特集 痴呆性老人のケア
痴呆性老人対策のあり方
奈倉 道隆
1,2
Michitaka NAGURA
1,2
1大阪府立大学社会福祉学部
2京都大学医学部老年科
pp.345-349
発行日 1983年6月15日
Published Date 1983/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206706
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■はじめに
老年期に痴呆をもたらす要因は多様である.老年期の身体的・精神的・社会的問題が相互に関連し合い,複合的要因となって痴呆症状が発生したり悪化をみるものと考えられる.したがって,その対策は狭義の医学的な対策だけでなく,老人の精神生活や社会生活の破綻を防止したり,問題の解決を援助する方策をすすめる総合的なものでなければならない.
ひとは誰でも,加齢によって適応力が低下する.老年期には適切な生活環境が整っていないと心身両面の不適応が起こり,健康も失われる.また,貧困・生活不安・人間関係の不和などは,活動意欲の低下や社会関係の障害を招き,疎外や沈滞におちいって精神面・身体面の機能の衰退が促進されるであろう.近年,人口の高齢化が急速にすすんでいるが,生活様式や環境を老人にとって適応しやすいものに改める努力は十分されていない.むしろ適応しにくいものに変化したり,老人を疎外する要因が増す傾向にある.このような状況は痴呆症状の発生や悪化を助長するものである.今後,痴呆性老人の問題はますます深刻化するものと予測される.また,痴呆性老人を介護する側の条件にも大きな変化が起こりつつある.核家族化などの要因で家庭の介護力が低下しており,自立的生活が困難な老人が放置されたり,特定の家族に重い介護負担がかかるなど,問題は深刻化しつつある.かつては家庭内で処遇された家庭内問題であったものが,もはや家庭の力では対応しきれない社会的問題となってきたのである.
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