多発例を経験した.

 症 例

 患 者:56歳 男性(No. 605 '76)

 主 訴:胃部重圧感

 家族歴:特記すべきことなし

 既往歴:23歳の時,胸膜炎で薬物治療を受け治癒,46歳の時から高血圧症,不整脈で現在も薬物治療中である.

 現病歴:1976年6月頃から胃部重圧感が出現し,聖十字診療所を受診した.胃X線検査の結果,胃幽門前庭部小彎に異常陰影を指摘され,精査のため7月15日癌研外科に入院した.

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 広範な絨毛状発育を呈したⅠ+Ⅱc型早期胃癌で,種々のラジオアイソトープ検査により蛋白漏出部位を確認しえた興味ある症例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:石○よ○ゑ 50歳 女性

 主 訴:顔面および四肢の浮腫.上腹部痛.

 家族歴:特記すべきことなし

 現病歴:1975年1月頃より顔面および四肢の浮腫に気づいたが放置していた.1976年6月に近医を訪ずれ,貧血と動脈硬化症の診断で治療をうけたが,症状は改善せず,しかもその後,上腹部に軽度の空腹時痛を訴えるようになった.同年11月に当センター検診科の胃集団検診をうけ,胃に巨大な隆起性病変の存在を指摘され,12月に同科で胃内視鏡検査および胃X線検査をうけ,進行癌と診断されて,1977年1月に手術の目的で入院した.

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 胃粘膜の巨大皺襞を示す疾患には肥厚性胃炎,悪性リンパ腫,スキルスなどがあるが,私共は蛋白漏出による低蛋白血症を伴い,X線および内視鏡的に典型的な巨大皺襞に加え腫瘤様外観を呈した肥厚性胃炎(メネトリエ病)の1例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:西○兼○ 35歳 男子

 主 訴:下肢の浮腫

 現病歴:1977年6月頃より両下肢に浮腫が出現し,初期には朝になれば消失していたが,やがて1日中みられるようになった.食欲は良好で嘔気・嘔吐なく,下痢もみられなかった.近医受診し,血液検査,胃X線検査などを受け,低蛋白血症(総蛋白量4.3g/dl)および胃病変を指摘され,精査のため本院受診,9月1日入院となった.

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 関節リウマチでステロイド治療中の患者に,Ⅱcまたはリンパ腫と紛らわしい像を呈した良性潰瘍瘢痕を伴う比較的広い良性胃ビランの1例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:61歳 女性

 主 訴:心窩部不快感

 家族歴:姉1人が胃癌で死亡

 既往歴:15歳慢性関節リウマチ,47歳胆石手術

 現病歴:慢性関節リウマチのため他院で長期間ステロでド剤の投与をうけていたが詳細は不明,同治療は当院受診直前まで継続.1976年4月6日当院整形外科受診,関節リウマチと診断,関節腔内ヘリンデロン2mgを2回注入.初診より入院まで約4カ月間にリンデロン95mgの経口投与をうけ通院.

 同年6月下旬より心窩部不快感または腹部膨満感と口渇を訴え,7月7日当院内科へ紹介.7月9日上部消化管X線検査.7月17日胃内視鏡検査,幽門部病変を指摘され.手術のため8月2日入院.

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 近年胃X線,内視鏡検査は著しく進歩し,その形態学的診断能の向上に伴い多発性早期胃癌症例も数多く報告されるようになってきた.最近,われわれも術前にⅠ型とⅡc型多発早期胃癌と診断し,手術にてともに深達度sm,一部ブルンネル腺への浸潤を認めた症例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:由○治○郎 56歳 男性

 主 訴:全身の紅斑

 既往歴:20年前より糖尿病で治療をうけている.1977年6月16日,白内障(右)の手術.

 家族歴:特記すべきことなし

 現病歴:約6年前より顔面に瘙痒感を伴う紅斑と鱗屑が発生し色素沈着を残すようになった.その後本症状は増悪と寛解を繰返していたが,1977年1月頃より全身倦怠感も出現し,奈良医大付属病院皮膚科に入院した.

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 最近のX線検査,内視鏡検査技術の進歩によって微小胃癌はかなり診断されるようになってきた.しかし胃上部,特に食道胃接合部の微小癌は,この部位の診断上の困難さもあり,発見されることは稀である.最近われわれは胸部X線写真を手がかりとして,食道胃接合部の胃平滑筋腫を発見し,更に内視鏡,および生検にてその表面粘膜上に微小Ⅱc型早期胃癌の併存することを術前に診断することが可能であった症例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:M. Y. 59歳 女性

 主 訴:胸痛

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし

 現病歴:10年前より時々胸痛あり,最近は1日3,4回の胸痛発作があった.1975年3月6日当院外科受診.

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 いま10mm以上の早期癌ならルーチンに診断でき,5~10mmの小さなものでも注意深いX線検査でひろい上げ確診できるようになった.だが,より小さな5mm以下の微小癌,それもⅡbのような粘膜の凹凸の差のないものでは,診断が不能であると思われていた.しかし,最近,生検がルーチン化するにしたがって,少しずつではあるが,このような微小Ⅱb病変が術前診断されるようになっている.われわれも,術前に2ヵ所の微小Ⅱb,Ⅱc病変と診断し,切除標本の組織学的検索で12ヵ所に切片上,最小0.2mm,最大3mmまでのⅡb~Ⅱc型微小癌巣が発見された症例を経験した.この症例でX線,内視鏡診断の限界について検討したので報告する.

 症 例

 患 者:51歳 家婦

 主 訴:胃部不快感,筋肉痛

 家族歴:父親,59歳時,肺癌で死亡

 既往歴:10歳,胃潰瘍,19歳,結核性腹膜炎,20歳,胸膜炎,29歳,リウマチ熱,39歳,巨大結腸切除術

 現病歴:10歳時,吐血し某医で胃潰瘍と診断されている.その後も時々上腹部痛があり,胃潰瘍と診断され治療を受けていた.1974年2月胃部不快感があり,某医で胃X線・内視鏡倹査を受け,胃潰瘍と診断され入院加療している.1974年9月全身の関節痛が強くなり,リウマチ熱と診断され,以来,今日までプレドニソロン5~10mgを連用してきた.1976年5月,同様の主訴と筋力低下を自覚し,精査を求めて本院膠原病内科を受診した.臨床症状より多発性筋炎または皮膚筋炎を疑われ,胃潰瘍の既往もあり,胃の悪性腫瘍を否定する必要があった.胃X線・内視鏡的に精査し,多発微小胃癌と診断した.

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 われわれは最近,13年前に熊本大学第1外科でPeutz-Jeghers症候群と診断し,経過観察中に卵巣癌を合併して死亡した1例を経験した.本患者の多数の消化管ポリープのうち,回腸および結腸ポリープのおのおの1コに悪性化像が認められ,きわめて稀有な症例と思われるので報告する.

 症 例

 患 者:二○石○子 26歳 女性

 主 訴:腹痛,嘔吐

 既往症:幼児期から口唇の色素斑があった,1959年,9歳の頃から時々腹痛を訴えていた.1962年,12歳の時,腹痛を訴え,某医で慢性虫垂炎の診断の下に虫垂切除術を受けた.

 現病歴:1964年,14歳の時,腹痛および嘔吐を訴え某医を受診し,腸閉塞と診断されて当科へ紹介された.この時は回腸末端より約1m口側の回腸のポリープによるintussusceptionであり,ポリープ2コを含めた回腸の部分切除を受けた.上下の口唇,口腔粘膜に粟粒大の黒色の色素斑,足蹠にも同様の色素斑を数コ認めた.切除された回腸ポリープの組織学的検索の結果,過誤腫性ポリープと診断され,Peutz-Jeghers syndromeと診断された.その後約9年間は特記すべき症状はなかったが,1973年,23歳の時,時々腹痛および下血を認めるようになった.注腸透視および大腸ファイバースコープ検査の結果,下行結腸に認められた数コのポリープの中の1コから出血していたので,これに対して内視鏡的にpolypectomyを行った.しかし,その後も間歇的に腹痛が反復し,下血も続いたので輸血などの対症療法と内視鏡的polypectomyを数回施行した.1976年10月,再度,腹痛・嘔吐を呈し,某医で腸閉塞と診断され,開腹術を受けたところ,空腸のポリープを先進部とする小腸重積症と判明し,重積部の空腸切除と,空・回腸および結腸のポリープ合計14コのpolypectomyが行われた.術後1カ月目に食事と無関係に左上腹部痛および背部痛を訴えたので保存的治療を続けたが軽快しないので,1977年1月,熊本大学第1外科へ転医した.

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 クローン病は潰瘍性大腸炎とともに原因不明の炎症性大腸疾患inflammatory bowel disease(IBD)を代表する疾患で,慢性の経過をたどり,治療に難渋することがきわめて多い.最近われわれは長期間の経過観察中に再発し,再手術を余儀なくされた大腸クローン病を経験した.切除標本の病変部はmucosal tag, mucosal bridgeを形成する著明なinflammatory polyposisを伴っており,特異な肉眼形態を呈していた.本稿ではこの症例の臨床並びに病理所見を紹介し,併せて結核や潰瘍性大腸炎との鑑別診断につき,若干の考察を加える.

 症 例

 患 者:塩○俊○ 44歳 男 織物業

 主 訴:右臍部の有痛性腫瘤,腹部膨満感

 家族歴:特記すべきことなし

 既往歴:30歳の時虫垂切除術

 現病歴:32歳の時右下腹部の鶏卵大の腫瘤ならびに腸管狭窄症状をきたし,金沢大学第1外科にて大腸右半切除術を受け(1965年4月3日),病理診断により大腸クローン病であることが判明した.その後約10年間腹部症状はなく,順調に経過しているが,初回手術半年後より,手指,足,膝関節などに非対称性,かつ移動性の関節炎をみており,鎮痛剤やステロイド投与などにより軽快している.1976年1月頃より右臍部に再び有痛性の腫瘤を認め,某病院にてクローン病の再発として内科的治療を受け,一時寛解した.しかし,同年6月再び腹痛が増悪し,腹部膨満,るいそうが著明となり,subileus症状を呈したため,当科へ転科した.

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 家族性大腸腺腫症は,大腸に多数の腺腫が若年期から,びまん性に発生し,Mendelの遺伝法則にしたがって優生遺伝し,高率に癌化の認められることから注目される疾患である.一方,本疾患では,大腸以外にも随伴病変を認めることがしばしばあり,軟部腫瘍と骨腫とを伴うものは,Gardner症候群,脳腫瘍と合併するものは,Turcot症候群と呼ばれている.

 ところが最近,大腸以外の消化管,すなわち胃,十二指腸,小腸などにもポリープなどの病変を高率に合併することが指摘されるようになってきた.

 われわれは,家族性大腸ポリポージスで外骨腫を合併し,S字状結腸および直腸に癌化を認め,さらに胃癌,胃腺腫および胃カルチノイドを合併した症例を経験した.一部はすでに発表したが,ここに改めて詳細に報告する.

 症 例

 患 者:36歳 男性

 主 訴:下腹部疼痛,粘液および血液を混じた下痢

 既往歴:生来精神薄弱で,現在でも6,7歳程度の知能と考えられる.約3年前,小石を多量に食べるということで来院したことがある.しかしその性癖は自然に消滅した.

 家族歴:父の姉は30歳代から下痢を繰り返し,42歳で腸の癌のため死亡した.また,父母は血族の結婚であり,祖母およびその他にも胃癌で死亡したものがある.患者のきょうだい9人のうち,1入に大腸リンパ管拡張症,2人には少数ながらポリープが認められた(Table1).

 現病歴:知能遅れがあるため,症状発現の時期および初期症状は明瞭ではない.最近,数カ月前から下腹痛を訴え,1日数十回排便し血液で下着を汚すのを家族に気付かれ,近くの内科医を受診し,検査のため紹介されて来院した.

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 本邦における潰瘍性大腸炎は,難病対策研究班の発足以来,急速に活発となり注目されてきた疾患の1つである.

 また,本症が慢性かつ難治性のため,合併症の併発の理由で手術される症例は,次第に増加している.その合併症の1つとして癌化の問題があり,欧米における頻度は1~4%であるが本邦報告例は,極めて稀である.

 われわれは,12年前に潰瘍性大腸炎の診断にて結腸左半切除術を施行した残存直腸に,癌の発生した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

 症 例

 患 者:49歳 主婦

 主 訴:下痢 粘血便

 家族歴:父が胃癌にて死亡

 既往歴:1964年37歳の時,水様下痢便および血便にて当院受診.注腸造影にてS状結腸のハウストラの消失と右半結腸のハウストラの肥厚を認め,潰瘍性大腸炎の診断にて結腸左半切除術を施行した(Fig. 1).

 切除標本の組織像は,粘膜と粘膜下層を主体とする炎症性変化で,陰窩膿瘍形成,杯細胞の消失,固有筋層内へのリンパ球を主とした細胞浸潤が認められ,潰瘍性大腸炎と診断された(Fig. 2, 3).

 しかし,残存直腸,右半結腸に炎症が残っており,手術後のX線所見より炎症症状は増悪し,軟便が4~5行/日,持続するようになった(Fig. 4),近医にて,下痢の激しい時と血便のある時にパラメサゾン3~6mg/日を内服していた.

 現病歴:1976年3月頃より左膝関節部の腫脹と疼痛あり,近医にてアスピリンの投薬中血便多量,持続性となり直腸鏡検査を施行した(今回の受診までの間に大腸の検査が行われたことはない).

 肛門縁より約12cmの直腸に,ほぼ全周性,周堤を伴った陥凹性病変があり,生検の結果腺癌と診断され当院へ送院されてきた.

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 皮膚症状がある疾患の部分的現象であることは日常診療上しばしば経験するところであり,その皮膚症状の把握は基礎疾患を知る上にきわめて重要である.毛細血管拡張症も,高齢者にみられる単純な特発性のものを除いて,全身疾患の一症状として現われることが多く,Reed1)らはその形態より,①肝疾患などにみられるvascular spider型,②膠原病などでみられる網状型,③Osler病にみられる限局性・小結節型,の3群に分類している.単にOsler病とも呼ばれるが,1896年Rendu2),1901年Osler3),1907年Weber4)らによってそれぞれ報告されたので,Rendu-Osler-Weber病と呼称された1つのclinical entityで,遺伝性出血性末梢血管拡張症5)なる名称も提唱されている.すでに欧米では数百家系の報告があり,消化管出血時には鑑別診断上考慮すべき疾患とされているが,本邦での報告は比較的少なく,森岡ら6)7)によると約70家系といわれている.今回筆者らは,胃癌を合併し,諸種の臓器に毛細血管拡張を確認しえた本症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え,その概要を報告する.

 症 例

 患 者:54歳 男

 主 訴:心窩部痛

 既往歴:特記すべきことなし

 現病歴:1952年30歳頃より鼻を強くかんだり,感冒をひいた時,あるいは鼻孔をいじったりした時などに鼻出血があり,タンポンにて容易に止血していた.この頃より口唇の恒常性の赤い点状の発疹に気づいている.1958年36歳の時,格別の誘因なく右眼視野に雲のようなものが見え,網膜硝子体出血と診断された.1975年1月および5月にも同様の右網膜硝子体出血を繰返したが,いずれも数週の加療で痕跡なく吸収された.1976年5月初旬より不定の心窩部痛が出現したが,悪心,食思不振,吐または下血,体重減少などはなかった.7月6日当科を受診し,精査のため入院した.

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 ラットに高率に腺胃癌を発生させるN-メチル-N´-ニトロ-N-ニトロゾグアニジン(MNNG)は,イヌでも同様の経口投与により,胃癌を発生させることが確かめられ1)2),胃癌研究に大きな役割を果たすことが期待されている.しかし,このイヌMNNG胃癌の多くは,異型性の乏しい早期の分化型癌であり,漿膜に達する進行癌で,しかも転移形成を伴う例は稀である3).一方MNNGはイヌの小腸にかなり高率に肉腫を発生させるため,胃癌が進行する以前に,イヌを死亡させることも欠点である4)5)

 われわれは,イヌ胃癌発生を促進させる工夫の一つとして,1971年4月からMNNG投与開始前に胃の迷走神経を切断する方法を試みた.この論文では,迷切犬の2頭にのみ肺,肝への血行性転移を伴う進行胃癌の発生をみた成績7)8)を中心に,迷走神経切断術の効果をまとめ検討した.

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 肛門部とは肛門管と肛門周囲皮膚をさし,この部の悪性腫瘍は比較的少ない.その上,肛門管の複雑な組織解剖学的構造を背景として,これより発生する腫瘍が病理形態学的に多様であり,その発生母地について解明すべき点が多い.そこでわれわれは過去約22年間に東大付属病院で切除された肛門部悪性腫瘍症例の病理組織学的特徴を調べ,また特に現在種々の見解がとられている,いわゆるbasaloid carcinomaおよびその発生母地と関連があるといわれている肛門管移行帯上皮1)について若干の考察を行った.

材料および方法

 1955年6月から1976年末までの約22年間に当院病理部で取り扱った肛門部悪性腫瘍,すなわち肛門管および肛門周囲皮膚に主座し,この部から発生したと考えられる悪性腫瘍の手術材料を検討対象とした.ただし肛門管の直腸型1)と考えられる癌は,肛門管直腸粘膜部に発生したものか,または直腸膨大部に発生し,これが肛門管に波及したものか,その判定がきわめて困難であること,また組織発生学上,直腸型癌は直腸膨大部に発生した癌と何ら変わるところがないことなどの理由で今回の検討対象から除外した.

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 ERCP像の読影に際して,膵管像の明らかな異常major changesの識別とその病理組織学的背景についての診断はさして困難ではない.慢性膵炎の進展により,膵の正常の小葉構造は実質細胞の萎縮変性による消失と線維性結合織および脂肪織の増生により完全に崩壊する.そして,膵導管は上記の結合織化あるいは脂肪化に巻き込まれ,狭窄,閉塞,消失し,逆に著明に拡張する.これら導管はしばしば蛋白含有量の多い濃縮分泌物を示し,のう胞状に拡張する.このような組織学的変化は膵管像に正確に投影され,主膵管や比較的大きな分枝膵管の狭窄,閉塞,拡張あるいはのう胞形成として認められる.そして,悪性腫瘍との鑑別に困難な点はあっても,膵管像の変化は膵の病変を疑いなしに指摘しうるものである.

 一方,分枝の軽度の変化minor calibre variationの診断的意義については相反する見解がある.ひとつはこれを単に加齢に伴う生理的バリエーションとする意見であり,他は慢性膵炎の初期変化とみなし診断的意義を認める考えである.膵実質細胞は老化に際してその数を減じ脂肪織により置換され,軽度の結合線維の増生を小葉間腔や導管周囲に認める.膵管では上皮細胞の化生,過形成は若年者に比し有意に増加し,これらは膵液の粘稠度をたかめ,分泌液の停滞を生じ膵管および間質の結合織化を促す.血管壁の硬化もまた,膵血流量を減じ前述の変化に拍車をかけるものと老えられる.上述の加齢に伴う膵導管および実質変化は膵管像にも投影されることが予測される.一般に,推計学的な有意差は別にして,主膵管径は加齢により増加の傾向にあり,分枝像もまた狭窄,閉塞,拡張などのcalibre variationを示すことが報告されている.事実,筆者らの検討でも,正常剖検膵において分枝のminor calibre variationは60歳以下では24%にしか観察されなかったにもかかわらず,60歳以上では64%に認められている.もちろん,X線所見は比較的正確に導管の組織学的変化を反映し,狭窄および拡張像は結合織化による膵導管の狭窄や拡張を示し,小のう胞像は濃縮分泌物を含有するのう胞形成をあらわした.しかし,これらは慢性炎の所見を欠き,また線維症と診断されるにたるアクティブな結合組織の増生を示さなかった.

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欧文目次

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Surgical Treatment of Hepatic Metastases From Colorectal Cancers: S. M. Wilson, M. A. Adson (Archives of Surgery 111: 330~334, 1976)

 肝転移へのアプローチは,医師個人の哲学が関係する.著者らの外科へこの問題を持込まれる場合,内科消化器科の医師間に一定の方針があるように思えない.

編集後記 春日井 達造
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 本号は年1回の特別に主題をもうけない症例特集号となった.従来症例特集号となると,投稿採用論文が主であるため,さまざまな論文が並び,通読するのに努力を要したものである.

 しかし,本号は微小早期胃癌や多発微小早期胃癌症例を中心に最近話題の胃,腸疾患を集録した.とくに微小胃癌症例は,直径10mm以下,たとえ5mm以下の微小病変であっても,今までのオーソドックスなX線,内視鏡の手法の忠実な実行によりピック・アップが可能であることを示す貴重な症例である.しかし,更に微小な肉眼視の限界を越える病変に対しては従来の診断体系にとらわれない新しい診断技術の開発が必須であろう.なお,今回は掲載14症例中10例が早期胃癌研究会発表例であることが注目される.本誌掲載症例は研究会の厳しいディスカッションを経てリファインされたものが読者に御目見得するのが本筋というべきであり,それが本誌の特色で,高いレベルを保ってきた理由でもある.この1~2年研究会において毎回6例を供覧検討してきたが,そのうちなるべく多くの症例を生かして掲載しようという本誌の編集方針が次第に実現してきたものと思う.

基本情報

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胃と腸
13巻8号 (1978年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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