生体の科学 67巻1号 (2016年2月)

特集 記憶ふたたび

  • 文献概要を表示

 脳の機能のなかで記憶は,最も基本的で重要な機能であると言える。脳科学の研究の歴史においても,パブロフの条件学習の発見に始まり,一昨年度にノーベル生理学・医学賞を受賞したO'KeefeとMoser夫妻らの海馬における場所細胞の発見に至るまで,記憶の研究は脳科学を推進する大きな原動力になってきた。

 学習において,脳の神経回路にどのような変化が起こるのかについて初めて深い考察をしたのは,カナダの心理学者Donald Olding Hebb(1904-1985)である。Hebbは,『The Organization of Behavior:A Neuropsychological Theory』(John Wiley & Sons, Inc., New York,1949)という本において以下のような一連の予言を行った。これは,現在“Hebbの規則”と呼ばれている。

  • 文献概要を表示

 “ハードウェアとしての脳”は,種を越えた普遍的原理に基づき形成・組織されている。一方,万人が共通の脳構造を保持するにもかかわらず,脳に実装されたソフトウェアにより,個々の脳ではユニークな思考,情動,行動が創発される。普遍的な構造にユニークな機能が備わるメカニズムを明らかにすることは,脳科学の大きな課題の一つである。

  • 文献概要を表示

 記憶の獲得とは,外界の情報を脳内に保存する行為にほかならない。記憶の獲得以前と以降で脳内に起こった変化は,現在では記憶痕跡と呼ばれる学習時に同期活動した特定のニューロン集団として捉えられ,これらのニューロン集団がシナプスを介して強く結ばれることで記憶が獲得されると考えられている。これはシナプスの持つ可塑性(plasticity),すなわち刺激に応答して永続的な変化を起こす性質を基盤として実現されているため,シナプス可塑性はシナプスレベルの記憶痕跡とも表現される。そこで本稿では,シナプス可塑性と記憶について,その分子機構を中心に最新の知見を紹介したい。

  • 文献概要を表示

 William Quinnが1974年に,ショウジョウバエ(以下,ハエ)でも古典的連合学習が成立することを示してから40年が経つが1),ハエの記憶研究の流行も少しずつ変化してきた。当初は,遺伝子変異体を用いたスクリーニング実験から記憶関連分子を同定するフォワードジェネティクスが主流であった。これらの研究により,転写因子CREBを初めとするcAMP経路がハエで見つかり,哺乳類でも同様であることが明らかになってきた。近年では,フォワードジェネティクスを用いた記憶関連分子検索よりも,既知の分子群が記憶形成や保持の過程においてどのように機能するか,RNAiなどに代表されるリバースジェネティクス的手法を用いて解析することが主流になっている。更には,分子レベルのメカニズムだけでなく,神経回路網や神経の可塑性といった細胞レベルのメカニズムに注目する研究が非常に増えている。

 哺乳類とハエを比較すると,脳の構造が全く異なるため,一見,哺乳類と共通する知見を得ることは難しいように見える。しかし,ハエだからこそ見えてきた新しい学習記憶機構が複数あり,ハエを用いるメリットは確実に存在する。本稿ではハエを用いた記憶研究だからこそ見えてきた新しい知見について紹介していく。

  • 文献概要を表示

 学習・記憶のしくみは,神経系を持つあらゆる動物が備え持つ生存のための適応戦略である。最も基本的な連合学習のしくみであるパブロフの古典的条件付けでは,動物が条件刺激と無条件刺激との関係を学習することによってその後の行動が変化する。神経系のどこで変化が起こっているかは,単純な神経系を用いることにより明確にできると期待される。本稿で紹介する線虫C. elegans(以下単に線虫と呼ぶ)は,神経系の情報処理機構を研究するためのシンプルなモデル系としてよく知られている。この生物では発生の細胞系譜が完全にわかっており,雌雄同体成虫の体細胞数は959個である。このうち,神経細胞は302個であり,ASE,AWCなど,英字3〜5文字から成る名前がすべての神経についている。更に,これらの間の化学シナプス・電気シナプスの結合が完全に解明されているという,他の動物にはないユニークな研究基盤を与えてくれる。この単純な生き物にも連合学習や非連合学習がみられ,学習によって,この回路のどこがどう変化して行動が変化するか,そして,いかなる分子機構がそこにかかわっているかがこの生物を用いた研究の最大の焦点になっている。

  • 文献概要を表示

 記憶痕跡とは,20世紀初頭にドイツの生物学者Richard Semonにより唱えられた言葉であり,学習時に活動した特定の神経細胞集団(セルアセンブリ)という形で脳内に残った物理的な痕跡のことを指す。1949年にカナダの心理学者Donald Hebbが提唱したセルアセンブリ仮説によると,脳内には記憶時の刺激に応答して活動する神経細胞群が存在するが,それらの活動した神経細胞群は強いシナプス結合で結ばれ,セルアセンブリを形成し,記憶はその中に符号化して蓄えられると想定されている1)。つまり記憶は,学習時に繰り返し活動した神経細胞のセットという形で脳の中に保存され,何らかのきっかけでこのセルアセンブリに属する一部の神経細胞が活動すると,強いシナプス結合で結ばれたセルアセンブリ全体が活動し,その結果として記憶が想起されると考えられている(図1)。特定のセルアセンブリから形成される神経細胞ネットワークが“記憶痕跡”の物理的な実体である。

  • 文献概要を表示

 記憶メカニズムについて従来の研究方法は,脳機能イメージングによって活動変化を起こす領域を見つけ出し,また,動物で特定領域の傷害や神経回路の機能欠損によって責任領域・神経回路を決めることが主流であった。更に,同定された領域・回路内にあるニューロンの活動,シナプス伝達効率,スパイン形態などの変化が動物の行動変化と相関関係があることをもって,これらの変化が記憶形成の素過程であると結論付けてきた。しかし,以下の二つの重要な点について検証を行わずにきた記憶研究者は,記憶メカニズムの本質に迫るためには従来の方法では不十分であることを痛切に感じていた。

 ①散らばって存在している記憶にかかわるニューロンを直接操作して,記憶を操作できるか?

 ②記憶の素過程と考えられる現象が,記憶にかかわるニューロンで実際に生じているのか?

 本稿では,Optogeneticsと神経活動に依存したニューロン標識の手法を組み合わせて前述の問題をエレガントに解決し,これまでにないレベルで記憶メカニズムについて新しい知見と研究手法を提供した,RIKEN-MIT神経回路遺伝学センター利根川進研究室において行われた研究を中心に紹介する。これらの研究はNature Neurosci誌が世界の著名な神経科学者達に対して行ったアンケートで,Optogenetics導入後の10年間でその技術を最も効果的に用いた研究として多数の研究者から選ばれている1)

  • 文献概要を表示

 セル・アセンブリ(cell assembly)とは,心理学者Donald O. Hebbが1949年に仮説として提唱した神経細胞(ニューロン)の機能的集団である1)。ニューロン活動の記録もできなかった時代に心理学的考察から生まれた仮説が,現在もなお,というよりも現在更に,いっそう注目され,記憶の神経科学を牽引している。

  • 文献概要を表示

 これまで多くの神経心理学的研究,電気生理学的研究や脳機能イメージング研究の結果から,脳の各領域が担う認知機能の情報処理についての理解が進んできた。しかし,こうした各脳領域単位の機能的役割だけでは認知機能の脳内メカニズムの全容が明らかになったとは言い難く,皮質カラムに存在する局所神経回路から脳領域間にまたがる神経回路まで,異なる空間スケールの神経回路が担う情報処理を解明する必要がある。この異なる空間スケールの神経回路が担う情報処理は個々に独立したものではなく,相互に密接にかかわっていると考えられる。すなわち,ニューロンの発火特性と他ニューロンへのシナプス結合特性が局所神経回路を構成することで,その脳領域に割り当てられた機能を実現し,更に脳領域間で情報連絡をすることで認知機能を実現するという仮説である。

 記憶システムに焦点を絞って考えると,内側側頭葉を外科的に切除したために宣言的記憶に障害が起こったH.M.氏の報告1)以来,脳損傷患者や動物モデルを用いた神経心理学的研究が盛んに行われ,特定の脳領域が記憶の形成に果たす役割が調べられてきた。こうした研究から,宣言的記憶は最終的に側頭葉連合野に貯蔵されるという仮説が提唱されている2)。本稿では,視覚的長期記憶の貯蔵庫である側頭葉に焦点を絞り,宣言的記憶の一種である視覚性連合記憶の神経メカニズムについて,異なる空間スケールの神経回路が担う情報処理,およびスケールの異なる回路が機能連絡するための作動原理について述べる。

  • 文献概要を表示

 われわれを含め動物は,自らの行動によって望ましい結果が得られた場合は,その行動を繰り返し,望ましくない結果が得られた場合は,その行動を回避するようになる。このような学習はオペラント学習と呼ばれ,多様に変化する環境で生きていくために必須の能力である。本稿では,オペラント条件づけを利用した行動実験課題を動物に学習させることで,脳の様々な情報処理を解明しようとする最新の研究について解説する。

  • 文献概要を表示

 “ストレス社会”と呼ばれる現代において,生体への重篤なストレスの負荷はうつ病や不安障害など多くの精神神経障害の引き金とされている。それらの多くは,人生の早期に発症して生涯治療が必要になるため,大変大きな社会的問題とされている。そのため,ストレスを克服することは,“ストレス社会”に生きるわれわれにとって重要な命題の一つである。しかしながら,生体に対するストレスの影響を客観的な指標で示すことは非常に困難である。実際に,ストレスを引き起こすストレス刺激(ストレッサー)は,物理的なものから心理的なものまで様々なレベルで数多く存在する。

 現在のところ,記憶や認知機能などにおいて,ストレスは認知機能の生体パフォーマンスを向上させたり,逆に低下させたりと,生体への影響を大きく左右することが知られている。実際,適度なレベルのストレス刺激は,認知機能向上などに対し正の効果を示す。一方で,閾値を超えたトラウマ体験や慢性的な生体へのストレス刺激は,うつ病や認知症など,様々な脳認知機能障害を引き起こす。このように,ストレス刺激の強度や負荷時間の変化が認知・記憶機能へ与える影響は逆U字型の関係性を示すため,適度なストレスレベルを維持することが生命維持に必要である(図1)1-3)

  • 文献概要を表示

 ヒトや動物は,敵や危険なもの,痛み,脅威(threat)などを経験した場所や関連するシグナルに対しては,考える間もなく恐怖が生じ,逃避行動へと駆り立てられる。一方,ヒトでも動物でも,自己の欲求を満たすようなシグナルには正の情動が生じ,それに対して接近行動が生じる。このように,情動には外界から入ってきたシグナルの“価値”に応じて,自らの行動を強力に駆動する力がある。われわれはこの力を利用して,普段健康な状態では内的状態や外的環境をダイナミックに統合し,その場にふさわしい行動を柔軟に選択しているのであろう。

 チャールズ・ダーウィンは『人間と動物における情動の表現』の中で,情動を「非常事態にさらされた生物が,適切に対処し,生存の可能性を増加させるためのもの」と定義した。このように考えると,情動は,個体の生存確率を上げる進化的産物であるとも言える。確かに「この場所では以前危険な目にあったから,避けたほうがいいかなあ」などと考えている間に敵に見つかってしまう個体より,「なんだかわからないけどその場所に行こうとすると手や足がすくんで動けない」といった個体のほうが,サバイバルチャンスは高いであろうことは想像に難くない。

  • 文献概要を表示

 われわれ人間は,一生のおよそ1/3を眠って過ごす。睡眠中は外部からの感覚刺激がシャットアウトされ,外敵から身を守ることが難しくなる。それにもかかわらず,動物はなぜリスクを冒してまで眠るのであろうか? 眠ることのできない状況に置かれたラットは,次第に毛が抜け落ち,やせ細り,2-3週間で死に至った1)。人間でも,眠ることができなくなり死に至る,家族性致死性不眠症という遺伝病がある。このような事実から,睡眠は生命の維持に必要不可欠なものであると考えられる。しかしながら,不眠により死に至る原因はよくわかっていない。「なぜ眠るのか?」というシンプルな問いに対して,まだ明確な答えはなく,脳科学最大の謎の一つである。

  • 文献概要を表示

 生き物にとって嗅覚は,生存にかかわる行動を左右する根源的な感覚である。動物は匂いをたよりにえさを探し,交尾相手を見つけ,捕食者から身を守る。このような匂いに基づいた行動には先天的に獲得されたものもあるが,動物は変わりゆく匂い環境に適応して適切な行動をとるよう学習を繰り返すことで,生存のチャンスを増大させている。嗅覚の学習記憶は,個体維持,種の繁栄に欠くべからざるものである。

 感覚入力が行動に直結するという特性に対応して,嗅覚入力が行動発現に至る神経回路は他の感覚系にくらべてより直接的である。また,嗅覚系では大人になっても新しい神経細胞が生まれているなど,非常に高い可塑性を有している。これらのことから嗅覚神経系は,外界の状況変化に適応するため,神経回路がどのように可塑的に変化して新たな行動を学習記憶しているのかを明らかにするうえで非常によいモデル系と考えられる。

  • 文献概要を表示

 海馬のなかで,歯状回やCA3と呼ばれる部分は,どこで何がいつ起こったかの記憶(エピソード記憶)にかかわり,記憶する対象を細かく峻別したり,逆に不完全な記憶を補って想起したりするのに重要な役割を果たすことがわかってきている。一方,海馬が,相手との社会的関係の記憶にどのようにかかわっているのかは明らかでなかった。CA2領域は,海馬の他の領域とだけではなく,視床下部の室傍核や乳頭上核からの入力を受け,中隔核と双方向的に結合している。これらの核は,社会的行動とかかわりが深いバソプレッシン,オキシトシン,サブスタンスPなどを発現していることから,CA2の社会的記憶とのかかわりが示唆された。実際,遺伝子操作を使って,CA2でのバソプレッシン受容体を取り除いたり,CA2の出力を遮断したマウスは,空間や状況の学習には全く障害がなかったが,これまでに出会ったことがあるマウスと,そうでないマウスを区別するための社会的記憶が障害された。社会的行動に障害を伴う精神疾患において,海馬の活動異常やCA2内の神経細胞の異常がみられていることから,人間においても,CA2と社会的記憶とのかかわりが示唆されている。

  • 文献概要を表示

 ヒトにおいて恋愛や結婚は人生を彩る重大なイベントであり,生物として子孫を残すうえでも重要な意味を持つ。これまでに,心理学分野で異性を配偶相手として選択するヒトの基準や,異性を魅力的に感じる基準について数多くの研究が行われてきた。例えば,ヒトの顔に着目した研究では,ヒト集団の特徴を平均化した“平均顔”が異性から魅力的に見えるという仮説がある1)。また,ヒト以外の動物でも“外見”が異性の好みの基準になることがある。例えば,熱帯魚の一種であるグッピーのメスは,尾のオレンジ色の斑点の大きさと数を基準にして配偶相手を選択する2)。また,コクホウジャクという鳥のオスは,繁殖期になると尾羽の一部が50センチ程度伸びるが,メスはこの尾羽の長さを基準に配偶相手を選択する3)。このように,魚類・鳥類からヒトまで,“外見”が異性の魅力に強い影響を与える。しかしながら,われわれヒトも“外見”だけで配偶相手を決めないように,幾つかの動物において,社会的経験や個体の記憶が“異性の好み”に影響を与えることがわかってきた。本稿の前半では,社会的な記憶・経験が“異性の好み”に影響を与える例を,魚類から霊長類まで幅広く紹介する。また,2014年に筆者らは分子遺伝学のモデル生物であるメダカを用いることで,社会的な記憶・経験が“異性の好み”を生み出す分子神経基盤を解明することに成功した4)。本稿の後半では,筆者らの最新の知見について紹介したい。

  • 文献概要を表示

 ヒトや動物は学習により様々な知識や能力を獲得するが,学習の分類も様々である。学習に他者が介在するかどうかという観点から,個体学習と社会学習という分類が可能である。前者は,洞察や試行錯誤といった個人の経験のみに基づく学習であり,後者は,他者の行動の観察や模倣,教育といった社会的な接触により獲得される。一から独力で習得すると時間や労力がかかる高度な技能や知識でも,社会学習を介することで比較的容易に獲得できる。更に,言語や生活習慣のように社会学習を通じて獲得される能力や行動は,同時代の集団だけではなく親から子へと世代を超えて伝搬されるため,子孫の認知・行動面にも大きな影響力を持つ。しかしながら,このように文化的継承に重要な役割を果たす社会学習の生物学的な基盤については不明な点が多い。

 その一因として,適当な哺乳類モデル動物が存在しないことが挙げられる。社会学習がヒトに固有の学習形態というわけではない。野生動物の詳細な観察から,ヒト以外の動物の行動の中にも,個体間の情報伝達を介して他の個体から学ぶものがあると考えられている。しかしながら,通常の実験室の環境では,哺乳類モデル動物を使ってこのような社会学習を観察することは非常に困難である。

解説

がんシグナルとmicroRNA 小根山 千歳
  • 文献概要を表示

 microRNA(miRNA)は,様々な細胞機能の調整に関与している短鎖ノンコーディングRNAである。miRNA遺伝子はpri-miRNAとして転写されたのち,Drosha/DGCR8により切断されpre-miRNAとなる。これがDicerによって切断されて生じる22塩基対前後の二本鎖断片のうち,一方の鎖がRNA-induced silencing complex(RISC)に取り込まれ,成熟miRNAとして標的mRNAを認識し,その翻訳や分解を制御する1)。ヒトでは2,500種以上のmiRNAが同定され,その数は今も増加している。がんにおいて,様々なmiRNAの発現が増加,あるいは減少していることから,miRNAの発現プロファイル解析は,がんの診断,分類,悪性度判定に有用であると考えられ,活発に研究されている。では,なぜがんにおいてこれらmiRNAの異常が生じるのか? また,そのがん形質に対する寄与は何であろうか? これまでに,様々なmiRNAのがん遺伝子,あるいはがん抑制遺伝子としての機能が明らかになってきた。その重要なメカニズムとして,miRNAによるシグナル伝達関連遺伝子の発現制御が挙げられる。本稿では,代表的ながん原遺伝子産物Srcを介したシグナルを制御するmiRNA群を中心に,われわれの知見を含む最新の研究を紹介する。

仮説と戦略

  • 文献概要を表示

 ヒトや齧歯類において,鼻咽頭,腸管,肺などの外界と接する粘膜上皮では,T/B細胞領域を伴うリンパ組織様構造が局所に認められ,これを粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue;MALT)と呼ぶ。このうち肺では,MALTは慢性炎症や感染症への生体反応として誘導され,これを,誘導型肺気管支関連リンパ組織(inducible bronchus-associated lymphoid tissue;iBALT)と呼ぶ。これらのリンパ組織様構造は,粘膜から侵入した抗原に対し,局所における直接かつ迅速なT/B細胞性免疫の誘導を行う1)

 1980年代に,皮膚においても皮膚関連リンパ組織(skin-associated lymphoid tissue;SALT)という概念が提唱され,皮膚局所でも抗原の獲得,プロセシング,提示が可能であり,皮膚は単に二次リンパ組織で生じた炎症反応の舞台ではなく,炎症反応開始の主座であるとの可能性が示唆された2-4)。しかしながら,皮膚では慢性アトピー性皮膚炎のような強い炎症下においても,T/B細胞領域を伴う濾胞様構造は誘導されにくく,SALTの実態は不明であった5)

--------------------

財団だより

次号予告

あとがき 岡本 仁
  • 文献概要を表示

 年を取ってくると,なかなかものを思い出せなくなる。人の名前も,すぐに出てこなくて,その人に関する様々なエピソードを思い出したのちに,やっと名前を思い出すことができることもしばしばである。自分の頭の巡りが遅くなった御陰で,脳の中で,記憶の棚の引き出しから,思いつく手掛りをたよりに,しまわれた正しい答えを取り出す様子を実感できるようになった気がする。ただ思い出される記憶が,本当に正しいものとは限らない。自分ではそうに違いないと確信していても,とんでもない思い違いのこともある。あるいは,近年の剽窃事件のように,“思い違い”ではなく,“思い込み”によって記憶が書き換えられたのではないかと疑われる場合さえある。記憶は,価値判断を伴っている。これも不変かどうか疑わしい。青春時代の苦い体験も,年月を過ぎれば甘味な思い出にしばしば変わる。価値観や因果律の記憶は,経年だけでなく様々な事後の体験によっても変容するのかもしれない。昨今の宗教や民族的対立や,それに伴うテロ事件などにも,外的要因による価値判断の記憶の変化が関係しているかもしれない。本特集号では,年末という大変忙しい時期にもかかわらず,執筆者の先生方には,ご自分が世界を率いている記憶研究の最前線を解説していただくことができた。上に述べた私の記憶にかかわる想像(妄想?)にも,本当はこうなんだよ,という答えを聞かせてもらえる日が近い気がする。執筆者の皆様には,深く感謝いたします。

基本情報

03709531.67.1.jpg
生体の科学
67巻1号 (2016年2月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

文献閲覧数ランキング(
12月10日~12月16日
)