臨床婦人科産科 72巻10号 (2018年10月)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

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●妊娠は唯一,生理的なインスリン抵抗性の発現を惹起する現象であり,母体におけるその発現は胎児発育と母体のエネルギー蓄積を保障するため合目的的な変化である.

●妊娠による生理的インスリン抵抗性は非妊時の1.5〜2倍に達し,その発現には胎盤性の種々のホルモンやアディポカインが関与している.

●インスリン抵抗性の過剰な発現は,妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群,巨大児などの周産期合併症の発症に関与し,特に肥満妊婦では相乗的に作用する.

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●妊娠中に取り扱う糖代謝異常には,①妊娠糖尿病,②妊娠中の明らかな糖尿病,③糖尿病合併妊娠の3つがあり,新診断基準(2015)を用いて診断する.

●妊娠糖尿病スクリーニングは,全妊婦を対象に妊娠初期と妊娠中期(24〜28週)の2回実施する.中期のスクリーニングは初期検査が正常であった妊婦を対象に行う.

●新診断基準採用により,約10%の妊婦に何らかの糖代謝異常が発見され,母児の将来の健康状態に影響するため,妊娠前から妊娠中,産後を通じての管理が重要である.

スクリーニングの基礎

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●妊娠初期・中期の随時血糖法または50gGCTによるスクリーニングが基本となるが,その他にも臨床的な所見から耐糖能異常の有無に十分注意する.

●特に妊娠後期ではスクリーニングの方法が臨床所見中心になっていくため,超音波所見などで疑うものについては診断検査を勧めるのがよい.

●スクリーニング陽性での診断検査は75gOGTTによるが,妊娠初期で診断基準に達しない例でも妊娠中期以降の発症がありうるため,再度のOGTTを躊躇しない.

管理の基礎

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●妊娠糖尿病に対する食事療法は推奨されるが,その具体的内容に関する根拠に乏しいのが現状である.

●胎児の適切な発育を考慮に入れ,血糖コントロールを図る必要がある.

●胎児の過剰発育予防の視点から,母体の肥満は特にハイリスク群として管理する必要がある.

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●日本人では双胎妊娠はGDMのリスクにならないようである.

●海外では双胎妊娠がGDMのリスクになるか否かは報告が分かれている.

●品胎以上の妊娠は単胎・双胎妊娠に比べGDMの頻度が上昇する.

血糖管理・薬物治療の進歩

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●持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring : CGM)は,皮下組織に留置したセンサーにより皮下組織間質液中のグルコース濃度をほぼ連続的に測定でき,詳細な血糖変動傾向や,夜間の低血糖などを評価できる.

●CGMには測定終了後にデータをダウンロードしてその結果を確認できるレトロスペクティブCGMと直近の測定値を患者自身が確認できるリアルタイムCGMがある.

●1型糖尿病合併妊娠に対しては,従来のSMBGにCGMを併用することにより血糖コントロールや周産期合併症の改善が期待される.

●1型糖尿病以外の糖代謝異常合併妊娠に対し,従来のSMBGにCGMを併用することにより血糖コントロールや周産期合併症が改善するかについては結論が出ていない.

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●SAPは,血糖コントロールの改善と低血糖の低減に貢献すると期待され,厳格な血糖管理が必要な妊娠中の使用にも有用と思われる.

●SMBGの血糖値とSAPのセンサグルコース値との乖離に注意し,較正は血糖変動が安定しているときに実施し,高血糖・低血糖時はSMBGで確認するよう指導しておく.

●欧米でのSAPの妊婦への使用報告,SAPの長所・短所および使用のコツと注意点を十分に理解したうえで活用する.

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●本邦では,妊娠中の経口血糖降下薬使用の安全性は確立していないとしている.

●本邦では,妊娠前に経口血糖降下薬からインスリン療法に切り替えることが治療の原則とされる.

●海外では,メトホルミンやグリベンクラミドを妊娠中に使用することもある.

産科救急としての糖代謝異常

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●劇症1型糖尿病は,高血糖症状の出現から糖尿病の診断まで,数日単位というきわめて短期間に症状が進行するため,診断が遅れると命にかかわる糖尿病の最重症型である.

●ケトアシドーシスを伴って発症し,初診時の随時血糖値が高値であるのに比し,HbA1c値は比較的低値を示し,発症時にすでにインスリン分泌が枯渇しているのが特徴である.

●妊娠に伴って発症する劇症1型糖尿病の多くは妊娠後期に発症する.妊娠中に発症した症例では,子宮内胎児死亡例が多くきわめて予後不良である.

出生児の予後と管理

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●糖代謝異常合併母体児には多くの合併症を高頻度に認め,全例で何らかの医学的監視が必要であることを知っておく.

●最も頻度が高いのは出生後の低血糖なので,全例で血糖値をモニタリングし,早期に介入を実施する.

●重度の低血糖が継続した場合には,脳障害に繋がるが,早期介入により回避可能である.

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●母体の妊娠糖尿病,糖尿病,肥満は,児の小児・思春期以降の肥満,糖尿病の発症に密接に関連している.

●小児科医や小児保健担当者へこの概念を啓発し,妊娠糖尿病および糖尿病母体の児が肥満にならないように乳幼児期からの生活習慣指導が重要である.

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●妊娠は女性にとって生理的な生涯の健康の負荷試験といわれ,糖尿病の素因をもつ女性は妊娠時に一時的に糖代謝異常が顕在化し,妊娠糖尿病を合併する.

●妊娠糖尿病と診断された女性は,産後に耐糖能は正常化しても,のちに高頻度に糖尿病やメタボリック症候群を発症し,さらに心血管疾患発症リスクも上昇する.

連載 FOCUS

父親の加齢と胎児異常 西山 深雪
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はじめに

 近年,妊娠・出産する女性の年齢上昇に伴って,パートナーとなる男性の年齢も高まっている.胎児異常のなかには,「父親の加齢(advanced paternal age : APA)」によって発症リスクが高まる疾患がある.本稿では,APAとの関連が知られている胎児異常について,出生前遺伝学的検査の選択肢とともに概説する.

連載 Estrogen Series・175

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 アトランタに本拠を置くアメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention : CDC)の統計によれば,米国の自殺率は1999から2016に至る期間に,全米を通して,25%増加した.また,2016年には殺人件数の2倍以上の割合で自殺件数が増加した.最近でも著名なファションデザイナーがキャリアのピークで自殺をはかり新聞紙上を賑わした.彼女の夫によれば,このデザイナーは数年以来うつと不安とに悩まされていた.

 年齢10歳以上の人を対象にすると,2016年には45,000人が自殺している.自殺率はデラウェア州の6%からノースダコタ州の57%に至るまで,さまざまである.さまざまな自殺防止策にもかかわらず,自殺率の減少を示す州はわずかに1州のみである.自殺率の増加に寄与するものは,社会的な孤立化,精神疾患の治療機会の不足,薬剤や麻薬の乱用,アルコールの乱用,銃所有,居住場所の喪失,などである.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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症例

▶患者

 75歳.3妊3産.身長150cm,体重51.5 kg.

▶主訴

 不正性器出血.

▶既往歴

 35歳頃 : 避妊手術(詳細は不明),そのほかには特記すべきことなし.

連載 Obstetric News

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引用 : 米国産婦人科学会PROLOG,Gynecology and Surgery,第7版,#122,2014

 配合型経口避妊薬(oral contraceptives : OCs)は1包装にホルモン含有錠剤(実薬)のみ21錠が包装されている製剤もあるが,一般的には1包装に実薬とホルモン非含有錠剤(偽薬)が包装されている.しかし,血清ステロイド・レベル減少の結果として偽薬使用期間中に起きる消退出血の必要性に対する医学的理由はない.

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▶要約

 脊髄損傷合併妊娠では切迫早産や尿路感染症などに注意を要するが,脊髄損傷部以下の刺激で生じた脊髄交感神経反射が,上位中枢の抑制を受けずさまざまな自律神経症状を呈する自律神経過反射(autonomic hyperreflexia : AH)の予防が特に重要である.今回,脊髄損傷合併妊娠の周産期管理を経験した.症例は30歳,1妊0産,19歳のとき第10胸髄を損傷した.自然妊娠成立し,当院で初期より妊婦健診を施行した.大きな合併症なく経過し,妊娠38週0日に硬膜外麻酔下での分娩誘発を開始した.頸管の熟化を図ったのち,妊娠38週6日にオキシトシンの点滴を開始した.分娩進行中に発作的な血圧上昇はみられたものの,重篤な合併症はなく経腟分娩に至った.AHは子宮収縮などの内臓神経の過剰刺激があれば妊娠のどの時期でも起こるが,分娩時が最も出現しやすく重症となる.急激な血圧上昇で脳出血が生じるなどさまざまなリスクがあり,硬膜外麻酔によってAHを管理することが肝要である.

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基本情報

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臨床婦人科産科
72巻10号 (2018年10月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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