巻頭言
医学用語の定義について
佐川 弥之助
1
1京都大学結核胸部疾患研究所臨床肺生理学部門
pp.95
発行日 1972年2月15日
Published Date 1972/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202348
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医学が自然科学の一分野であるかぎり,医学研究はある仮説とその実証とのくりかえしで進歩していくものであることは当然である。
この場合,厳密に定義された一つの概念が前提となる。この定義づけが精密であればある程,えられる結果が正確になることもまた当然である。ところが,医学が生物ことに人間を対象としているため,この定義づけは極めて難かしい。そのため,例えば,われわれが,日常使っている肺機能障害,肺機能不全,肺不全というような概念も,何を根拠にして定義づけているのか,また,これについて話し合っているもの同志が同じ定義で話し合っているのか,疑問に思うことが多い。ことに,肺機能不全を「動脉血ガスに異常をみられる場合」とし,肺不全を「肺機能不全に呼吸困難が加わった場合」としている人と,肺機能不全を「ガス交換を維持するのに必要な換気に息切れや慢性の咳が加わったもの」とし,呼吸不全を「動脉血酸素分圧50mmHg以下,動脉血炭酸ガス分圧50mmHg以上」としている人が,お互に相手の定義を知らずに討議した場合,医学の進歩に必要な客観性は全く無視されていることになる。
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