胃と腸 11巻8号 (1976年8月)

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 わが国の大腸X線検査は西沢・狩谷・吉川らの研究によって著しく進歩した.この検査法(以下,本法と略す)の進歩により,微細病変の診断が可能になった.fine network patternの描写と微小ニッシェの描写が可能になったために,大腸の潰瘍性病変の診断は大きく向上した.

 軽症の潰瘍性大腸炎も容易に発見され,従来の方法では難しかった本症の臨床経過も詳細に観察できるようになった.この方法によって描写されるX線像は,従来の教科書でみる本症のものとは随分かけはなれたものであり,彼らはこの微細X線像について著書“大腸のX線診断”に詳しく解説している.われわれも本法を用いて潰瘍性大腸炎の経過を丹念に追跡している.特に再発初期(増悪期)と軽症でinitial attackと思われるもののX線像をとらえるように努めている.

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 潰瘍性大腸炎(以下uc)のは粘膜に主変化のあるびまん性の非特異性大腸炎であり,欧米人に多い疾患といわれてきたが,近年日本でもその増加が注目されている.

 1875年にWilksが最初の記載をなしてから1世紀経過したが,謎にみちた疾患であることに変わりがない.炎症がなぜ粘膜に限局するのか,なぜ直腸からびまん性に拡がるかなどという基本的な事項すらほとんどわからないといってよい状態である.しかし本態はわからなくとも診断,治療の方面は大いに進歩し,大部分の例で完治は望めないまでも,少なくともcontrol可能な疾患になったということはできる,本論文では内視鏡的に経過が追えた例(Table 2)における内視鏡像の推移と,手術を施行した高度の炎症像をしめす例における本症の肉眼像の特徴について検討を加えた.

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 今日の医学がある病気をどこまで治療できるかということは,われわれの研究がその病気の病因と発生病理をどのくらい解明しているかにあるといっても過言ではない.潰瘍性大腸炎が例外であるはずがなく,今日なお病因はもちろんのこと,発生病理も一部を除いてほとんどわかっていないだけに,治療も難しく厳密な意味での治癒は期待できない現状である.したがって,現段階の内科的治療では無症状となる緩解を目標とするが,病態が十分にコントロールされた状態では患者の社会復帰も可能であり,重大な合併症のない限り治療は内科的に行なうのが原則である.治療方針は以下の3点に基づいており,治療に際してこれらは忘れられない.すなわち,

 1)本症は大腸の慢性炎症であり,大腸が過敏な状態にある.

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 潰瘍性大腸炎患者は近年本邦においても増加の傾向にあり,厚生省特定疾患調査研究班の調査によると1974年までに約2,000例が集計されている.一般に本症は保存的治療では完全治癒が得られず,難治な疾患と考えられているとおり,1974年度以前に発症した1,442例の1974年度における転帰をみると,緩解の得られたものは30.6%にすぎない.20.3%が手術治療を受け,43.1%は治療を継続している.死亡例は86例6%で,このうち術後死亡が47例,手術を受けずに死亡したものが22例,計69例と,死亡例の8割近くが手術に関係した原因で死亡している1)(Fig. 1).

 この事実から,今後より効果的な内科的治療法を開発することはもちろんであるが,外科側として現段階では,どのような症例を手術適応とすべきかの正しい診断と手術時期の適切な判断が治療成績向上につながる当面の課題であろう.

潰瘍性大腸炎の病理 谷口 春生
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 いわゆる潰瘍性大腸炎の病理学的位置づけに関しては,非特異性潰瘍性大腸炎(idiopathic ulcerative colitis)という名の示すように,原因や病態成立の機序に関する体系的な解明のないままに今日に至っており,したがって,病理学的にも原因不明の大腸粘膜の慢性ビマン性炎症ならびに浅い潰瘍形成を組織表現とする1つのsyndromeとして理解せざるを得ない.

 1969年,本誌第4巻12号において潰瘍性大腸炎の特集が組まれ,その病理については,若狭ら1)の詳細な論文をみるが,今回その後の進歩として本篇を記すにあたり,病理形態学に限るならば,潰瘍性大腸炎の概念に新たに加筆するべき問題はさして見当たらない.しかしながら,近時診断学の進歩とともに,本症をはじめCrohn病,大腸結核症など,古くから扱われている大腸疾患例を臨床病理学的に診断する機会がきわめて多くなり,それにつれてこれら疾患の定型的な症例は別として,診断の上で鑑別に非常に困惑を感ずる場合がある.数年来,近畿一円の同好の士が集まり,大阪大腸疾患研究会が持たれているが,その際著者も病理診断ならびにその解説の立場で,ときに整理に躊躇を感じる症例を経験する.今回,これらの症例をもとに,潰瘍性大腸炎とその類縁疾患につき,問題点を提起したい.

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 かつて稀であるとされていた潰瘍性大腸炎(CUと略)が,ある時期から急に増加したことが真実であれば,その原因を追究することが病気の成立にかかわる因子を解明する手掛りとなる.それには適正な疫学的解析が重要である.集計を開始してわずか3年で時期尚早ではあるが,許される範囲内で試みた解析結果をならべて私見を述べてみる.

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 司会(白壁) ここ数年間,ulcerative colitis潰瘍性大腸炎―idiopathic proctocolitisの治療に著しい進歩はない,しかし,治療の重点の置き方が固まってきたので,以前よりも患者さんは恩恵は受けている.

 今日はその治療の重点の置き方を中心にお話をうかがうということです.型のように食事療法を行なう,出血とか貧血に対しては対処する,輸液,それに電解質は十分に補充する,emotional factorも考慮する,下痢止めを与える,抗生物質,ステロイド,免疫抑制剤を与える,などなどがあります.試みられたというような治療を加えますと,大腸を酸素にさらす,熱する,冷やす,ミネラル・ウォーターを注入する,線維素溶解物質を入れるなどがあったようです.

 まじめな治療として,発症の早期に,血管造影のときにステロイドを動脈注射するとか,直腸,S字状結腸領域のものにはステロイド坐薬を与えるというような工夫も行なわれています.

 最近,潰瘍性大腸炎をidiopathic proctocolitisという名前に総括されてきております.この点,白鳥先生.

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 胃ポリープとして一括される良性上皮性腫瘍には組織型の異なる種々の病変が混在しており,そのなかにはたとえば癌化の可能性において差がある1)~6)など,biologic behaviorを異にするものが含まれている.しかし,いわゆる胃ポリープに対するX線,内視鏡による従来の臨床診断は良・悪性の鑑別を主目的にしており,その組織所見までたち至った質的診断はほとんど考慮されていないというのが現状であろう.

 1972年,われわれの開発した生体染色法により,胃ポリープのあるⅠ群と隆起性異型上皮がメチレンブルーに染色されることを内視鏡的に観察し,報告した7).この現象は染色という一種の機能面からみたとき良性上皮性腫瘍に異なる2群が存在していることを意味している.今回この染色性の差を組織学的並びに組織化学的に解明し,内視鏡による上皮性良性隆起性病変の質的診断に資すべく本研究を試みた.

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 放線菌症(Actinomycosis)は1)2),慢性の化膿性または肉芽腫性疾患で,多発性膿瘍形成,肉芽組織,線維性瘢痕,特有のsulfur granule(Druse)などを特徴としている.発生する部位により,①顔頸部,②胸部,③腹部放線菌症などにわけられる.これらの発生頻度は,1)60%,2)20%,3)20%といわれ,Cope(1938)2)も1)56.8%,2)15%,3)22.3%,4)その他5.9%と顔頸部にはじまるものがもっとも多い.美甘(1957)3)は1)67%,2)8.9%,3)18.6%,4)その他5.3%と同様の報告をしているが近年,Brown(1973)4)は,181例の放線菌症中,頭頸部63,胸部59,腹部51,その他8の統計を述べている.腹腔内臓器侵襲の放線菌症は非常にまれでWilson(1962)5)は,40年間に16例を経験したにすぎないと報告している.

 腹部放線菌症は一般には,急性虫垂炎や消化性潰瘍,腸憩室穿孔や外傷のあと数週ないし数カ月の経過で著明となることが多く,腹腔内膿瘍形成を認める.1945年Putman6)は,35年間に122例の腹腔内および消化管原発の放線菌症を検討し,103例が消化管の急性化膿性または穿孔性病巣のため外科処置を受け,88例は発病時穿孔性急性虫垂炎の症状を呈し,既往歴に急性症状の欠如するものは7例であったと述べている.ごくまれに内臓放線菌症がおこり,中でも胃原発の放線菌症は少なく,世界の報告例もごくわずかである.1929年Nathan7)は文献的に胃の原発性放線菌症として6例のみがあげられるとして,1)Israel(1889),2)Prutz(1899),3)Grill(年不明),4)Brunner(1907),5)Pohl(1912),6)Hadjipetros(1920)をかかげているが,Blain(1933)8)は6例中Hadjipetrosの例のみが諸検査において完全な胃原発性であると述べている.

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 症例は66歳の女性で,病変は幽門部にあったにもかかわらず一部が十二指腸球部へ逸脱していたために診断に問題点があり,切除標本所見を併せ考えてもいささか興味があると考えられたので報告する.

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 胃結核はきわめて稀な疾患であり,その他の胃疾患との鑑別が困難であるため,術前に確定診断を下し得た症例の本邦報告例は3例4)を数えるに過ぎない.われわれは胃生検により術前に診断しえた,しかも特異な形態を示した胃結核の1例を経験したので報告する.

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 大腸に発生する腫瘍性ポリープ(neoplastic polyp)の1つの型であるVillous adenomaはAdenomatous polyp(本稿ではTubular adenomaと同意的に用いる)と本質的には同一のものとも考えられるが,肉眼的および組織形態学的特徴や癌化率の高いこと,さらに臨床的に脱水症状や電解質異常等をともなうことがあること等の臨床病理学的特徴より,一般にadenomatous polypと区別して考えられている.大腸のVillous adenomaは大腸癌の多い欧米ではしばしばみられ,多数例のまとまった報告がみられるが,欧米に比して大腸癌の少ない本邦ではこの型のAdenomaはきわめて少なく,報告例もほとんどない.われわれは典型的なVillous adenomaとその癌化したと考えられる例を経験したので報告し,若干の文献的考察を加える.

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 家族性大腸ポリポージスは古くから遺伝的素因(常染色体優性遺伝)により大腸にびまん性に無数の腺腫性ポリープを発生し,しかもきわめて高い癌化率を有することで知られている.一方大腸腺腫性ポリポージスに他部位の腫瘍を合併する例の報告がなされ,これらが家族性大腸ポリポージスから独立した1つの疾患か否か注目されている.大腸腺腫性ポリポージスに中枢神経系腫瘍を合併するものは,1959年Turcotらにより報告されたのが最初であり14),以後,Turcot症候群と呼ばれている.われわれは,大腸腺腫性ポリポージスに大脳膠芽腫および回腸細網肉腫を合併した例を経験し,剖検によって確かめえたので,これを報告するとともに,文献的考察を加えてみたい.

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欧文目次

書評「標準外科学」 村上 忠重
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 たとえ,国家試験を受けるまでの学生達のための教科書とは言え,外科総論と各論を500余頁の中にひとまとめにしたうえ,脳神経外科,小児外科,老人外科まで,あまねく包含し,さらに,一般外科の中にも疫学や臓器移植など,きわめて最新の分野まで盛りこんだ手際は全く見事である.しかも,それぞれの分野の知識がすべて安心して信用出来,憶え込んで損がない.どうしてこんな離れ技が出来たかを考えてみると,新進気鋭の15人の侍大将達が自信をもって分担されたからという一語に尽きる.29年卒クラスに優秀な人物が揃っていることは承知していたが,外科学に限っても,あらゆる分野の専門家が揃っていて,お互がカバーしあっていることが如実に証明されたことになる.卒業後20数年,一番油ののりきったその15人が一つの目的に結集したところが何とも言えずよい.

 これまでの教科書の多くは,一つの教室ないしは学派の中で分担され,中には専門でない人も一部執筆を受け持たされるという憾みがあった.ところが,学派を超越して書かれたこの教科書にはそれがない.全部が専門家の筆になる.したがって無駄がなく,しかも最初の行からコンパクトな知識が記述されている.どうしてどうして,国家試験を受けるまでの学生のbedsideどころか,実際の専門家にも役立つ知識が一杯ある.

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 肝生検は従来,非協力的な患者,腹水,うっ血性心不全,慢性の肝うっ血,肝腫瘍,アミロイドーシス,胆管炎,肝外性胆道閉塞等の患者では禁忌と考えられてきた.その理由は,これらの場合,不幸な合併症が時にあったからだが,最近は1,000に及ぶ連続生検のシリーズでも合併症を認めていない,そこで著者は,肝悪性腫瘍の発見は,肝生検の主なる適応の1つで,もっとも重要な役割であることを強調している.ほとんどの合併症の報告は,Vim-Silverman針の時代におこったもので,Menghiniテクニックになってから死亡率は10分の1に減っている.この方法では,もはや肝悪性腫瘍は禁忌と考えられていない.他の方法で確診がつかない腫瘍塊があったり,肝スキャンで欠損のある場合,その組織学的証明が極めて重要ならばやらざるをえまい.著者の経験では,急性ウイルス性肝炎はいやな対象である.3,000例の肝生検中2例の死亡を経験しているが,いずれも急性肝炎で生検後大出血がおこった.いずれもVim-Silverman針の頃の出来事である.凝固系の異常や血管腫のある場合危険率が高いのは当然だが,腹水患者,ヘモクロマトージス,アミロイドーシス,うっ血肝などの場合,あまり危険と思われない.非協力的な患者でも,Menghini法では,針が肝内に約0.1秒あればよいので禁忌とはいえない.著者らは,30人の肝外閉塞の患者で生検をやったが死亡例はなく,合併症としては胆汁性腹膜炎と細菌血症を各1人に認めた.しかし,すべての肝外閉塞例にやれというのではない.確診が必要なときにのみ行なうべきだ.問題の核心を外科医に示す方法として,PTCまたはERCP等の確定診断法を先行すべきだろう.Roschらは最近,経頸静脈肝生検法が,肝外閉塞患者で安全に行なわれることを示した,この方法は,長い屈曲性の生検針をカテーテルに入れ,内頸静脈,上大静脈,右心房,下大静脈経由で肝静脈に入れ,静脈壁をつきぬいて吸引生検を行なう.出血しても血流に入るし,胆汁性腹膜炎をさけることができる,ユニークな方法である.以上の如く,肝生検は貴重な方法であり,その欠点を十分知った上で,長所を十分に利用すべきである.得られるインフォメーションと合併症等の危険とをバランスにかけて適応が決る.閉塞性黄疸で行なうときは外科医と共に手術室でやるのがよい.

編集後記 白壁 彦夫
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 潰瘍性大腸炎の古典とともにあった長老には混迷がある.X線と内視鏡の診断の進歩に,安易な妥協の風も感じられる.

 X線と内視鏡は,どちらがよいか,の議論も,どうせ胃のときと同じだろう.適応もなにもあったものではない.何でもかんでも,というのが神風的日本式な独特の手法というものである.しばらくは,内視鏡学会のためにも討議は続くだろう.

基本情報

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胃と腸
11巻8号 (1976年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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