臨床眼科 75巻1号 (2021年1月)

特集 もう悩まない ぶどう膜炎の診断と治療—達人の診療プロセスを教えます

企画にあたって 水木 信久
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 ぶどう膜の炎症はぶどう膜のみに限局せず,近接した眼組織(網膜,強膜,角膜,視神経など)に波及している場合も多く,不可逆的な視力障害をきたすことがあります。ぶどう膜炎の原因は多岐にわたり,一言でぶどう膜炎と言っても,わかっているだけで30種類以上の疾患が存在します。アナムネーゼ,症状,所見,検査データなどから,しっかりと確定診断できるぶどう膜炎も多く存在し,このような疾患は速やかに的確な診断をして,適切な治療を施さなければなりません。そのような意味で,教科書的な典型的な症状や所見,検査データなどの基礎知識をしっかりと習得しておく必要があります。

 一方で,ぶどう膜炎の症状や所見は非特異的な似たようなものが多く,診断に苦慮することも少なくありません。これら非特異的な炎症所見のなかから,可能性のあるいくつかの鑑別疾患を想定してさまざまな検査を進めていきますが,非典型的で診断基準を満たさず,最終的に確定診断に至らない疑い例や原因がはっきりとしない原因不明のぶどう膜炎も少なからず存在します。しかし,実際の診療の場では,診断が確定しなくても,目の前の患者の現在の状況において,できる限り最善の治療を行わなければなりません。治療を進めていくうちに想定外の経過や診断に至り,治療の方向性が違っていたなどということも時に経験することです。

【汎ぶどう膜炎】

サルコイドーシス 石原 麻美
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●サルコイドーシスは全身性疾患であり,診断にあたっては特徴的な眼所見に加えて,全身検査所見や他臓器病変の存在を確認することが必要である。

●不可逆的な視機能障害をきたしうる眼病変に対しては,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)の後部テノン囊下注射または内服を行う。ステロイド治療に抵抗する症例や減量が困難な症例では,免疫抑制薬やTNF阻害薬の併用を考慮する。

●治療中は常に全身状態を把握することが大切であり,特に経口ステロイド薬の減量・中止の際には他臓器病変の悪化や新たな出現に注意する。

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●初発時の治療目標は再発防止であるが,遷延例での治療目標は生涯の視機能維持であり,そのためには,脈絡膜萎縮の拡大を抑止する必要がある。

●脈絡膜炎はOCTでの脈絡膜肥厚,IAでのHDDsとして検出される。

●遷延例にはプレドニゾロンに加えて,シクロスポリンまたはアダリムマブを併用する。

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●ベーチェット病では,特徴的な眼炎症のエピソードや所見ならびに眼外症状から診断に結びつける。

●前房蓄膿を呈するぶどう膜炎はさまざまであり,ベーチェット病ではさらさらとした前房蓄膿が特徴的である。

●ベーチェット病の治療の基本は,眼炎症発作の速やかな消炎とその予防である。

眼トキソプラズマ症 園田 康平
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●片眼性肉芽腫性汎ぶどう膜炎を呈することが多い。

●後天感染では免疫不全をチェック。

●ステロイドの単独投与は禁忌。

急性網膜壊死 髙瀬 博
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●肉芽腫性前部ぶどう膜炎と思われる症例でも,必ず散瞳眼底検査を行う。

●単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスを含む多項目のPCRを眼内液に対して施行する。

●極量の抗ウイルス薬,ステロイド薬の全身投与を長期間行う。

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●CMV抗原血症が陰転化したとしても,CMV網膜炎の活動性が低くなっているわけではない。

●CMV網膜炎は特徴的な所見があるため,眼底所見から診断は可能である。しかし,確定診断にはPCR法を用いてCMVDNAを確認する。

●CMV網膜炎には劇症型と顆粒型の網膜病変を認めるため,2種類のタイプを覚えておく。

梅毒性ぶどう膜炎 蕪城 俊克
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●臨床所見から梅毒を疑うことは困難なため,ぶどう膜炎の原因検査項目に梅毒血清反応をルーチンに入れておくべきである。

●治療は一般の第2期梅毒の駆梅療法に準じて,ペニシリン系抗菌薬の点滴あるいは内服を行う。

●STS定量検査の数値は駆梅療法の効果判定に有用であり,駆梅療法中止の判断の基準に用いる。

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●眼内リンパ腫の主な臨床病型には網膜(下)浸潤型と硝子体混濁型,あるいはその混在型がある。

●確定診断には硝子体を用いた細胞診やサイトカインの測定などが必要であるが,臨床所見や経過も含め,総合的に判断していく柔軟性も求められる。

●眼病変に対する治療にはメトトレキサート(MTX)の硝子体内注射や放射線照射が行われるが,これらの治療が中枢神経系リンパ腫の発症を抑制するわけではない。

【前部ぶどう膜炎】

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●片眼性豚脂様の角膜後面沈着物や前房内炎症細胞を呈する症例で,高眼圧を合併することが多い。

●角膜ヘルペスや帯状疱疹の既往のある症例で,虹彩炎を発症した際に鑑別が必要である。

●ステロイド治療に反応性の乏しい虹彩毛様体炎の症例では,抗ウイルス薬を投与することが診断的治療となる。確定診断のためには,前房水や硝子体液を採取してウイルス検査を行う。

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●脊椎関節炎関連ぶどう膜炎は,基本的に前部ぶどう膜炎の形をとることが多い。

●同時に,視神経乳頭の発赤や囊胞状黄斑浮腫を伴うことがある。

●ステロイド治療に反応しやすいが,再発しやすい。

糖尿病虹彩炎 竹内 大
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●片眼性もしくは両眼性の非肉芽腫性虹彩毛様体炎である。

●コントロール不良の糖尿病患者に発症する。

●治療は副腎皮質ステロイド点眼と糖尿病のコントロールを行う。

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●若年性特発性関節炎のうち,関節炎数が4つ以下の少関節炎型患児(特に女児)にぶどう膜炎が発症する。

●ぶどう膜炎は80%が両眼性であり,非肉芽腫性虹彩毛様体炎が慢性経過をたどる。

●帯状角膜変性,併発白内障,続発緑内障などの眼合併症頻度が高く,視力予後不良例が多いため,小児リウマチ内科専門医との十分な連携が必要である。

連載 今月の話題

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 レーザー走査型検眼鏡(SLO)は1990年代から販売されているが,当時は眼底カメラを凌ぐメリットが少なく,それほど普及していなかった。近年,複数の波長から得られたSLO画像を合成して実際の眼底像に近いものを画像化する,いわばカラーSLOが登場している。カラーSLOは,無散瞳でも広範囲・高画質で眼底撮影が可能で,眼底カメラよりも異常所見の描出に優れる。本稿では,カラーSLOの特徴について実際の症例を紹介しながら解説する。

連載 Clinical Challenge・10

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症例

患者:84歳,男性

主訴:右眼の充血

既往歴:高血圧,心筋梗塞,気管支喘息,高脂血症

家族歴:特記すべき事項なし

現病歴:20XX年6月,右眼の充血を主訴に前医を受診した。痛みや異物感はなかった。右眼の強膜炎の診断で,0.1%ベタメタゾン点眼3回/日を行ったが改善がみられなかったため,プレドニゾロン20mg内服を追加した。炎症の改善がないため,当科を紹介され受診となった。

連載 国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・4

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◆他覚的屈折検査では調節麻痺薬を用い,正確な屈折値を把握する。

◆診断を行うための必要な検査には他覚的屈折検査,自覚的屈折検査のほか,眼軸長検査,OCTなどがあり,年齢,屈折値など個々の症例に合わせて必要な検査を選択し実施する。

◆近視の分類には屈折程度,発症時期,視機能障害を伴うかどうかなど,いくつかの分類がある。

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要約 目的:経口避妊薬または黄体ホルモン製剤内服者に発症した網膜血管閉塞疾患の2例を経験したので報告する。

症例:症例1は37歳,女性。主訴は,突然の左上半分の視野狭窄。全身疾患の既往はなく,月経困難のため,低用量経口避妊薬を約3か月内服していた。喫煙の習慣もあった。左眼底の下耳側に網膜動脈分枝閉塞症があり,ただちに経口避妊薬を中止した。ウロキナーゼの点滴を1週間行い,その後はカリジノゲナーゼを内服した。8か月後の視力と視野狭窄は不変であった。症例2は24歳,女性。主訴は右視力低下。全身疾患の既往はなく,月経不順のため,黄体ホルモン製剤を3日間内服した。喫煙の習慣はなかった。右眼底に網膜中心静脈閉塞症があり,循環改善薬を内服した。網膜出血は徐々に消失した。

考按:2例とも,全身疾患がなく,低用量経口避妊薬または黄体ホルモン製剤を内服していた。健康な若年女性で,網膜血管閉塞疾患を生じた場合,婦人科処方薬が関与している可能性がある。

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要約 目的:Acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis(ASPPC)は梅毒2期以降に出現する梅毒ぶどう膜炎のなかでも稀な病態である。今回,眼科受診で比較的軽度な後眼部所見と光干渉断層計(OCT)で視細胞外節異常を呈し,最終的に梅毒と診断に至ったASPPCを経験したため,臨床所見と画像所見を報告する。

症例:42歳,男性。1週間前から右眼視力低下を自覚し,球後視神経炎の疑いで帝京大学医学部附属溝口病院を紹介され受診となった。右視力(0.2),黄斑周囲の淡黄色の変化とOCTで視細胞外節の不鮮明化を認めた。右眼前房・硝子体中の炎症所見を認めず,視神経乳頭に異常はなかった。右眼は中心暗点を認め,中心フリッカ値は低下していた。血清学的検査で梅毒感染が確認され,ASPPCの診断に至った。右眼の症状は梅毒加療開始前に自然軽快した。髄液検査で神経梅毒の診断となり,ベンジルペニシリンによる点滴加療を施行したが,その3か月後に右眼に同症状が再発した。さらに,点滴抗菌薬加療が追加されてからは,症状の再燃を認めなかった。

結論:視細胞外節異常を呈する網膜病変は梅毒感染である可能性があり,全身検索と早期加療を行う必要がある。

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要約 背景:Parinaud眼腺症候群は,急性発症の片眼性の肉芽腫性結膜炎と同側のリンパ節炎を伴った臨床病型である。Parinaud眼腺症候群を呈した猫ひっかき病の1例を報告する。

症例:症例は45歳女性で,5日前から左下眼瞼結膜充血と眼脂を自覚,その後,左耳下腺周囲の腫脹と痛みを生じ,近医を受診した。左下眼瞼結膜に充血と潰瘍を伴う化膿性病変を認め,抗菌点眼薬と内服薬で加療されたが,症状が改善しないため当科へ紹介となった。初診時,左下眼瞼結膜に強い充血と肉芽腫を,左耳下腺部に腫脹と圧痛を,左手背にはひっかき傷を認めた。血液検査でC反応性蛋白の上昇,CTで左耳下腺・深頸・副神経・鎖骨上のリンパ節腫大がみられた。患者は猫と犬を飼育していたため猫ひっかき病を疑い,アジスロマイシン内服と非ステロイド性抗炎症点眼薬による治療を追加した。治療開始後,C反応性蛋白は2週間で陰性化し,リンパ節腫脹は1週間で消退,結膜肉芽腫は6か月で消退した。初診時の血清Bartonella henselae抗体価はIgMが20倍未満,IgGが256倍であったが,ペア血清でIgGが1,024倍以上と上昇し,猫ひっかき病によるParinaud眼腺症候群と確定診断した。

結論:リンパ節腫脹を伴う肉芽腫性結膜炎の症例では,猫ひっかき病を疑い,血清B. henselae抗体価の検索が有用である。

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要約 目的:Nigrospora属糸状菌による遷延性真菌性角膜炎の1例報告。

症例:69歳,男性。右眼を稲の葉で受傷し,近医で右角膜潰瘍と診断された。抗菌薬点眼で一時改善するもその後悪化し,別の近医を経て,島根県立中央病院へ紹介となった。入院による抗菌点眼薬治療で上皮欠損は残存していたが,前房炎症は改善したため退院した。しかし,その後に上皮欠損の拡大,前房炎症増悪を認め,鳥取大学医学部附属病院へ受診となった。植物外傷後であること,抗菌点眼薬使用下での再燃であることから真菌感染を考慮し,抗真菌薬を投与したところ,改善を認めた。培養開始後3週間でNigrospora属糸状菌を検出した。

結論:Nigrospora属糸状菌は黒色真菌の1菌種であり,環境に広く分布する。病原性は通常ないとされ,角膜炎の原因となったという報告は筆者らが知る限りでは1例のみである。今回分離された菌は非常に増殖力が弱く,そのため,寛解と増悪を繰り返し,診断が困難であったが,逆に病巣搔爬とホストの免疫力によって治癒したのではないかと考えられた。

海外留学 不安とFUN・第60回

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はじめに

 私は2017年4月〜2018年3月に米国カリフォルニア州ロサンゼルスにあるDoheny Eye Institute(UCLA)へ留学させていただきました。Doheny Eye Instituteは70年以上の歴史をもち,US News & World Reportで過去17年間にわたり,全米の眼科学プログラムのトップ10にランクインしています。私の留学先のボスであったSrini Vas R. Sadda先生がPresidentを務められています。Sadda先生は眼科イメージング分野で大変ご高名で,2016年に福岡で開催された眼循環学会で招待講演をされたのでご存知の先生も多いのではないでしょうか。

 今回は私が留学に関して感じた不安とFunについて紹介させていただきます。

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目次

欧文目次

学会・研究会 ご案内

アンケート用紙

次号予告

あとがき 井上 幸次
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 このあとがきを書いているのは11月下旬で,新型コロナの第3波が襲ってきたのに,経済のことを考えてなかなかGo Toを止めにくいという状況にあります(どうでもよいことかもしれませんが,Go To トラベルとか,Go To イートとか変な和製英語を連発していると,日本人の英語力がどんどん落ちてゆくような気もします)。まだまだ従来のリアルな学会は難しい状況ですが,先日の臨床眼科学会はWebで無事開催されて,今年の日眼のときよりもノウハウが蓄積されてきているため,結構参加者の満足度は高いように思われます。Web開催ならではの利点もいろいろあって,今回シンポジウムの座長をやったのですが,演者間のdiscussionを,次のセッションを気にすることなく,十分行うことができたのはとてもよかったと思っています。参加者としては,リアル学会だと裏番組になっているものには参加できないのですが,それがいくらでも視聴できるし,聞き損ねたら何度でも繰り返し見返すことができるのは大変便利です。それと臨眼はインストラクションコースが人気ですが,人数制限があったものが,今回は無制限にいくらでも参加できるというのも,勉強熱心な先生方にとっては福音であったかもしれません。その代わりに視聴できるものが多すぎて,この「臨床眼科」掲載論文の中核になっている一般講演にまで手が回らないという感じです。視聴できなかった一般講演は,今後掲載される「臨床眼科」の論文でゆっくり勉強していただければと思います。

 本号の特集は,水木信久先生に企画いただいた「もう悩まない ぶどう膜炎の診断と治療—達人の診療プロセスを教えます」ということで,苦手意識をもっている先生方が多いぶどう膜炎診療の現状をまとめていただきました。これで「もう悩まない」というわけにはさすがにいかないとは思いますが,力のこもった総説がそろいましたので,ご賞味ください。

基本情報

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臨床眼科
75巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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