胃と腸 13巻7号 (1978年7月)

今月の主題 慢性膵炎

主題

  • 文献概要を表示

 雑誌であるから,そう形式にとらわれる必要はないとはいえ,序文のまた序から書きはじめるのも,たいへん変な気がする.

 しかし,この「胃と腸」の慢性膵炎の特集号はどういう理由で,一般の雑誌にみられがちな慢性膵炎の特集ではないのか,そのねらいをまず書いておかなければなるまい.実のところをいえば,読者の方々に,編集の企図を十分理解して読んでみて頂きたいという意味ももっている.

  • 文献概要を表示

 近年,膵疾患に対する関心が高まるにつれて,その診断法にもかなりの進歩がみられるようになった.一方,膵外分泌の生理学的分野においても,ここ数年の間に分泌機構をはじめとする重要な知見が数多く得られている.ところで膵疾患の診断学を今後さらに発展させるためには,膵の外分泌機構についての基礎的なことをもよく理解しておく必要があると思う.今回はその観点からまず膵の外分泌機構に関する最近の研究成果を述べ,それをふまえたうえで現在一般に行われている膵外分泌機能検査,とくにパンクレオザイミン-セクレチン試験(以下PS試験)がどのような点で問題があるかを指摘してみたい.

  • 文献概要を表示

 臨床検査法の目的は診断の確立,予後の推定,治療法の選択が可能なdataを得ることである.膵機能検査法としては正常膵と障害膵を確実に鑑別でき,同時に,機能異常の性質や程度をも知ることができるのが望ましい.さらに,検査の経時的反復により膵疾患の進展の有無を判定しうる感度と再現性をも備えている必要がある.残念ながらこのような条件を完備した検査法は膵以外の疾患においても決して多くはない.

 慢性膵炎では,臨床検査所見と病理組織との対比の機会が少なく,膵の予備能も大きいため,早期あるいは軽症の膵炎に対する検査法が不十分である.しかし,中等症以上の慢性膵炎に対しては現在の検査法で診断可能である.

  • 文献概要を表示

 内視鏡的膵胆管造影(ERCP)が本邦で実用化されてから,膵疾患の診断に重要な役割を果たすようになった.従来,診断が困難であった膵疾患がERCPで膵管を造影することによって,その存在診断だけでなく質的診断まである程度できるようになった.膵管像と組織像の対比も行われ1)~4),各種膵疾患の膵管像の分類についても報告がある5)6).しかし,膵管像は膵実質の変化を常に忠実に反映するとは限らず,両者の変化に不一致があることは当然で,ERCPの所見だけから膵疾患の正確な診断を行うことは困難な場合がある.膵癌や慢性膵炎に典型的な変化がERCPでみられれば診断は簡単であるが,膵癌と慢性膵炎は類似した変化が膵管造影像にみられることがあるし,膵管の閉塞がある例ではその疾患の診断が困難であることが多い7)8)

 今回は膵管造影像に異常がみられた例をとりあげ,これらの例を臨床的にどのようにとり扱うべきか考察し,慢性膵炎の形態学的診断について検討した.

  • 文献概要を表示

 「膵管像からみた慢性膵炎の診断基準は」と問われれば,答は「分からない」の一語につきてしまう.ここでは,膵炎(あえて慢性膵炎とは言わない)の膵管像,すなわち膵管像からみた膵炎についての私見を述べてみたい.

 筆者は,以前より慢性膵炎の膵管像については,明らかな,所見の明白なものからアプローチをするようにしていたが,この考えは今日でも変わりはない.この一文を書くにあたっての筆者の立場は,次のように要約できると思う.膵管造影については,造影手技にまだ多少の問題は残しているが,膵管の変化を忠実に描写し,特に,限局性の変化の把握に威力を発揮する.膵管像に異常のある場合には,組織学的にも何らかの変化が膵管に存在せねばならないと考えている.次に,現在の慢性膵炎の診断基準に関しては,病理組織学的にも部位により組織像に大きな違いがみられることが少なくない,膵石の成因は一様でなく6),しばしば末期像として膵石症という形がとられる,PS試験の成績は経過中に変化することがある,などの問題点を持っていると考えている.また,PS試験は本質的には膵の外分泌腺の機能をみているのであって,膵管の形態をみる膵管造影とは基本的に立場を異にしている.

  • 文献概要を表示

症例

 患 者:膵石症 680357,52歳 男

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:30歳台にマラリアに罹患した他は特記すべきものなし

 現病歴:20歳台より毎日日本酒5合~1升摂取.10年前に飲酒後腹部鈍痛が出現し,他施設に入院膵疾患と診断されたが,このとき膵石は認められていない.2年後および5年後に同様の腹痛があり,糖尿病といわれている.入院半年前より飲酒あるいは食事摂取後頻回に上腹部痛が出現するようになり,膵石を発見された.2カ月前より腹痛は激烈となり食事摂取はほとんど不可能となる.この間,黄疸,発熱,下痢は認められていない.

  • 文献概要を表示

症例

 患 者:47歳 男 蒔絵師

 主 訴:口渇,多尿および全身倦怠感

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:20歳,左膝関節炎,37歳,右腎石のため腎摘出術を受けた.

 生活歴:日本酒2~3合/日,タバコ10本/日.

 現病歴:5年前より,便秘および下痢を繰り返していた.1970年6月末より,口渇,多尿,全身倦怠感および2週間に約5kgの体重減少を訴え,同年7月12日来院し,糖尿病を指摘され,同年8月11日入院した.

  • 文献概要を表示

症例

 患 者:H.K. 29歳 男性 会社員

 主 訴:心窩部痛および下痢

 家族歴・既往歴:特記すべきものなし

 現病歴:18歳頃より1日5~7合の飲酒歴が11年間にわたってあった.1972年8月20日夕食後,急に心窩部激痛を覚えその後2日間痛みが続き,その上1日に10回以上の下痢をきたすようになったため8月23日に来院した.

  • 文献概要を表示

 日本膵臓病研究会試案1)によって,高度の慢性膵炎に限っては,統一した基準のもとに診断が容易にできるようになった.しかし軽度の慢性膵炎に対する診断基準は確立されておらず,今後の検討課題となっている.それに加えて,治療面では対症療法に終始しがちで,たとえ高度の慢性膵炎においても,手術適応に関しては今なお議論の分かれるところである.本疾患には未解決な問題が数多いことはわれわれが指摘するまでもない.

 われわれは慢性膵炎の診断が確定したのち6年の長きにわたり頑固な腹痛に悩まされ内科への入院を9回繰り返し,この間に4回の開腹手術をうけた36歳男性の症例を経験した.以下その臨床経過の概要とその手術結果について報告する.

  • 文献概要を表示

 並木(司会) 1974年にこの『胃と腸』で,「膵疾患――今日の問題点」ということで一度座談会を持ったことがあります.そのときは,当然,慢性膵炎も話題になったわけですが,それから4年たちました今日,慢性膵炎に対する考え方や診断法に何か進歩のあとがみられたかどうか,たいした進歩はないにしてもどういった変遷がみられたか,またそれによっていかなる問題が新たに起こってきているかなどについていろいろとお話し願いたいと思います.

 とくに,この座談会の表題に掲げてあります「慢性膵炎の診断はこれでよいのか」といった点に重点をおいて,先生方のざっくばらんなお考えを承りたいと思います.司会は,私と中沢先生の2人となっておりますが,私は大まかな問題提起をいたし,中沢先生にはこまかな問題点を引き出していただくという形で進めていきたいと思います.

  • 文献概要を表示

 今日,ERCPの基礎実験や臨床成績に関して日本のみならず欧米においても数多くの業績が発表されている.ERCPの技術面では,ほぼ完成された手技として,expertによる挿管率は90%以上に得られている.しかし,ERCP像の読影に関して2つの大きな問題が残されている.1つはいわゆる“early”chronic pancreatitisの診断であり,他は慢性膵炎と膵癌の鑑別診断である.高度の慢性膵炎のERCP診断は周知の如く比較的容易であり,膵病変の存在を疑いなしに指摘しえるものである.そしてこのような進行期の慢性膵炎に対するERCPの役割は単に確診を得ることではなく,病態の正確な把握と治療に関する適切な情報を知ることであろう.一方,軽症膵炎のERCP診断は病理組織学よりみた膵の慢性炎の発症・進展様式から考慮しても十分期待しえるものである,しかし,分枝膵管の変化は膵が加齢の影響を少なからず受ける臓器であることより,必ずしも慢性炎の初期変化と断定できない.現在,この点を含んで膵管像と組織学的変化の関連が膵臓病研究会の慢性膵炎小委員会を中心に検討されている.

 ERCP像のみの読影診断は慢性膵炎と膵癌の鑑別にしばしば困難を伴う.通常,両者の最も簡単な鑑別方法は膵癌では病変部―狭窄・拡張や閉塞など―までの乳頭側膵管は正常もしくは尾側に比して極く軽度であるが,慢性膵炎では膵全体の膵管像にびまん性の変化をみる点であろう.しかし,この鑑別点は常に完壁でなく,進行した膵癌ではびまん性の膵管変化が観察される.また膵癌は通常慢性炎を随伴し,膵癌膵管像の詳しい組織学的対比によると,膵管のX線変化がしばしば随伴性膵炎によるものであることが知られている.

学会印象記

  • 文献概要を表示

 札幌医科大学和田武雄教授を会長とした日本消化器病学会第64回総会は,ながい歴史をもち,数々の名会長を生んだ本学会にあっても,特筆し,ながく記憶されるにちがいない珠玉の総会であった.会長の総会運営の考え方が正しかったことが見事に証明された.

 印象記を書くことを依頼された筆者としては,この総会の生々しい印象がうすれないうちに,是非この原稿を書きあげておかなければならないと思って,札幌→東京→福岡と経由して,山口県に帰った翌朝ペンを握った.マドリッドへの出張をひかえて,身辺はとくに忙しい.うまく総会の雰囲気がおつたえできるか,平素の強気(?)にもかかわらず,自信がない.

  • 文献概要を表示

 近年の膵疾患の診断技術の向上にはめざましいものがある.最近われわれは,慢性膵炎経過中に仮性膵囊胞と左胃大網動脈が交通し,膵囊胞内へ出血したと考えられる症例を経験し,術後の検索から血管撮影が本症の診断上もっとも有用であることを知ったので文献的考察を加えて報告する.

  • 文献概要を表示

 膵石症は比較的まれな疾患とされており,近年,慢性膵炎に対する関心がたかまり,内視鏡,X線など診断技術の進歩とともに報告例が多くなっている.その病因,臨床像,生成機序および進展過程が解明されつつあるが,まだ不明な点が多い.最近,われわれは,ERCP,PS testで確診したアルコール性慢性膵炎の経過観察中に3年後に膵石症となった1例を経験したので,文献的考察を加え,報告する.

  • 文献概要を表示

 近年膵臓病への関心がたかまり,わが国の慢性膵炎もかなりの頻度で存在することが示されている1).そしてその成因の分析や診断技術の向上と同時に,経過や予後の観察にも興味がもたれ始めた2)

 われわれは手術を拒否され6年余にわたり内科的に経過を追った膵石症例を経験したので報告し,その問題点をとりあげてみた.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 食生活の西欧化に伴って,近年わが国の大腸疾患の頻度が上昇しつつあることは周知の事実である.胃疾患でもそうであったように,大腸疾患においてもX常診断のはたす役割が広くそしてまた大きいことは説明するまでもないであろう.大腸疾患の半数以上,おそらくは2/3近くが癌とポリープによって占められているといってよい.その2/3を占める疾患のX線診断学を扱った名著「大腸の癌・ポリープのX線診断と病理」の英文版がここに出版されたことは喜びにたえない.症例と写真が大幅に追加されているばかりか(468図),内視鏡写真も加えられて内容が一層充実したものになっており,X線写真の印刷も日本語版よりきれいに見える.また,写真とその説明をそれぞれ別にまとめたために各頁がすっきりしてもいる.わが国において大腸疾患への関心が高まりつつあった1974年に,本書の母体となった日本語版が出版され,その見事な注腸造影写真の数々に驚嘆したものである.この事が新しい注腸造影法の普及と向上に及ぼした影響は決して少なくなかったであろう.この頃から大腸二重造影法の一般的レベルは飛躍的に向上してきていると思われる.また,本書に示されているような大腸X線検査の理論に加うるに立派な手本,目標があることは後から続く者達にとって大変ありがたくはげみになるに違いない.英文版の出版によって,欧米諸国に丸山博士の大腸X線診断学の理論と実際とその思想がより広く伝えられる機会が生れたことはまことに喜ばしいと思う.本書は欧米の専門家にも多大の影響を与えずにはおかないだろう.

  • 文献概要を表示

 臨床医学を学ぶ者にとって,診断学の重要性は改めて強調するまでもない.この意味で,良い診断学のテキストに対するニードは,医学生・教師双方の側から大きい.

 理想的な診断学入門書

 阿部正和,荒木淑郎,大澤忠,河合忠,高久史麿教授らの編集になる“New Integrated Medical(NIM)Lectures”シリーズの「臨床診断学診察編」を通読して,本書の構成に理想的な診断学入門書を目ざす編集者らの,並々ならぬ意欲と,周到な配慮をうかがい,またその目標が優れた執筆陣によって見事に達成されていることを感じた.

編集後記 中沢 三郎
  • 文献概要を表示

 慢性膵炎という言葉を口にする時,何ともいえないもどかしさを感ずる方が多いのではないかと思われます.それは,従来の慢性膵炎は完成されたもの,すなわち,病状でいえば比較的高度のものを指しており,内容に格別の問題もなかったのですが,最近のようにより軽度の膵障害を診断,治療しようということになると自他覚症状からも種々の検査成績からも,すっきりした解答が得られず,曖昧さが残り常に奥歯に物のはさまった気分になることによるものといえましょう.そこへもって来て,この頃ではERCPなるものが俄かに台頭して,軽症膵炎に言及したことから,これまで金城湯池を誇っていたP-S testとの間にある種の論争が起こり,各研究者の努力にも拘らず充分解決されず複雑化する様相さえ帯びて来ております.こういう状態をいつまでも続けていては困るのは結局,患者側ではないかと思われるわけですが,かかる時に本誌で特集を企画したのは誠に時宜を得たものであり,竹本先生のIntroductionは正鵠を射た,極めて適切な内容であるといえましょう.本特集号は正に慢性膵炎はこれでよいのかという問いに答え,現状認識と今後の研究への道標として意義深いものであり,皆様方の参考になれば幸であります.

基本情報

05362180.13.7.jpg
胃と腸
13巻7号 (1978年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月12日~11月18日
)