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ERCP像の読影に際して,膵管像の明らかな異常major changesの識別とその病理組織学的背景についての診断はさして困難ではない.慢性膵炎の進展により,膵の正常の小葉構造は実質細胞の萎縮変性による消失と線維性結合織および脂肪織の増生により完全に崩壊する.そして,膵導管は上記の結合織化あるいは脂肪化に巻き込まれ,狭窄,閉塞,消失し,逆に著明に拡張する.これら導管はしばしば蛋白含有量の多い濃縮分泌物を示し,のう胞状に拡張する.このような組織学的変化は膵管像に正確に投影され,主膵管や比較的大きな分枝膵管の狭窄,閉塞,拡張あるいはのう胞形成として認められる.そして,悪性腫瘍との鑑別に困難な点はあっても,膵管像の変化は膵の病変を疑いなしに指摘しうるものである.
一方,分枝の軽度の変化minor calibre variationの診断的意義については相反する見解がある.ひとつはこれを単に加齢に伴う生理的バリエーションとする意見であり,他は慢性膵炎の初期変化とみなし診断的意義を認める考えである.膵実質細胞は老化に際してその数を減じ脂肪織により置換され,軽度の結合線維の増生を小葉間腔や導管周囲に認める.膵管では上皮細胞の化生,過形成は若年者に比し有意に増加し,これらは膵液の粘稠度をたかめ,分泌液の停滞を生じ膵管および間質の結合織化を促す.血管壁の硬化もまた,膵血流量を減じ前述の変化に拍車をかけるものと老えられる.上述の加齢に伴う膵導管および実質変化は膵管像にも投影されることが予測される.一般に,推計学的な有意差は別にして,主膵管径は加齢により増加の傾向にあり,分枝像もまた狭窄,閉塞,拡張などのcalibre variationを示すことが報告されている.事実,筆者らの検討でも,正常剖検膵において分枝のminor calibre variationは60歳以下では24%にしか観察されなかったにもかかわらず,60歳以上では64%に認められている.もちろん,X線所見は比較的正確に導管の組織学的変化を反映し,狭窄および拡張像は結合織化による膵導管の狭窄や拡張を示し,小のう胞像は濃縮分泌物を含有するのう胞形成をあらわした.しかし,これらは慢性炎の所見を欠き,また線維症と診断されるにたるアクティブな結合組織の増生を示さなかった.
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