病院 78巻7号 (2019年7月)

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政府の方針から訪日・在留外国人が増えている.

共生者としての外国人への医療支援はどうあるべきか.

翻って日本が国際的に名誉ある地位を占めるために,医療界は何を目指すべきなのか.

日本医師会・横倉会長を迎えてうかがう.

特集 多国籍社会に直面する病院

巻頭言 渋谷 健司
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 ラグビーW杯が2019年秋に迫り,2020年はオリンピック・パラリンピックを控え,訪日観光客の大幅な増加が予想される.さらに,政府は出入国管理及び難民認定法を改正し,日本が長年続けてきた「外国人の単純労働は認めない」という入管政策の大前提を変えた.これに伴い訪日・在留外国人が増加し,日本の社会はいや応なしにグローバル化する.2018年度より,政府や日本医師会も外国人医療対策に本格的に乗り出し始め,医療機関への負担をできるだけ軽減させるとともに,訪日外国人が安心して医療を受けられる体制の確保を急いでいる.そこで本特集では,外国人医療対策について,厚生労働省,学会,現場のそれぞれの立場から,現状と課題について紹介していただいた.

 髙﨑論文では,厚生労働省による包括的な訪日外国人対策の概要が示されている.問田・森村論文では,救急災害医療分野における訪日外国人医療対応について,医学系学会で構成される東京オリンピック2020コンソーシアムで検討されている内容を中心に,現状と課題を具体的に提示していただいた.こうした国や学会レベルの方針が一朝一夕に波及するわけではなく,現場レベルではさまざまな試行錯誤が行われている.渡部論文では,徳洲会国際部における外国人患者受け入れの経緯や課題を具体的に示していただいた.齊藤論文では,質の高い医療通訳の需要に対して,石川県医師会が行っている外国人医療対策の一環である,団体契約による電話医療通訳を活用した実証事業が詳しく解説されている.戸田論文では,医療機関における外国人対応を効率的に進めるために,部署の垣根を越える外国人向け医療コーディネーターの存在が重要となってきていることが示されている.坂下論文では,在留外国人の人口比率が高い岐阜県美濃加茂市の対応策について,行政との連携など具体例を挙げながら紹介いただいた.

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●東京オリンピック・パラリンピック等を控え多くの外国人の訪日が見込まれるため,厚生労働省医療国際展開推進室では,訪日外国人旅行者が安心・安全に日本の医療サービスを受けられる医療提供体制構築のための政策を実施中である.

●これまでも,外国人患者受け入れに関する環境整備として,医療機関の整備や言語対応の支援,都道府県単位でのモデル構築の支援や電話通訳の団体契約の利用促進,情報発信等を行ってきた.

●2018年度に開催した「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」の議論を踏まえ,これまで通り日本国民の医療を守りつつ,訪日外国人が不安を感じることなく医療を受けることができる体制の構築を推進していく.

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●2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における救急・災害医療の体制づくりを支援するため「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催中の救急災害医療体制に係る学術連合体」が結成され,「訪日外国人医療ガイドライン」の策定などの活動が進められている.

●オリンピック・パラリンピック競技大会の開催により,訪日外国人に対する救急災害医療需要は増大することが見込まれる.

●救急災害医療分野における訪日外国人医療対応に係る整備は進みつつあるが,外国人患者へ対応可能な医療機関の確保や医療通訳などの外国人対応可能な人材育成などの課題が残されている.

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●徳洲会グループにおける外国人患者受け入れは,「生命だけは平等だ」というコンセプトに基づいている.2012年に立ち上げた国際医療支援室は,国際認証であるJCIや国内の外国人患者受入れ医療機関認証制度JMIPの事務局機能,海外保険請求,通訳や翻訳業務を担う.

●医療ツーリズムは社会貢献という文脈にそぐわない部分もあるが,グループ内に蓄積した外国人対応のノウハウを活用して各施設が独自の解決を図り,それを共有している.

●医療の国際化を躊躇している施設にもノウハウ活用をしてもらい,一人でも多くの外国人患者に日本の医療サービスを理解いただけるようにしたい.

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●団体契約による電話医療通訳を県医師会が取りまとめ実施したのは石川県が最初である.県医師会が実施主体となることで,急病の外国人患者を受け入れる多くの救急告示病院が参加しており,まさに県単位での対策と言える.

●電話医療通訳は外国人患者との言葉の壁を解決する有用な手段であり,今後全国に普及させていくことが望ましい.

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●医療機関における外国人向け医療コーディネーターの役割は,外国人患者が医療機関を受診する際に生じる課題について具体的に把握し,調整を行い,改善を提案することである.

●コーディネーターが,部署の垣根を越えて外国人患者案件を取り扱うことで,受け入れ体制の整備や受け入れそのものが円滑に進む.

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●在留外国人患者の増加が予想され,医療機関の受け入れ体制整備が必要である.

●外国人患者数が多い地域では担当部門の明確化,組織としての対策が重要となる.可能であれば通訳者の採用が望ましい.

●病院職員は外国人患者の文化・習慣が異なることを理解し,さまざまな機関と連携しながら問題解決を図る必要がある.

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■はじめに

 2018年3月に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(以下,プロセスGL)を改訂した1).プロセスGLは,最初2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」という名称で策定され,2015年に現在の名称に改められ,現在に至る.本稿は,プロセスGLの内容(特に最新版に含まれる内容)を解説することを目的の一つにする.

 厚生労働省による「平成29年度人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」によれば,病院でのプロセスGLの利用状況は5割を超え2),その数字は5年前よりもかなりの改善状況にはある3).だが,筆者が医療者と話をする限り,存在を知っていても活用できなかったという声を耳にすることは少なくない.その原因の一つには,プロセスGLが置かれたわが国の終末期医療をめぐる法の状況が分かりにくいこと,その中で法律ではないガイドラインなるものをどう扱ったらよいのかが分からないことにあるのではないか,と筆者は推測する.この問題に対応することが,本稿のもう一つの目的である.

 本稿は特段新規な知見を提示するものではなく,既に明らかになっていることを再構成して提示するに過ぎないが,これまで筆者が所属機関や研修・講演の場で医療者と話してきた経験からは,法の現状を正しく理解するだけでも終末期医療をより良いものにする,すなわち患者も医療者も望む終末期医療にできると考えている.

連載 Graph

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 トヨタ記念病院(愛知県豊田市)は,1938年にトヨタ自動車工業(当時)の診療所として開設され,1987年に現在の地へ移転した企業立病院である.西三河北部医療圏で地域医療を担うとともに,全国の医学生が応募する人気研修病院でもある.病院職員は,世界的企業であるトヨタ自動車株式会社のメディカルサポート部に属する社員であり,その企業理念が病院に浸透している.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・55

総合病院土浦協同病院 岡本 和彦
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■はじめに

 土浦協同病院(以下,当病院)は1948年に厚生連が運営開始した新治協同病院を起源とする総合病院である(図1).1970年の移転後に土浦協同病院と名称変更してからも,地域に高度医療を提供すると同時に,地方都市,特に農村に地域医療を提供する基幹病院として機能してきた.

連載 事例から探る地域医療再生のカギ・28

津島市民病院の経営再生 伊関 友伸
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■何が問題だったのか

①現地で高コストの病院を建て巨額の借金を抱える

 愛知県津島市は,名古屋市の西約16kmに位置する人口約6万1千人の市である.鎌倉時代から,尾張と伊勢を結ぶ要衝として,また,天王信仰の中心地である津島神社の鳥居前町として発展してきた.戦国時代は織田氏三代がこの地を統治し,「信長の台所」と呼ばれて尾張の商都であった歴史を持つ.明治以降は,繊維産業が盛んとなり,紡績業の町として繁栄した.現在も海部津島広域行政圏の中心であり,裁判所,税務署,労働基準監督署,警察署,保健所などの国・県の施設が立地する.しかし,最近は,自動車などの産業が数多く立地する愛知県内で,繊維産業に代わる産業が十分育たなかったことから,財政はやや厳しい状況にある.2018年度の財政力指数は0.77で,愛知県内54自治体の中で46番目となっている.

 津島市民病院(440床)は,愛知県西部の海部医療圏にある基幹病院の一つである.他の基幹病院としては,JA愛知厚生連海南病院(540床),あま市民病院(199床)がある.1943年に社会事業協会から移管され,津島町立病院(一般58床)となり,1947年の津島市の市制施行とともに,津島市民病院となった.1970年には総合病院として認定され,1985年には289床となった.順調に発展してきた津島市民病院の経営が悪化する最大の原因となったのが病院の建て替えである.旧病院建物の老朽化に伴い,1997年から病院の改築事業に着手する.さらに,2001年に海部津島医療圏(現・海部医療圏)が名古屋医療圏から分離される中で,医療圏の病床数に不足が生じたことから,2003〜2005年度に151床の増床を行い,440床の病院となる.病院改築は移転ではなく,建設期間が長くコストの高い現地建て替えとされたため,新病院の整備費は,病院建物152億円(1床3400万円),医療機器約51億円,合計202億円に及んだ.財源の多くが借金によって賄われ,2005年度末の企業債残高は約161億円,2007年度の元本利息の返済額は約12億円に及んだ.

連載 事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・16

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 大阪府の中部,大阪市と奈良県の間に位置する八尾市にある,八尾はぁとふる病院(以下,同院)の2019(平成31)年4月の経営状況は,回復期リハビリテーション病棟が,病床稼働率98.2%,入院単価42,483円,在院日数63.41日で,地域包括ケア病棟は,病床稼働率98.8%,入院単価30,169円,在院日数47.14日(全て月間の平均)となっている.病院単体の経常利益率も10%を超える水準[2017(平成29)年度実績]となっており,極めて良好な経営状況である.

 急性期機能を有していない回復期リハビリテーションを中心とする中小病院が,どのような経緯で現在の立ち位置に至り,周辺の医療機関から信頼を獲得し,良好な経営状況を維持しているかについて紹介したい.

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■ハラスメントの現状

 「パワハラ」「セクハラ」「モラハラ」「マタハラ」「アルハラ」「ドクハラ」……昨今の世の中には,「〇〇ハラ」という言葉が溢れている.

 厚生労働省の報告によれば,企業が従業員向けに開設している相談窓口(ハラスメントに限らない)における相談の上位は,パワーハラスメント(以下,パワハラ)に関するものがトップで実に32.4%を占め,セクシュアルハラスメント(以下,セクハラ)も,メンタルヘルス,賃金・労働時間などの勤労条件に次ぐ4番目に多い割合の14.5%を占め,過去3年間にパワハラを受けたと感じた経験を持つ従業員は,概ね3人に1人の割合で存在するとも言われているのが現状である注1

連載 多文化社会NIPPONの医療・22

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 2019年度に入ってからも,外国人患者受け入れ体制整備に関連する法制度のニュースが続いている.衆議院に続き,2019年5月に参議院でも可決された健康保険法の改正は,健康保険の扶養枠の家族を保険に加入している人と日本国内で同居している人に限定するという,これまでの方針を大きく変えるものとなっている.扶養の対象が他国の制度に比べて広く緩くなっていた背景には,戦後に家計の主軸を失った残された家族らを救う目的など,日本独自の事情があった注1.当時は日本社会が短期間に多くの外国人を受け入れることになるとは想像もされていなかっただろう.

 これまでにも組合健保では独自に,「同居者に限る」「扶養している証明としてXXX万円以上を送金している証明書の提出」などの条件を設定していた.協会けんぽに比べれば,厳しい対応と言えるだろう.実際,「母国の親を日本に呼んで治療をしようとしたときに,保険加入が認められなくて困っている」という相談はこれまでにも月に数件は寄せられていたが,数例を除き独自の健保をもっている会社での話である.協会けんぽでは,その家族の滞在資格や同居状況を確認せず加入できていたので,この「制度の隙間」がブローカーによって利用されてきた.

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病院
78巻7号 (2019年7月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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