臨床婦人科産科 41巻2号 (1987年2月)

境界領域の再評価とその展開 特集

乳房と乳腺

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 消化性潰瘍の治療を受けたり,向精神薬を投与された婦人において,しばしば乳汁漏出が認められ,同時に月経異常を伴うことが多いので,患者は驚いて産婦人科を受診する1)。これは服用した薬剤が副次的に視床下部—下垂体系に作用してprolactin (PRL)の分泌を促進するためで,殆んどの例は薬剤を中止すると症状が軽快する。本稿においては薬剤の服用による乳汁漏出症の,原因薬剤とその作用部位,診断および治療法について概説する。

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 最近は母乳栄養が見直され,その有用性があらためて取り上げられてきている。このような意味からも,乳房の管理は極めて大切なことである。このことはまた,母乳栄養の確立,維持という面ばかりでなく,母親となる自覚を育み,母性愛に目覚めさせるという点からも大きな意味がある。乳房のもっとも大切な管理は,妊娠,分娩,あるいは産褥期にあるとしても,乳房が発達しはじめる思春期から関心をもたせるようにすることが大切であり,性教育の一部としての意義も大きいと思われる。

 ところで,乳房の手入れについては,これまでにいろいろな方法が発表されてきたが,いまだ,教科書的に確立したものはないというのが現実であろう。産褥期における乳房マッサージについてはよく研究され,報告もされてきているが,ここでは,哺乳障害の原因ともなる陥没乳頭や扁平乳頭の取り扱い法などについて述べてみたい。

乳汁分泌と母子の絆 竹内 徹
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 近年,母乳に対して栄養的研究のみならず,生化学,感染防御因子,アレルギー,免疫学的意義について詳細な研究が行われるようになり,母乳に関する関心が急速に高まってきた。それと同時に,一種の自然への復帰運動として一般の関心が高まり,母乳がまさに自然からの最高の贈り物として受け入れられるようになった。そのため古くから問題にされてきた授乳方法とその子の心理学的・行動学的発達との関係が,再び強調されるようになってきた。本稿は母乳哺育(乳汁分泌)と母子の絆,または母子関係・母子相互作用とをめぐる問題点について述べるものである。

乳腺炎の治療 本郷 基弘
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 乳腺炎,とくに急性乳腺炎の多くは産褥乳腺炎であり,元来は外科領域で取り扱われることの多い乳房疾患の中にあって,産婦人科医がprimary careに当たることの多い境界領域の疾患である。

 時代の変遷とともに,その発生頻度や予後に変動はあるものの,今日なお日常の産科臨床において頻繁に遭遇するため,常に新しい認識をもつことの意義は大きい。産褥,授乳期の急性乳腺炎に限定して,その予防と治療を中心に本症の概説を試みたい。

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 乳房に腫瘤を認める疾患は数多いが,最も大切で,見逃がしを避けたいものが乳癌である。現に乳癌患者の95%は,腫瘤の存在に自分で気付き,これが乳癌発見の動機となっている。診察は患者の言葉に素直に耳を傾けて進めたい。誤った安心感を与えたり,翌年まで保証してはならない。年一度の検診だけでは不十分なことを理解させ,乳房自己検査を毎月励行することを約束させて診察を終えたい。

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 乳房の画像診断としては,マンモグラフィーと超音波検査が一般に行われている。本稿では乳腺の代表的疾患である(1)乳腺症,(2)嚢胞,(3)線維腺腫,(4)乳癌をとり上げ,これらの病変がマンモグラフィー及び超音波検査でどのような像として描出されるかについて具体的な例を上げながら概説する。

乳腺症の治療 冨永 健
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 乳腺症と呼ばれる疾患は,病理学的には実に多彩な病変を包含しており,単一なものではない。歴史的には,乳房に境界不鮮明でしばしば疼痛を伴うしこり(腫瘤)としてMastopathieの名で統括されてきた。その呼び名も欧米ではmastopathia cystica chronica, mastopthia,cystic disease, fibrocystic disease, mammary dysplasia,fibrocystic mastopathia, chronic cystic mastitisなど実に多い。原因としては,性ホルモンの失調による乳腺組織の増殖,退縮,化生などが混在して臨床症状を呈するものと考えられている。したがってその治療はそれぞれの病態に応じてまったく異なっており,乳腺症であっても,まずどのような系統に属するものかを的確に診断した上で治療方針が決められるべきである。図は,乳腺症と,それと鑑別上極めて重要である癌と線維腺腫の年齢別発生頻度を示したものである。線維腺腫は20歳台を中心として比較的若年者に多いが,乳腺症は30〜40歳台に多く,乳癌の好発年齢に近い。しかし,50歳以後はあまりみられず,この点からもホルモン環境との関連性がうかがわれる。

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61年10月発表の厚生省健康マップで周知された如く,従来諸氏により予測されて来た日本女性における乳癌罹患率の上昇は,医療従事者のみにとどまらず,日本女性の癌に対する重大な関心事となって来た。国立ガンセンター平山等による乳癌の人口10万対訂正死亡率に予測された同数値の逆転,すなわち子宮癌での死亡率が乳癌のそれとクロスして下まわる時期は1980年代中頃とされていたものが適中し,確実に,間違いなく乳癌の脅威は増大し,その対策に関心が高まって来た。(図)

 乳癌の疫学としては主に初産年齢の高齢化,特に35歳以上の初産婦では20歳未満初産の3,6倍値を示している。また出生児数の少ない人ほど乳癌の危険は多くなる。

乳癌治療の進歩 泉雄 勝 , 黒住 昌史
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 乳癌の基礎および臨床的研究の数多くの成果によって,近年,乳癌の治療法は著しく進歩してきた。現在,乳癌の治療法としては,局所療法である手術療法や放射線療法,全身療法である化学療法,免疫療法あるいは内分泌療法が用いられているが,早期の症例では手術療法のみが行われ,やや進行した症例では手術に加えて補助療法としての照射や化学療法が行われている。一方,進行・再発乳癌に対しては,最近では,これらの種々の方法を複合した,いわゆる集学的治療が行われるようになってきた。本稿では,原発症例と進行・再発症例とに分けて,これら各種治療法の進歩について述べることとする。

乳房の形成手術 坂東 正士
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 乳房は女性であることの象徴のひとつであり,胸部両側にバランスよく存在することは肉体的のみならず精神的に意義が大きい。しかしまた乳腺は奇形・炎症による変形や良性・悪性の腫瘍切除による変形が起こりやすい器官でもある。

 筆者は約12年前から乳房の変形症例に対して形成手術(再建手術)を行っているが,最近のこの分野における技術の革新はめざましく,成績も向上し,ようやくどのような変形に対しても対処しうる状態になり,患者さんにかなりの程度満足してもらえるようになったと考えている。ここに変形とそれに対する再建手術の一般を紹介し,併せて乳癌手術後の乳房再建について述べる。

グラフ 産婦人科とCT・2

CTとNMR 岡田 吉隆 , 板井 悠二
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 NMR (nuclear magnetic resonance)とは,静磁場のもとにおかれた原子核のスピンが特定の電磁波により共鳴を起こす現象である。医学領域でこれを応用した画像診断法はMRIと呼ばれ,ここ数年で急速な進歩と普及を見せている。通常のX線CTと比較したMRIの利点は,①矢状断や冠状断など任意の断層面の画像が得られる,②軟部臓器間のコントラストが良好,③X線被曝の問題がない,などが挙げられ,婦人科領域の診断法として有用な性質を有している。

 図1に卵巣類皮嚢腫の例(25歳)を示す。CT (a)で子宮・膀胱の前方に辺縁整な球形の腫瘤が見られ,内部に脂肪の成分が認められる。MRI横断像(b)および矢状断像(c)で同様の腫瘤が明瞭に認められる。矢状断により後方の子宮との関係がよく把握できる。腫瘤内部の高信号強度は脂肪の存在を示唆する。本例では他の断層面にて歯牙成分を含むところがあり,これはCTで明瞭に描出されたがMRIでは描出困難であった。なお図1cで,子宮内膜と子宮筋層が明瞭に分離されている点にも注目されたい。

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 タバコを吸う喫煙の習慣は今日では全世界に及んでいるが,中でも最近20年ぐらいの間にわが国でも婦人の喫煙者がふえて来ており,肺がんの発生との因果関係だけでなく,胎児や幼小児の発育の上でも問題があるとされ,大きな社会問題となって来ている。

 estrogen依存性の癌として知られている子宮内膜がんは,非喫煙者よりも喫煙者にむしろ少ないことがLeskoら1)に指摘されて来ている。また,妊娠中では喫煙者の方が非喫煙者よりもestrogenレベルが低いことが報告されている2)。さらに喫煙者には閉経が早く来るとか3),更年期以後の骨粗しょう症に罹患する危険が高率である4)なども明らかにされている。

臨床メモ

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 子宮筋腫に対する現在迄の治療法は専ら外科的方法,即ち筋腫核出術や子宮全剔出術にかぎられていた。最近,薬物を用いて子宮筋腫の治療を試み,好成績が得られたという報告がいくつか発表されているのでご紹介したい。

 Filicoriら1)は,Luteinizing hor—mone-releasing hormoneアナログ(LH・RHアナログ)であるD—Trp6—Pro9—NEt-LHRHを25歳の子宮筋腫の患者に15週間に亘って連日皮下注射した。治療前には月経過多とそれに基づく貧血が著明であったが,注射をはじめて8週後には月経は消失し,貧血は徐々に改善した。また,治療開始前には,子宮の後壁に7×7×6cmの大きさの子宮筋腫が存在したが,治療開始後12週目には4×4×4cm大に縮小したと報告している。

講座 実地医家のための不妊症治療講座・2

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 器質的に卵管通過障害を示す卵管不妊の治療については,通気・通水等の非観血的療法もあるが,それには当然限界があり,手術的療法が主体となる。

 手術療法(卵管形成術)も適応の選択が重要で,保存手術不可能な重篤な卵管障害例には,IVF-ET (In vitroFertilization-Embryo Transfer体外受精—胚移植)が近時臨床応用されてきている。

図解 初心者のための手術理論 機能温存手術

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 婦人科腫瘍の手術の際に,卵巣を温存すべきか,摘出すべきかとの選択を迫られる症例によく遭遇する。特に生殖年齢にあり,挙児を希望する婦人の卵巣腫瘍の手術を行う場合には,妊孕性の保存と根治性のどちらを優先させるかが問題となる。本稿では卵巣腫瘍や子宮頸癌を手術する際に,卵巣を温存するための条件を明らかにし,かつそれぞれの際の手術手技の実際を解説する。

思い出の写真

臨床細胞学の巨匠たち 増淵 一正
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 私は74歳になった。私が癌研病院の婦人科部長に就任したのが1949年で,その後37年を経ており,現在で人生の正に半分に相当する期間を癌研で過したことになり,想いを廻らすと感慨深い。私が癌研に赴任した当時,家内に一生に一度は欧米へいって勉強したい,と言ったものだ。現在は猫も杓子も海外旅行をするが,その当時は想いも及ばなかった。ところが,思いがけず,米国大使館から米国へ招聘するとの申出があった。そして遂に1956年2月11日訪米することになった。私は文献その他から訪問したい学者のリストを作って米国国務省に提出した。私のその後に及ぼした大きな転機は米国国務省からの招きによってかねてから夢みていた尊敬する学者に会えたことである。米国に4か月,ついで欧州に2か月ほどの滞在で実に多くの先生にお会いして教えていただいた。それらの先生すべてに強烈な思い出がある。

 私の欧米旅行で特に感じたことは,世界的な権威の学者が実に気易く会って下さって何でもよく教えて下さったことである。日本にいるとえらい先生は怖いものだが,私のように当時は若い日本の無名の人物に対してさえ親切に迎えて下さった。今回は,はからずも欧米見学が引き金になった臨床細胞学に関連した思い出をスナップ写真を中心にしてお話してみたい。

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 子宮鏡検査は子宮内病変が疑われる場合にはroutineに行うべき検査である。しかし従来からの子宮鏡は外径7mmの外管をもつ硬性鏡で,検査の際,頸管拡張術などの前処置が必要であり,患者の苦痛も伴うことから,外来で簡単におこなえるものではなかった。このほど新しく開発されたHysterofiberscopeは次の点で臨床上利用価値がある。1)外来で簡単にroutine検査としておこなえる。2)麻酔,頸管拡張を必要とせず,患者への苦痛が少ない。3)大出血,頸管裂傷,穿孔などの合併症の心配はない。4)卵管口も簡単に直視でき,観察範囲が広い。5)頸管内病変の有無も把握できる。6)検者側も楽な姿勢で観察できる。

 このような点よりHysterofiberscopeは臨床上診断面において非常に有用な手段と考えられる。

基本情報

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臨床婦人科産科
41巻2号 (1987年2月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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