公衆衛生 47巻6号 (1983年6月)

特集 痴呆性老人のケア

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 西欧諸国やわが国が現在直面している高齢化現象の問題は,歴史的な視野でみますと,現代工業化社会の発展と密接な関わり合いを持っていることがわかります.私は1959年スウェーデンのGöteborg大学のS.Ekerström教授について老年医学を研究したのを始めとして,欧米諸国の老年学その他の研究者に接触し,また医療施設や福祉施設を視察する機会を,20数年にわたってかなりもってきましたので,本日は急速に高齢化社会へと進みつつあるわが国の高齢化問題について,西欧諸国の事情と対比しつつ述べてみたいと思います.

痴呆性老人対策のあり方 奈倉 道隆
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 ■はじめに

 老年期に痴呆をもたらす要因は多様である.老年期の身体的・精神的・社会的問題が相互に関連し合い,複合的要因となって痴呆症状が発生したり悪化をみるものと考えられる.したがって,その対策は狭義の医学的な対策だけでなく,老人の精神生活や社会生活の破綻を防止したり,問題の解決を援助する方策をすすめる総合的なものでなければならない.

 ひとは誰でも,加齢によって適応力が低下する.老年期には適切な生活環境が整っていないと心身両面の不適応が起こり,健康も失われる.また,貧困・生活不安・人間関係の不和などは,活動意欲の低下や社会関係の障害を招き,疎外や沈滞におちいって精神面・身体面の機能の衰退が促進されるであろう.近年,人口の高齢化が急速にすすんでいるが,生活様式や環境を老人にとって適応しやすいものに改める努力は十分されていない.むしろ適応しにくいものに変化したり,老人を疎外する要因が増す傾向にある.このような状況は痴呆症状の発生や悪化を助長するものである.今後,痴呆性老人の問題はますます深刻化するものと予測される.また,痴呆性老人を介護する側の条件にも大きな変化が起こりつつある.核家族化などの要因で家庭の介護力が低下しており,自立的生活が困難な老人が放置されたり,特定の家族に重い介護負担がかかるなど,問題は深刻化しつつある.かつては家庭内で処遇された家庭内問題であったものが,もはや家庭の力では対応しきれない社会的問題となってきたのである.

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 ■はじめに

 痴呆老人について関心をもたざるをえなくなったのは,6〜7年前であったろうか.リハビリテーションのための留学から帰ってきて,老人ホーム関係者の会で,老人のリハビリテーションについて講演をしたところ,痴呆老人へのリハビリテーションの可能性に関しての質問を受けたときである.リハビリテーションに,痴呆老人に対しての特別な分野があるわけでなく,関心ももっていなかったこともあり,うやむやな返答をした苦い経験がある.

 現在でも,精神機能低下に対して特別なリハビリテーションがあるわけではない.主として身体障害をもったリハビリテーションの対象となる老人の中に,精神機能の低下を併せもった場合が多く,結果として痴呆も精神活動の再活性化を目的としてリハビリテーションの対象となる場合があるというところであろうか.

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■まえがき

 老年人口が全人口の7%を越える段階から,高齢化社会といわれるのであるが,わが国は1970年代に入ったとき,高齢化社会の仲間になったといえる.さらに21世紀にむかって,さらに人口の高齢化はすすみ,2000年では15.7%に入るといわれる.こうした人口の高齢化は,社会的に多様な問題を提起することになるが,精神医学の領域でも従来考えられなかった問題がおこりつつある.

 大体老年期には,身体的にも,心理的にも,また環境的にも,精神の不健康にかかり易い悪条件がある.このために老人では若壮年者の3〜6倍の高い頻度で精神疾患にかかり易いとされる1).若年者の精神疾患罹病率が1.0〜1.5%とすると,65歳以上のもののそれは,3〜10%,と考えられる,これら老年期精神疾患のなかでも,痴呆性精神疾患は,高齢化とともに増加する傾向にあり,今後の対策がせまられている現状にある.

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■はじめに

 近年,わが国が,本格的な高齢化社会を迎え,痴呆老人の問題が大きくクローズアップされてきている.しかしそれに伴う福祉側または医療側の対応策は,目下のところ試行錯誤の段階にあり,異常行動を伴った呆け老人の対策は,国及び自治体にとっても大きな社会的問題に発展している.筆者は,昭和56年4月に全国でただ一つの痴呆性老人専用の施設として,社会福祉法人青山里会立「第2小山田特養ホーム」を建設し,異常行動をもつ呆けの老人(定員50名)を介護してきたので,2年間の経験より痴呆性老人の特養ホームでのケアを中心に述べたい.

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■はじめに

 高齢老人が増加するにつれていわゆる痴呆老人も増えており,その介護問題が大きな社会問題となりつつある."呆け老人をかかえる家族の会"が,全国的規模に拡がりつつあるが,その拡大テンポの早さは,そのニーズの大きさを物語っているといえるであろう.

 私の属する病院にも,知能低下が目立つ老人が増えている,家族も,今起きている混乱状態が,何によって起こっているか分らず,崩壊寸前になっているという場合も多く,その深刻さに驚かざるを得ない.こうしたケースに何ができるだろうかと,問い続けながら苦慮しているのが現状である.

 ここでは,ソーシャルワーカーとして,多くの痴呆老人,家族のヶースに対して,私なりにかかわってきた体験を検討し,何ができ,何をしなければならないかを考察してみたい.

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■老人保健法と地域の看護職

 老人保健法成立によって,従来の保健医療制度全体の,根本的な見直しを迫られることになったがそれは地域における看護活動の変革と転換を求められることでもあった.伝統的な公衆衛生看護活動の公式は,慢性疾患や老人には通用しない場合が多く,看護職に求められている役割も,より複雑になり,より多様化しているからである.

 しかし経済不況のさなか,受け入れ体制が不十分なまま,病院から在宅へと方針が変ることは,老人とその家族,および地域の保健担当者の間に混乱を招くのは必至であった.地域の看護職(その殆どが保健婦)の同法の受け止め方は二通りに分けられる.ひとつはまず寝たきり老人の調査などを実施して対策を考える行動派,他は今しばらく様子をみるという静観派である.しかし,いずれにしても法の施行は他の関連部門を含めて,保健婦をその渦中に巻き込むことになるであろう.

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 1980年1月京都に発足した「呆け老人をかかえる家族の会」(代表高見国生)は,本年3月現在,会員数約1,300名の全国的な組織に拡がっている.孤立無援の中で試行錯誤しながら,日々の介護を強いられていた家族にとって,ささやかな支えとなっているこの「家族の会」は,各地における「家族の集い」,あるいは月々の「会報」を通して,介護家族の体験の交流,励まし合い,学び合いに留まらず,社会への理解を訴え,自治体や国へ呆け老人と家族への具体的援助を求めてきた.

 このような「家族の会」の3年余りにわたる活動経験から,呆け老人のケアについて述べるが,まず介護家族の実態からふれたい.

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■はじめに

 痴呆性老人については,固有の社会資源は非常に少なく,公的制度によるサービスに限れば,地域によっては,ほとんどないといってもよいくらいである.社会資源といえば,問題の解決のために必要な,そして動員,利用できる制度,技術,機関,施設,資金,物品,集団および個人などの総称であるが,痴呆性老人固有の社会資源は,未だモデル的試みの段階であり,関連の制度の活用,既存の制度の対象の拡大,または新しい社会資源を創り出していかなければ対応できない.

 図は東京都福祉局発行「東京都の老人福祉施策の概要」所収の図に,老人保健法の事業を組み入れた「老人福祉施策の体系」である.年金,住宅,施設,リハビリテーション,医療,仕事のことまで,老人の様々な状況に合わせて施策が立てられている.「健康」の部の点線で囲った部分が痴呆性老人固有の施策であり,都の単独事業である.手当などは各県区市町村によりまちまちである.

発言あり

発言あり(自由課題)
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保健・福祉を生活者の立場から見直す時

 最近,地方自治体の福祉計画づくりの分野では,社会福祉と保健衛生・医療との連携がつとに指摘されるようになっている.とくに地域社会の老人や障害児者に対する在宅サービスは,いわゆるタテわり行政になじまないところが少なくない.

 ところで,歴史的にみると,社会福祉が明確に制度として位置づけられたのは,わが国ではいうまでもなく戦後においてであり,その前身である社会事業等を含めても,比較的新しいことである.他方,保健衛生は戦前から古い伝統をもち,ある意味では近代国家の発足とともにあり,まして医療についてはいにしえの時代は別としても,それ以上の歴史をもっている.だから,保健衛生・医療は社会福祉の大先輩なのである.

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はじめに

 一般的に人口高齢化の進展は,都市に比べて農村のほうがより顕著と考えられている.ところが後述のように,巨大都市の典型とも見られる東京都特別区などにおける各種統計によると,意外な状況が認められるのである.たとえば昭和30年から55年までの26年間に,東京都全体の65歳以上者の割合は,3.5%から7.7%に2.2倍となった.この間に全国平均は,5.3%から9.1%に1.7倍の増加となっている.こうした東京都の人口高齢化には,いわゆる"人口ドーナッツ化現象"と呼ばれている,特別区における影響力がきわめて大きい.都心部から人口が都周辺区や衛生都市,近県へと流出したことと符合するものである.したがって,この26年間に東京都特別区における65歳以上者の平均は,3.4%から8.2%まで2.4倍強に上昇した.なかでも千代田区は3.3%から13.2%(4倍)に達し,伸び率が第1位となり,ついで中央区が3.5%から13.3%(3.8倍),台東区が3.3%から12.1%(3.7倍)になっている.反対に江戸川区は3.5%から6.1%(1.7倍),練馬区は2.4%から6.4%(1.8倍),足立区は3.4%から6.4%(1.9倍と順に低い上昇率である.

 この間における人口変動を国勢調査でみてみると,昭和30年には特別区の総数が対前期29.4%の増加であった.しかし.その後は漸減し,昭和45年には0.6%のマイナスとなり,55年には3.4%の減少を示している.

日本列島

交通事故の動向 井口 恒男
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岐阜

 岐阜県交通安全対策協議会は毎年度末,前年の交通事故の状況を報告しているが,昭和57年にはやや悪化の傾向がみられ,対策の強化が望まれている.

 57年の交通事故の概要は,死者181(前年160),負傷者数9,002(同8,145),重傷者数1,093(同965)で、いずれも前年を上回っている.

衛生環境部の設置 井口 恒男
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岐阜

 岐阜県においても,国の行政改革の方針に歩調を合わせ,昭和57年7月行政改革委員会を設置しているが,58年度行革の一弾ともいうべき組織の再編を行った.従来,生活環境部として独立していた環境行政部門を一部,企画部と農政部に移し,主要な公害や廃棄物行政を衛生部に統合した.新たに衛生環境部として誕生した訳であるが,もともと環境行政の技術職員の多くは衛生部を母体としており,地域での対応は保健所の環境衛生監視員が中心となっているなど,ようやく一元化したともいえる.

 今度の衛生環境部の発足により,従来の5課から,水質大気課と廃棄物対策課の加わった7課編成となり,出先機関として公害研究所が加わっている.

基本情報

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公衆衛生
47巻6号 (1983年6月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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